上 下
70 / 135

70 ~新たな動き 2~

しおりを挟む



マリーと名乗ったその者は確かに、あの時ウィンステッド嬢に付いていたメイドだが、何が理由でこの離宮にいるのか……。


殿…。これは主…ミーリア様から預かっている私の身の上を証明するものであります。殿下なら判るだろうとのご判断で持たせて頂きました」


そういって僕に差し出したのは、あの時彼女が使っていた結界を張る魔道具と、微かに残る彼女の魔力…そして、彼女自筆の手紙であった。


「もし僕が気が付かなかったらどうする気でいたんだ?」


興味本位で聞いてみたのだが、「殿下なら絶対気付くから大丈夫」と言っていたらしい。
「あの方なら、あの後絶対に魔力操作の練習をしているはず」とも言っていたようで、自分の性格をしっかり見抜かれていたようで何だか少し恥ずかしかった。
そして…ここに忍んできた理由を改めて聞く。


「それをお話する前に、大変申し訳ございませんがこれを使ってもよろしいでしょうか?」


と…さっき手渡された魔道具を指差されたので、何も言わずに渡すと魔道具の裏側の小さなスイッチのようなモノを入れる。


「ほお…そうやって起動するのか」


魔道具の仕組みや働きに驚きつつも、まずは結界を張った理由を聞き、今現在の外の様子…そして、マリーがなぜここにいるのかを聞いた。


「こちらの離宮をおいとました後、色々ありましてしばらく王都に滞在していたのですが……」


そう話し、僕の疑問や今現在の状況などを教えてくれた。
ウィンステッド領の者はみなこんなに優秀なのだろうか?
そばに一人欲しいと思い、マリーをスカウトしようとしたが、あっさり断られた。
もしミーリア嬢の味方についてくれるのならば、『トウリョウ』に頼んで、紹介は出来るとの事だった。ただ、説得はご自分で……と言われてしまった。


この手の者達は主に忠実な者が多いので、期待はできないな…とガッカリしていたが、僕の知らない僕の色々を知っている者で、大層憤慨している者がいると聞いて、紹介だけでもしてもらう事にした。


「ではすまぬが、これをサイラスに。ウィンステッド嬢にも手紙をしたためておくので、戻ってきた際には持って行ってくれ」




●○●○


マリーを送り出したあと、手元に残る魔道具をじっくり見る。
この魔道具を作ったのはあの魔法士か?久しぶりに興味をそそられる物にワクワクしながら魔力を注ぐ。


面白いほど魔力が吸い取られ、中に置かれている石の色が濃くなっていく。
もしかして、これは僕の魔力の色か?
先ほど魔力を注ぐ前は仄かにオレンジだったから、あの色はマリーの魔力の色なのだろう。


「これは面白いし……ん?過剰な魔力を注いでおけばいつでも起動できるのか?」


自分の知らない構造の魔法陣に好奇心が刺激される。
一度あの魔法士に魔法の手解きをしてもらえないだろうかと考える。


そしてそれは、今の継承権を放棄したウィリアムの身分では難しいだろうか?
レオナルドの婚約者候補のウィンステッド嬢の傍付きが、ウィリアムに近づくのは不味いだろうか?
周りの貴族や王宮での力関係を考える。


「やはり、元の姿に戻るのが理想か……」


ため息をつきながらそう独り言ち、魔道具を引き出しにしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。 かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。 私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。 それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。 だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。 どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか? ※本編十七話、番外編四話の短いお話です。 ※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結) ※カクヨムにも掲載しています。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

『完結』人見知りするけど 異世界で 何 しようかな?

カヨワイさつき
恋愛
51歳の 桜 こころ。人見知りが 激しい為 、独身。 ボランティアの清掃中、車にひかれそうな女の子を 助けようとして、事故死。 その女の子は、神様だったらしく、お詫びに異世界を選べるとの事だけど、どーしよう。 魔法の世界で、色々と不器用な方達のお話。

悪役令嬢に転生かと思ったら違ったので定食屋開いたら第一王子が常連に名乗りを上げてきた

咲桜りおな
恋愛
 サズレア王国第二王子のクリス殿下から婚約解消をされたアリエッタ・ネリネは、前世の記憶持ちの侯爵令嬢。王子の婚約者で侯爵令嬢……という自身の状況からここが乙女ゲームか小説の中で、悪役令嬢に転生したのかと思ったけど、どうやらヒロインも見当たらないし違ったみたい。  好きでも嫌いでも無かった第二王子との婚約も破棄されて、面倒な王子妃にならなくて済んだと喜ぶアリエッタ。我が侯爵家もお姉様が婿養子を貰って継ぐ事は決まっている。本来なら新たに婚約者を用意されてしまうところだが、傷心の振り(?)をしたら暫くは自由にして良いと許可を貰っちゃった。  それならと侯爵家の事業の手伝いと称して前世で好きだった料理をしたくて、王都で小さな定食屋をオープンしてみたら何故か初日から第一王子が来客? お店も大繁盛で、いつの間にか元婚約者だった第二王子まで来る様になっちゃった。まさかの王家御用達のお店になりそうで、ちょっと困ってます。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆ ※料理に関しては家庭料理を作るのが好きな素人ですので、厳しい突っ込みはご遠慮いただけると助かります。 そしてイチャラブが甘いです。砂糖吐くというより、砂糖垂れ流しです(笑) 本編は完結しています。時々、番外編を追加更新あり。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...