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「こちらでございます」


私は今、王宮の離れ…と言う所に案内され、これからウィリアム殿下とお会いする予定なのだけれど…これはちょっと…。


「王宮って、予算がないわけでは無いのよね?財政的にひっ迫していて、離れの改修もままならないとか…」


そう言いたくなるくらい、建物のあちこちが傷んでいた。
マリーの情報によると…まぁ…ウィリアム殿下のこれまでの日頃の行いが祟ったというのが一番適切な言葉だろうと思う。
今日は一応、病気療養中の殿下を見舞うという口実できたのだけれど…この場所は何だか空気が淀んでいて、病気じゃなくても病気になってしまいそうな雰囲気だ。


いずれ継承権がなくなる王子だからなのか、仕える使用人の態度も見ていて気持ちのいいものではない。


護衛騎士を一人、それにメアリとマリーを連れ、人数的にはだいぶ少ないが、私的には最強の布陣で挑んだ殿下との対面だったけど、なんだか一気に気が抜けた。


元の傍若無人な殿下では到底我慢などできないであろう環境に、『中の人』は確実にレオナルド殿下だろうと確信を持ってしまった。こんなことで確信が持ててしまうのもなんだか情けないけれど、それほどひどい人格だった…と思う。
なんてったって、心の中の呼び名はほぼバカ王子一択だったからね。


個人的にも嫌いだったし、一般的にもあまり好かれてはいなかったと思う。
一部の奇特な人や、地位目当ての令嬢それと、担ぎ上げる旗印的な見方で見ていた貴族以外は…。


そんな状態での、ウィリアム殿下とレオナルド殿下の入れ替わり。
……まぁ誰が中に入っても、大抵の人は引き籠るだろうと思う。


王位継承権の放棄は、元レオナルド殿下だからこその判断かな?と思う。
多分、あの方は自由になりたかったのだと思うから。


魔力過多症と第一王子という肩書のせいで、肉体的にも精神的にも国に縛られていただろうし、多少好意があったにしても、成人前御年一桁のお子様を婚約者にしなければいけない程身体に限界が来ていたのかと思うと、同情しかできない。


そう…愛情でも友情でもなく同情。
貴族の役目・国の為…理由は色々あれど、レオナルド殿下と婚姻する時には『半身』になり命の欠片を交換しなければ意味がないのだ。


命の欠片がどんなものか、自分にはまだよく分からないけれど、命の欠片という程のものなのだから、きっと唯一無二のモノだろうと思う。
それを、同情や貴族の役割という使命感だけで婚姻した相手に渡すなんて…。


そんなことをつらつらと考えていたら、ノックと共に声が掛る。


「大変お待たせいたしました。ご準備が整いましたのでこちらの応接の間に…」


そう言って護衛騎士を残し、ミーリア・メアリ・マリーの三人のみ応接の間に案内された。
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