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18 ~若と侍従の呟き~
しおりを挟む最近考え事がまとまらない。
最近というより…この春あたりからだろうか?
そう…それさえもはっきりしない。
なぜだろう…気が付くと、昨年編入してきた男爵令嬢ミュリエッタ・アシュバートン嬢の傍にいる。
疲れた…少し休みたいと気を抜くと、いつもそうだ。
なぜ?と思う時も多いが、ミュリエッタ嬢の声を聞いたり笑顔を見ていたりすると、そんな考えがどうでもいい事に思えてくる。
ふと我に返り、「それは危険なのではないか?」と思っても、またいつものように引き寄せられてしまう。
ミュリエッタ・アシュバートン嬢……アシュバートン男爵家の庶子として生まれ、数年前男爵家に引き取られたと聞いた。
母親と二人細々と暮らしていたが、母親が病気で亡くなってしまったらしく、男爵家を頼った…らしい。…そう…「らしい」だ。
そう…すべて噂。
伯爵家の諜報員を使い調べても、不思議な位「…らしい」「そう聞いた」という語尾を濁したような話しか聞けなかった。
なぜだろう。
…そう…こうしてミュリエッタ嬢の事を調べようとすると何故か思考が鈍る。
ああ…そういえば聞いたことがある……
もしかして、これが恋というものなのだろうか…
ミュリエッタ嬢の事を考えると何も手につかなくなってしまう。
そうか…これが恋なのか。
そう納得するも、心のどこかで警鐘が鳴る。
もう一度よく考えるんだ…と。そうだ、気分転換には剣を握るといいと言われた。
そうか、もしかしたら鍛錬不足なのかもしれない。
そう思い、訓練場に行き剣を振る。
そうすると不思議に思考がはっきりしてくる。
恋とは違うのか…それとも恋なのか。
経験不足の僕ではどうしたら良いのか判断がつかない…。
次の帰省の時に、お父様に相談した方が良いかもしれない。
…そうだ、そうしよう。
であれば、思考が鈍らないうちに帰省の手配をしなければまた、何も手につかなくなってしまうかもしれない。
「マーキス!次の休みには領地へいったん戻る。後で僕がこれを撤回しても必ず連れて行ってくれ」
●〇●○
私がお仕えする若に、最近変な様子が見られる。
ぼーっとしたかと思うと、フラフラと歩きだしあの噂の男爵令嬢の元に歩きだす。
あれだけ利発であった若が、濁った眼をして男爵令嬢に微笑んでいる。
幼少の頃よりお仕えし…色々な人物を見てきたと自負がある私には判る。
あの令嬢は何かしらの魔法を使っていると…。
ただ、どういった魔法か判別できず悩んでいたところに、先日、若の妹…ミーリア様付きの侍女(ってあいつ男だったよな?)から手紙が届いた。
「男爵令嬢に注意せよ」とただ一言…そして、装飾用の短剣が一振り添えられていた。
これを若に持たせろという事かもしれないと思い、早速若に帯剣させる。
学園内でも殺傷能力のない装飾用の短剣なら持てるので都合が良かった。
不甲斐ないが、自分のプライドよりも若の無事が最優先だ。
帯剣させしばらくすると、若の様子にも変化がみられるようになってきた。
以前の利発な若が戻ってきた。
けれど…時々気を緩めると引き寄せられるように、令嬢の元へ行ってしまう。
やはり私では経験不足なのかもしれない…。
この短剣を送ってきてくれたアルベルト改めメアリに相談しよう。
にしても…なぜに侍女…いや…まぁ、その辺の女より綺麗なのは認める…けれどなぜ侍女なのだ…なぜ…なぜ。
不甲斐ない私は今日も「なぜ」と呟いてしまう。
次の休日こそは、無理やりにでも若を領地にお連れしなければ。
そして真相を解明しなければ…男爵令嬢の魔法の謎と…アルベルト侍女に変身の謎を…。
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