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人並みの幸せ
しおりを挟むシルフィと私の子どもが今日、恋し愛した人の元へ嫁ぐ。この子が生まれ物心ついた頃にはすでに心に決めていたらしい。
あの当時は、いまだ私とジルベルト様の養子縁組が継続していた為、義弟であったあの子を『おじ様』と意識して呼ばせていたけれど、それも難しくなってきた為、この子が8歳になった時に、ジルベルト様と結んでいた縁を一度解き、改めて義弟とこの子の婚約を結んだ。
相思相愛……そう言ってもおかしくない位お互いを大事にしていたことや、かたや王宮の筆頭魔法士、かたや精霊王を父に持つ二人に、横やりを入れるような愚かな者はさすがにいなかったこともあり、長期の婚約期間があった割には、何の問題もなく結婚まで辿り着けた。
「あの子が結婚なんてね……」
精霊王の伴侶である私は、完全な人間であった頃よりだいぶ年の取り方が緩やかになっている。娘であるセリフィナが嫁ぐようになった今でも、見た目年齢はいまだ30代くらいだろうか?
私達の子であるあの子ももしかして……と婚約を結ぶ時に危惧したけれど、あの子はあくまでも精霊と人間のハーフで、どちらかというと人間の血が濃いが……一般の人よりはやはり魔力の保有量が多いので、恐らく平均的な人族よりは長寿かもしれない。
そして夫となる彼は魔力量の膨大な父親に似て、保有魔力がとても多く、そういった人は総じて一般の平均寿命の倍くらいは普通に生きるらしい。
「ほら、もう泣かないの。嫁ぎ先なんて目と鼻の先じゃない。それにもう一人ここにいるのよ?」
持っていたハンカチで、精霊王である愛する夫の頬を拭きながら少し膨らみかけてきているお腹に手を当てる。もう既に安定期も過ぎ、もう少しすれば胎動も感じられる月数に入る。
娘が結婚するような年の私が妊娠なんて……と、驚きより何より不安だったけれど、見た目年齢通り、身体の年齢も若いようで、出産にも充分耐えうる身体になっていたようだ。
そしてあと1年経たない内に、2人の父となりかつ私の夫の精霊王であるシルフィはここ最近、とても忙しくしている。
精霊界では現在、火の精霊王の世代交代の時期らしく、他の精霊王も儀式のサポートの為、調整などで忙しいらしい。
今の今まで精霊界の事は聞かずに来たんだけれど、なんだか人間社会とそんなに変わらなぁ……なんて思っていたりする。
「ねぇ……随分遅くなったんだけどね…」
隣に立つ夫を見上げると、涙で充血させた赤い目でこちらを向いた。
「ありがとう。私を幸せにしてくれて。人並み……いいえ、それ以上の幸せを貴方が運んで来てくれた。そして守ってくれた。ありがとう。そして……これからもよろしくお願いします」
改めていうと恥ずかしいけれど、これはきっと言わなければいけない言葉。
だって、貴方は私を追いかけてきてくれた。
だからこれからは私が、あなたが私を愛してくれる以上にあなたを幸せにしようと思うの。
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読んで頂きありがとうございます😊
因果応報…怖い言葉ですよね。
お姉ちゃん勝手に破滅エンドでしたが…展開読め過ぎですみません💦
読んでくださりありがとうございます😊
どこの世界でも権力争いや大人の事情なんて言うのはあるもので……。
先が読め過ぎな内容でどうかと悩みましたが、今後もよろしくお願いします😄
精霊王ってもう言ってしまうのですね。
慌ただしくなりそうです。
読んで頂きありがとうございます😊
幸せは最大火力で掴み取る……と前世の失敗からの教訓のシルフィです👍