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過去 〜とある男の独白〜
しおりを挟む僕には好きな子がいた。
昔から付き合いがあるという、とある会社を経営する家のお嬢さんだった。
大人しいだけの子なのかと思ったら、結構芯がしっかりしていて、周囲に気が配れる優しい子だった。ただ……優し過ぎるのか事なかれ主義なのか、自分に対しての悪意にはあまり反抗しない子だった。
学生時代は我ながら気持ち悪いとは思うけれど、親の仕事関連でのパーティーなどで会った時に話すのみで、話の端々に『付き合っている人はいない』と聞くだけでホッとする……そんな恋だった。
その関係が変わったのが、僕が大学生の時だった。
『向こうの家から打診があってね、将来的にウチの子を助けてやって欲しいと言うことなんだけど……』
と言う父親の歯切れの悪い言葉からだった。
どうも、あちらの祖母・母親に僕の気持ちは駄々漏れだったらしく、大学在学中に司法試験に合格できるような優秀な僕なら、公私共にお願いできるんじゃないか……とのことだった。
もちろん僕は引き受けたよ。
そして彼女の同意も得て、僕たちは婚約者という形でしばらく交流を持った……と言っても、彼女は未成年で学生で……清い交際にならざるを得なかったのだけれど、それもしょうがない話だし納得もしていた。
だって僕はそういった欲求抜きで、ずっとずっと恋していたのだ。気持ち悪いと言われようがなんだろうが、気持ちだけはどうにもならないのだから。
けどそれでもよかったんだ。
彼女と一緒にいられれば。
そう思っていた。
なのに……僕はあの女に……いや、家族に嵌められた。
彼女の父親と会食の場に来た父親の再婚相手とその娘。婚約者の彼女抜きでの食事会に警戒すべきだったのだと思ったのは後の祭り。
電話で席を外した隙に、飲み物に何かを入れられていたらしい。席に戻った僕はそれを飲み、あいつらの策略に嵌められた。
会食時はなんとか持ったのだが、その後の記憶が無く、気がついたらベッドの上……隣には裸で眠る彼女の義姉となるあの女。
焦っても後の祭りだ。
両親揃って娘の味方をし……僕の子どもを身篭ったという娘を責任を取って結婚しろと言ってきた。
「はっきり言う。僕はしてない。それに僕には婚約者がいる」
そう言っても納得せず時間はどんどん経ち、最終的に彼女に婚約の解消を申し出ることになってしまった。
けど……あの女の腹の子は僕の子ではなかった。分かったのは彼女が亡くなった後。
子どもが怪我をして血液検査をした時だった。
「だってぇ~ずるいじゃない?結婚は姉から先にするものよ?それに……というかこっちがメインかしら。あの子の泣き顔を見たかったのよねぇ。まぁ……結局泣いた顔は見られなかったから残念としか言いようがないんだけど」
そう言ったその時のあの女の声が今も頭から離れない。
あぁ……あぁ……僕はどうしてあの時、彼女を攫ってでも逃げなかったのだろう。
後悔しても後悔しきれず、僕は精神を病んだ。そして……
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