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夏季休暇 〜遭遇〜
しおりを挟む早いものであっという間に夏季休暇。
夏季休暇と言っても、馬車で領地へ帰省する周囲のご令嬢方とは違い、大きめのボストンバッグ一つを持ち、目指すは王城の敷地内にあるジルベルト様のお屋敷。
「転移すれば楽なのに~」
なんて言うのは、隣にいるのがお馴染みになりつつあるシルヴァ(シルフィ人間バージョン)。彼も表向きは筆頭魔法使いであるジルベルトの助手なので、こうして一緒に王城に向かっている。もちろん徒歩で。
「転移なんて普通の人は使えないのよ。国に仕える魔法使いだって使えるのはジルベルト様だけだと聞いているわ。だから迂闊に使っちゃダメ」
とは言ったもののやはり遠い。
なので、気を紛らわす為、お出掛けついでの街の散策をしようと提案し、屋台巡りを30分ほどしてお土産を買い込み王城に向かった。
ちなみに今日は、ジルベルト様の仕事終わりを待って帰る予定だったけれど、滞在時間が長くなると面倒ごとに遭遇しそうなので、挨拶だけして早々にミーヤが待つ屋敷へ飛ぶ予定でいる。
「そういえば……お城に来るのは初めてかも知れない。まぁ、高位の貴族でない限り、子供まで王城にっていうのはないんだろうし……」
実姉が王太子妃で義父が筆頭魔法使いであっても自分が偉いわけではないし、前世日本人であったセレーネにとって社交や舞踏会なんてものは苦痛でしかないだろう。学校に入るまでは自然豊かな場所でほぼ引きこもりしていた身としては、人が多いだけでかなりのストレスなはず。
そんなことを話しつつ、事前に発行してもらっていた通行証を出し、シルヴァについて魔法使い塔へ向かう。魔法の暴発があったりする為、本宮とは離れた場所にある魔法使い塔ははっきり言って迷路だし遠い。けど、言い出しっぺは自分だしなぁと、不審者に見えない程度に城内を見学していたら、不意に上階から声を掛けられた。丁度死角になっている為、声の主の顔は見えないのだが、シルヴァには誰だか分かったらしい。王子然とした容姿からは想像もつかないような舌打ちが聞こえたことから、面倒な相手なのかもしれない。
「そこにいるのはシルヴァ様ではありませんか?」
シルヴァが振り向く前にさりげなく上着に付いていたフードを被せてくれたので、あちらからは私の顔が見えなくなってしまったけれどいいのだろうか?
城にいる女性なら間違いなく高位貴族だろうに……そんな疑問を持ちつつ、シルヴァに耳打ちされた通り身動きせずじっとしていたら、シルヴァのクチから懐かしい名前が出た。
「ご無沙汰しております。カーミラ様」
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