上 下
15 / 79

準備は入念に

しおりを挟む


見様見真似で手縫いしたバッグに、いざとなったら換金できそうな小さめのアクセサリーや絹のハンカチ、レースが見事なリボン……etc.

それらの小物を中心に、目立たない程度詰めて精霊であるシルフィ(仮)に預ける。
セレーネは転生者だが、転生者チートにありがちな空間魔法……いわゆるストレージと言われる収納魔法は使えないし収納できる便利な魔道具なども持ち合わせていない。

一応、この世界にもそういった魔道具はあるけれど、空間魔法や時間魔法を使える者がとても少ないせいもあり、そういった道具は例の漏れずかなり値が張るらしい。なので……。


「セレには特別僕が使っている場所を貸してあげるよ~。ん~とね、コレが良いかなぁ?ほらこれ。この腕輪にセレしか開けない入り口を作っておいたから、この腕輪を触って取り出したい物を念じればポンって出てくるよ~。あっ、小物類は袋に入れてまとめた方がイイかも?」


だそうだ。
ラノベなんかにあるように『自動で整理』なんてうまいことはいかないらしい。
入れたい物に触れればポンポン入るらしいが、ポンポン入るがゆえ、精霊界の収納場所には積み上がっているだけの状態らしい。
目にして引き出せるわけではないので、似たような物を別々に入れると、取り出す際にとても面倒らしい。

(まぁあれだ。入れすぎ注意ってことだね)

今の現状を考えると最高の収納方法なので、ありがたく借りることにして、身の回りの換金できそうな物と、思い出の物を入れておく。

昨日、ミーヤからお父様がこちらに来るようだということを聞いた。おそらく先日の手紙と洗礼の儀関係の準備だと思う。
いくらなんでも幼少の娘に問答無用で出て行けなどという親ではないだろう……と思うのだけど、交流がなさ過ぎて父親の人となりが分からない。

着の身着のままで放り出されることはないだろうけれど、最悪『家の物を持ち出すのは禁止』なんてこともあり得る。

前世にて周囲に存在しなかった貴族という未知の種族とこの世界の常識……そしてこの世界、この国の家族の在り方。この世に生を受けまだ数年、屋敷の中周囲は大人とはいえ使用人ばかりという狭い世界で生きているセレーネには、分からないことばかりなのだ。


「そうだ。お父様がいらっしゃるならドレスも見繕っておかないといけないわよね。あとは……んー……ミーヤがやってくれるわよね」


知らないことばかりで実質知らない人との対面は緊張するものだ。正直いうと胃の辺りがキリキリしているし、ここしばらくは夜も上手く眠れない。この歳で不眠症かよっ!という心の中の突っ込みは誰にも言えない。
迂闊に体調不良を漏らすものなら医者を呼ばれかねない。そして激マズ&激苦げきにがの薬を飲まされるのだ……。

(鑑定なんで便利な能力があれば、薬師にもなれるかしら?)

なりたい職業とはこうして決まるのかもしれない……などと呑気に考え、とりあえず屋敷にある薬草の本も収納に加える。そして間近に迫った緊張の来客に向け、その日は休むことにした。子どもの身体に無理は禁物なのだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

転生悪役令嬢、物語の動きに逆らっていたら運命の番発見!?

下菊みこと
恋愛
世界でも獣人族と人族が手を取り合って暮らす国、アルヴィア王国。その筆頭公爵家に生まれたのが主人公、エリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌだった。わがまま放題に育っていた彼女は、しかしある日突然原因不明の頭痛に見舞われ数日間寝込み、ようやく落ち着いた時には別人のように良い子になっていた。 エリアーヌは、前世の記憶を思い出したのである。その記憶が正しければ、この世界はエリアーヌのやり込んでいた乙女ゲームの世界。そして、エリアーヌは人族の平民出身である聖女…つまりヒロインを虐めて、規律の厳しい問題児だらけの修道院に送られる悪役令嬢だった! なんとか方向を変えようと、あれやこれやと動いている間に獣人族である彼女は、運命の番を発見!?そして、孤児だった人族の番を連れて帰りなんやかんやとお世話することに。 果たしてエリアーヌは運命の番を幸せに出来るのか。 そしてエリアーヌ自身の明日はどっちだ!? 小説家になろう様でも投稿しています。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました

魚谷
恋愛
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」 8歳の頃に、15歳の夫、伯爵のギュスターブの元に嫁いだ、侯爵家出身のフリーデ。 その結婚生活は悲惨なもの。一度も寝室を同じくしたことがなく、戦争狂と言われる夫は夫婦生活を持とうとせず、戦場を渡り歩いてばかり。 堪忍袋の緒が切れたフリーデはついに離婚を切り出すも、夫は金髪碧眼の美しい少年、ユーリを紹介する。 理解が追いつかず、卒倒するフリーデ。 その瞬間、自分が生きるこの世界が、前世大好きだった『凍月の刃』という物語の世界だということを思い出す。 紹介された少年は隠し子ではなく、物語の主人公。 夫のことはどうでもいいが、ユーリが歩むことになる茨の道を考えれば、見捨てることなんてできない。 フリーデはユーリが成人するまでは彼を育てるために婚姻を継続するが、成人したあかつきには離婚を認めるよう迫り、認めさせることに成功する。 ユーリの悲劇的な未来を、原作知識回避しつつ、離婚後の明るい未来のため、フリーデは邁進する。

処理中です...