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精霊の遊び場

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「ここって……」


シルフィ(仮)に連れて来られたのは、方角的にも位置的にも伯爵家の敷地内のはず。
この小さくて体力も筋力も無い身体にとっては辛い道のりだったけれど、さほど遠くには来ていない筈だ。なのに目の前に広がるのは、向こう岸が遥か遠くに見える大きな湖だった。


「こんな所、屋敷からは見えなかったけど……」


シルフィ(仮)が私の周りを飛び回っているのも忘れ、陽光を反射してキラキラ光る湖面に見惚れる。どう考えてもおかしいのに見惚れてしまうのはさっきシルフィ(仮)が『精霊の遊び場』と言っていたからかもしれない。


「ねぇ~セレぇ。もうさ、名前の後ろに(仮)かっこかりって付けるの止めない?いい加減ボクと契約してくれてもイイと思うんだけどさぁ」


惚ける私の肩に座り、ほっぺをプニプニと指で突いてくる。侍女のミーヤも時々プニプニしてくるけど、大きさが違うから感覚も違う。なんか変な感じだ。


「う~ん……でもさほら、まだね洗礼も受けていないし、今精霊と契約しちゃうとさ、洗礼の時に面倒臭いことになりそうで」


代々ホーグワット家は魔法使いを多く出している家系だとミーヤに聞いたことがある。そして、姉様がこの国の王子と婚約ができたのも、その魔力量が決め手だったらしい。

そして……その王子妃の妹が、珍しい精霊の契約者だったら?

貴族に生まれた時点で色々と制約があるだろうとは思っていたし、貴族であったお陰でこうして不自由なく暮らせている……喩え家族に顧みられなくても。

それに……生まれ変わってしばらくした後に悟ったのだ。自分が望んでいても、相手が必要な願いはきっと聞き入れられない……と。

そんな状態でもし家族に利用されたと分かったら、きっと恨んでしまう。

『都合の良い時だけ家族面するなっ!』

と……。
だからなるべくそんな要素は持ちたくないのだ。片手で数えられる位しか面識のない姉や兄がどんな性格や考えをしているのか……。
できれば善良であって欲しいし、せめて家族には優しい人であって欲しいとは思うけど、希望を胸に家族を信じるなんて、前世や前々世を思い出しても出来る気にならない。

なんてったって記憶のある2回の前世は、折り紙付きの不幸体質だ。家族との良い縁なんてこれっぽっちも無かった。

だからせめて今世は静かに暮らしたい。
いずれどこぞの貴族に嫁に出されるのかもしれないが、それはそれで新しい家族を作る努力が出来るチャンスだ。

自分が何をしてどうして家族から遠ざけられているのか分からないけれど、もう諦めたのだ。だってもうだいぶ待ったのだから。


「シルフィ。あと半年だよ。あと半年したらもう一度ここに連れてきて。それまでもう少しの延長をお願いしますっ!」
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