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順調……なのだと思いたかった
しおりを挟むセレーネ・ホーグワット、順調に無事4歳の誕生日を迎えました。思わず自画自賛、心の中で拍手だよ。
中身とのギャップはあるけれど、こんな幼児が家族もいないだだっ広い屋敷で一人。
もちろん貴族令嬢らしくお世話係の侍女と護衛はいるけれど、家族らしき人と顔を合わせたのは、この小さな片手の指で数えられるほどの回数しかない。
なのに!なのにこんなにまっすぐ育っているのは、単に私の心の強さ故……前世での不幸属性経験の賜物だろうと、いったい何に感謝していいのか分からない状態だ。
「ねぇミーヤ。お父様はそんなにお忙しいのかしら?忙し過ぎてセレーネの誕生日を忘れてしまったのかしら……」
吐きたくなくても吐いてしまう弱音。
記憶上は大人でも今の私は幼児。どうも精神は身体に引き寄せられているようで、時々ポロッとクチから漏れ出してしまう。
「昨年、カーミラ様と第一王子殿下とのご成婚が発表され、今は旦那様もユアン様もお仕事と準備に忙殺されているようですので、もう少しお時間が掛かるとのことでございます。私共もお手紙など折を見て送っております。もうしばらくすればセレーネ様の洗礼の儀がございます。その時にはお会いできるかと思いますよ」
ミーヤに頭を撫でられて涙が出そうになったけど、泣いたら困るよねきっと……なんて幼児にあるまじき我慢をしてみる。
ちなみに、カーミラは一番上の姉で御歳17歳、ユアンは兄で今年で14歳になるはずだ…多分。多分…というのは言わずもがな会っていないからだ。
1歳の誕生日のお披露目は私の怪我が原因で取りやめになったけれど、お父様と姉様、そして遠巻きに私を見る兄様に初対面できた。
そして2歳の誕生日は、生まれてから一度も会えなかったお母様が亡くなり、喪に服した為、ささやかにミーヤが祝ってくれただけで終わった。
3歳の誕生日はお父様と姉様が祝ってくれた。本当はパーティーを開いてもいいそうなのだけれど、1歳の誕生日以来お会いできていない兄様が、いまだ喪に服していることを考慮して家族だけで……内々に済ませることにしたそうだ。
そして今年……4歳。
本当に忙しいのかもしれないし、本当は会いに来てくれるつもりでいたのかもしれない。
けれど私は一人。ミーヤや護衛、使用人はいるけれど、この広い屋敷で1人寂しく4歳の誕生日を迎えた。
なんだかなぁ……。
ため息を吐きながら思う。
自分は生まれた時に何かしでかしたのだろうか?記憶なんてある訳もなく、周囲は聞いても教えてくれない。
生まれ変わったのだと自覚したあの時、今世こそは人並みの幸せな人生を送ろうと思ったのに。けれど……どうも私は前世も今世も、家族との縁が薄いようだ。前世の死の間際、あんなに神様に祈ったのに。
思わず声に出そうになり、慌てて周囲を見渡す。そして誰もいない室内を見てまたため息を吐く。
『誰も私をみてくれない。私は今世でも要らない子だったのかなぁ……』
声にならない心の叫びは、我慢しても日に日に大きくなってしまう。明るく前向きに考えようともそうできない自分に更に落ち込む。
「もういいかしら。もう充分我慢したよね」
思わず呟いた独り言は誰にも聞かれることなく部屋に響いた。
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