バンディエラ

raven11

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新しい挑戦

2-4

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「瀬野悠大です。ポジションはMF(ミッドフィルダー)」
 今泉コーチは試合の合間に一年生を集め、ポジションと特徴を含めた自己紹介をするように言った。
「パス出しと、危険察知能力が強みです」
 なんて、言ってるけど、ぶっちゃけ自分の本当の強みなんて分かっていない。
 望月のように圧倒的な得点を獲る嗅覚なんかがあればいいけど、生憎持ち合わせていない。それでも、今まで試合には出してもらえた。
 スポーツ推薦の話もきた。でも、自分にはそこまでの実力は無い、買いかぶり過ぎだと辞退した。
 サッカーは楽しくやれればそれでいい……だけど勝ちたい。負ければ楽しくないから。
 だから、練習する、習得する、技を磨く。負けないために。
 頭を使う。周りに少しでも貢献できるように。
 そうやって今までやってきた。だから、俺の特徴はパス出しと危機察知能力、それだけ。
 まだ伸びしろがあることに期待してるか? たぶん、そう。
 でも、試合では自分の身の丈にあったプレーに全力を尽くす。個人戦ではないんだから。
 俺は今日も俺がやれる限りのをやろう。できるだけ負けないように。

 さっきの攻撃は凄かったな。
 狗宮が教えてくれたけど、さっき左サイドバックから逆サイドの右ウイングまでロングフィード蹴ったのは一年生らしい。
 よく見えてるし、精度も抜群。
 オレに右サイドからパスをくれた、あの先輩のようなボールだった。
 つか、あの人名前何だったっけなー。
 今の試合でも気の利いたタイミングでのインナーラップだった。
 あれやると、ボール取られた後ディフェンスに戻るのが大変なんだよな。カウンター怖くないのか?
 それにしてもセンターフォワードの人デカいな。
 190近くあるんじゃない? この試合では、ボールがあんまり入ってこなかったけど、ディフェンスも異常に警戒してたし、このチームのエースなのかもしれない。

「それでは次のメンバーを発表する」
 1試合目が終わり、集合がかかった。
 いーちゃんこと今泉コーチが、マグネットの作戦ボードを弄りながらメンバーを発表していく。
「久遠寺、お前は連続で入れ、動いてなさ過ぎ。それと、小林。お前な」
 キーパー? 中盤の選手ではなかったか!?
「うっす。ちょっと着替えてきます」
「急げよ。それと、狗。お前、ボランチ入れ。あと、一年の……」
 今泉コーチがこちらを見る。
「瀬野です」
「瀬野は狗とダブルボランチ」
「はい」
「これビブスね」
「ありがとうございます」
 2試合目に出ることになった。

「瀬野どうする?」
 狗宮がこちらを向いて聞いてくる。
「狗宮はどういう動きが得意なんだ?」
 狗宮は手短に自分のプレースタイルとやりたいことを話す。
「俺は基本的にスタミナ切れすることはない。ボールを追っかけ回すのは得意だ」
 とのこと。
 ……うーん。
「守備に特化してるってこと?」
「そう思ってもらって差し支えない」
 このチームのメンツなら誰であろうとも取れと言われたら、ほとんどボール奪取できるそうだ。
 リスク管理の問題があるから、本当に必要な場合だけに留めているらしいけど。
 本当なら凄いことだ。ただ、パスとドリブルは苦手とのこと。だったら、ディフェンス向きでは? と思うところだけど。
「だって守備も攻撃もどっちもやりたくね?」
 そんな発想なかった。
「他のポジションができないわけじゃないけどさ、ボランチってポジションが俺にはお得な気がする」
「それで、話を戻すけど。俺は上がり目でプレーした方がいい?」
 今までは下がり目でビルドアップに参加していることが多い。
 パスは受けるのも出すのも、相手からのプレッシングが気にならなかったから、自分を通して前線へとパスを繋いでいくという役割だ。
 だから、どっちかといえば下がり目でディフェンスからパスを受けやすいようにプレーしたいんだけど。ただ、狗宮がボール奪取特化だったら、狗宮が後ろの方が守備強度が上がる。
「瀬野が前でパス捌いてくれた方が良さそうだと思う」
「分かった」
 あんまり、攻撃のアイデアが無いけど善処しよう。
「それと、王様にパスを出してあげてよ」
「王様?」
「久遠寺先輩」
 狗宮がフォワードの長身の男を指差す。
「あの人、パスこないとキレるから。でも得点を取ることに関しては抜群」
 そうなんだ、なんかヤバそう。
 まぁ、オフザボール(ボールを持ってないとき)の動きが良さそうなら出してみるか。
「マークは遠藤さんについてもらえたら」
 狗宮が相手の背番号5番を指差して言う。
 5番のマークね、了解。
「他に聞きたいことは? あ、でももう試合始まるね」
 ……ちょ、ちょ、ちょっと、待ってくれ。一番聞きたい謎を残しているのではないだろうか。
 なぜ、あの人はキーパーをやることになっているのか?
 長袖に着替えた小林先輩がキーパーグローブを嵌めにくそうに装着しながら自軍のゴールに向かうのを見やる。
 こちらの視線に気づいて小林先輩が顔を上げる。
「瀬野しっかり動けよ」
「……はい」
 え、あの人ボランチの選手じゃないの?
「あ、それと小林先輩のコーチングに逆らうと後で怖いから素直に従った方がいいよ」
 過去に何かあったのか狗宮が顔を落としながら、そっと告げると自分の持ち場に離れて行った。
 ピー!
 そして、試合が始まる。
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