14 / 19
求めない者にこそ訪れるもの
しおりを挟む
白昼夢を見ることはあっても、それが覚めた途端に見ていた夢を忘れたことはないだろうか。あるいは夢と現実の境目を曖昧に感じたり。さっきまでお花畑で誰かとくるくると回っていたと思うのだが、今この瞬間に僕の正面にあるこいつの顔ではなかったはずだ。
「いくら暇だからって放心しすぎだろ」
マイルズに軽く頬を引っぱたかられて白昼夢から覚めた。
「ああごめん、何か話してたのか、聞いてなかった」
「寝ながら歩いてるのかと思ったぜ。かっくんかっくんしてよ」
ジトーも茶化してきたが、絡む気分でも無かった。しかし自分はどんな歩き方をしていたのだろうか。
「買い食いする金すらないんだろ。道すがら香ってくる屋台飯に苛まされないように無意識に考えるのを止めてたんだよ」
適切な分析をしたマイルズに、ため息をついたのはジトーだ。
「便利な技能だな。おら、これでも食え」
目の前の店で適当に掴んだジトーに無理やり渡されたのは水飴だった。
「ありがたい。ついでに肉があるとよりありがたいんだけど」
「文句があるなら返してもらうぜ」
「いやいやそんなことは滅相もへったくれも」
「適当な返事だなおい」
男3人で歩いているのは特に意味があるわけではない。ショッピングに沸く女子についていけず、置いて行かれただけだ。
「せっかく服も決めてきたのにこれじゃ寂しいったらないな。女子艇員の目もないし今が好機だ。俺はこの街の素敵なお姉さんとの運命的な出会いを果たしにいくぜ」
ジトーは街に降りると、毎度運命の出会いとやらを探しに行く趣向がある。奥手そうに見えるマイルズもいつも存外に乗り気で、よく二人で街に出ては七転八倒の不毛な戦いを繰り広げていた。二人とも軍属だった頃にそういった遊びを覚えたらしい。曰く、勝ち負けよりもスリルそのものを楽しんでいるようだ。そして僕も清廉潔白であるとはいえ彼らの探索に参加したことがないとは言えない。だって年頃の男の子だもの。旅先のひとときの思い出とか、なんか良いじゃないか。でも髪と眼の色で悪目立ちすることばかりで、少なからず見せ物になるのが面倒でいつからか辞退するようになった。今では毎度意気消沈して帰還する二人を慰める役回りになっている。僕のため息は聞こえないふりをして、二人は襟を正し、背筋を伸ばして雑踏の中に突撃していった。骨を拾う方の苦労も考えろよ。南無三。
二人の背中を見送るのに気を取られていたら、エスコート対象であるはずの女子艇員らを見失ってしまった。仮にも空の男を謳っておきながら用心棒役もろくにできないとなると流石に無能の称号を賜りかねない。まぁあの女子の一群の中に僕が束になっても敵わないのがいるから問題ないはずだが。特に心配することはないものの、広間にある時計台に登ることにした。地元の名所らしいが、こちとら日頃空からの景色意外に見るものがない生活をしている。艇員達の中で興味を示す者こそいなかったが、上から人を探すには便利だろう。時計台といってもせいぜい4階建ての小ぶりな造りで、上まではすぐだった。
小さな展望台に出ると頭上に小さな、といっても両手に抱えて余りそうな鐘が吊られていて、茶の地金に緑がかった色から青銅なのだろうことがわかる。眼下では四方に煉瓦の瓦屋根が広がり、その背後では細かくきらめく水面が水平線まで続いている。陽の光が無数の波に反射し目に刺さる。髪を通る風は潮を含み、頬を撫でる陽は少し暑い。四方を、耳が浮いて飛び去っていきそうな甘言を吐き続ける恋人達に囲まれているところにさえ目を、いや耳を塞げば、爽快な場所だと思った。
取り急ぎ見回してみたが、見失った護衛対象の女子艇員らは見つからない。露天商がひしめき合っているだけでなく、多くが布の陽避けを立てているので仕方ないのだが。少なくとも、僕は探す努力はした。残念ながら僕には荷が勝ちすぎていたということにして、用心棒役は引責辞任しよう。残りの時間は無職らしく散歩に費やそうと思う。いや残念だ。
「あなた何してるの?」
気持ち飛び上がって、声の方に目をやると柵にもたれかかるフラウレットがこちらを見ていた。
はっはっは、と白々しく独りごちていたのをしっかり見られた様子だ。
「なんでもないよ、もう終わった。フラウこそ何してるのさ」
まさか艇員と遭遇するとはおもっていなかった。正直、空からの景色の方が見応えがあるし、普段地に足を付けていない僕らは寄港するときは地べたを歩きたがるものだ。
「あなたと同じ。探し人よ。ただし、私が探される方だけどね」
なんだフラウも迷子かしょうがないな、と返したら笑われた。
起き上がったフラウレットはカットソーに長めのスカートを合わせていた。装飾は最低限に留めているのも彼女らしい。風に煽られると裾や袖が大きく揺れ、彼女とそれ以外との境目を強調した。逆側の生地はゆったりとしたままで、その対比がたおやかさを強調しているように見えた。
「そうね、その通りよ。さて、お互い用事は済んだみたいだし、日が暮れるまで観光に付き合ってもらおうかしら。できれば買い物以外でね」
一対一でのエスコートをお願いされてしまっては、無下に断ることもできない。
「買い物じゃなくて良いのかい。荷物持ちなら問題ないぜ」
「そんなに得意ではないのよ」
「意外だね。やれやれ、せっかくお役御免だと思ってたのに」
「そんなことだろうと思ったわ」
僕は諦めて、先ほどジトーにもらった水飴を口に放り込んだ。
「いくら暇だからって放心しすぎだろ」
マイルズに軽く頬を引っぱたかられて白昼夢から覚めた。
「ああごめん、何か話してたのか、聞いてなかった」
「寝ながら歩いてるのかと思ったぜ。かっくんかっくんしてよ」
ジトーも茶化してきたが、絡む気分でも無かった。しかし自分はどんな歩き方をしていたのだろうか。
「買い食いする金すらないんだろ。道すがら香ってくる屋台飯に苛まされないように無意識に考えるのを止めてたんだよ」
適切な分析をしたマイルズに、ため息をついたのはジトーだ。
「便利な技能だな。おら、これでも食え」
目の前の店で適当に掴んだジトーに無理やり渡されたのは水飴だった。
「ありがたい。ついでに肉があるとよりありがたいんだけど」
「文句があるなら返してもらうぜ」
「いやいやそんなことは滅相もへったくれも」
「適当な返事だなおい」
男3人で歩いているのは特に意味があるわけではない。ショッピングに沸く女子についていけず、置いて行かれただけだ。
「せっかく服も決めてきたのにこれじゃ寂しいったらないな。女子艇員の目もないし今が好機だ。俺はこの街の素敵なお姉さんとの運命的な出会いを果たしにいくぜ」
ジトーは街に降りると、毎度運命の出会いとやらを探しに行く趣向がある。奥手そうに見えるマイルズもいつも存外に乗り気で、よく二人で街に出ては七転八倒の不毛な戦いを繰り広げていた。二人とも軍属だった頃にそういった遊びを覚えたらしい。曰く、勝ち負けよりもスリルそのものを楽しんでいるようだ。そして僕も清廉潔白であるとはいえ彼らの探索に参加したことがないとは言えない。だって年頃の男の子だもの。旅先のひとときの思い出とか、なんか良いじゃないか。でも髪と眼の色で悪目立ちすることばかりで、少なからず見せ物になるのが面倒でいつからか辞退するようになった。今では毎度意気消沈して帰還する二人を慰める役回りになっている。僕のため息は聞こえないふりをして、二人は襟を正し、背筋を伸ばして雑踏の中に突撃していった。骨を拾う方の苦労も考えろよ。南無三。
二人の背中を見送るのに気を取られていたら、エスコート対象であるはずの女子艇員らを見失ってしまった。仮にも空の男を謳っておきながら用心棒役もろくにできないとなると流石に無能の称号を賜りかねない。まぁあの女子の一群の中に僕が束になっても敵わないのがいるから問題ないはずだが。特に心配することはないものの、広間にある時計台に登ることにした。地元の名所らしいが、こちとら日頃空からの景色意外に見るものがない生活をしている。艇員達の中で興味を示す者こそいなかったが、上から人を探すには便利だろう。時計台といってもせいぜい4階建ての小ぶりな造りで、上まではすぐだった。
小さな展望台に出ると頭上に小さな、といっても両手に抱えて余りそうな鐘が吊られていて、茶の地金に緑がかった色から青銅なのだろうことがわかる。眼下では四方に煉瓦の瓦屋根が広がり、その背後では細かくきらめく水面が水平線まで続いている。陽の光が無数の波に反射し目に刺さる。髪を通る風は潮を含み、頬を撫でる陽は少し暑い。四方を、耳が浮いて飛び去っていきそうな甘言を吐き続ける恋人達に囲まれているところにさえ目を、いや耳を塞げば、爽快な場所だと思った。
取り急ぎ見回してみたが、見失った護衛対象の女子艇員らは見つからない。露天商がひしめき合っているだけでなく、多くが布の陽避けを立てているので仕方ないのだが。少なくとも、僕は探す努力はした。残念ながら僕には荷が勝ちすぎていたということにして、用心棒役は引責辞任しよう。残りの時間は無職らしく散歩に費やそうと思う。いや残念だ。
「あなた何してるの?」
気持ち飛び上がって、声の方に目をやると柵にもたれかかるフラウレットがこちらを見ていた。
はっはっは、と白々しく独りごちていたのをしっかり見られた様子だ。
「なんでもないよ、もう終わった。フラウこそ何してるのさ」
まさか艇員と遭遇するとはおもっていなかった。正直、空からの景色の方が見応えがあるし、普段地に足を付けていない僕らは寄港するときは地べたを歩きたがるものだ。
「あなたと同じ。探し人よ。ただし、私が探される方だけどね」
なんだフラウも迷子かしょうがないな、と返したら笑われた。
起き上がったフラウレットはカットソーに長めのスカートを合わせていた。装飾は最低限に留めているのも彼女らしい。風に煽られると裾や袖が大きく揺れ、彼女とそれ以外との境目を強調した。逆側の生地はゆったりとしたままで、その対比がたおやかさを強調しているように見えた。
「そうね、その通りよ。さて、お互い用事は済んだみたいだし、日が暮れるまで観光に付き合ってもらおうかしら。できれば買い物以外でね」
一対一でのエスコートをお願いされてしまっては、無下に断ることもできない。
「買い物じゃなくて良いのかい。荷物持ちなら問題ないぜ」
「そんなに得意ではないのよ」
「意外だね。やれやれ、せっかくお役御免だと思ってたのに」
「そんなことだろうと思ったわ」
僕は諦めて、先ほどジトーにもらった水飴を口に放り込んだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
楽毅 大鵬伝
松井暁彦
歴史・時代
舞台は中国戦国時代の最中。
誰よりも高い志を抱き、民衆を愛し、泰平の世の為、戦い続けた男がいる。
名は楽毅《がくき》。
祖国である、中山国を少年時代に、趙によって奪われ、
在野の士となった彼は、燕の昭王《しょうおう》と出逢い、武才を開花させる。
山東の強国、斉を圧倒的な軍略で滅亡寸前まで追い込み、
六か国合従軍の総帥として、斉を攻める楽毅。
そして、母国を守ろうと奔走する、田単《でんたん》の二人の視点から描いた英雄譚。
複雑な群像劇、中国戦国史が好きな方はぜひ!
イラスト提供 祥子様
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
外れスキルで異世界版リハビリの先生としてスローライフをしたいです。〜戦闘でも使えるとわかったのでチーム医療でざまぁすることになりました〜
k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
使い方がわからないスキルは外れスキルと言われているこの世界で、俺はスキルのせいで家族に売られて奴隷となった。
そんな奴隷生活でも俺の面倒を見てくれる第二の父親と言える男に出会った。
やっと家族と思える人と出会ったのにその男も俺が住んでいる街の領主に殺されてしまう。
領主に復讐心を抱きながらも、徐々に体力が落ち、気づいた頃に俺は十歳という若さで亡くなった。
しかし、偶然にも外れスキルを知っている男が俺の体に転生したのだ。
これでやっと復讐ができる……。
そう思った矢先、転生者はまさかのスローライフを望んでいた。
外れスキル【理学療法】で本職の理学療法士がスローライフを目指すと、いつのまにか俺の周りには外れスキルが集まっていた。
あれ?
外れスキルって意外にも戦闘で使えちゃう?
スローライフを望んでいる俺が外れスキルの集まり(チーム医療)でざまぁしていく物語だ。
※ダークファンタジー要素あり
※わずかに医療の話あり
※ 【side:〇〇】は三人称になります
手軽に読めるように1話が短めになっています。
コメント、誤字報告を頂けるととても嬉しいです!
更新時間 8:10頃
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる