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八話
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【勇者でも魔王に恋がしたい!】
八話
ただひたすらに北を目指す。
気候が少しずつ変わり、雪が目に着くようになってきた。
「……雪か」
ライドンさんが、傷ついているほうの目に手を当ててそう呟く。
ライドンさんと初めて出会ったのは雪の降る街だったな。
****
両親と親友が死んで間もない頃、勇者ではあったがやる気にならないし子供一人……いや、バニラも何故か旅についてきたので二人か。子供二人で旅。
勇者だ勇者だ。ってもてはやす割には、世界を救うためにかかる食費や、その他もろもろに必要な経費を出す人はいなかった。
「お腹すいたね……」
バニラがそんなことを言うおかげで余計に腹が減ってくる。
「このままじゃ餓死しちまう……」
勇者が餓死で死ぬとかどこのクソゲーだよ。
そんなおれらに追い打ちをかけるように、真っ暗で覆いかぶさるような厚い雲が、追い打ちをかけるように、冷たい白い結晶が降り注ぐ。
「もうダメだ。寒い……」
朧気な意識の中雪の中を歩いて、野垂れ死にそうな所を一人の熊みたいな大男が助けてくれた。
それがライドンさんだった。
元々、目元にあるあの傷は無く、いかつい大男という印象だったが、中身は優しい人だということは分かっていたので、不思議と怖くなかった。
「ライドンさん。ありがとうございます」
「がっはっはっは!なーに。気にする事はないよ。俺も一応この街を守るパラディンなのだからね」
そう言って笑いながら、豪快に米を具材と炒めた炒飯のようなご飯を振舞ってくれた。味もにんにくやらでスパイシーになっていて、まさに男飯だ。
ライドンさんの優しい笑顔は今と何ら変わらない。
そして数日が経った後、その日の夜にまた旅に出る。ということで、パーティー的なことをすることになっていたのだが、外がやけに騒がしい。
「ごめんな。少し待っててくれ。様子を見てくる」
ライドンさんはそう言い残して家から出ていった。
幼いながらにも勇者的直観的なもので、なんだか少し怖いものを感じたため、俺はバニラを家に置いて、ライドンさんのあとを追うように家から出た。
雪はやんでいたが、三日ほど降り積もった雪はあたり一面を真っ白に染めていた。その中に黒い塊が目に付く。………俺らを襲ったのと同じタイプの魔物達だ。
「こんなところまで追っ手が?」
いや、もうわかってはいたのだ。なぜあの村が襲われたのか。理由は簡単、今の時点で俺を殺せば魔王達は簡単にこの世界を乗っ取ることが出来、邪魔も入らない。
確証はなかったがこれではっきりとわかった。奴らは俺を狙っているんだ。
住民は別に何もしていないのに。ただ普通に日常を過ごしていただけなのに。
「……俺がここにいなければ」
「おい!大丈夫か!?」
身体を揺らされ、意識がまたこっちに戻る。
「ら、ライドンさん……」
「お前は……なぜ家から出てきたんだ?いや、まあいい。早く避難するんだ。こいつらはここで俺らパラディン組が引きつける」
「僕も手伝います!」
「がっはっはっはー!笑わせるな。お前と俺とじゃくぐってきた修羅の数がちがうわ!!ここは任せて先にいけ!」
「嫌です!もう、誰も殺させない!ここでこいつらを先にやっつければ誰も死なないで済むんだ!」
ライドンさんのいうことなんて無視し、震える手で剣を取ると、周りを確認する。敵は前よりは少ないが初級魔法程度だが、呪文を使って来るようなのでそれなりに手強そうだ。だが、ここで引くわけには行かない。
とりあえず、兵士達と交戦中の奴らを先に潰してからだな。
兵士に気を取られている奴らを後から斬ってかかる。
「次っ!次っ!次っ!」
とりあえず目に見えている兵士たちは助けた。俺だってかなりの修羅を潜ってきたんだしな。このくらいは朝飯前だぜ。
「ふう……いっちょ上がり!ライドンさん!大丈夫ですか……」
少し気を緩めた。そんな時だった。
「おい!後ろ!」
横から俺に向かって音もなく剣が、振り下ろされていた。
「……え?」
バサンっ!と、俺は冷たい雪の中に投げ出され、無傷で済んだ。だが、すぐさま立ち上がり辺りを確認すると、俺を庇った人が目元からぽたぽたと赤い水を流している。
「うぉぉぉ!!」
グサッ!その人が振るった剣でそれをやった魔物は消えたが、その人の目からはやはり血が流れている。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫……大丈夫だ。お前こそ大丈夫か?」
「はい!……でもっ!」
「なぁに。気にするなよ。片目でお前が守れたのだから安いもんよ!がっはっはっはっはー!」
ライドンさんは片目を抑えながらだが笑い飛ばしてみせる。
「その目治療はしないといけないと思うので、一旦下がっててください。」
そう言うとライドンさんは笑って「死ぬなよ?」と、言い残して前線から下がった。そして、俺はほかの兵士とともに前線に立つ。
それから雪が積もるこの地で俺らは戦闘を繰り広げた。それから、カンカンと剣の交わる音が響き、暫くしてから敵が撤退していった。
あるものは雄叫びをあげ、皆で迎撃したことを喜んだことを今でも覚えている。
怪我人は出たものの、死人が出ることは無かった。
バニラがライドンさんの家に居るので、一旦そちらに戻ると、ライドンさんが眼帯をつけてバニラの面倒を見てくれていた。
「……ごめんなさい。なんと言っていいか……」
「気にするなって!俺が好きで庇っただけだ。それに、この子面白いしな」
そう言ってバニラをひょいっと持ち上げると、高い高いをしてみせると、キャーキャーと黄色い声を上げて楽しそうに笑う。
「……俺の子供に似てるんだ。もういないけどな」
「……そうなんですか」
「あっ、悪い。ごめんな……」
「いえ……」
「そんなことより。だ。お前子供なのに強いな。子供二人で旅って……どうしたんだ?」
バニラをソファーに下ろしてライドンさんもそこの横に腰をかけ、訝しげにこちらを見る。そして、ライドンさんが俺の後ろを指さす。後には椅子があった。
「一応俺、勇者なんですよね」
その椅子に腰をかけながら答えた。
「おお!そうだったのか!でも、お前ら子供二人で?」
「まあ、そういうことになりますね……」
「じゃ、俺も連れてけ!子供二人で旅なんか俺が見てられん」
そして、強引にライドンさんは仲間になった。
「なぁ、ところでなぜバニラちゃんはいるんだ?戦えるとも思えないが……」
「バニラは早くに親を無くして、俺の親が面倒をみていたんですけど、その両親も……」
「そっか……なら、あの子に護衛出来るくらいは教えてやらないとな」
そう言って彼はバニラに短剣を渡した。それを即座に俺は取り上げた。
「あの、そいつ八つですよ?大丈夫ですかね?」
「なら、これにしとくか」
そう言ってポケットから取り出したのが、ナックルだった。
そして、今でも護身用に彼女は持っている。今はもう護身用とかそんなレベルではない。拳で世界取れますね。はい。
最初は雪山を壊したりして遊んでいたことが、微笑ましく感じる。
今では大木をワンパンだぞ……流石に怖い。
誰だよ。そんな殺人パンチ出せるヤツにあんなの渡したの。
そりゃ教会送りにされるわ。
「ねえ、なんか、あんた酷い事考えてない?」
つい過去のことを思い出していたせいで、殺気に溢れた鋭い目で、こちらを睨むバニラに気づかなかった。
「あ、あぁ。悪いな。なぜそう思うんだ?」
「あんたの考えてることなんてお通しよ!」
「それを言うならお見通しね?」
「うるさいうるさいうるさーい!!」
雪の中でもやつはやっぱりうるさかった。
「ケホッケホッ!」
急に咳き込むバニラ。
「……大丈夫か?流石に調子に乗りすぎたんじゃないか?もっと厚着しないと寒いだろ?」
「大丈夫……大丈夫だからとりあえずいこ?ケホッケホッ!」
どうせ調子に乗って、雪でも気管に入ったんだろ。
様子を見る限りはそれ以外では別に平然としているし、大丈夫だろう。
そして、いつも通りに俺が先頭、その後にアンナ、ミカエル、ライドン、バニラの順に並んで、歩みを進めた瞬間にパタン。と、雪のなかに何かが落ちるような音がした。振り返ると……
続く。
八話
ただひたすらに北を目指す。
気候が少しずつ変わり、雪が目に着くようになってきた。
「……雪か」
ライドンさんが、傷ついているほうの目に手を当ててそう呟く。
ライドンさんと初めて出会ったのは雪の降る街だったな。
****
両親と親友が死んで間もない頃、勇者ではあったがやる気にならないし子供一人……いや、バニラも何故か旅についてきたので二人か。子供二人で旅。
勇者だ勇者だ。ってもてはやす割には、世界を救うためにかかる食費や、その他もろもろに必要な経費を出す人はいなかった。
「お腹すいたね……」
バニラがそんなことを言うおかげで余計に腹が減ってくる。
「このままじゃ餓死しちまう……」
勇者が餓死で死ぬとかどこのクソゲーだよ。
そんなおれらに追い打ちをかけるように、真っ暗で覆いかぶさるような厚い雲が、追い打ちをかけるように、冷たい白い結晶が降り注ぐ。
「もうダメだ。寒い……」
朧気な意識の中雪の中を歩いて、野垂れ死にそうな所を一人の熊みたいな大男が助けてくれた。
それがライドンさんだった。
元々、目元にあるあの傷は無く、いかつい大男という印象だったが、中身は優しい人だということは分かっていたので、不思議と怖くなかった。
「ライドンさん。ありがとうございます」
「がっはっはっは!なーに。気にする事はないよ。俺も一応この街を守るパラディンなのだからね」
そう言って笑いながら、豪快に米を具材と炒めた炒飯のようなご飯を振舞ってくれた。味もにんにくやらでスパイシーになっていて、まさに男飯だ。
ライドンさんの優しい笑顔は今と何ら変わらない。
そして数日が経った後、その日の夜にまた旅に出る。ということで、パーティー的なことをすることになっていたのだが、外がやけに騒がしい。
「ごめんな。少し待っててくれ。様子を見てくる」
ライドンさんはそう言い残して家から出ていった。
幼いながらにも勇者的直観的なもので、なんだか少し怖いものを感じたため、俺はバニラを家に置いて、ライドンさんのあとを追うように家から出た。
雪はやんでいたが、三日ほど降り積もった雪はあたり一面を真っ白に染めていた。その中に黒い塊が目に付く。………俺らを襲ったのと同じタイプの魔物達だ。
「こんなところまで追っ手が?」
いや、もうわかってはいたのだ。なぜあの村が襲われたのか。理由は簡単、今の時点で俺を殺せば魔王達は簡単にこの世界を乗っ取ることが出来、邪魔も入らない。
確証はなかったがこれではっきりとわかった。奴らは俺を狙っているんだ。
住民は別に何もしていないのに。ただ普通に日常を過ごしていただけなのに。
「……俺がここにいなければ」
「おい!大丈夫か!?」
身体を揺らされ、意識がまたこっちに戻る。
「ら、ライドンさん……」
「お前は……なぜ家から出てきたんだ?いや、まあいい。早く避難するんだ。こいつらはここで俺らパラディン組が引きつける」
「僕も手伝います!」
「がっはっはっはー!笑わせるな。お前と俺とじゃくぐってきた修羅の数がちがうわ!!ここは任せて先にいけ!」
「嫌です!もう、誰も殺させない!ここでこいつらを先にやっつければ誰も死なないで済むんだ!」
ライドンさんのいうことなんて無視し、震える手で剣を取ると、周りを確認する。敵は前よりは少ないが初級魔法程度だが、呪文を使って来るようなのでそれなりに手強そうだ。だが、ここで引くわけには行かない。
とりあえず、兵士達と交戦中の奴らを先に潰してからだな。
兵士に気を取られている奴らを後から斬ってかかる。
「次っ!次っ!次っ!」
とりあえず目に見えている兵士たちは助けた。俺だってかなりの修羅を潜ってきたんだしな。このくらいは朝飯前だぜ。
「ふう……いっちょ上がり!ライドンさん!大丈夫ですか……」
少し気を緩めた。そんな時だった。
「おい!後ろ!」
横から俺に向かって音もなく剣が、振り下ろされていた。
「……え?」
バサンっ!と、俺は冷たい雪の中に投げ出され、無傷で済んだ。だが、すぐさま立ち上がり辺りを確認すると、俺を庇った人が目元からぽたぽたと赤い水を流している。
「うぉぉぉ!!」
グサッ!その人が振るった剣でそれをやった魔物は消えたが、その人の目からはやはり血が流れている。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫……大丈夫だ。お前こそ大丈夫か?」
「はい!……でもっ!」
「なぁに。気にするなよ。片目でお前が守れたのだから安いもんよ!がっはっはっはっはー!」
ライドンさんは片目を抑えながらだが笑い飛ばしてみせる。
「その目治療はしないといけないと思うので、一旦下がっててください。」
そう言うとライドンさんは笑って「死ぬなよ?」と、言い残して前線から下がった。そして、俺はほかの兵士とともに前線に立つ。
それから雪が積もるこの地で俺らは戦闘を繰り広げた。それから、カンカンと剣の交わる音が響き、暫くしてから敵が撤退していった。
あるものは雄叫びをあげ、皆で迎撃したことを喜んだことを今でも覚えている。
怪我人は出たものの、死人が出ることは無かった。
バニラがライドンさんの家に居るので、一旦そちらに戻ると、ライドンさんが眼帯をつけてバニラの面倒を見てくれていた。
「……ごめんなさい。なんと言っていいか……」
「気にするなって!俺が好きで庇っただけだ。それに、この子面白いしな」
そう言ってバニラをひょいっと持ち上げると、高い高いをしてみせると、キャーキャーと黄色い声を上げて楽しそうに笑う。
「……俺の子供に似てるんだ。もういないけどな」
「……そうなんですか」
「あっ、悪い。ごめんな……」
「いえ……」
「そんなことより。だ。お前子供なのに強いな。子供二人で旅って……どうしたんだ?」
バニラをソファーに下ろしてライドンさんもそこの横に腰をかけ、訝しげにこちらを見る。そして、ライドンさんが俺の後ろを指さす。後には椅子があった。
「一応俺、勇者なんですよね」
その椅子に腰をかけながら答えた。
「おお!そうだったのか!でも、お前ら子供二人で?」
「まあ、そういうことになりますね……」
「じゃ、俺も連れてけ!子供二人で旅なんか俺が見てられん」
そして、強引にライドンさんは仲間になった。
「なぁ、ところでなぜバニラちゃんはいるんだ?戦えるとも思えないが……」
「バニラは早くに親を無くして、俺の親が面倒をみていたんですけど、その両親も……」
「そっか……なら、あの子に護衛出来るくらいは教えてやらないとな」
そう言って彼はバニラに短剣を渡した。それを即座に俺は取り上げた。
「あの、そいつ八つですよ?大丈夫ですかね?」
「なら、これにしとくか」
そう言ってポケットから取り出したのが、ナックルだった。
そして、今でも護身用に彼女は持っている。今はもう護身用とかそんなレベルではない。拳で世界取れますね。はい。
最初は雪山を壊したりして遊んでいたことが、微笑ましく感じる。
今では大木をワンパンだぞ……流石に怖い。
誰だよ。そんな殺人パンチ出せるヤツにあんなの渡したの。
そりゃ教会送りにされるわ。
「ねえ、なんか、あんた酷い事考えてない?」
つい過去のことを思い出していたせいで、殺気に溢れた鋭い目で、こちらを睨むバニラに気づかなかった。
「あ、あぁ。悪いな。なぜそう思うんだ?」
「あんたの考えてることなんてお通しよ!」
「それを言うならお見通しね?」
「うるさいうるさいうるさーい!!」
雪の中でもやつはやっぱりうるさかった。
「ケホッケホッ!」
急に咳き込むバニラ。
「……大丈夫か?流石に調子に乗りすぎたんじゃないか?もっと厚着しないと寒いだろ?」
「大丈夫……大丈夫だからとりあえずいこ?ケホッケホッ!」
どうせ調子に乗って、雪でも気管に入ったんだろ。
様子を見る限りはそれ以外では別に平然としているし、大丈夫だろう。
そして、いつも通りに俺が先頭、その後にアンナ、ミカエル、ライドン、バニラの順に並んで、歩みを進めた瞬間にパタン。と、雪のなかに何かが落ちるような音がした。振り返ると……
続く。
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