一日嫁 クラスメイト編

クレハ@WME

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二話

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【一日嫁 クラスメート編】

二話

 過去にそれなりの事はあったし気まずいっちゃ気まずいんだけど、彼女だって被害者だし過去は過去。
 それにあの頃は俺も彼女を知ろうとしなかったし、あの年頃でクラスで一人でいるのだからいじめられる側になるのはわかる。あれは仕方ない事故みたいなものだろう。
 学校ではそんなだったが、充実はしていた。俺には本があった。それに書く技術もあるらしい。
「あ、そう言えば仕事って何してるの?」
 痛い過去に踏ん切りをつけていると、彼女から質問が来た。
「えーっと、自営業?」
「自営業……? というと?」
「ごめん。その前に着替えとかしてきてもいいかな?」
「あ……ごめんなさい。気になっちゃって」
 ニコッと笑って桜色の舌をちらっと見せた。
「ううん。別に大丈夫」
 そう返しつつ俺は自分の部屋に向かう。そして、入室厳禁と書かれた部屋の前に立ち、部屋の中に入った。
 大体仕事の事については質問されるものだが、仕事が仕事故に答えにくい。今日だって着る必要のないスーツを着て出かけたけど誰に会う訳でもなく、ひたすらネカフェで小説を書いていた。
 あーやって出かけていればサラリーマンとか適当にごまかせるし、いつも何だかんだで着て行ってる。でも、今日は相手が悪い。あの真っ直ぐな瞳を見ているといつもついてる嘘がスラスラと出てきてくれなかった。
「……どうすっかな」
 嫁(抱き枕)に問いかけても答えは返ってこない。
 目を本棚の方に向ければラノベや漫画やフィギュアが並んでるし、壁には我が嫁のポスターが飾られてる。この趣味も大きな声で言える訳じゃないし、ラノベ作家って言っても「ラノベ? 作家と違うの?」とか帰ってきて悲しくなるやつだってわかる。
 とりあえず、部屋着に着替えてリビングに戻るといい匂いが漂ってきた。
「あ、おかえりなさーい。あれ? その服……」
 部屋着に彼女は視線を落とす。
「な、なにか?」
「その服ってリトルエンジェルの園田誠也の服だよね?」
「なん……だと……?」
 確かにその通りだが、何故バレた? リトルエンジェル自体差程有名ではないし、誠也の服はその辺の人の私服並というかあまり特徴が無いのが特徴なのに。
「な、なんで知ってる?」
「なんでって……私が作者だし?」
「……は、はい?」
 俺は慌てて原作を部屋から持ってくると原作者の名前を確認する。
「……東山恵」
「はい! 買って頂いてありがとうございます!」
 彼女の柔らかな笑顔は可愛らしいけど、なんだかどこか寂しげな感じがする。
「……さっき、俺の仕事聞いたよな?」
「え? あ、うん……」
「じゃあ少し待ってろ」
 俺はまたまた自分の部屋に戻り、1台のノートパソコンを持っていく。
「……これは?」
「中を見てみるといい」
 彼女の座ってる正面に腰掛け、俺はそういう。
「……これって……え? そんな嘘よ……君が……え? 藍原遥さんなの? ずっと女の人だと思ってた……」
「ま、偽名だしね。ラブコメばっかりだしそう思われるのも仕方ないかな」
 俺は本を読むのが小さい頃から好きで、気がついたら自ら小説を書いていた。だから、あの時のことですら俺は小説のネタにしてやった。
「黒歴史の中のエンジェル……」
 彼女は俺が高校の頃に出した処女作である名前を出す。
「へー。知ってるのか」
「当然じゃん。私、これ読んで作家になろうって思ったんだもん……でも、あの話……そういう事だよね?」
 彼女の言うあの話の意味はすぐに分かった。
 彼女が俺にやった話を全て綺麗に纏めて書き上げて大賞におくってやったのだ。それが見事当選。あんな乱暴で怒りに満ちた文章で受かってしまったのはやっぱりいたたまれないし、今すぐにでも書き直してやりたい。
 今となっては世間に公開された俺の黒歴史って訳だ。
 ウィキペディアちゃんにも黒歴史の中のエンジェル別名藍原遥の黒歴史(笑)として扱われる始末。
「その説はどうもありがとうございました」
 嫌味っぽく、俺はそう言った。
 頭ではわかってる。こんなの昔のことだろって。でも、ダメなんだ。あれから月日は流れたかもしれないが、どうしても彼女に対してはキツくなってしまう。
「……ごめん」
「……いや、ごめん。俺も今のは言い方悪かった……」
 重く、どんよりとした空気がリビングに漂う。
「……もういいから」
 俺はそう言って席を立ち、彼女が作ってくれたカレーを皿に盛り付け、持ってくる。
 彼女の分もさっきのこともあるしとりあえず持っていき、重い空気のまま俺はスプーンを走らせる。
 勿論味なんてさっぱり分からない。こんな空気が嫌で俺はさっさとカレーをかき込んて自室へと戻ろうとドアノブを回すと、逆の手が握られた。
「……なんの真似だ?」
「……今更謝っても遅いし過去が無くなるとも思ってない。でも、私、あの話読んでさ。自分もこんな事しちゃったなって……すごい後悔したの。それからずっと謝りたくて……」
「……そうか。ありがとう……でも、ごめん。分かってるんだけどダメみたいだな」
 俺は彼女に触れられて震える自分の手を見て、苦笑することしか出来なかった。
 俺は最後にごめんと別れを告げ、部屋を出て自室に入りドアを閉めるとそのままペタンと地面に腰かける。
 もう忘れたい。忘れたかった過去がそっちから歩いてきた。
「運命呪うぞこの野郎……」
 だが、しかし。明日には彼女との生活は終わるはずだ。当然俺は既に拒否に丸をつけて一日嫁の交換をWebにて申請した。彼女も俺とはばつが悪いはずだし明日は違う人だろう。ま、相手が誰であれ結婚なんてする気ないんだけど。
 そして、俺はまだ日も登る前に家を出る。
 勿論、一日嫁と顔を合わせたくないってのも理由の一つではある。だが、行きつけのネカフェが早朝サービスでポテトとドリンクバー食べ飲み放題のサービスを利用料のみで付けてくれるんだよな。
「こんな生活してたら太るなー」
 だなんて思いつつも、ポテトをつまみつつコーラを飲む。そして、ドリンクバーにはソフトクリームまであるのだからポテトをソフトクリームに付けて頂く。
 これがまた絶品だ。丁度いい塩加減の熱々ポテトがソフトクリームの水分でふにゃっとなって、バニラの甘さとマッチする。
「んー! 美味い!」
 我ながら子供らしいとは思うが美味しいのだから仕方ない。本当にここに住んでしまいたい。
「……あの一日嫁とかいうシステムのせいでここしか心が落ち着かねえよ」
 ため息と愚痴をこぼしつつ、作家として仕事は……まあ、今日はいいか。編集さんもあんま怒ってこないし。
 なんて思っているところでスマホが鳴った。
 手に取り画面を見ると編集と表記されていた。
「……げ。マジか」
 自分でも渋い顔をしてるのはわかる。
 どうせ早く原稿だせーとか言われるんだ。なら、ここは居留守を使って誤魔化そーっと。
 音がならないようにし、居留守を決め込む。
 そして、数分間表記はされっぱなしではあったけど、電話は切れてくれた。
「ふぅ……なんとかセーフ」
「……残念。アウトなんだなーこれがっ!」
「わ、和谷……? な、なんでここが分かったんだよ!」
「馬鹿め。貴様の行動など幼なじみで今やお前の編集になった俺からすれば、赤子の手をひねるようなもんさ」
「……で、何の用だ? 言っておくが原稿ならまだ無いぞ」
「何をそんな呑気に言ってるんだ? 新人は下からどんどん来てるし、もう一人お前の知ってるやつがとんでもないタイトル持ってくるぞ」
「とんでもないタイトル? 小説にそんなのあったっけ?」
「何言ってんの。芥川賞、直木賞には遠く及ばないにしても最近出たろ? 若人賞ってのがさ」
「なにそれ」
「全く、作家なのにこんなことも知らんのか。若者に多く支持されてる作品が年に一回出るんだよ。ま、これは小説じゃなくてもラノベも行けちゃうから軽視されてるけど、ラノベの中のトップないし、無差別級で頂点を決めてる訳だ。だから、今出てる中で一番面白いもんがトップって訳だよ」
 黒縁メガネを光らせてやつは不敵に微笑む。
「はいはい。凄いですねー。で、なに? それは知ってるけどもう今年のは発表されたろ? 誰だった? どうせ、あの辺でしょ? ゲームの中で死ねば現実の死と同じとかそういう感じのやつ」
「それが違うんだ。今年は東山恵ってのがとったらしい」
「へー。東山……恵? 東山恵だって!?」
「あ、あぁ……どうした? 知ってたか?」
 俺の急な反応に和谷は驚きつつも、質問を返してきた。
「い、いや……そういう訳じゃないけど……てか、その本持ってたりするか?」
「そりゃあるけど」
 そう言って和谷がバッグから出したその本をひったくると、俺は無我夢中で読み進める。
「……テンポもいいし三角関係を崩さず上手いこと描いてるし、終わっても尚、誰とくっつくのかが描かれず読み手の想像力を描き立たせてくる……」
 典型的なラブコメで三角関係を描いている。が、完璧だ。よく書けてる……
 対してこれはなんだ。自分の原稿とプロットを見返し、頭を抱えるしかなかった。
「……俺だって新人賞取ってこの業界に入ってきたんだ。なのに……クソ!」
 よりによってなんであいつなんだ! 俺より人生上手くいってる奴がなんで……!
「お、おい……? どうした?」
「……すまない。ちょっと一人にしてくれないか?」
「わかった。原稿頼むぜ」
 言われるまでもない。あいつが友人と遊んでる間に俺は本読んで勉強してたんだ。あんなふざけた奴に負けてたまるか……!
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