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一話
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【一日嫁 元クラスメート編】
一話
一日嫁とは少子高齢化の進む現日本のとった政策のことで、その名の通り独身男性の家に独身女性が一日だけ嫁として家に来ることである。
そして、本人達が気に入れば結婚。というプライバシーの侵害も何も無いふざけた国になってしまったのだ。
大学を卒業してから社会人になり、そのタイミングで一人暮らしを始めてもう一年も経つのかと桜を見て思う今日この頃だ。
毎日毎日懲りずにまた知らない一日嫁が家に来ていると思うと家に帰る気など全く起きない。だが、家に帰らなければ国に罰金と、かなーりめんどくさい事情聴取をされてしまうので俺はまた今日も渋々帰路に着いた。
「ただいまー」
もう習慣付いてきてしまったそんな一言を吐きながら、一人暮らしが丁度いいくらいの狭いアパートの一室に入るとスパイスの効いたいい匂いがする。
「おかえりなさい」
心がほっとするような落ち着いたトーンの声の方へと目をやると、藍色の長い髪を一つ結びにし、鍋を掻き回してる女の子が居た。
これが恐らく今日の一日嫁だろう。
「カレーですか。良いですね」
俺がそんな風に呼びかけると、彼女が振り向き珍しい赤い瞳と目が合うと同時に二人して「あっ……」と、素っ頓狂な声を互いに出す。
赤い瞳なんて俺の知り合いには一人しかいない。赤く大きな瞳はキリッとしていて鼻筋もすーっと通ってる。大人びた綺麗な顔立ちにはなっていたが、彼女の顔には既視感があった。
そして、彼女もまた俺を俺だと気がついたらしい。
「も、もしかして……東山恵さんですか?」
「あ……うん。ひ、久しぶり……だね」
「ですね……」
そして、気まずい沈黙が訪れる。
「こ、高校以来ですかね?」
「そうだ……ね。前の同窓会にも相原くんいなかったし」
彼女は苦笑し、バツが悪そうにしている。多分、俺も同じような顔をしているだろう。
「ちょっと仕事が忙しくてね。あはは……」
笑って誤魔化してみる。でも、少しだけ待って? 今初めて同窓会があった事を聞いたんだけど? 俺には招待状も連絡も何も届いてないのはバクかなにかなの?
いや、まあ、確かに高校の頃は浮いてたと思う。授業中以外はずっとイヤホンをつけて過ごしていたし、班行動とかも後ろについてまわるだけのボッチ特有の立ち回りを繰り返していればこうなるのは必然だ。
それに対し彼女はクラストップカーストの一人だった。あの頃から高校の中でも上位を争う程の美人で、胸も制服の上からわかるくらいに大きいのでかなり男子人気があったと思う。
少し天然ボケが入っているからかトップカーストの中でも中心にいる人間によく弄られていたような気がする。
俺はその中心どころかそのクラスにすら存在していたのか怪しいレベルだから彼女のことを語っているのもおかしな話ではあるのだが、そんな俺から見ても誰からも愛されるいじられキャラを確立していた。
俺も大衆と同じく彼女をアイドルのように思っていたし、少なからず好意は持っていた。
そんな高校時代に事件は起きた。
高校一年の夏休み前になってなんだかみんなが活気だって来る頃、いつもの様に学校に登校して下駄箱を開けると一通の手紙のようなものが入っていた。
ドキッと心臓が跳ね上がり周りを確認しながらバレないように中を見ると、“放課後屋上で待ってます。恵”だなんて可愛らしい字でいてあったのだ。
俺が知り得る恵は彼女しかいないし、人生初のラブレターにソワソワしっぱなし。授業なんて耳に入ってこないし、気がつけば目で彼女を追っていた。
そして、放課後。今日だけで多分寿命が三年くらいは縮んだんじゃないかってくらい動悸が早くて痛い。
俺は帰り支度を済ませて、手紙をポケットに突っ込んでから屋上へと向かう。
屋上の鍵は普段なら閉まっているはずなのだが、その日は開いていた。
一旦その手を離し何度も深呼吸をする。だが、手の震えが止まらない。そんな手でドアノブを回し屋上に入ると綺麗な夕陽が海に落ちようとしていた。そして、照笑ながらモジモジしてる学年トップレベルの美少女。
「……これなんてエロゲー?」
「何か言った?」
かなり小言レベルで呟いたのに聞こえちゃいかけたのか。あぶねえ……
「な、なんでもない! で、話って?」
急いで訂正し、話を戻す。
「あ、あのさ……」
「う、うん……」
彼女の緊張したような声に、こっちまでさっきの一言のせいで忘れていた緊張感が帰ってくる。
「わ、私と付き合ってください!」
思った通りの告白に俺は度肝を抜かれた。俺がなにか彼女にしたのだろうか。全く記憶にない。けど、こんな可愛い女の子が俺を好きになってくれたんだ。
「……嬉しいよ。と、東山さんさえよければ……」
俺がそこまで言うとガチャっと勢いよくドアが開いた。
「恵~罰ゲームかんりょう!」
「こ、怖かったよぉ……」
ゾロゾロとトップカースト陣が屋上に入ってくる。
俺はこの可能性を舞い上がったせいで見落としていた。
「てなわけだけだからさー! めぐにもそんな気は無いし、そういうわけだから。じゃあねー相原くーん」
名前も分からない陽キャその1に肩にぽんと手を乗せられ、なんで俺はこんな馬鹿なのかと嘆いた。こいつらからすれば俺などただの玩具。知っていた。分かっていたんだ。
なのに俺がその可能性に目をつぶってしまった。
気がつけば家に帰って布団の中で俺は涙を流していた。いつからどのくらいこうしていたのかはわからない。てか、俺はいつ帰ったんだっけ。それすらも分からない。ただ、俺はその時悟ったんだ。みんな敵だと。
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一日嫁とは少子高齢化の進む現日本のとった政策のことで、その名の通り独身男性の家に独身女性が一日だけ嫁として家に来ることである。
そして、本人達が気に入れば結婚。というプライバシーの侵害も何も無いふざけた国になってしまったのだ。
大学を卒業してから社会人になり、そのタイミングで一人暮らしを始めてもう一年も経つのかと桜を見て思う今日この頃だ。
毎日毎日懲りずにまた知らない一日嫁が家に来ていると思うと家に帰る気など全く起きない。だが、家に帰らなければ国に罰金と、かなーりめんどくさい事情聴取をされてしまうので俺はまた今日も渋々帰路に着いた。
「ただいまー」
もう習慣付いてきてしまったそんな一言を吐きながら、一人暮らしが丁度いいくらいの狭いアパートの一室に入るとスパイスの効いたいい匂いがする。
「おかえりなさい」
心がほっとするような落ち着いたトーンの声の方へと目をやると、藍色の長い髪を一つ結びにし、鍋を掻き回してる女の子が居た。
これが恐らく今日の一日嫁だろう。
「カレーですか。良いですね」
俺がそんな風に呼びかけると、彼女が振り向き珍しい赤い瞳と目が合うと同時に二人して「あっ……」と、素っ頓狂な声を互いに出す。
赤い瞳なんて俺の知り合いには一人しかいない。赤く大きな瞳はキリッとしていて鼻筋もすーっと通ってる。大人びた綺麗な顔立ちにはなっていたが、彼女の顔には既視感があった。
そして、彼女もまた俺を俺だと気がついたらしい。
「も、もしかして……東山恵さんですか?」
「あ……うん。ひ、久しぶり……だね」
「ですね……」
そして、気まずい沈黙が訪れる。
「こ、高校以来ですかね?」
「そうだ……ね。前の同窓会にも相原くんいなかったし」
彼女は苦笑し、バツが悪そうにしている。多分、俺も同じような顔をしているだろう。
「ちょっと仕事が忙しくてね。あはは……」
笑って誤魔化してみる。でも、少しだけ待って? 今初めて同窓会があった事を聞いたんだけど? 俺には招待状も連絡も何も届いてないのはバクかなにかなの?
いや、まあ、確かに高校の頃は浮いてたと思う。授業中以外はずっとイヤホンをつけて過ごしていたし、班行動とかも後ろについてまわるだけのボッチ特有の立ち回りを繰り返していればこうなるのは必然だ。
それに対し彼女はクラストップカーストの一人だった。あの頃から高校の中でも上位を争う程の美人で、胸も制服の上からわかるくらいに大きいのでかなり男子人気があったと思う。
少し天然ボケが入っているからかトップカーストの中でも中心にいる人間によく弄られていたような気がする。
俺はその中心どころかそのクラスにすら存在していたのか怪しいレベルだから彼女のことを語っているのもおかしな話ではあるのだが、そんな俺から見ても誰からも愛されるいじられキャラを確立していた。
俺も大衆と同じく彼女をアイドルのように思っていたし、少なからず好意は持っていた。
そんな高校時代に事件は起きた。
高校一年の夏休み前になってなんだかみんなが活気だって来る頃、いつもの様に学校に登校して下駄箱を開けると一通の手紙のようなものが入っていた。
ドキッと心臓が跳ね上がり周りを確認しながらバレないように中を見ると、“放課後屋上で待ってます。恵”だなんて可愛らしい字でいてあったのだ。
俺が知り得る恵は彼女しかいないし、人生初のラブレターにソワソワしっぱなし。授業なんて耳に入ってこないし、気がつけば目で彼女を追っていた。
そして、放課後。今日だけで多分寿命が三年くらいは縮んだんじゃないかってくらい動悸が早くて痛い。
俺は帰り支度を済ませて、手紙をポケットに突っ込んでから屋上へと向かう。
屋上の鍵は普段なら閉まっているはずなのだが、その日は開いていた。
一旦その手を離し何度も深呼吸をする。だが、手の震えが止まらない。そんな手でドアノブを回し屋上に入ると綺麗な夕陽が海に落ちようとしていた。そして、照笑ながらモジモジしてる学年トップレベルの美少女。
「……これなんてエロゲー?」
「何か言った?」
かなり小言レベルで呟いたのに聞こえちゃいかけたのか。あぶねえ……
「な、なんでもない! で、話って?」
急いで訂正し、話を戻す。
「あ、あのさ……」
「う、うん……」
彼女の緊張したような声に、こっちまでさっきの一言のせいで忘れていた緊張感が帰ってくる。
「わ、私と付き合ってください!」
思った通りの告白に俺は度肝を抜かれた。俺がなにか彼女にしたのだろうか。全く記憶にない。けど、こんな可愛い女の子が俺を好きになってくれたんだ。
「……嬉しいよ。と、東山さんさえよければ……」
俺がそこまで言うとガチャっと勢いよくドアが開いた。
「恵~罰ゲームかんりょう!」
「こ、怖かったよぉ……」
ゾロゾロとトップカースト陣が屋上に入ってくる。
俺はこの可能性を舞い上がったせいで見落としていた。
「てなわけだけだからさー! めぐにもそんな気は無いし、そういうわけだから。じゃあねー相原くーん」
名前も分からない陽キャその1に肩にぽんと手を乗せられ、なんで俺はこんな馬鹿なのかと嘆いた。こいつらからすれば俺などただの玩具。知っていた。分かっていたんだ。
なのに俺がその可能性に目をつぶってしまった。
気がつけば家に帰って布団の中で俺は涙を流していた。いつからどのくらいこうしていたのかはわからない。てか、俺はいつ帰ったんだっけ。それすらも分からない。ただ、俺はその時悟ったんだ。みんな敵だと。
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