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二十九話
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【俺の妹になってください】
二十九話
~ あらすじ ~
祭りが終わったあと柏木の家に泊まることになったので柏木家に行くと、なぜか風見春樹の姉が居た。そして、色々あって俺が景品の賭け大富豪が始まって柏木が勝ち、買った後で柏木が姉に交渉を持ち込んでいた。なんなんだろうか?ビリの俺にはあまり関係ないけれど………
*******
コンコンコンコンッ!!!
鉄をガンガンなにか硬いもので叩いているような音が俺の耳元で轟き、俺の安眠は一瞬で消え去った。
「ななな、なんだ!?」
「春樹?ご飯よ?」
俺のことを下の名で呼ぶのは大体姉だし、姉だろうな。なんて思いながら目を開けたのだが、そこには姉ではない小さなシルエットがあった。
「か、柏木!?」
そう、そこには姉でなく柏木がいたのだ。エプロン姿の柏木が。でも、家は柏木の家だ。昨日と何ら変わらない。
「何言ってるの?お姉ちゃんでしょ?」
……俺はまだ夢の中なのかもしれない。そう悟ったのはすぐだった。
「あー。そう。夢か。じゃ、もうひと睡眠するか………」
「頬これで引っぱたいてあげましょうか?」
なぜかお怒りモードの柏木が、手に持っているフライパンで素振りを始めた。
「まあ、やってみてくださいよ」
また目をつぶろうとしたその瞬間、ゴーンと大鐘でもなったのかそんな音がしたと同時にあまりの痛さに俺は飛び起き、目を開けるが視界が歪んでいた。
「どう?起きた?」
痛いし頭グワングワンしてるしこれは……
「………夢じゃない?」
「そう言ってるし、朝ごはんよ」
「あー。そう…というか、もっとまともに起こせねえのかよっ!」
多分、常人ならば倒れているだろうが、俺はこの暴力女柏木嬢のお陰で殴られるとか、蹴られるとか、鈍器で殴られるだのの耐性が付いているようだ。……童女に殴られておくものだな。
「って、柏木にしか殴られてねえじゃねえかっ!!」
「なに?急に。……キモいわよ?」
冷凍ビームでも出てるのか固まってしまうほどの冷たい目が俺を凝視する。
畜生このアマ……いつか絶対ギャフンと言わせたるからなぁ!?
そう思いつつ、さすがの俺もあそこまでされたら起きる。なので、とりあえず歯磨きやら顔を洗ったりする。
そしてリビングにリアル姉さんがちょこんと座っていた。
「あ、はる……じゃなくて、風見」
「え?あんたも風見でしょ?」
「……そんな名前の人知らない」
「じゃ、俺は誰だ!?」
全く、無理くりパクろうとするんだから……急に出すなよ。俺が驚いちゃうだろ?せめて「秋葉原ー!」とか、そんな感じにフラグを入れてくれ。俺も処理しきれん…
そして、朝飯だ。俺はいつも通りの柏木の座る前に座る。いつもなら柏木は俺の正面に座るのだが、今日は違った。なぜか俺の横に座ったのだ。そして、姉が俺の正面をとる。
……入れ替えごっこでもしてるのか?
まあ、姉のあの感じを見ると本当に入れ替わったとかそんな急展開は見えないが……
俺をおちょくって遊んでんのか?
まあ、悩んでても仕方ない。訊くしかねえか。
「なぁ、二人共、流石にそろそろ教えてくれないか?」
俺の問いかけに二人は顔を見合わせてから、柏木がつぶやくように「まあ、流石に隠してても意味無いか」と、言った。
「昨日の大富豪のあと柏木ちゃんに春樹の姉を変わってくださいって言われたの!」
子供のように目をキラキラと輝かせながら姉はそう言った。……うん。馬鹿だ。この条件を飲んでるとしたらかなりの馬鹿だ。でもまだ馬鹿じゃない可能性もあるよな?俺はそんな期待をしながら「……で、その条件を飲んだの?」と、姉に訊いた。
「うんっ!」
結構前から知ってはいたが、俺の姉ながら相当の馬鹿らしい。
姉の言ってることが本当ならば柏木が姉になっているってことだ。
「で、姉さんが柏木位置に?」
「いや、そんな条件はないわよ?」
柏木が邪悪な笑みを浮かべてそう言った。
「じゃ、姉さんは俺とは他人ってことでいいんだな?」
「そうなるわね」
姉はそれを聞いてキョトンとした。
「……ななな、何を言ってるの?血の繋がった姉弟だよね?」
姉が涙ながらに俺にすがってくる。……面白い。
「え?知らない人なんだけど…助けて、姉さん」
柏木にこの呼び方をするのはなかなか恥ずかしいものがあるが、ベタベタ離れねえ姉を追い払ういい機会だ。いい加減弟離れしてくれ。
「そうね。他人はここにいては行けないものね」
そう言って姉を引きずって柏木はリビングから出ていった。
そして、俺は何事もなくリビングで一人飯を食っていた。柏木の料理は少し薄口でありながら旨みがしっかりとある。うめえ……なんて思いながら柏木お手製の味噌汁をすすっていると、柏木が戻ってきた。リアル姉さんの影はない。ごみ捨て場にでも捨ててきたのだろう。
「ど?美味し?」
椅子に腰掛けながらそう訊いてくる。
「あ、あぁ。美味いよ」
「そう。よかった」
そう言って柏木も飯を食い始めた。
「なぁ、あと一つ確認なんだがこれっていつまで続くんだ?」
「さぁ?特に期限は決めてないわね」
「ほう」
ん?ということは?俺のリアル姉はこの期間が終わるまで。多分柏木が飽きるまで続くってことか?
姉さんも姉さんで弟離れしてくれるかもしれないし、まあ、いいか。
と、箸をまた動かし始めたところに、携帯が鳴った。
「電話だ。」
そう一言言い残して、俺は廊下に出てから電話に出た。
「もしもし?」
「あ、もしもし!私ですっ!」
可愛らしい声がした。
「私私詐欺ですか?ちょっとそれは無理がありますね」
「違いますっ!三ヶ森ですっ!」
「な、なんですとぉ!?」
俺ってやつはあの最愛の妹の声を認識出来なかったってのか?もう、俺なんのために生きてんだろ?妹の声わからない時点で死んだ方がいいかもしれねえ……
いや、俺に限って妹の声を忘れるなんてことはない。電話ってのは本人の声とは違うらしいしな。
そう自分に言い聞かせて話を聞く。
「で?何用?」
「例の件で……今日空いてますか?」
「うん。空いてる……と、思う」
「では、いつものファミレスで待ってますので!」
そう言われて切られてしまった。
まあ、仕方ねえな。どうにか柏木に話つけて行くしかねえな。
「なぁ、柏……姉さん。ちょっと俺用ができた」
「うん。わかったー」
そう言って柏木は飯を一気にかきこんで、二階に走っていった。
まあ、いいってことなのかな?
******
そして、俺は一人で家を出た。自転車も何も無いので焼けるような日照りの中、男女兼用の柏木の家のサンダルを借りて、ファミレスに向かう。
歩いてるだけで汗がじんわりと出てくる。
「春樹!!!」
しばらく目標に向かって歩いていると、後ろからなにかが大声をあげながら走ってきた。
柏木か。どうにかして隠れてやり過ごさねえとな。
そうして、付近のマンションの茂みに隠れる。
「あれ?居ない?確かにGPSではここなんだけどなぁ……」
は、はぁ?待て待て待て待て……いま、あいつじーぴーえす。とか言ったか?場所を把握できるあのGPSなのか?この状況からしてそれ以外に考えられねえからそうなんだろうが、おかしい……あの姉狂ってる……
「どこー?春樹ー?」
そうして、柏木さんの捜索が始まった。
俺は適当にマンションの方に近くにあった石を投げてみると、柏木はマンションの中の方に入っていったので、とりあえず問題は無いだろう。
こんな時のためにGPSじゃないんだろうか。と、思いながらも俺はとりあえずその発信機をバックやらを漁って探し始めた。
……ある訳がない。
今の時代凄いちっちゃいって言ってたしなぁ…どこにあるんだろ?
そんな時、丁度スマートフォンがポケットから滑り落ちた。
ちょっとした音だったのだが、この静かな住宅街に響くには充分だった。
まずい。
俺はすぐにスマートフォンを拾い上げると、柏木が行った方向からは見えない茂みに隠れとりあえず様子を伺ってみるが人が出てくる気配はない。
……よかった。
あれがリアル姉だったら、俺は多分もう捕まってるだろう。
そうして、先程落としてしまったスマートフォンの画面やらに傷がないかなどを確認してみるとなんだか、少しだけ違和感があった。
カバーが本当に微妙にだが、膨らんでいるのだ。
俺はすぐさまシリコン製のカバーを外すと、そこには小指の爪より小さい黒い何かがあった。
これが発信機か?
というか、すげえところに付けてんなぁ…さすが姉さん。怖すぎる……
それを外して俺は遠くへ放り投げ、俺はすぐさまその場から離れてファミレスに直行した。
*******
柏木の追跡から逃げ切り、なんとかいつものファミレスにたどり着いた。
よし、やったぜ。
店の前で息を整えていざ入店。
すると、そこには天使がいた。
「久しぶり……でもないか、こんにちは。三ヶ森さん」
高まる鼓動を抑えつけて話しかける。
「あ、風見さんっ!おはようございます」
礼儀正しく立ってお辞儀をする三ヶ森さんは可愛い。
もう、おはようなんて時間ではないが、可愛いので許してあげます。
「いらっしゃいませ!ご注文お決まりになりましたらそちらのボタンでお呼びください。」
後ろから店員がついてきていたようで店員はそれを言い残すと去ろうとした。
「あ、ドリンクバーお願いします」
「了解しました!」
店員を見送ったあと、三ヶ森さんが話を始めようとしたが俺はそれを遮って、ドリンクバーを取りに行ってから話を聞く。
「で?話って?」
「あ、あの件なのですけど……どうしましょ?」
全くと言っていいほど三ヶ森さんは考えていなかった。
「うーん。どうしよう。かねぇ……」
苦笑し、ミルクティーを混ぜながら、少し妹のために考えてやることにした。
うん。全然わかんねえなぁ。俺は恋なんてしたことがない。故に道の提示なんて出来るわけがないのだ。
だが、テレビやらでそんな感じのドラマだとかアニメだとかを観てはいたので、まあ、それなりにまとめると……
「………次は海?」
「えっ!?」
決して三ヶ森さんの水着が見たいとかそんなことを考えてたりしてないといえば嘘になるが、でも、流れ的に次は海だろう。
大体海に行く。
いわゆるサービス回ってやつだ。この作品に足りないのはスバリお色気シーンだろう。見ろよ柏木をぺったんたんじゃねえかっ!!
「……またはプールかな?」
「えぇ!!!」
三ヶ森さんは思いっきり動揺していた。
「ダメなのかな?」
話の流れに委ねよう。なので、俺はそう訊いた。
「い、いえ……でも、体には自信なくて」
「……それ、柏木の前で言えるか?三ヶ森さんは普通にいいプロポーションしてると思うぞ?それで何がないって言うんだ?柏木がこの場にいたら今頃鉄槌が落ち……」
ガーンッ!!
なぜか頭に強い衝撃が走った。
「痛ってえっ!!!」
「貧相で悪うござんしたぁ!!」
そこには巻いたはずの柏木がいた。いや、今は姉さんと呼ぶべきだろうか?いや、今はそんなことはどうでもいい。
「……なぁ、柏木一つ質問いいか?」
「なに?」
「俺って死ぬの?」
「そうなるわね。」
……らしい。俺は死ぬらしい。
「じゃ、せめて遺言だけいいか?」
「ええ。仕方ないから許してあげるわ」
急に訪れてしまった急な余命宣告。年端もいかない青年には荷が重すぎるが自分で撒いた種だ。このツケの清算はしっかり行わなければならない。
「えー、三ヶ森さん。頑張ってね。あの世で見守っているから」
「は、はいっ!」
助けてはくれないのか……まあ、いい。妹に見捨てられて死ぬのも悪くない。
「終わった?終わったなら殺してあげるわよ」
「いや、柏木にもあるよ。柏木。楽しかったよ。生まれ変わってもお前の幼なじみになれるといいなって思ってるよ」
「……そそそ、そう。」
動揺してるぞ!これはあと一押しすれば助かるかもしれねえ。
「じゃ、俺を殺してくれ。気の済むまで。俺が悪いんだ。全部」
俺は死を覚悟するような言葉を投げかけ、首を差し出すように上を向き目を瞑る。これも作戦のうち。死ぬ気なんてさらさらないのだ。
「わかったわ。じゃ、さようなら」
……ちょっと待て。本当に俺を殺す気か?
それからすぐになにか冷たいものが俺の喉をゆっくりと通っていく。
ナイフで切られた?俺本当に死んだの?
俺は勇気を振り絞って首に手を当ててその手を見る。
血らしきものは付いていなかった。
「首繋がってる……」
「いつまで立ってるの?早く座りなさい?」
と、先端だけが濡れたストローを拭きながら柏木がそう言った。
というか、俺の席取るなよ。柏木が俺の座っていた場所にまるでここにずっといたかのような貫禄で座っていたのだ。
「あ、あぁ……」
そして、問われる。柏木の横に座るのか三ヶ森さんの横に座るのか。いや、姉の横か妹の横かだ。
当然俺がここで取るのはやっぱり妹の隣だ。
「ごめん。三ヶ森さん隣いい?」
「はいっ!いいですよっ!」
そうして、三ヶ森さんは奥に詰めてくれた。
怖いあれの横より、かわいい妹の隣が一番だ。俺の心の平穏。癒し。それが妹だ。
二十九話
~ あらすじ ~
祭りが終わったあと柏木の家に泊まることになったので柏木家に行くと、なぜか風見春樹の姉が居た。そして、色々あって俺が景品の賭け大富豪が始まって柏木が勝ち、買った後で柏木が姉に交渉を持ち込んでいた。なんなんだろうか?ビリの俺にはあまり関係ないけれど………
*******
コンコンコンコンッ!!!
鉄をガンガンなにか硬いもので叩いているような音が俺の耳元で轟き、俺の安眠は一瞬で消え去った。
「ななな、なんだ!?」
「春樹?ご飯よ?」
俺のことを下の名で呼ぶのは大体姉だし、姉だろうな。なんて思いながら目を開けたのだが、そこには姉ではない小さなシルエットがあった。
「か、柏木!?」
そう、そこには姉でなく柏木がいたのだ。エプロン姿の柏木が。でも、家は柏木の家だ。昨日と何ら変わらない。
「何言ってるの?お姉ちゃんでしょ?」
……俺はまだ夢の中なのかもしれない。そう悟ったのはすぐだった。
「あー。そう。夢か。じゃ、もうひと睡眠するか………」
「頬これで引っぱたいてあげましょうか?」
なぜかお怒りモードの柏木が、手に持っているフライパンで素振りを始めた。
「まあ、やってみてくださいよ」
また目をつぶろうとしたその瞬間、ゴーンと大鐘でもなったのかそんな音がしたと同時にあまりの痛さに俺は飛び起き、目を開けるが視界が歪んでいた。
「どう?起きた?」
痛いし頭グワングワンしてるしこれは……
「………夢じゃない?」
「そう言ってるし、朝ごはんよ」
「あー。そう…というか、もっとまともに起こせねえのかよっ!」
多分、常人ならば倒れているだろうが、俺はこの暴力女柏木嬢のお陰で殴られるとか、蹴られるとか、鈍器で殴られるだのの耐性が付いているようだ。……童女に殴られておくものだな。
「って、柏木にしか殴られてねえじゃねえかっ!!」
「なに?急に。……キモいわよ?」
冷凍ビームでも出てるのか固まってしまうほどの冷たい目が俺を凝視する。
畜生このアマ……いつか絶対ギャフンと言わせたるからなぁ!?
そう思いつつ、さすがの俺もあそこまでされたら起きる。なので、とりあえず歯磨きやら顔を洗ったりする。
そしてリビングにリアル姉さんがちょこんと座っていた。
「あ、はる……じゃなくて、風見」
「え?あんたも風見でしょ?」
「……そんな名前の人知らない」
「じゃ、俺は誰だ!?」
全く、無理くりパクろうとするんだから……急に出すなよ。俺が驚いちゃうだろ?せめて「秋葉原ー!」とか、そんな感じにフラグを入れてくれ。俺も処理しきれん…
そして、朝飯だ。俺はいつも通りの柏木の座る前に座る。いつもなら柏木は俺の正面に座るのだが、今日は違った。なぜか俺の横に座ったのだ。そして、姉が俺の正面をとる。
……入れ替えごっこでもしてるのか?
まあ、姉のあの感じを見ると本当に入れ替わったとかそんな急展開は見えないが……
俺をおちょくって遊んでんのか?
まあ、悩んでても仕方ない。訊くしかねえか。
「なぁ、二人共、流石にそろそろ教えてくれないか?」
俺の問いかけに二人は顔を見合わせてから、柏木がつぶやくように「まあ、流石に隠してても意味無いか」と、言った。
「昨日の大富豪のあと柏木ちゃんに春樹の姉を変わってくださいって言われたの!」
子供のように目をキラキラと輝かせながら姉はそう言った。……うん。馬鹿だ。この条件を飲んでるとしたらかなりの馬鹿だ。でもまだ馬鹿じゃない可能性もあるよな?俺はそんな期待をしながら「……で、その条件を飲んだの?」と、姉に訊いた。
「うんっ!」
結構前から知ってはいたが、俺の姉ながら相当の馬鹿らしい。
姉の言ってることが本当ならば柏木が姉になっているってことだ。
「で、姉さんが柏木位置に?」
「いや、そんな条件はないわよ?」
柏木が邪悪な笑みを浮かべてそう言った。
「じゃ、姉さんは俺とは他人ってことでいいんだな?」
「そうなるわね」
姉はそれを聞いてキョトンとした。
「……ななな、何を言ってるの?血の繋がった姉弟だよね?」
姉が涙ながらに俺にすがってくる。……面白い。
「え?知らない人なんだけど…助けて、姉さん」
柏木にこの呼び方をするのはなかなか恥ずかしいものがあるが、ベタベタ離れねえ姉を追い払ういい機会だ。いい加減弟離れしてくれ。
「そうね。他人はここにいては行けないものね」
そう言って姉を引きずって柏木はリビングから出ていった。
そして、俺は何事もなくリビングで一人飯を食っていた。柏木の料理は少し薄口でありながら旨みがしっかりとある。うめえ……なんて思いながら柏木お手製の味噌汁をすすっていると、柏木が戻ってきた。リアル姉さんの影はない。ごみ捨て場にでも捨ててきたのだろう。
「ど?美味し?」
椅子に腰掛けながらそう訊いてくる。
「あ、あぁ。美味いよ」
「そう。よかった」
そう言って柏木も飯を食い始めた。
「なぁ、あと一つ確認なんだがこれっていつまで続くんだ?」
「さぁ?特に期限は決めてないわね」
「ほう」
ん?ということは?俺のリアル姉はこの期間が終わるまで。多分柏木が飽きるまで続くってことか?
姉さんも姉さんで弟離れしてくれるかもしれないし、まあ、いいか。
と、箸をまた動かし始めたところに、携帯が鳴った。
「電話だ。」
そう一言言い残して、俺は廊下に出てから電話に出た。
「もしもし?」
「あ、もしもし!私ですっ!」
可愛らしい声がした。
「私私詐欺ですか?ちょっとそれは無理がありますね」
「違いますっ!三ヶ森ですっ!」
「な、なんですとぉ!?」
俺ってやつはあの最愛の妹の声を認識出来なかったってのか?もう、俺なんのために生きてんだろ?妹の声わからない時点で死んだ方がいいかもしれねえ……
いや、俺に限って妹の声を忘れるなんてことはない。電話ってのは本人の声とは違うらしいしな。
そう自分に言い聞かせて話を聞く。
「で?何用?」
「例の件で……今日空いてますか?」
「うん。空いてる……と、思う」
「では、いつものファミレスで待ってますので!」
そう言われて切られてしまった。
まあ、仕方ねえな。どうにか柏木に話つけて行くしかねえな。
「なぁ、柏……姉さん。ちょっと俺用ができた」
「うん。わかったー」
そう言って柏木は飯を一気にかきこんで、二階に走っていった。
まあ、いいってことなのかな?
******
そして、俺は一人で家を出た。自転車も何も無いので焼けるような日照りの中、男女兼用の柏木の家のサンダルを借りて、ファミレスに向かう。
歩いてるだけで汗がじんわりと出てくる。
「春樹!!!」
しばらく目標に向かって歩いていると、後ろからなにかが大声をあげながら走ってきた。
柏木か。どうにかして隠れてやり過ごさねえとな。
そうして、付近のマンションの茂みに隠れる。
「あれ?居ない?確かにGPSではここなんだけどなぁ……」
は、はぁ?待て待て待て待て……いま、あいつじーぴーえす。とか言ったか?場所を把握できるあのGPSなのか?この状況からしてそれ以外に考えられねえからそうなんだろうが、おかしい……あの姉狂ってる……
「どこー?春樹ー?」
そうして、柏木さんの捜索が始まった。
俺は適当にマンションの方に近くにあった石を投げてみると、柏木はマンションの中の方に入っていったので、とりあえず問題は無いだろう。
こんな時のためにGPSじゃないんだろうか。と、思いながらも俺はとりあえずその発信機をバックやらを漁って探し始めた。
……ある訳がない。
今の時代凄いちっちゃいって言ってたしなぁ…どこにあるんだろ?
そんな時、丁度スマートフォンがポケットから滑り落ちた。
ちょっとした音だったのだが、この静かな住宅街に響くには充分だった。
まずい。
俺はすぐにスマートフォンを拾い上げると、柏木が行った方向からは見えない茂みに隠れとりあえず様子を伺ってみるが人が出てくる気配はない。
……よかった。
あれがリアル姉だったら、俺は多分もう捕まってるだろう。
そうして、先程落としてしまったスマートフォンの画面やらに傷がないかなどを確認してみるとなんだか、少しだけ違和感があった。
カバーが本当に微妙にだが、膨らんでいるのだ。
俺はすぐさまシリコン製のカバーを外すと、そこには小指の爪より小さい黒い何かがあった。
これが発信機か?
というか、すげえところに付けてんなぁ…さすが姉さん。怖すぎる……
それを外して俺は遠くへ放り投げ、俺はすぐさまその場から離れてファミレスに直行した。
*******
柏木の追跡から逃げ切り、なんとかいつものファミレスにたどり着いた。
よし、やったぜ。
店の前で息を整えていざ入店。
すると、そこには天使がいた。
「久しぶり……でもないか、こんにちは。三ヶ森さん」
高まる鼓動を抑えつけて話しかける。
「あ、風見さんっ!おはようございます」
礼儀正しく立ってお辞儀をする三ヶ森さんは可愛い。
もう、おはようなんて時間ではないが、可愛いので許してあげます。
「いらっしゃいませ!ご注文お決まりになりましたらそちらのボタンでお呼びください。」
後ろから店員がついてきていたようで店員はそれを言い残すと去ろうとした。
「あ、ドリンクバーお願いします」
「了解しました!」
店員を見送ったあと、三ヶ森さんが話を始めようとしたが俺はそれを遮って、ドリンクバーを取りに行ってから話を聞く。
「で?話って?」
「あ、あの件なのですけど……どうしましょ?」
全くと言っていいほど三ヶ森さんは考えていなかった。
「うーん。どうしよう。かねぇ……」
苦笑し、ミルクティーを混ぜながら、少し妹のために考えてやることにした。
うん。全然わかんねえなぁ。俺は恋なんてしたことがない。故に道の提示なんて出来るわけがないのだ。
だが、テレビやらでそんな感じのドラマだとかアニメだとかを観てはいたので、まあ、それなりにまとめると……
「………次は海?」
「えっ!?」
決して三ヶ森さんの水着が見たいとかそんなことを考えてたりしてないといえば嘘になるが、でも、流れ的に次は海だろう。
大体海に行く。
いわゆるサービス回ってやつだ。この作品に足りないのはスバリお色気シーンだろう。見ろよ柏木をぺったんたんじゃねえかっ!!
「……またはプールかな?」
「えぇ!!!」
三ヶ森さんは思いっきり動揺していた。
「ダメなのかな?」
話の流れに委ねよう。なので、俺はそう訊いた。
「い、いえ……でも、体には自信なくて」
「……それ、柏木の前で言えるか?三ヶ森さんは普通にいいプロポーションしてると思うぞ?それで何がないって言うんだ?柏木がこの場にいたら今頃鉄槌が落ち……」
ガーンッ!!
なぜか頭に強い衝撃が走った。
「痛ってえっ!!!」
「貧相で悪うござんしたぁ!!」
そこには巻いたはずの柏木がいた。いや、今は姉さんと呼ぶべきだろうか?いや、今はそんなことはどうでもいい。
「……なぁ、柏木一つ質問いいか?」
「なに?」
「俺って死ぬの?」
「そうなるわね。」
……らしい。俺は死ぬらしい。
「じゃ、せめて遺言だけいいか?」
「ええ。仕方ないから許してあげるわ」
急に訪れてしまった急な余命宣告。年端もいかない青年には荷が重すぎるが自分で撒いた種だ。このツケの清算はしっかり行わなければならない。
「えー、三ヶ森さん。頑張ってね。あの世で見守っているから」
「は、はいっ!」
助けてはくれないのか……まあ、いい。妹に見捨てられて死ぬのも悪くない。
「終わった?終わったなら殺してあげるわよ」
「いや、柏木にもあるよ。柏木。楽しかったよ。生まれ変わってもお前の幼なじみになれるといいなって思ってるよ」
「……そそそ、そう。」
動揺してるぞ!これはあと一押しすれば助かるかもしれねえ。
「じゃ、俺を殺してくれ。気の済むまで。俺が悪いんだ。全部」
俺は死を覚悟するような言葉を投げかけ、首を差し出すように上を向き目を瞑る。これも作戦のうち。死ぬ気なんてさらさらないのだ。
「わかったわ。じゃ、さようなら」
……ちょっと待て。本当に俺を殺す気か?
それからすぐになにか冷たいものが俺の喉をゆっくりと通っていく。
ナイフで切られた?俺本当に死んだの?
俺は勇気を振り絞って首に手を当ててその手を見る。
血らしきものは付いていなかった。
「首繋がってる……」
「いつまで立ってるの?早く座りなさい?」
と、先端だけが濡れたストローを拭きながら柏木がそう言った。
というか、俺の席取るなよ。柏木が俺の座っていた場所にまるでここにずっといたかのような貫禄で座っていたのだ。
「あ、あぁ……」
そして、問われる。柏木の横に座るのか三ヶ森さんの横に座るのか。いや、姉の横か妹の横かだ。
当然俺がここで取るのはやっぱり妹の隣だ。
「ごめん。三ヶ森さん隣いい?」
「はいっ!いいですよっ!」
そうして、三ヶ森さんは奥に詰めてくれた。
怖いあれの横より、かわいい妹の隣が一番だ。俺の心の平穏。癒し。それが妹だ。
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