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二十六話

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【俺の妹になってください】

二十六話

~ あらすじ ~

柏木と千葉を回った。そこで俺は大きな失敗をした。消えないような失敗を。

******

八月一日。あの日から時は経ったが、後悔というのは消えないものだ。

そして今日は約束の日。花火大会だ。ということは三ヶ森さんと山口をくっつけよう大作戦決行の日。

……とりあえず、今は自分のことは忘れよう。妹のためだ。

そんな決断をしつつ、俺は玄関前で柏木が降りてくるのを待っていた。

しかし、遅いな。なんでいちいち夏祭りだからってあんな浴衣とかいう服を着るんだろうか?面倒くさそうなのに………

「お待たせ風見」

息を飲んだ。

いつものポニーテールではなくお団子が二つになっていて、黒色の浴衣に白色の鯉の刺繍が入っている。少し大人っぽい浴衣だった。

見た目は子供っぽい柏木だが、なんでか不思議とあーいう大人っぽいの似合うんだよな……

「じゃ、行きましょうか」

「あ、あぁ。うん。」

そうして、俺らふたりは家を出た。

外はもううっすら暗くなり始め、祭りの音頭のようなよくわからない音楽がほんのり聞こえてくる。

はぁ。もう半年経ったのか。

なんか、早かったな高校生活。

期末テストもズタボロだったけど、まあそんなのはいい。まだ、未来のことなんて考えたくもないしな。

「で?今日は美柑ちゃんも来るんだっけ?」

「あー。そうだ。山口も来る」

「おー。そうなんだー。あの時以来だね」

だから、なんで急に子供に戻ったかのような笑顔を浮かべるの?普通に美少女で通る柏木がそんな顔するのは酷い。ひどすぎる。うっかり心臓が止まっちゃうかと思ったぞ。

そんなこんなで祭り会場……のよこにあるスーパーマーケットに着いた。ここの前で落ち合うことになっている。

「あ、どうも。風見、柏木さん」

「山口か」

知った顔がこちらへ駆けてくる。イケメンは何着ても似合うからセコい。結論としてイケメンは死すべきだ!

「こんばんはー。山口くん」

「こんばんは。」

爽やかな笑顔で柏木の挨拶に答える山口。まあ、これであとは三ヶ森さんだけなんだが……なんて考えていると、「こ、こんばんはー!!皆さんっ!!」と、威勢のいい挨拶が入ってきた。振り返るとその噂の人がいた。かわいい………俺の妹ながらかわいいな。黒色の浴衣に頭は簪(かんざし)で綺麗に止めている。……黒は女を良くするとはいうけど元々いい奴が着るともう爆発的だな………

********

そしてすぐ横の大きな川のある大きな公園のようなところで、その屋台やらが出ている。

とりあえず集まることには成功した。次はうまい具合に二人きりにしてやることだな。

あとは三ヶ森が自分でなんとかするんだ。妹の成長を見守るのも兄の役目だからな。

「あ、あの………」

三ヶ森さんが俺の裾を引っ張って目をうるうるさせていた。

「ど、どうした?」

「私はどうすればいいですか?」

くそ。俺はこんなに可愛くて少し頼りないような子を一人にしなければならないのか………いやいやダメだダメだっ!兄たるもの時に優しく時に厳しく………一人立ちさせてやらねえとどうするんだっ!

「少し待ってて。どうにかしてやるから」

そう言って、俺は一息ついてから山口と柏木の方へ駆けた。

「柏木!お前の好きな射的があるぞ!一緒に行くか!!」

「え?あ、ちょっとっ!!」

強引ではあるが仕方ない。ごめん。柏木。これも妹の為だ。俺は柏木の手を掴んで走り去る。

これであっちは二人きりだよな。

「ちょっと!!風見!!」

「ん?どうした?」

「どうした?じゃないわよっ!!二人置いてきて………まあ、確かに射的は好きだけどっ!って、なんで急に止まるの……よ………」

「しー」

俺は道の角を曲がったところで一旦あちらの方を確認する。

何の会話をしているかはこの喧騒の中では全くわからないが、三ヶ森さんが山口となにかを話していて、ドキマギしたりしたりした後にニコッと笑って、山口とどこかへ歩いていった。

よし、作戦は成功かな?あとは俺の愛すべき妹である三ヶ森が頑張って山口を勝ち取るだけだ。大丈夫、不安はあるけれど俺の妹ならどうにか出来るはずだ!頑張れよ三ヶ森……さん。

「な、なによ?」

柏木も俺と同じようにしゃがみ込みあっちを見ていた。

「あ、な、なんでもないっ!じゃ、俺らは射的に行くか」

「わ、わかったわ………」

なんとか誤魔化して柏木の手を引き、いつも行く射的の屋台まで歩く。いつもは絶対位置が反対。手を引くのはだいたい柏木で俺は連れていかれるだけだったのだが、今日ばかりは違った。……俺も成長出来たのかな?

そして、いつも来る射的の屋台にやって来た。

「いらっしゃい。お?今年も来たのかい?」

そして元気のいいおじさんが今年もいた。毎年毎年行くものだから顔も覚えられてしまったらしい。

「は、はい。こんにちは」

「一回三百円ね。」

「はい。これで」

俺は柏木の分のお金を払う。柏木はピンク色の可愛らしい財布を巾着袋から取り出し用意していたが、まあ、別にこのくらい良いだろう。

「若い常連さんには…二発オマケね。長続きしてるしね」

「い、いや、こいつとは幼馴染みで………」

「そうかそうかっ!あっはっはー!!でも、知らん男に取られないように気をつけなな?」

声でけえから恥ずかしいんだよな………本当に……

「は、はぁ………」

世話好きなオッサンだな……

「はいよ。柏木」

と、なぜかキョロキョロと周りを見渡していた柏木に装填しておいた射的の銃を渡す。

「あ、ありがとう………」

「別にいいさ……」

これは罪滅ぼし。

忘れようなんて思ったが、やっぱり無理だった。

******

「八発中六回当てて、五個の景品ゲットですか。射的部なんてのはないし……なら、弓道部にでも入れば良いのに」

景品と言ってもそんなにいいものは無い。でも、柏木の好きそうなぬいぐるみやらはあったりするので柏木的には凄くいいものだろう。

「部活はやりたくないのよ。まあ、才能あることは認めちゃうけどね」

うっぜぇ。でも本当に才能だけは意味もなく無駄にあるからな……宝の持ち腐れとはこの事だろう。

「そうかよ。で、次はどこいく?まだ花火上がるまで時間あるぞ?」

時計を確認したらまだ五時。六時から上がる予定なのであと一時間もある。

「んー。お腹すいたしなんかたべたいっ!」

「わかった。じゃ、食べ歩きでもするか?」

「おー!!」

そうして、俺らは焼きそばやらじゃがバタやらかき氷やらを食べ歩きを開始した。勿論あの二人にうっかり出くわさないように気をつけてこのリア充だらけの祭り会場を歩いた。

「いやー。結構食ったなぁ」

「そうねー。結構食べたわね」

俺らは色々食べて回ったあと、そろそろ花火が上がるらしいので花火の見えやすいいつも行く隠れたスポットに行くために、屋台とかが出ているリア充共がワサワサしている騒がしいところから少し離れた公園にいた。

ここら辺には人は俺たち以外いない。だから、それなりに静かだ。遠くであの音頭的な音楽が聞こえるくらいで他にはスズムシとかがさえずっていたりするだけだ。

いつも通りブランコに座って横のブランコには柏木も座っている。小さいからかブランコに乗っているだけで絵になるな。

「ね、風見」

柏木は自分の足元を見ながらそう尋ねてきた。

「あ?どうした?」

「いや、なんでもない」

「そっか」

そうして、ボケーとしながら空を眺めていると大きな音とともに空に大きな青い花が咲いた。

「花火、始まったな」

「う、うん………」

柏木の声はなぜか弱々しかった。

「………ん?どうした?」

「べ、別にっ?」

「本当に大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫」

柏木は俺に笑って見せるが、絶対に嘘だ。なにか隠してる。

「足、見せてみ?靴脱いで」

「…………わ、わかった」

嫌々だったが柏木は靴を脱いだ。

「お、お前!思いっきり靴擦れしてるじゃねえかっ!!」

口内炎のような痕が、大きく足の土踏まずの辺りに出来ていた。

「なんでお前黙ってたんだ!?アホか?」

「風見よりバカはいないですよーだっ!!」

と、桜色の舌をベーっと出して見せる。

「まあ、とりあえず座ってるし大丈夫か。座ってても痛いか?」

「いや、そんなに気にはならないけど………」

「痛いんだな?俺は気になる。ってことだな?よし、速攻でコンビニ行って絆創膏買ってくるから少し………」

いや待て、こんな人気のない公園に一人きりにして放置はマズイ。ならもう手段は……

「俺の背中に乗れ。そのままコンビニに走るから」

「………え?いいの?私重いよ?」

「子供より軽いわ。早く乗れ」

「ふんっ!!」

バキッ!!そんな音が俺の左腕から鳴った。

「いってえええっ!!!なにしやが………」

骨が折れたような痛みに絶叫して、少し収まったところでまた叫ぼうとすると、柏木が真っ直ぐ見つめてきていた。

「早く行こ?」

「お、おう………」

そうしてその軽いお子様をひょいとおぶって近くのコンビニまで駆ける。

「………六年前のこと覚えてる?」

颯爽と走り始めたのはいいが、帰宅部男子の体力はほぼゼロに等しい。走って数十秒程度で息が切れて俺は歩いていた。

「んぁ?はぁ……はぁ。なんだそれ?」

「前にもこんなことあったじゃない?」

「…………さあ、な。さっぱり覚えてねえな。」

息を整えつつ俺はそう答える。

「それって、何年前だ?」

「うーん。確か……六、七年前かな?」

ということは小学校三、四年か。

柏木をおんぶしたこと?

「あっ!そう言えばあったあったっ!昔からお前やんちゃで道悪いから走ったら危ないよ?って忠告したのにまんまとすっ転んで足痛めて俺が仕方なくおんぶして帰ったこと」

「思い出さんでいいっ!」

軽くコンっと頭を叩かれた。

「………全くどっちなんだよ………あ、他にもあるぜ?気に登って降りられなくなったり、買い物中に迷子になったり………」

「それ以上言うなら本気で打つわよ?」

「ごめんなさいそれだけはマジで勘弁してください。なんなら足でも舐めましょうか?」

「そんな特殊性癖があったのは知らなかったわ。普通に引くからやめてちょうだい」

「違うからっ!!」

「あ、そうか。風見はそういえば妹萌えなんだっけ?」

…………………え?

「な、なななななぜ!?な、なぜに知っているぅん!?」

「えー?前から?というか、私にそれで隠してるつもりだったの?………付き合ってる期間が長いんだから、わからないことなんて………ほとんど無いわ」

「幼馴染み、怖い危ない殺される」

「誰が殺人鬼だっー!」

柏木はそう言って俺の上でドタバタと暴れ始めた。

「そんなこと言ってねえし、危ねぇから暴れんなっ!!」

転けそうになりながらも、なんとかフラフラとコンビニについた。

そうして、店前のベンチに座らせて俺はコンビニで絆創膏を買って戻ってくる。

「ほら、足上げて」

「う、うん……」

恥ずかしそうに足をあげる柏木。そして浴衣の中が見えそうで見えないが、スラリと伸びた足が、その表情が俺の理性を狂わせる。

だめだっ!落ち着け俺。そ、そうだ。絆創膏を貼ってさっさと立ち上がろう。

俺はなるべく柏木の足を見ないようにしてその痛々しい痕に蓋をした。

「よし、これでよし」

「ありがとうね。風見」

「この位いいさ」

「…………あ、花火っ!!」

そういえばあのドンドンいう音が無くなったな………

「終わっちまったな………まあ、仕方ない。とりあえず、三ヶ森さんと山口のところ行くか」

「そうね………」

柏木は残念そうにそう言った。
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