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六話

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【俺の妹になってください】

七話

俺ら四班は、男は男と書かれた暖簾。女は女と書かれた暖簾をくぐり抜けて風呂場へと足を運ぶ。

中に入るとそこはもう、銭湯だった。後ろに富士山が描かれてるアレだ。他にも色々人がいたが声を上げるものはおらずにみんなじーっと物音を立てないようにしていた。男の裸とか誰得なんすかね?

と、思いながら体を洗っていざ、湯船へ。

「うわぁ………」

その富士山の壁に寄りかかるようにして湯船に浸ると、深い溜息のような声が出る。

「おじいさんみたいだな」

「………まあ、色々あったしな」

苦笑したようにそういう山口君に天井を見上げながらそう答える。

ピチャ………ピチャと水滴の落ちる音がはっきりと聞こえる。それ以外の音はなく、皆じーっとしている。

……なぜだ?

「………ひゃ!」

その刹那、壁を挟んで艶のある声が響く。

あー、そういうことか…こいつら…………できる!!

その声が耳に入るとともに俺と山口は目線があった。そして、俺も山口も全く同じタイミングでコクリと頷くと耳を壁にくっつけた。というか、ここにいた人間全員が耳を壁にくっつけた。

「お、お姉さん………や、やめて?」

シャイな三ヶ森さんの声がいつも以上に震えている。

「なぁに?私は弟しかいませんよー?」

「いや………いぁんっ……んんっ」

そんな嬌声が飢えた雄の部屋に響く。

みながみなゴクリと喉を鳴らす。

「だ、だから……らぁ………んぁ……」

「やっぱり胸大きいわねー。肌もすべすべしてて」

「………や、やめてぇ」

悪漢がよいではないかーよいではないかー。と、囚われの娘の着物を剥がすシーンが頭にふとよぎってしまうのは男なら仕方のないことである。

「ちょっと、二人とも?そんなにうるさくしていると隣まで………」

そんな俺らの耳に幸せを与えてくれる二人に水を差す馴染んだ声。なんだよ柏木ここで邪魔だけはしてくれるんじゃねえぞ?

「…………え?ちょっと!!や、やめてください。風見さん!!お、怒りますよ?」

「その強気な態度どこまで持っていられるかなぁ?」

………やっぱりどこまでいっても小悪魔な姉さんは二人にも小悪魔だった。いや、悪魔かもしれない。

俺的には二人とも魔王みたいなもんだが。

どっちが勝つんだろうか?

「………ひ、ひゃんっ!」

「なぁに?その声……あんまり大きい声出すと男湯にまで聞こえちゃうよ?」

「……べ、別に……そんな……はぅ…………は、はげし………んんっ!」

そんな感じで圧倒的なほどの格差があった。

「あの威勢はどうしたの?もう終わり?」

「ら、らめぇ………も、もう………」

頑張りました。柏木は。だが、姉は強かった。柏木は姉の前に呆気なく破れて、うっとりとしたなまめかしい声を上げる。

いつも見れないワンシーンを脳内だけでも再生させてくれてありがとう。いつもあざとねえさんより妹くれとか思っててごめんなさい。でも妹は欲しいのは変わりないです。

「「はぁ………はぁ………」」

「お姉ちゃん大満足っ!!大きいのも小さいのも楽しめたしー」

一通り終わったらしい。

甘美な吐息が二つ程度流れているが姉が満足してしまったらしく、その幸せな時は終焉を迎えた。

結局、ずっと最初から最後まで壁に耳を当てて聞いていた。

「じゃ、出ようか」

「あ……うん。そうしようか」

そして、立ち上がるとともに頭がクラクラしてひっくり返りそうになる。

周りでも何人か倒れそうになっていた。

「のぼせちったな……」

「そうだね……」

イケメンは相変わらずにイケメンだった。というか、色っぽさが出てもっとイケメンになってらっしゃる。

うざ。

****

「どうしたの?逆上せた?」

「………べ、別に」

入って来た暖簾をくぐって廊下に出てくると、先程墜ちた女の子。服は軽めのもので、いつもはポニーテールだが今は下している。

風呂後の女の子っていつもより三割り増しくらいにエロく見える。そして、さきほどのことも相まって八割り増しくらいなる。

こいつが……あーんなことやこーんなことを………と、いけない想像をしてしまいつい、口元が緩む。

「なに気持ち悪い顔してるの?」

「な、なに言ってんだ?俺はいつもそんな顔だろ?」

「あんた童顔だから余計にニヤけると気持ち悪いのよ」

淡々とした口調で俺を貶す。

「………お前だって童顔じゃねえかよっ!!」

「それは………果たし状だと思ってもいいのかしら?」

赤みがかった髪を右手で靡かせながら冷笑する彼女の背後には、吹雪の幻影が見えた。

怖え……

「はーるーきー!!」

恐怖で足をすくめていると、俺の胸に俺より背の高い人が飛び込んで来る。だが、スレンダーでも柔らかい感触からはすぐに女性だと判断することが出来た。そして、その人からは石鹸のいい匂いがする。俺だって160。いつか超える。

「ね、姉さん……」

姉さんが来ると柏木は一歩後ろに下がる。

どうやら、柏木に殴られることもなくなったみたいだ。姉がいればとりあえず柏木よけになるな。

いつもなら姉を突き飛ばしているが、今日ばっかりはよくやったし……飛ばさないでやるか。

それからすぐに女湯の暖簾が上がる。周りを警戒しながらビクビクとして出てきたのは三ヶ森さんだった。

警戒する三ヶ森さんは初めての場所にきた猫のようで、触ったら噛み付かれそうだけど、仕草ひとつひとつが、柏木にボロボロにされた俺の心の傷を癒し、目の補充になる。

「じゃ、みんな揃ったしもどりましょーか」

******

「ハールーキーックッ!!」

けたたましい声が鳴り響く。なにそれ俺にしか使わないからそのネーミングなの?ならイケメン死ねー。ってやらない?

という提案もさせてくれないままそんなやかましい声が、寝ていた俺の意識を夢から現実に引きずり戻す。目を開けると、そこには。俺の目の前には足の裏があった。

「いってぇぇぇ!!!!」

その刹那、一つのテントがガシャガシャと騒ぎ、そのテントからは悲鳴が轟く。

「柏木ぃ!!」

「あー。風見?ん?どうしたの?おはよー」

俺が外に飛び出ると丁度海から太陽が顔を出していた。日の出である。それを背景にやつはテント前で欠伸をしながらポニーテールを揺らし、挨拶を投げかけてくる。

「あ、あぁ。おはよう。じゃなくてっ!!てめえさっき俺蹴ったよなぁ!?」

危ねえ……また前みたいに流されかけた。

「………うんっ!もうやらないよっ!」

俺の顔面を思いっきり飛び蹴りしたやつとは思えない満面の笑み。むっちゃくちゃ殴りてえ………

「………大丈夫かい?急に大声を出して」

さっきの轟音で起きちゃったのか、俺のいた迷彩柄のテントから這うように出てきたのは山口だった。

「どっかの誰かさんが、何もしていない無害で凡庸な人間に向かって、突然必殺技仕掛けてきたんだ!」

「あら、昨日私にお風呂場であーんなことやこーんなことをしておいて何を言ってるのかしら?」

キョトンとした顔をしながら、あごに指を当てて首を傾げる。

そして、その言葉に男二人はその場に固まる。

………嘘だろ?そんなわけがない。バレてるはずないんだ。

平常心だ。そう。いつも俺はそうじゃないか。

「………どこからその自信は湧いて来るんですかねー」

なんとか誤魔化す。

そんなどうでもいいような会話をしていると、キーンコーンカーンコーン………と、なぜか学校でもないってのに急に始業のベルみたいなのが流れた。

「んんっ。えー、あー、マイクテストーマイクテストー」

そのベルが流れた後にけだるげ全開の声がキャンプ場に響く。

その音に起きたか俺のせいで起きたかは知らないが、周りのテントからは続々と人が出てきて、何事かとざわざわと騒ぎ始めた。

「よし、みんな起きたかー?うん。起きてるな」

「見てんのかよ……」

「では、みな。とりあえず荷物置き場に集合だ。なにぼーっと突っ立ってるんだ?キビキビ動けキビキビっ!」

黒澤先生見てるな?貴様見ているなぁ!?
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