1 / 57
一話
しおりを挟む
【俺の妹になってください】
一話
妹なんか要らない。なんて台詞を吐くやつは幸せなやつだ。妹以外要らない。の間違いだと俺は信じたい。多分、兄がいても無駄にこき使われるだけだろうし、弟なんかうるさいだけで、なにもやってくれないと思う。姉は無駄にめんどくさいし………。
だが、妹はどうだ?妹はいい。最高だ。神だ。なんで妹教がこの世にはないのだろうか?おかしい。この世界は壊れてる。妹に「おにーちゃん!」って、言われて起こされたなら毎日元気に過ごせそうなのにな。
「起きな。今日は学校だぞ?」
「…………はぁ」
俺が目覚めて一番最初に飛び込んできた光景は、化粧なんかしなくたっていい顔立ちをしているのに、アイラインやらを入れてブラウンの目を無駄に大きくしている姉の姿だった。
「なんで俺の部屋で化粧するんだよ。化粧道具とかって臭いから嫌いなんだよ」
背中に掛かる無駄に長い髪をアホらしいピンクアッシュに染めて、毛先をくしゅくしゅしてるのは姉さんだ。
「時間の節約。かな?えー別にいいじゃん春樹ー。私は春樹【はるき】と一緒にいたいのー」
と、メイクが終わったのか姉はまだベットに座っている俺の腕にがっしりとしがみついてくる。
「嫌だ。抱きつくな」
柔らかな感触が腕を伝ってくる。いや、別に姉のやたら大きい胸に目を取られたりはしてないからな?あんなの脂肪の塊だからね?
「えー?ダメなの?」
と、目だけをこっちに向けて腕に顔を埋めてる。マスク効果だろうか?少し小顔に見える。
これが妹だったならば俺は「しょうがないなぁ。ちょっとだけだぞぉ」とか気持ち悪い顔を浮かべながらも言うんだろうが、相手は俺より年上のババア。
「ダメだダメだ」
「どーしても?」
目を潤ませて首を少し傾げて上目遣いというトリプルコンボ。これで大体の男は落ちるかもしれないが、俺には通用せん。あざといのは知ってる。元々そんな姉だしな。だからって俺が姉にデレることなんてない。全く、なんでこんなのが姉なんだ?こんなあざと姉さんよりかわいい妹ください。お願いします。
「というか姉さん。時間っ!!」
時間は7時半を指していた。
「あーやばーいっ!!」
ギャル語ですかね?姉さん。若作りしなくても若いってのに………
といっても、一歳しか変わらないか。
なんて思いながらも、俺はやっと重い腰を上げてクローゼットから新しい高校の制服を取り出して着替えを始める。
「えっ?ちょ、……ちょっと!!」
「あ?なに?姉さん」
なんでか知らないが焦る姉さんにパジャマを脱ぎながらもそう聞いてあげる。
「あ、あんた、恥ずかしくないの?」
手で顔を隠しながらも指の間からこっちを見ているのではっきり言って意味がない。というか何のために顔を手で覆ってるんだろ?
「え?なにが?」
少々うんざりしつつも制服の袖に腕を通しながらそう訊く。
「もういい!!」
バタンッ!!
一言言い残すと俺の部屋から勢いよく出て行った。
全く、朝から騒々しいな。というか、なんであんなに怒って出てったんだろ?
別に全裸になったわけでもないのにまるで裸でも見たかのような反応しやがって。おれだけ感情がないみたいな感じになっちまうじゃねえか。
そして、机の上には化粧道具が散乱としていた。
……はぁ。めんどくさい。
身支度を整えて俺は自分の部屋から出て居間に向かった。
俺の家は二階建の一軒家だ。玄関から入って階段がすぐある。一番奥にダイニングキッチンとテレビやら見れるような空間がある。いつもここで俺の姉である美香【みか】姉はぐうたらしている。二階は階段を上ってすぐ右が父母の部屋、俺の部屋は一番奥の部屋で、姉さんの部屋は俺の部屋から出てすぐの右側の部屋だ。
はぁ。すぐそこだというのに、俺の部屋で化粧をするのが当たり前のようになっている。化粧道具も全部俺の部屋に放置して行くし……全く、俺がそういう趣味みたいじゃねえか。
だが、俺も優しいな。毎朝のことながら化粧道具を片付けてあげるなんてすげえいい弟なんじゃね?
「…………姉さん?」
居間に入ると姉さんは髪を右手でかき上げながら本を読んでいた。だが、見た目がなんというか酷いな。バカらしくて本を読んでいるというか本が姉を読んでいるみたいな錯覚までしてしまうほどだ。
「はいこれ」
と、本に栞を挟んでトースターで焼いたパンをおれの前に無造作にポンと投げるように出す。
「………怒ってる?」
「なにが?」
女子のこういうところ………嫌いだな。
嫌悪感思いっきりプンプン出してるじゃん。臭えくらいだよ。それなのになにが『なにが?』なんだよ。わけがわかんねえ……
「いや、怒ってるよね?」
少し呆れたようにそう訊く。
「なに?怒ってないよ?」
ん?え?さっきまでの態度はなに?……コロコロ変わりすぎだろ?感情もいじるものも………今度は携帯か。バカらしさと携帯ってなんか合うよな。ビールには枝豆、パンには生卵みたいな感覚と同じだ。俺は卵かけご飯大好きだ。あれにふりかけをかけて一気にかき込んでも旨いし、納豆なんてあっても旨い。あれほど安上がりで旨い食べ物はないと思っている。親が貧乏性なんだ。移っても仕方ないよね?
「春樹ッ!!7時50分っ!!そろそろ行かないと間に合わないよっ!!」
「あ、うん。今行く」
のんびりトーストを食んでいたらそんな時間になっていたらしい。おれは残りのパンを飲み込むように平らげそのまま外に出た。
太陽だけが燦々と輝いている恐ろしいほどの日本晴れ。セミでも鳴き始めるんじゃねえかな?ってくらいにいい天気だった。
「春樹。行くよー」
と、自転車にまたがりながら玄関ポーチにぽつんと立っている俺にまだか?と、ダルそうにこっちにくる。
「あ、うん」
俺と姉さんは一緒に千葉県立小中橋【こちゅうばし】高校に自転車で向かう。距離は家から近く10分くらいだ。
まあ、あの高校に行くのも入試の結果を見に行った時以来だな。
そして、今日は入学式。俺はそんなに早く登校しなくてもいいのだが姉が来い来いうるさいのでついて来てあげた。
なので新入生にしては少し早めの登校になるだろう。
****
「じゃ、またね春樹ー」
と、姉は右手を大きくブンブン振って大声をあげる。
「あー。うん」
と、間の抜けた挨拶だけを返す。
よし、着いたぞ。
桜が満開。これだけでなんだか新学期って感じがする。
入学式っても俺にはそこまでやる気はなかった。高校デビューを果たしたいとかそんなことは微塵も思ってはなかった。ただ、普通に居たいのだ。張り出されていたクラスの一覧表みたいなやつを俺は見ていた。
なんでこんなにある中から探さなきゃならんのじゃ………
だが、人は指折数える程度しかいないため自分のクラスを探すのにそう時間はかからなかった。
あった。風見春樹【かざみ はるき】
えーっと、1ーFか。
で、場所は……下駄箱前の階段上がって四階……で、そこを右か。
それであるはずだ。
「1ーD………1ーE」
トイレを挟んで俺の一年通うことになる教室があった。
ガラガラガラ。
ドアを開けてクラスに入る。
そこにはまだ誰も来ていなかった。
一番か。なんか、優等生みたいで嫌だな。
俺はどっちかといえばバカな方だと自覚している。だからそこらへんの自覚のない「えー。俺僕私は馬鹿じゃないもんッ!!」みたいなことを言っている三流のバカとは一緒にされたくないと思っていたりする。
席も指定されているらしい。
俺は真ん中の一番後ろか。
ギィー。
椅子を引いただけなのに音が大きすぎる気がする。
誰もいない教室ってこんなに静かなものなのか。中学校の頃早く来て一人になったことも居残りさせられて一人になることもなかったし初めての体験だ。
なんだか落ち着かない。新しい環境でそわそわしてしまっている。これじゃ犬や猫と大して変わりゃーしないじゃないか。まあ、でもそこらへんにマーキングするわけでもないところを見ると俺は人間らしい。
だが、気づくと暇だったからか椅子をギシギシやって遊んでいた。
このバランスゲームというかこれ結構楽しいんだよな。後ろの背もたれに体重かけて二本足で椅子を立たせてバランスをとる。
で、どこまで背もたれを地面に近づかせれるかというのを暇だったからやっていた。
あと少しで新記録だ。無論測ったこととかないから見た目で決めている。だが、目印みたいなものもないため、新記録だの言っているがそれが本当に新記録なのかはわからないし、いつやってたのかでさえ定かではないため色々曖昧なことだらけである。
勢いをつけてギッコンバッコンやると一人シーソー的な感じで楽しいし、新記録に近づける気がする。
あと、少し…………
ガラガラガラッ!!ドンッ!!
と、俺が新記録開拓中に勢いよくドアが開いた。
その音にびっくりして俺は椅子ごとひっくり返ってしまう。
ドンッ!!
「………いってて」
「………あ、あの………だ、大丈夫………ですか?」
と、逆光で顔やらは見えないが、扉をあけて大きな物音がして怖かったのか少しビクビクしながらゆっくりとこちらに歩いてきた。
「あ……あはは。だ、大丈夫大丈夫!俺もドジだなぁ」
言い訳をしつつも、倒れた椅子を直しながら女の子の方を見た。
ガシャンッ!!
と、俺は不覚にも椅子から手を離してまた倒してしまう。
ふわりとした肩につくかつかないかくらいのボブカットに暗めのベージュ色の髪の毛が歩くたびにふわふわ踊る。
そして、彼女の顔立ちは童顔で、俺的にはどストライクと言える。え?ロリコン?いやー、そんなまさかねー?俺、風見春樹は決してロリコンではない。童顔な女の子が好きなだけだ。
彼女はすぐに俺から目を逸らしてしまうが、彼女の目は透き通った青い目をしていた。碧眼ってやつだ。そのサファイアのような美しい眼光に不覚にも俺は目を奪われてしまっていた。
「そ、そうですか………」
と、彼女は言うとキョロキョロ、ビクビクしながらも自分の席を確認しに前の黒板に歩いて行く。
彼女の声は弱々しく、目も泳ぎまくっている。心ここに在らずってわけでもないが、座ってからも緊張からかキョロキョロしている。プールなんかに友達といったらすぐに男の不良グループに絡まれそうな女の子だった。
あんなので一人でやっていけるのかね?
一見、クールで無口で高嶺の花。お堅い女の子っぽいがあの感じから言ってそうでもない。
すげえ…守りたい。
多分、こう思うのは俺だけではないはずだ。
***
放課後の教室。風が舞い込みカーテンがひらひらと舞う。そこに夕日が差し込む。なんとも幻想的な光景だ。そこに男子と女子が二人きり。告白やらをして青春の一ページを飾るならこうだ。
『お、俺の妹になってくださいっ!!』
…………と。
一話
妹なんか要らない。なんて台詞を吐くやつは幸せなやつだ。妹以外要らない。の間違いだと俺は信じたい。多分、兄がいても無駄にこき使われるだけだろうし、弟なんかうるさいだけで、なにもやってくれないと思う。姉は無駄にめんどくさいし………。
だが、妹はどうだ?妹はいい。最高だ。神だ。なんで妹教がこの世にはないのだろうか?おかしい。この世界は壊れてる。妹に「おにーちゃん!」って、言われて起こされたなら毎日元気に過ごせそうなのにな。
「起きな。今日は学校だぞ?」
「…………はぁ」
俺が目覚めて一番最初に飛び込んできた光景は、化粧なんかしなくたっていい顔立ちをしているのに、アイラインやらを入れてブラウンの目を無駄に大きくしている姉の姿だった。
「なんで俺の部屋で化粧するんだよ。化粧道具とかって臭いから嫌いなんだよ」
背中に掛かる無駄に長い髪をアホらしいピンクアッシュに染めて、毛先をくしゅくしゅしてるのは姉さんだ。
「時間の節約。かな?えー別にいいじゃん春樹ー。私は春樹【はるき】と一緒にいたいのー」
と、メイクが終わったのか姉はまだベットに座っている俺の腕にがっしりとしがみついてくる。
「嫌だ。抱きつくな」
柔らかな感触が腕を伝ってくる。いや、別に姉のやたら大きい胸に目を取られたりはしてないからな?あんなの脂肪の塊だからね?
「えー?ダメなの?」
と、目だけをこっちに向けて腕に顔を埋めてる。マスク効果だろうか?少し小顔に見える。
これが妹だったならば俺は「しょうがないなぁ。ちょっとだけだぞぉ」とか気持ち悪い顔を浮かべながらも言うんだろうが、相手は俺より年上のババア。
「ダメだダメだ」
「どーしても?」
目を潤ませて首を少し傾げて上目遣いというトリプルコンボ。これで大体の男は落ちるかもしれないが、俺には通用せん。あざといのは知ってる。元々そんな姉だしな。だからって俺が姉にデレることなんてない。全く、なんでこんなのが姉なんだ?こんなあざと姉さんよりかわいい妹ください。お願いします。
「というか姉さん。時間っ!!」
時間は7時半を指していた。
「あーやばーいっ!!」
ギャル語ですかね?姉さん。若作りしなくても若いってのに………
といっても、一歳しか変わらないか。
なんて思いながらも、俺はやっと重い腰を上げてクローゼットから新しい高校の制服を取り出して着替えを始める。
「えっ?ちょ、……ちょっと!!」
「あ?なに?姉さん」
なんでか知らないが焦る姉さんにパジャマを脱ぎながらもそう聞いてあげる。
「あ、あんた、恥ずかしくないの?」
手で顔を隠しながらも指の間からこっちを見ているのではっきり言って意味がない。というか何のために顔を手で覆ってるんだろ?
「え?なにが?」
少々うんざりしつつも制服の袖に腕を通しながらそう訊く。
「もういい!!」
バタンッ!!
一言言い残すと俺の部屋から勢いよく出て行った。
全く、朝から騒々しいな。というか、なんであんなに怒って出てったんだろ?
別に全裸になったわけでもないのにまるで裸でも見たかのような反応しやがって。おれだけ感情がないみたいな感じになっちまうじゃねえか。
そして、机の上には化粧道具が散乱としていた。
……はぁ。めんどくさい。
身支度を整えて俺は自分の部屋から出て居間に向かった。
俺の家は二階建の一軒家だ。玄関から入って階段がすぐある。一番奥にダイニングキッチンとテレビやら見れるような空間がある。いつもここで俺の姉である美香【みか】姉はぐうたらしている。二階は階段を上ってすぐ右が父母の部屋、俺の部屋は一番奥の部屋で、姉さんの部屋は俺の部屋から出てすぐの右側の部屋だ。
はぁ。すぐそこだというのに、俺の部屋で化粧をするのが当たり前のようになっている。化粧道具も全部俺の部屋に放置して行くし……全く、俺がそういう趣味みたいじゃねえか。
だが、俺も優しいな。毎朝のことながら化粧道具を片付けてあげるなんてすげえいい弟なんじゃね?
「…………姉さん?」
居間に入ると姉さんは髪を右手でかき上げながら本を読んでいた。だが、見た目がなんというか酷いな。バカらしくて本を読んでいるというか本が姉を読んでいるみたいな錯覚までしてしまうほどだ。
「はいこれ」
と、本に栞を挟んでトースターで焼いたパンをおれの前に無造作にポンと投げるように出す。
「………怒ってる?」
「なにが?」
女子のこういうところ………嫌いだな。
嫌悪感思いっきりプンプン出してるじゃん。臭えくらいだよ。それなのになにが『なにが?』なんだよ。わけがわかんねえ……
「いや、怒ってるよね?」
少し呆れたようにそう訊く。
「なに?怒ってないよ?」
ん?え?さっきまでの態度はなに?……コロコロ変わりすぎだろ?感情もいじるものも………今度は携帯か。バカらしさと携帯ってなんか合うよな。ビールには枝豆、パンには生卵みたいな感覚と同じだ。俺は卵かけご飯大好きだ。あれにふりかけをかけて一気にかき込んでも旨いし、納豆なんてあっても旨い。あれほど安上がりで旨い食べ物はないと思っている。親が貧乏性なんだ。移っても仕方ないよね?
「春樹ッ!!7時50分っ!!そろそろ行かないと間に合わないよっ!!」
「あ、うん。今行く」
のんびりトーストを食んでいたらそんな時間になっていたらしい。おれは残りのパンを飲み込むように平らげそのまま外に出た。
太陽だけが燦々と輝いている恐ろしいほどの日本晴れ。セミでも鳴き始めるんじゃねえかな?ってくらいにいい天気だった。
「春樹。行くよー」
と、自転車にまたがりながら玄関ポーチにぽつんと立っている俺にまだか?と、ダルそうにこっちにくる。
「あ、うん」
俺と姉さんは一緒に千葉県立小中橋【こちゅうばし】高校に自転車で向かう。距離は家から近く10分くらいだ。
まあ、あの高校に行くのも入試の結果を見に行った時以来だな。
そして、今日は入学式。俺はそんなに早く登校しなくてもいいのだが姉が来い来いうるさいのでついて来てあげた。
なので新入生にしては少し早めの登校になるだろう。
****
「じゃ、またね春樹ー」
と、姉は右手を大きくブンブン振って大声をあげる。
「あー。うん」
と、間の抜けた挨拶だけを返す。
よし、着いたぞ。
桜が満開。これだけでなんだか新学期って感じがする。
入学式っても俺にはそこまでやる気はなかった。高校デビューを果たしたいとかそんなことは微塵も思ってはなかった。ただ、普通に居たいのだ。張り出されていたクラスの一覧表みたいなやつを俺は見ていた。
なんでこんなにある中から探さなきゃならんのじゃ………
だが、人は指折数える程度しかいないため自分のクラスを探すのにそう時間はかからなかった。
あった。風見春樹【かざみ はるき】
えーっと、1ーFか。
で、場所は……下駄箱前の階段上がって四階……で、そこを右か。
それであるはずだ。
「1ーD………1ーE」
トイレを挟んで俺の一年通うことになる教室があった。
ガラガラガラ。
ドアを開けてクラスに入る。
そこにはまだ誰も来ていなかった。
一番か。なんか、優等生みたいで嫌だな。
俺はどっちかといえばバカな方だと自覚している。だからそこらへんの自覚のない「えー。俺僕私は馬鹿じゃないもんッ!!」みたいなことを言っている三流のバカとは一緒にされたくないと思っていたりする。
席も指定されているらしい。
俺は真ん中の一番後ろか。
ギィー。
椅子を引いただけなのに音が大きすぎる気がする。
誰もいない教室ってこんなに静かなものなのか。中学校の頃早く来て一人になったことも居残りさせられて一人になることもなかったし初めての体験だ。
なんだか落ち着かない。新しい環境でそわそわしてしまっている。これじゃ犬や猫と大して変わりゃーしないじゃないか。まあ、でもそこらへんにマーキングするわけでもないところを見ると俺は人間らしい。
だが、気づくと暇だったからか椅子をギシギシやって遊んでいた。
このバランスゲームというかこれ結構楽しいんだよな。後ろの背もたれに体重かけて二本足で椅子を立たせてバランスをとる。
で、どこまで背もたれを地面に近づかせれるかというのを暇だったからやっていた。
あと少しで新記録だ。無論測ったこととかないから見た目で決めている。だが、目印みたいなものもないため、新記録だの言っているがそれが本当に新記録なのかはわからないし、いつやってたのかでさえ定かではないため色々曖昧なことだらけである。
勢いをつけてギッコンバッコンやると一人シーソー的な感じで楽しいし、新記録に近づける気がする。
あと、少し…………
ガラガラガラッ!!ドンッ!!
と、俺が新記録開拓中に勢いよくドアが開いた。
その音にびっくりして俺は椅子ごとひっくり返ってしまう。
ドンッ!!
「………いってて」
「………あ、あの………だ、大丈夫………ですか?」
と、逆光で顔やらは見えないが、扉をあけて大きな物音がして怖かったのか少しビクビクしながらゆっくりとこちらに歩いてきた。
「あ……あはは。だ、大丈夫大丈夫!俺もドジだなぁ」
言い訳をしつつも、倒れた椅子を直しながら女の子の方を見た。
ガシャンッ!!
と、俺は不覚にも椅子から手を離してまた倒してしまう。
ふわりとした肩につくかつかないかくらいのボブカットに暗めのベージュ色の髪の毛が歩くたびにふわふわ踊る。
そして、彼女の顔立ちは童顔で、俺的にはどストライクと言える。え?ロリコン?いやー、そんなまさかねー?俺、風見春樹は決してロリコンではない。童顔な女の子が好きなだけだ。
彼女はすぐに俺から目を逸らしてしまうが、彼女の目は透き通った青い目をしていた。碧眼ってやつだ。そのサファイアのような美しい眼光に不覚にも俺は目を奪われてしまっていた。
「そ、そうですか………」
と、彼女は言うとキョロキョロ、ビクビクしながらも自分の席を確認しに前の黒板に歩いて行く。
彼女の声は弱々しく、目も泳ぎまくっている。心ここに在らずってわけでもないが、座ってからも緊張からかキョロキョロしている。プールなんかに友達といったらすぐに男の不良グループに絡まれそうな女の子だった。
あんなので一人でやっていけるのかね?
一見、クールで無口で高嶺の花。お堅い女の子っぽいがあの感じから言ってそうでもない。
すげえ…守りたい。
多分、こう思うのは俺だけではないはずだ。
***
放課後の教室。風が舞い込みカーテンがひらひらと舞う。そこに夕日が差し込む。なんとも幻想的な光景だ。そこに男子と女子が二人きり。告白やらをして青春の一ページを飾るならこうだ。
『お、俺の妹になってくださいっ!!』
…………と。
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる