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一話
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【一日嫁】
一話
「ただいま」
「おかえりなさい」
仕事から帰り、ネクタイを緩ませながらリビングに入ると、モコモコしたピンク色の服の上にエプロンを付けた黒髪の女性がキッチンに立ち、じゃがいもの皮をピーラーで剥いているのが見えた。
「あ、お風呂も湧いてるから。入ってきていいよ」
「あ、あぁ。うん」
俺はとりあえず、その女性に言われるがままに一日溜まりに溜まったストレスと汚れを落とすために風呂に入ることにした。
シャワーを浴び、湯船に浸かると気持ちがいい。思わず「あぁ……」と、声が漏れる。
そんな時、ひとつの足音が近づいてきた。
「あ、あの!こ、ここにタオル置いておくからね!」
「は、はい!」
思わず背筋をピンと張る。
その足音はドンドンと音を立ててどこかに去っていった。
俺は湯船に深く浸かり、はぁ……と、息をつく。
この状況だけくり抜けばさっきの女が俺の嫁、またはそれに近しい存在であるということだろう。
だが、違う。俺はまだ結婚なんかしてない。いや、してやるものか!結婚なんてめんどくさいだけ!だから、世界がどう言おうと結婚なんてしねえ!
日本国政府のお達しで、二十歳を超えた独身男性の家には一日嫁が来ることになった。
一日嫁とは、その名の通り一日だけ嫁が家に来るという制度で、どちらかが気に入れば続行、双方気に入らなければその時点で破局といったシンプルかつふざけた制度だ。
今回も例と同じ様に振ろうと思っている。別にこの人が嫌いとかそういう訳では無いが、結婚はなにかと面倒臭いし、誰ともそんな関係になりたいと思えた女性がいない。
いや、そもそも女性は苦手だ。怖い。だから、基本一歩身を引いて立ち振る舞うのが吉。そうでしかない!
俺は童貞のまま生涯を終えてやるんだ!と、二十五歳の俺は決心しつつ、風呂を出て部屋着に袖を通してリビングに入る。
「ご飯出来ましたよ。今日のは自信作なんです!」
歳は俺と変わらないか下くらいだけど、妙に色っぽいというか美人な顔つきが、ニコッと微笑むとゾッと背筋が凍った。
どこかで感じた事のある恐ろしさのようなものを感じたのだ。
「どうしました?」
心配そうに彼女の青っぽい瞳が俺を覗いた。
「い、いや。なんでもない。それに先に言わせてもらうが、俺は結婚もなにも望んじゃいないし、いくら接待受けても君が頑張ってもいい答えは出せないよ。だから、ごめん」
ちょっと崩れてしまったとはいえ、基本、これが定型文だ。これを言ってしまえば何このクズ男!甲斐性なし!となり、この話は俺が何をする訳でもなく勝手に流れる。
「そう……だよね。でも、諦めないよ?」
「そうそう、諦めて……え?」
俺が思ったのとは違う答えが返ってきたことに、頭の整理が全くつかない。どうして?いつもこれで大丈夫だったのに。
「……久しぶりだね。ひろ君」
彼女は妖艶に青い瞳を光らせて、口角を緩ませた。身の危険を感じた俺は俯き、黙る。
……なんでだ?自己紹介すらまだしてないのに、なんで俺の下の名前知ってんだ?それもその呼び方……小学校時代のあだ名じゃねえか。
……もうあれから二十年近く経った。まさか。あいつなわけない。
じっとりと額に脂汗を掻きつつも、下げた顔をゆっくりと上げると、懐かしいというか忌まわしい顔つきが昔のあの日のように不吉な笑みを浮かべていた。
一話
「ただいま」
「おかえりなさい」
仕事から帰り、ネクタイを緩ませながらリビングに入ると、モコモコしたピンク色の服の上にエプロンを付けた黒髪の女性がキッチンに立ち、じゃがいもの皮をピーラーで剥いているのが見えた。
「あ、お風呂も湧いてるから。入ってきていいよ」
「あ、あぁ。うん」
俺はとりあえず、その女性に言われるがままに一日溜まりに溜まったストレスと汚れを落とすために風呂に入ることにした。
シャワーを浴び、湯船に浸かると気持ちがいい。思わず「あぁ……」と、声が漏れる。
そんな時、ひとつの足音が近づいてきた。
「あ、あの!こ、ここにタオル置いておくからね!」
「は、はい!」
思わず背筋をピンと張る。
その足音はドンドンと音を立ててどこかに去っていった。
俺は湯船に深く浸かり、はぁ……と、息をつく。
この状況だけくり抜けばさっきの女が俺の嫁、またはそれに近しい存在であるということだろう。
だが、違う。俺はまだ結婚なんかしてない。いや、してやるものか!結婚なんてめんどくさいだけ!だから、世界がどう言おうと結婚なんてしねえ!
日本国政府のお達しで、二十歳を超えた独身男性の家には一日嫁が来ることになった。
一日嫁とは、その名の通り一日だけ嫁が家に来るという制度で、どちらかが気に入れば続行、双方気に入らなければその時点で破局といったシンプルかつふざけた制度だ。
今回も例と同じ様に振ろうと思っている。別にこの人が嫌いとかそういう訳では無いが、結婚はなにかと面倒臭いし、誰ともそんな関係になりたいと思えた女性がいない。
いや、そもそも女性は苦手だ。怖い。だから、基本一歩身を引いて立ち振る舞うのが吉。そうでしかない!
俺は童貞のまま生涯を終えてやるんだ!と、二十五歳の俺は決心しつつ、風呂を出て部屋着に袖を通してリビングに入る。
「ご飯出来ましたよ。今日のは自信作なんです!」
歳は俺と変わらないか下くらいだけど、妙に色っぽいというか美人な顔つきが、ニコッと微笑むとゾッと背筋が凍った。
どこかで感じた事のある恐ろしさのようなものを感じたのだ。
「どうしました?」
心配そうに彼女の青っぽい瞳が俺を覗いた。
「い、いや。なんでもない。それに先に言わせてもらうが、俺は結婚もなにも望んじゃいないし、いくら接待受けても君が頑張ってもいい答えは出せないよ。だから、ごめん」
ちょっと崩れてしまったとはいえ、基本、これが定型文だ。これを言ってしまえば何このクズ男!甲斐性なし!となり、この話は俺が何をする訳でもなく勝手に流れる。
「そう……だよね。でも、諦めないよ?」
「そうそう、諦めて……え?」
俺が思ったのとは違う答えが返ってきたことに、頭の整理が全くつかない。どうして?いつもこれで大丈夫だったのに。
「……久しぶりだね。ひろ君」
彼女は妖艶に青い瞳を光らせて、口角を緩ませた。身の危険を感じた俺は俯き、黙る。
……なんでだ?自己紹介すらまだしてないのに、なんで俺の下の名前知ってんだ?それもその呼び方……小学校時代のあだ名じゃねえか。
……もうあれから二十年近く経った。まさか。あいつなわけない。
じっとりと額に脂汗を掻きつつも、下げた顔をゆっくりと上げると、懐かしいというか忌まわしい顔つきが昔のあの日のように不吉な笑みを浮かべていた。
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