今度こそ自由に生きたい

蓮衣

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転生前の話

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静かで真っ暗で、不気味な…それでいて何故か落ち着く空間に、気づいたら私はそこに突っ立っていた。
真っ黒なこの空間は、上下関係がわかりずらく、迂闊うかつに動けない。動こうものなら、体制を崩し倒れ込んでしまいそうなとこだから。
周りを見渡しても、目に映るのは黒、黒、黒。
何も無く、誰もいない。不気味なほど静かな場所。だけど同時に、神秘性すら見いだせそうな空間。こんなとこは二つの生前でも知らない。あるわけがない。
なんで私はこんなとこに立っているのか、わからない。
私は普通に“振舞っていた”はず。
私のあの記憶は誰にも話していないから。
だから私は、交通事故で死に、こんな所にも来ないで生まれ変わっていたはずなのに。
疑問は尽きず、私は飽きもせず視線をさまよわせていた。そんな私の視界に、人の形をした何かが見えた。
それを見て、ふと親近感が湧いた。何故そんなものを抱くかと聞かれればわからない。ただ、なんとなくソレの正体を知っているような気がする。
何故知っているのかはわからない。
どこか出会ったような、そんな気がしてならない。だから私はソレに話しかけよう。まるで久しぶりの親友に話しかけるような親しさで。
そうするのが普通であるような気がするから。

【とある神様視点】
ある人間を私は見ていた。
その人間は私のお気に入りだった。
出来が良すぎるためにとある事が起こり傷ついたはずなのに、人を愛すことをやめられず、いつの間にか辛い独りの現実を受け入れ、前に進もうと足掻きに足掻いていた、その面白い人間を。しかも、もう一つ記憶を所持しているときた。そんな人間、かなりの確率でしか生まれないのに。だから私はその人間の暮らしを眺めたり、地上に赴き、共にイタズラして遊んだりした。とても楽しかった。
たまに会いにいっては部下に怒られてたなぁ…。私たちの存在が露見ろけんするのは好ましくないからと、彼女から私の記憶を消されてしまった。
でも私は何度でも会いに行った。毎回初対面として会うから、驚く反応が面白く、様々な現れ方をして驚かせたりもした。忘れられて驚かれるのは少し辛いが、それも仕方のないことだと何時いつしか割り切っていた。
とても楽しく、充実していた。独りを抜け出し、幸せに老いて死んだら、私の部下にして私と遊んだ記憶も取り戻させてしまおうなど考えていた。
だがある日、その人間は死んだ。
死因は単なる事故死だった。その人間はまだ高校生で、これからまだまだ生きて、私を楽しませるはずだった。
でも死んでしまってはもう無理であった…部下にしてもいいが、だが、まだ楽しめる余生を突然失わされたあの者に同情した。独りから抜け出すさまをまだ見てもいないし、生きてる間にしか楽しめないこともあるだろうから。それなのにこんなハメになろうとは…。そう落ち込み仕事が手につかない私に、部下の一人が《ある方》からの驚くべき伝言を持ってきた。ある方は私よりも何倍も強く偉く、そして賢い。何人もの神と天使が彼に忠誠を捧げるのもおかしくはないほどに。
そしてそんな方からの手紙。
それの内容は、簡単に言えば『これまで以上に仕事にも精を出すのなら、一つくらいわがままを聞こう。』というものだった。
それにどれだけ感謝したか…生きることへの楽しみを失った私にとって、それは願ってもみないことだったゆえに、決断にはそう時間はかからなかった…いや、全くかからなかった。何故なら、すぐさまそれを私は承諾したのだ。
仕事が増えるくらいなんだ。
あの者が楽しく過ごし、私も楽しく過ごせる方がよっぽど重要だ!と言い切る私に、周りの部下はそれはもう…。

ドン引きした。

ドン引きしてるのが傍から見てバレバレな程にドン引きしていて、これにはさすがの私も居た堪れず、言ったことを後悔していた。
だがそれよりも、あの者に会い、転生してもらわねば。
あの者が好きなゲームに転生させたらどうなるだろうか…喜んでくれるだろうか…驚かせられるだろうか…ああ、今からでも楽しみだ。
そうニヤニヤして使い捨ての亜空間を作り出し、その者の魂を呼び寄せる。
そして手元にきた彼女を見つめながら思う。
ああ、早く目覚めておくれ、と。
そして話し合おうじゃないか。
君がこれか歩む人生設計を共に。
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みんなの感想(2件)

鈴杏
2016.05.12 鈴杏

蓮衣さんの小説を読み、凄く続きが気になりました!
私の我が儘でありますが、このお話の続き書いて頂けますか?

応援しています!

解除
鈴杏
2016.05.12 鈴杏

蓮衣さんの小説を読んで先が気になりました。
私の我が儘ですが、よろしければ物語の続き書いて頂けますか?

応援しています!

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