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34 幸せとはどんなものなのか

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 それから数日後、ボルバー様と元父の処分の内容を教えてもらった。
 二人共、流刑が決まったということだった。
 驚いたことに元父たちは入国時に正規ルートで入国していなかった。

 だから、入国管理局から追われていたんだそう。

 強制送還ではなく流刑になったのは、セナ殿下や両陛下が裏で手を回したのだと思われる。

 流刑地になる島は海に囲まれていて、それだけではなく、人が住めるような平地は高い山に囲まれている。
 草原には動物が放牧されており、そのお世話をするのが彼らへの罰となった。

 凶悪犯が送られる刑務所とは違うので、ある程度の自由はある。
 でも、世話をしてくれる人がいないため、自給自足の生活を送らなければならない。

 監視もいるから、完全に自由ではないけれど、刑務所に入れられるよりかはマシでしょう。

 管理者の人が言うには、とても気性の荒いヤギがいるらしく、気に入らないと思う人間には突進して、何人も怪我をさせられているという。
 ボルバー様達も被害に遭うかもしれない。

 だって、管理者の人が言うには性格の悪い人間ばかり選んでいるというから。

 しかも、しつこく追い回すらしいので、自分達も私やお母様の気持ちを理解するきっかけになるのではないかと思っている。

 そして、元継母のパララー様達もどうしているのか気になって調べてもらった。

 パララー様達はお金を持って逃げたのはいいものの、金銭感覚がおかしくなっていたせいで、すぐにお金がなくなってしまった。

 だから、レモンズ侯爵邸に戻ったらしいけど、当主が他国で捕まっただけでなく、流刑されたと聞いて途方に暮れた。

 しかも、カバードに家督を継がせるのではなく、元父は爵位を返上した。

 カバードに継がせるのは嫌だったみたいだ。

 それがなぜかはわからない。
 考えられるとしたら、お父様にはカバードが自分の子ではないという自信があるのかもしれない。

 もしかしたら、伯父様の子供でもなかったりして……?

 そうだったとしたら、パララー様もシルバートレイの餌食にしておけば良かったと思うわ。

 ちなみに、元父が私に払えと言っていたお金は、当たり前のことかもしれないが払わなくてよくなった。 

 アフォーレとカバードは私と仲直りしたいと何度も手紙を送ってきていた。
 今はパララー様の知り合いの家に住まわせてもらっているから、手紙を書くことくらいはできるらしい。

「手紙にはなんて書いてあったの?」

 手紙を読み終えたあと、昼食の席で眉根を寄せていたからか、お母様が尋ねてきた。

「私には第二王子妃なんて向いてないから、アフォーレと交代したほうが良いと書かれていました」
「どうして、アフォーレさんはアーティアじゃ駄目だと言うのかしら」
「セナ殿下が可愛いからだそうです」
「どういうこと?」

 不思議そうにするお母様に説明する。

「自分のほうが可愛いから、セナ殿下に似合うと思っているんです。見た目はアフォーレも可愛いですから」
「……アーティアだって可愛いわ!」
「ありがとうございます。お母様。でも、私はお母様の若い頃によく似ていると言われますよ」
「私は可愛くなかったけど、アーティアは可愛いわ」

 お母様は今までの時間を取り戻そうとしているかのかわからないが、かなりの親バカになっている。
 
 ただ、お母様の若い頃によく似ているとキレーナ公爵達が言うから、自分を悪く言い過ぎても、お母様を悪く言っていると受け取られてしまうかもしれないので、あまりこの話題には触れないことにした。

「ところで、お母様はキレーナ公爵とはどうするんですか」
「えっ!? どうして、いきなりそんな話になるの?」
「色々とお世話になってますし、人としても良い人なので、私はキレーナ公爵を応援しているんです」
「わ、私のことは良いのよ」

 お母様はこほんと咳払いをしてから、優しい笑みを浮かべて話す。

「あなたが幸せになってくれたら、私も自分の幸せを考えるわ」
「キレーナ公爵の幸せも考えてあげてください」
「あのね、アーティア。あなたにはまだわからないかもしれないけれど、子どもの幸せが親の幸せでもあるの。私と結婚するとなったら、ラフ様はあなたの父親になるということ。ということは?」
「私の幸せを優先してくれる人じゃないと、お母様は再婚しないということですね」

 親の幸せは子供の幸せでもあるから、お互い様というところなのかしら。

「私はもう大人ですよ」
「大きくなっても自分の娘はいつまでたっても大事な子供よ。アーティアも子供を生めばわかると思うわ」
「子供を生んでも自分のことが一番可愛いと思いそうで怖いんですけど」
「それはそれで良いと思うわ。でも、育児放棄をしちゃ駄目よ。本当に疲れたら、あなたはナニー達に預けておけば良いんだから」
「愛情を持てなかったらどうしたら良いでしょう」
「そんなことになったとしても、セナ殿下があなたをちゃんと導いてくれるはずよ」
「そうですね。セナ殿下は真面目ですし、嫌なことを言われても私のために言ってくれているんだと思えますし」

 セナ殿下と私は今の状態でいけば、結婚することになる。

 家督もセナ殿下に継いでもらえることになったし、私としては婿として申し分ない人だ。

 セナ殿下は公務と公爵家の引き継ぎ業務で大変らしく、ここ最近は会えていない。

 会えないと寂しく感じてしまうだなんて、こんな感情は今までに感じたことがなかったから、どこか戸惑っている自分もいる。

 お父様はお母様に、こんな感情を抱いていたのかしら。
 それならそれで、もっと大事にすべきだったわよね。

 子供よりも妻が好きだという気持ちがあってもおかしくはないけれど、嘘をつくのも良くないし、虐待なんてもってのほかだわ。

 お母様がキレーナ公爵と再婚したということが、お父様にとって一番辛い出来事になるでしょうから、私としてはお母様達には早く結婚してほしいわ。

 そして、アフォーレ達がショックなのは私が幸せになることでしょう。

 だから、絶対にセナ殿下と幸せになってあげるつもりだ。

 そう心に誓っていると、メイドがやって来て来客を知らせる。

「セナ殿下が急ぎの用事があるとのことで、お見えになっています」
「あら、噂をすればというやつね」

 お母様が反応して微笑む。

 急ぎの用事というのが嫌な予感がするわ。

 だけど、久しぶりに会えるのは嬉しい。

 応接室に案内してもらうようにお願いしてから、急いでセナ殿下に会うための身支度を整えることにした。






あと1話で終わりになります。

「私の人生は私のものです」という新作を投稿しましたので、そちらでもお会いできましたら幸いです。
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