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27 用件とはなんなのか

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「何なんだ、あいつ」

 セナ殿下が呆れた顔で呟いた。

「ボルバー様をまともに相手にするだけ無駄ですよ」
「そうだな」

 冷めた目でボルバー様を見つめていると、キレーナ公爵が「あとは処理しておくよ」と言ってくれた。
 
「もし、警察署に着いても馬車から降りることを嫌がるようでしたら、馬車を燃やすふりをすれば良いかと思います」
「もったいないが、どうしても出てこないのなら本当に燃やしても良いと伝えておくことにしよう」

 私の提案に対して、キレーナ公爵は恐ろしい返答をしてきたけど、深く突っ込まないことにした。
 
 本当に燃やされることがあったとしても、それは馬車の外に出なかったボルバー様が悪いのだから自業自得だ。
 でも、エロージャン公爵の馬車だから勝手に燃やすのは、やっぱり良くないかしら。

「アーティア! お前は俺の運命の女なんだ! 絶対に諦めないぞ! 俺のしつこさでお前が根負けするまで諦めないからな!」
「おい、恐ろしいこと言ってるぞ」

 窓を開けて叫んだボルバー様を指差して、セナ殿下が呆れた顔で言った。

 本当に迷惑な人だわ。
 今まであんな調子でよく生きてこられたものだと、運の良さだけは尊敬に値するけど。

「許されるなら本人ごと燃やしたほうが良いかもしれませんね。馬車が気の毒ですけど」
「彼を燃やす人間も気の毒だろう。彼だって人間なんだから、人間を殺してしまったといって罪の意識にさいなまれるかもしれない。不敬罪としてどうこうするならまだしも、馬車から出ないだけだろ? それで殺すのは良くない」
「痛い目に遭わないとわからない人はわかりませんよ。まあ、燃やすというのはやり過ぎだということはわかっています」

 セナ殿下と話をしている途中で馬車が動き出す音が聞こえて振り返った。

「アーティア! 待っていてくれ! 絶対に戻るからな! セナ殿下と婚約を進めるだなんて許さないぞ! 俺よりもお前を幸せにできる奴はいないんだからな!」
「私を幸せにしてくれる人はたくさんいると思いますが、ボルバー様よりも私を不幸に出来る人は中々いないと思います」

 私の返答はボルバー様の耳には届いていないらしく、彼は笑顔のままだ。

「もう二度と近寄らないでくださいね。さようなら。牢屋の中でお元気で」

 遠ざかっていく馬車に別れの挨拶を告げて笑顔で手を振ると、ボルバー様も笑顔で手を振ってきた。

 セナ殿下が遠い目をして話す。

「あいつ、不敬罪を何だと思ってるんだ。簡単に出られると思ってるのかな」
「不敬罪という言葉を知っていても、俺は偉いから何とかなると思っているんじゃないですか」
「何とかなるわけないだろ」

 セナ殿下は私にツッコミをいれても仕方がないと思ったのか、投げやりな口調で呟いた。

 そうだわ。
 用件を確認しなくちゃ。

「セナ殿下、簡単にご用件をお聞きしても良いですか?」
「ああ。実は君を」
「アーティアぁ! 待っててくれ! 必ず迎えに行くからなぁ!」
「「うるさい!」」

 セナ殿下が話している最中に言葉をかぶせてきたので、私たちは同時に後ろを振り返って叫んだ。

「二人で幸せになるんだ!」

 訳のわからないことを言っているボルバー様を乗せた馬車はすぐに見えなくなり、セナ殿下は小さく息を吐く。

「ああいうタイプが一番面倒だな」
「申し訳ございません」
「アーティアが謝ることじゃないだろ」
「あの人、私に会いにわざわざ国を渡って来てますからね」

 ため息を吐いたあと、キレーナ公爵とエロージャン公爵の静かな喧嘩が始まっていたので、そちらを指差す。

「どうでも良いんですけど、あの人、どうやって帰るんですかね」

 エロージャン公爵はボルバー様が乗ってきた馬車で一緒に来ていたみたいだし、置いて行かれたのなら、自力で帰らなくてはならない。

「……どうするんだろうな」

 呆れ顔でセナ殿下は首を傾けてから、咳払いをして話題を戻す。

「今日の用件だが、俺たちの結婚に対して一部の貴族から反対意見が出ているんだ。だから、そのことについて話をしようと思って来た」
「それはそうでしょうね。わざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます」

 私が貴族の立場だったら、ポッと出の令嬢よりも、エロージャン公爵のように自分の娘を第二王子に嫁がせたいと思うものね。
 でも、王命なのに文句を言えるということは、よっぽど、この国は良い国なのね。
 
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