上 下
25 / 35

25 殿下とはどういう関係なのか

しおりを挟む
「おい、何をボーっとしてるんだ! この方は公爵閣下なんだぞ! 頭を下げろ!」

 どうして、ボルバー様に偉そうに言われないといけないのかわからない。
 でも、相手が公爵閣下であるならば、頭を下げざるをえなかった。

「失礼な態度を取ってしまい、申し訳ございませんでした」

 言われるがままに頭を下げると、エロじゃん公爵、ではなく、エロージャン公爵は叫ぶ。

「あなたのような女性がセナ殿下の妻になるだなんてありえませんし、そんなことは絶対にさせませんよ。セナ殿下の妻になるのは私の娘です!」
「……どういうことでしょうか」

 頭を上げて尋ねると、エロージャン公爵は眉根を寄せて答える。

「あなたは本当に馬鹿な女なんですね。暴力でしか自分を表現できないと女性だと聞きましたが、本当のことのようだ」
「そこが彼女の良いところなんです!」
「あなたはちょっと黙ってて」

 ステッキでボルバー様の喉を軽く突くと、ゲホゲホと咳き込みながら、彼は苦しそうな顔で後退した。
 すると、エロージャン公爵は失笑する。

「ほら、見なさい。暴力で解決しようとしている」
「話を聞いてくれない相手でしたので、実力行使に出ただけです」
「暴力をふるわずに説得すれば良いんですよ。それが出来ないのは」

 エロージャン公爵が話をしている途中で、見慣れた馬車が彼らが乗ってきた馬車の近くに停まった。

 御者によって扉が開かれ、中から出てきたのは、ラフな格好をしたセナ殿下だった。

「アーティア、こんな所で何をしてるんだよ」
「おお、セナ殿下! まさか、こんなところでお会いできるとは思いませんでした!」

 私が反応するよりも先に、エロージャン公爵が満面の笑みを浮かべて、セナ殿下に近付いていく。
 逆にボルバー様は逃げるように自分が乗ってきた馬車の中に入っていった。

「なんだ。エロージャン公爵か。どうしてここにいるんだ?」
「それはもちろん、セナ殿下とそこにいる野蛮な小娘との婚約を解消させるためでございます」
「はあ? 余計なお世話だよ。俺とアーティアの婚約は俺の両親が決めた決定事項だぞ」

 セナ殿下はエロージャン公爵に冷たく答えると、様子を見守っていた私に話しかけてくる。

「手に持ってるやつ、どうしたんだ?」
「ごきげんよう、セナ殿下。これは武器です」
「そうだろうなとは思ったけど、誰からもらったんだよ」
「小娘のことです。どうせ、キレーナ公爵家から盗んで持ってきたのでしょう」

 私への質問なのに勝手に答えて侮蔑の視線を送ってくるエロージャン公爵に苛立ってしまう。

 ステッキで目でも突いてやりたい気分だけど、これくらいの理由でそんなことをやってはいけないと思い、ここは我慢してセナ殿下に訴える。

「盗んでなんていません。これは、キレーナ公爵から貸してもらったんです」
「キレーナ公爵からだと? 盗んだ上に、そんな嘘までつくとは信じられませんね!」

 エロージャン公爵は両手を広げて肩をすくめた。

 なんだか腹が立つわ。
 ステッキで突いてさしあげたいけど、さすがに駄目よね。

 落ち着きましょう。
 イライラしたら負けよ。

「セナ殿下、彼女と結婚なんて絶対にあってはならないことです。後悔することになりますよ!」
「うるさいな。あなたにどうこう言われたくない。それに彼女は盗みを働くような女性じゃない」
「そんなことはわかりません! 殿下、騙されないでください!」
「いいかげんにしろ!」

 セナ殿下が声を荒らげた時、私の背後から声がエロージャン公爵に話しかける人物がいた。

「エロージャン公爵、好き勝手なことを言っておられますが、そのステッキは私が彼女に渡したものです。彼女は盗んでなんていませんよ」

 現れたのはキレーナ公爵で、彼は笑みを浮かべて、エロージャン公爵に謝罪を求める。

「アーティアに謝ってください」
「そうだ。これは俺からも言わせてもらう。アーティアに謝れ」

 エロージャン公爵は、焦った顔をしてキレーナ公爵とセナ殿下を見つめたあと、渋々といった態度で謝ってくる。

「……すみませんでした」

 心から謝ってくれてないわよね。
 
 まあ、いいわ。

「謝罪を受け入れますが、一つお聞きしたいことがあります」
「な、なんです?」
「セナ殿下とエロージャン公爵閣下のご息女は、過去に恋仲だったりするのですか?」

 私の質問に「はあ?」とセナ殿下が聞き返してきた。

 そして、エロージャン公爵は苦虫を噛み潰したような顔になったのだった。


しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

妹に全てを奪われた私、実は周りから溺愛されていました

日々埋没。
恋愛
「すまないが僕は真実の愛に目覚めたんだ。ああげに愛しきは君の妹ただ一人だけなのさ」  公爵令嬢の主人公とその婚約者であるこの国の第一王子は、なんでも欲しがる妹によって関係を引き裂かれてしまう。  それだけでは飽き足らず、妹は王家主催の晩餐会で婚約破棄された姉を大勢の前で笑いものにさせようと計画するが、彼女は自分がそれまで周囲の人間から甘やかされていた本当の意味を知らなかった。  そして実はそれまで虐げられていた主人公こそがみんなから溺愛されており、晩餐会の現場で真実を知らされて立場が逆転した主人公は性格も見た目も醜い妹に決別を告げる――。  ※本作は過去に公開したことのある短編に修正を加えたものです。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。 流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。 異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。 夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。 そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。 自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。 [もう、彼に私は必要ないんだ]と 数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。 貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜

よどら文鳥
恋愛
 ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。  ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。  同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。  ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。  あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。  だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。  ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。

(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です

青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。 目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。 私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。 ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。 あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。 (お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)  途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。 ※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

処理中です...