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22 約束とはなんなのか
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すぐに温かなスープが運ばれてきたので、メイドと共に部屋に戻った。
お母様は今までほとんど食べていなかったからか、スープを一杯飲み終えただけで、お腹が一杯だと言った。
昔の私はろくに食事を出してもらえなかったから、いつもお腹をすかせていて、スープくらいでは満たされなかった。
心が不健康だと食欲もわかなくて、その内、胃が小さくなってしまうのかしら。
お母様をこんなふうにするなんて、お父様には本当に反省してほしい。
いや、反省どころではないわね。
というか、お母様と会おうとしていたみたいだけど、どういうつもりなのかしら。
お母様との話が一段落して部屋から出た時には、両陛下やセナ殿下はすでに城に戻っていた。
セナ殿下が両陛下に話をしてくれたらしく、私やお母様が精神的に落ち着いたら、ゆっくり話をしようという伝言が残されていた。
両陛下に気を遣わせてしまうなんて、本当に申し訳ないわ。
そういえば、セナ殿下と結婚したら、お二人は私の義理の両親になるってこと?
ありえないわ。
私が第二王子妃になんてなったら、この国は恐ろしいことになるんじゃないかしら。
……そうだわ。
どうして、私とセナ殿下が結婚しないといけなくなったのか、聞くのを忘れていた。
その日の夜は、お母様と同じ部屋で眠ることになったので、そのことを聞いてみることにした。
キングサイズのベッドなので、枕を並べて一緒に横になって話しかける。
「お母様、質問しても良いですか?」
「何かしら」
「どうして、お母様は私を連れて母国へ帰ろうとしたんですか? 嫁入りしていたのなら、無理に帰らなくても良かったのではないでしょうか」
「……そのことなんだけれど、元々はレモンズ侯爵家には今の王妃陛下が嫁ぐはずだったの」
「そうだったんですか?」
頷いて、お母様は話を続ける。
「あなたのお父様は現在の王妃陛下、クーラ様が嫁いでくることを望んでいて、結婚の契約書まで交わしたわ。けれど、突然、その契約を変更しろと言い出したの」
「約束を破ったとお父様に言っていたのは、そのことですか?」
「それもそうだけど、私が言っていたのは、そのことじゃないわ。それは後で話をするわね。で、話題を戻すけれど、あなたのお父様は結婚相手を私に変更したいと言い出したの。パーティーで見かけた時に一目惚れしたと言われたわ」
呆れた理由だわ。
でも、どうして、お父様ごときがそんなワガママを言えたのかしら。
「……あの、どうして、王妃陛下がお父様のところへ嫁がないといけなくなったんですか?」
「当時のレモンズ侯爵家の当主、あなたのお祖父様のことね。お祖父様は立派な軍人で、先代のリシャール王国の国王陛下を助けたことがあったの」
「……昔は他国と戦争をしていたんでしたっけ」
少し考えてから尋ねると、お母様は頷く。
「そうよ。あなたのお祖父様は同盟国の軍人だったから、先代の陛下を助けたの。その時に陛下が助けてくれたお礼をしたいと言ったそうよ。その時に、息子が望む女性がいたら嫁に欲しいと言ったと聞いたわ」
「では、先代の国王陛下が選んだ相手が現在の王妃陛下だったということですか?」
「そうなの。だけど、あなたのお父様が途中で私に変更したのよ」
「お父様は次男ですよね? 伯父様の妻になる話は出なかったんですか?」
「ええ。その時には、元お義兄様は結婚しておられたから」
お祖父様はお父様が駄目な男だから、出来た嫁が欲しかったんじゃないかしら。
リシャード王国の国王陛下は現在の王妃陛下を差し出そうとしたけれど、お父様がワガママを言って、無理矢理、お母様に婚約者を変更したのね。
王妃陛下はこの時点では悪くない。
でも、謝っていた理由はわかった。
王妃陛下はお母様が旅立つ時に自分に男児が生まれ、お母様に女の子が生まれたら許嫁にしたいとお願いしたんだそうだ。
そうすれば、お母様が国に戻りやすくなると考えたのでしょう。
実際、お母様は約束を守るために、私を連れて国に帰ろうとしていたしね。
お母様が国に帰ろうとしていた理由はそれだけではなかった。
ロソイト家の後を継ぐはずだった、お母様の弟が病気で亡くなったため、次期当主が必要になった。
もしものためにとお母様は嫁入りする時に、弟に何か遭った際には、お父様が婿養子になり、ロソイト家に住むという約束をさせていた。
だから、お父様は、現在はこの家に住んでいなければならなかった。
でも、ちょうど同じタイミングで伯父様が亡くなった。
レモンズ家の当主は、お父様の弟が継ぐと思っていたら、お父様が継いでしまったらしい。
これが、お父様が一つ目の約束を破ったということになる。
キレーナ公爵が代理を務めてくれることになり、ロソイト家は潰れずに済んだ。
でも、キレーナ公爵は独身だったし、新たな後継者問題も出てくる。
お母様は約束を破られたかわりに、お父様と新しい約束をした。
私が物心付く前に、私と共に国に帰らせてもらえるという約束だ。
私を王太子殿下の婚約者にするつもりだった。
お父様は今度こそ約束は守ると言ったらしい。
でも、お父様はまた、約束を破ろうとしたのだ。
「あの人、私には優しかったのよ。だから、騙されてしまった。結局、あの人は自分の思い通りになることしか頭になかった。あなたを巻き込んでしまって本当にごめんなさい」
お母様は出て行った日のことを思い出したのか、涙を流した。
お母様は今までほとんど食べていなかったからか、スープを一杯飲み終えただけで、お腹が一杯だと言った。
昔の私はろくに食事を出してもらえなかったから、いつもお腹をすかせていて、スープくらいでは満たされなかった。
心が不健康だと食欲もわかなくて、その内、胃が小さくなってしまうのかしら。
お母様をこんなふうにするなんて、お父様には本当に反省してほしい。
いや、反省どころではないわね。
というか、お母様と会おうとしていたみたいだけど、どういうつもりなのかしら。
お母様との話が一段落して部屋から出た時には、両陛下やセナ殿下はすでに城に戻っていた。
セナ殿下が両陛下に話をしてくれたらしく、私やお母様が精神的に落ち着いたら、ゆっくり話をしようという伝言が残されていた。
両陛下に気を遣わせてしまうなんて、本当に申し訳ないわ。
そういえば、セナ殿下と結婚したら、お二人は私の義理の両親になるってこと?
ありえないわ。
私が第二王子妃になんてなったら、この国は恐ろしいことになるんじゃないかしら。
……そうだわ。
どうして、私とセナ殿下が結婚しないといけなくなったのか、聞くのを忘れていた。
その日の夜は、お母様と同じ部屋で眠ることになったので、そのことを聞いてみることにした。
キングサイズのベッドなので、枕を並べて一緒に横になって話しかける。
「お母様、質問しても良いですか?」
「何かしら」
「どうして、お母様は私を連れて母国へ帰ろうとしたんですか? 嫁入りしていたのなら、無理に帰らなくても良かったのではないでしょうか」
「……そのことなんだけれど、元々はレモンズ侯爵家には今の王妃陛下が嫁ぐはずだったの」
「そうだったんですか?」
頷いて、お母様は話を続ける。
「あなたのお父様は現在の王妃陛下、クーラ様が嫁いでくることを望んでいて、結婚の契約書まで交わしたわ。けれど、突然、その契約を変更しろと言い出したの」
「約束を破ったとお父様に言っていたのは、そのことですか?」
「それもそうだけど、私が言っていたのは、そのことじゃないわ。それは後で話をするわね。で、話題を戻すけれど、あなたのお父様は結婚相手を私に変更したいと言い出したの。パーティーで見かけた時に一目惚れしたと言われたわ」
呆れた理由だわ。
でも、どうして、お父様ごときがそんなワガママを言えたのかしら。
「……あの、どうして、王妃陛下がお父様のところへ嫁がないといけなくなったんですか?」
「当時のレモンズ侯爵家の当主、あなたのお祖父様のことね。お祖父様は立派な軍人で、先代のリシャール王国の国王陛下を助けたことがあったの」
「……昔は他国と戦争をしていたんでしたっけ」
少し考えてから尋ねると、お母様は頷く。
「そうよ。あなたのお祖父様は同盟国の軍人だったから、先代の陛下を助けたの。その時に陛下が助けてくれたお礼をしたいと言ったそうよ。その時に、息子が望む女性がいたら嫁に欲しいと言ったと聞いたわ」
「では、先代の国王陛下が選んだ相手が現在の王妃陛下だったということですか?」
「そうなの。だけど、あなたのお父様が途中で私に変更したのよ」
「お父様は次男ですよね? 伯父様の妻になる話は出なかったんですか?」
「ええ。その時には、元お義兄様は結婚しておられたから」
お祖父様はお父様が駄目な男だから、出来た嫁が欲しかったんじゃないかしら。
リシャード王国の国王陛下は現在の王妃陛下を差し出そうとしたけれど、お父様がワガママを言って、無理矢理、お母様に婚約者を変更したのね。
王妃陛下はこの時点では悪くない。
でも、謝っていた理由はわかった。
王妃陛下はお母様が旅立つ時に自分に男児が生まれ、お母様に女の子が生まれたら許嫁にしたいとお願いしたんだそうだ。
そうすれば、お母様が国に戻りやすくなると考えたのでしょう。
実際、お母様は約束を守るために、私を連れて国に帰ろうとしていたしね。
お母様が国に帰ろうとしていた理由はそれだけではなかった。
ロソイト家の後を継ぐはずだった、お母様の弟が病気で亡くなったため、次期当主が必要になった。
もしものためにとお母様は嫁入りする時に、弟に何か遭った際には、お父様が婿養子になり、ロソイト家に住むという約束をさせていた。
だから、お父様は、現在はこの家に住んでいなければならなかった。
でも、ちょうど同じタイミングで伯父様が亡くなった。
レモンズ家の当主は、お父様の弟が継ぐと思っていたら、お父様が継いでしまったらしい。
これが、お父様が一つ目の約束を破ったということになる。
キレーナ公爵が代理を務めてくれることになり、ロソイト家は潰れずに済んだ。
でも、キレーナ公爵は独身だったし、新たな後継者問題も出てくる。
お母様は約束を破られたかわりに、お父様と新しい約束をした。
私が物心付く前に、私と共に国に帰らせてもらえるという約束だ。
私を王太子殿下の婚約者にするつもりだった。
お父様は今度こそ約束は守ると言ったらしい。
でも、お父様はまた、約束を破ろうとしたのだ。
「あの人、私には優しかったのよ。だから、騙されてしまった。結局、あの人は自分の思い通りになることしか頭になかった。あなたを巻き込んでしまって本当にごめんなさい」
お母様は出て行った日のことを思い出したのか、涙を流した。
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