21 / 35
21 家督とは
しおりを挟む
お母様から詳しい話を聞いてみると、お母様が部屋に入った時には私の顔には白い布がかけられていたそうだ。
顔が苦痛で歪んだままになっているから、見ないほうが良いと言われたらしい。
お母様は納得できずに、《《私らしき人の体》を触ってみた。
すると、冷たくなっていて体温が通っていないことがわかったのだという。
お医者様からも私が死んだと聞かされてパニックになってしまったお母様は、しっかりとそれが誰なのか確認が出来ていなかった。
どうせなら、笑っている私の顔を最後として覚えていたかったのだという気持ちはわかる。
子供が死んだと聞いて、冷静でいられる母親なんて、そう多くはいないはずだ。
私は子供を生んではいないけれど、メイド仲間から自分の子供の話を聞いていると、それくらい大事にしていることがわかる。
これは私の予想でしか無いけれど、お父様がお医者様に一芝居させたのではないかと思った。
普通ならお医者様がそんな嘘をつくだなんて思わないし、死んだと言われてしまえば信じてしまう。
だから、お母様が騙されてしまってもしょうがないかなと思う。
『これで、お前は隣国に戻らずに住むようになったのだ』
私が死んだと思って悲しんでいるお母様に、お父様はそう言った。
お父様としては私を亡き者にしたということにしていれば、王家との約束を守る必要がなくなる。
だから、お母様が隣国に戻らなくて済むようになると思っていたらしい。
だからこそ、お母様は自分の故郷に戻った。
私は無駄死にになるけれど、お父様の思う通りになりたくはなかったのだ。
お父様は生きている私をどうするつもりだったのかしら。
この国は土葬なので、生きたまま……と思うとゾッとする。
それに私の代わりの遺体もどこで手に入れたのかしら。
これからのことや約束などの話は改めて話すことになった。
だって、お母様が気分が晴れたら、急にお腹が減っただなんて言い出すんだもの。
メイドに何か頼もうと扉を開けると、廊下には兵士とメイドだけでなく、セナ殿下もいた。
廊下の壁に背を預けていた彼は私に近付いてくると、私の顔を見て心配そうな表情で尋ねてくる。
「どうだった?」
「ちゃんと話せました。ありがとうございました」
「もう話し終えたのか?」
「いえ。お母様がお腹が減ったというので、厚かましいお願いなんですけれど、何か食べるものを用意してもらえないかと思いまして」
「厚かましくなんかないだろ。キレーナ公爵も言ってたが、彼が好きで彼女を世話してるんだし」
セナ殿下と私の会話が聞こえていたのか、メイドが「スープを用意してまいります!」と笑顔で宣言し、早足で歩いていく。
メイドの背中を見送ってから、セナ殿下は口を開く。
「俺もさっき聞いたんだが、ここはキレーナ公爵家でもあるけど、実際はメイティの実家でもあるらしい」
「そうなんですか!?」
「ああ。キレーナ公爵がメイティの実家である、ロソイト家の代理をしているから、屋敷も彼が自由に扱えるんだ」
「代理ということは、次の後継者は決まっているんですね」
「というわけだ」
「……どういうわけです?」
意味が分からなくて聞き返すと、セナ殿下は私を兵士達がいる場所から、少し離れた所まで連れて来ると教えてくれる。
「君が後継者だ」
「は?」
聞き返してから、失礼な言い方だったと思い直して謝る。
「申し訳ございません」
「驚く気持ちはわかるから気にするな」
「許していただけるのは有り難いのですが、どういうことですか!?」
「君を待っている間に、母上達から少し話を聞いたんだ。元々は、メイティはレモンズ家に嫁に行く予定ではなく、他の人間が行く予定だった」
「ええ!?」
お母様に会えた喜びと、自分を死んだと思わせて、お母様を引き止めようとした、お父様の浅はかさに呆れてるという感情が処理しきれていない。
それなのに、これ以上、新事実を言われても気持ちの整理ができないわ。
「セナ殿下、申し訳ございませんが、あとでゆっくりお話を聞かせていただけませんか? 今の段階では、かなり頭が混乱してしまって」
「わかった。この国は女性が爵位を継げる国だから安心していい。俺はサポートにまわらせてもらう」
「いや、いいです! 婿養子に来てください! というか、さっきも言ったように、詳しい話はまたあとでお願いします!」
「悪い悪い。そうだよな。一度に色々と聞かされるとパニックになるよな。とにかく、今日はメイティとゆっくりしてくれ。母上達にも話しておく」
セナ殿下は落ち着かせるためなのか、ポンポンと私の頭を撫でた。
「ありがとうございます」
女の子みたいな顔をしているのに、手は私よりもやはり大きい。
やっぱり男の人なのよね。
「……なあ、この会話、何回すればいいんだ?」
「何がですか?」
「俺は男だ」
「というか、どうして、私の思っていることがわかるんですか!? セナ殿下って考えが読める人だったりします!?」
どうしてかわからないけれど、私がまた疑っていることがバレてしまった。
焦って尋ねると、セナ殿下は「顔を見たらわかる」と答えたあと、怒ってないと言わんばかりに笑ってくれた。
顔が苦痛で歪んだままになっているから、見ないほうが良いと言われたらしい。
お母様は納得できずに、《《私らしき人の体》を触ってみた。
すると、冷たくなっていて体温が通っていないことがわかったのだという。
お医者様からも私が死んだと聞かされてパニックになってしまったお母様は、しっかりとそれが誰なのか確認が出来ていなかった。
どうせなら、笑っている私の顔を最後として覚えていたかったのだという気持ちはわかる。
子供が死んだと聞いて、冷静でいられる母親なんて、そう多くはいないはずだ。
私は子供を生んではいないけれど、メイド仲間から自分の子供の話を聞いていると、それくらい大事にしていることがわかる。
これは私の予想でしか無いけれど、お父様がお医者様に一芝居させたのではないかと思った。
普通ならお医者様がそんな嘘をつくだなんて思わないし、死んだと言われてしまえば信じてしまう。
だから、お母様が騙されてしまってもしょうがないかなと思う。
『これで、お前は隣国に戻らずに住むようになったのだ』
私が死んだと思って悲しんでいるお母様に、お父様はそう言った。
お父様としては私を亡き者にしたということにしていれば、王家との約束を守る必要がなくなる。
だから、お母様が隣国に戻らなくて済むようになると思っていたらしい。
だからこそ、お母様は自分の故郷に戻った。
私は無駄死にになるけれど、お父様の思う通りになりたくはなかったのだ。
お父様は生きている私をどうするつもりだったのかしら。
この国は土葬なので、生きたまま……と思うとゾッとする。
それに私の代わりの遺体もどこで手に入れたのかしら。
これからのことや約束などの話は改めて話すことになった。
だって、お母様が気分が晴れたら、急にお腹が減っただなんて言い出すんだもの。
メイドに何か頼もうと扉を開けると、廊下には兵士とメイドだけでなく、セナ殿下もいた。
廊下の壁に背を預けていた彼は私に近付いてくると、私の顔を見て心配そうな表情で尋ねてくる。
「どうだった?」
「ちゃんと話せました。ありがとうございました」
「もう話し終えたのか?」
「いえ。お母様がお腹が減ったというので、厚かましいお願いなんですけれど、何か食べるものを用意してもらえないかと思いまして」
「厚かましくなんかないだろ。キレーナ公爵も言ってたが、彼が好きで彼女を世話してるんだし」
セナ殿下と私の会話が聞こえていたのか、メイドが「スープを用意してまいります!」と笑顔で宣言し、早足で歩いていく。
メイドの背中を見送ってから、セナ殿下は口を開く。
「俺もさっき聞いたんだが、ここはキレーナ公爵家でもあるけど、実際はメイティの実家でもあるらしい」
「そうなんですか!?」
「ああ。キレーナ公爵がメイティの実家である、ロソイト家の代理をしているから、屋敷も彼が自由に扱えるんだ」
「代理ということは、次の後継者は決まっているんですね」
「というわけだ」
「……どういうわけです?」
意味が分からなくて聞き返すと、セナ殿下は私を兵士達がいる場所から、少し離れた所まで連れて来ると教えてくれる。
「君が後継者だ」
「は?」
聞き返してから、失礼な言い方だったと思い直して謝る。
「申し訳ございません」
「驚く気持ちはわかるから気にするな」
「許していただけるのは有り難いのですが、どういうことですか!?」
「君を待っている間に、母上達から少し話を聞いたんだ。元々は、メイティはレモンズ家に嫁に行く予定ではなく、他の人間が行く予定だった」
「ええ!?」
お母様に会えた喜びと、自分を死んだと思わせて、お母様を引き止めようとした、お父様の浅はかさに呆れてるという感情が処理しきれていない。
それなのに、これ以上、新事実を言われても気持ちの整理ができないわ。
「セナ殿下、申し訳ございませんが、あとでゆっくりお話を聞かせていただけませんか? 今の段階では、かなり頭が混乱してしまって」
「わかった。この国は女性が爵位を継げる国だから安心していい。俺はサポートにまわらせてもらう」
「いや、いいです! 婿養子に来てください! というか、さっきも言ったように、詳しい話はまたあとでお願いします!」
「悪い悪い。そうだよな。一度に色々と聞かされるとパニックになるよな。とにかく、今日はメイティとゆっくりしてくれ。母上達にも話しておく」
セナ殿下は落ち着かせるためなのか、ポンポンと私の頭を撫でた。
「ありがとうございます」
女の子みたいな顔をしているのに、手は私よりもやはり大きい。
やっぱり男の人なのよね。
「……なあ、この会話、何回すればいいんだ?」
「何がですか?」
「俺は男だ」
「というか、どうして、私の思っていることがわかるんですか!? セナ殿下って考えが読める人だったりします!?」
どうしてかわからないけれど、私がまた疑っていることがバレてしまった。
焦って尋ねると、セナ殿下は「顔を見たらわかる」と答えたあと、怒ってないと言わんばかりに笑ってくれた。
1,059
お気に入りに追加
2,470
あなたにおすすめの小説
妹に全てを奪われた私、実は周りから溺愛されていました
日々埋没。
恋愛
「すまないが僕は真実の愛に目覚めたんだ。ああげに愛しきは君の妹ただ一人だけなのさ」
公爵令嬢の主人公とその婚約者であるこの国の第一王子は、なんでも欲しがる妹によって関係を引き裂かれてしまう。
それだけでは飽き足らず、妹は王家主催の晩餐会で婚約破棄された姉を大勢の前で笑いものにさせようと計画するが、彼女は自分がそれまで周囲の人間から甘やかされていた本当の意味を知らなかった。
そして実はそれまで虐げられていた主人公こそがみんなから溺愛されており、晩餐会の現場で真実を知らされて立場が逆転した主人公は性格も見た目も醜い妹に決別を告げる――。
※本作は過去に公開したことのある短編に修正を加えたものです。
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です
青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。
目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。
私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。
ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。
あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。
(お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)
途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。
※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。
【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜
よどら文鳥
恋愛
ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。
ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。
同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。
ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。
あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。
だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。
ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる