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21 家督とは

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 お母様から詳しい話を聞いてみると、お母様が部屋に入った時には私の顔には白い布がかけられていたそうだ。
 顔が苦痛で歪んだままになっているから、見ないほうが良いと言われたらしい。
 
 お母様は納得できずに、《《私らしき人の体》を触ってみた。
 すると、冷たくなっていて体温が通っていないことがわかったのだという。

 お医者様からも私が死んだと聞かされてパニックになってしまったお母様は、しっかりとそれが誰なのか確認が出来ていなかった。

 どうせなら、笑っている私の顔を最後として覚えていたかったのだという気持ちはわかる。
 子供が死んだと聞いて、冷静でいられる母親なんて、そう多くはいないはずだ。

 私は子供を生んではいないけれど、メイド仲間から自分の子供の話を聞いていると、それくらい大事にしていることがわかる。

 これは私の予想でしか無いけれど、お父様がお医者様に一芝居させたのではないかと思った。

 普通ならお医者様がそんな嘘をつくだなんて思わないし、死んだと言われてしまえば信じてしまう。

 だから、お母様が騙されてしまってもしょうがないかなと思う。
 
『これで、お前は隣国に戻らずに住むようになったのだ』

 私が死んだと思って悲しんでいるお母様に、お父様はそう言った。
 
 お父様としては私を亡き者にしたということにしていれば、王家との約束を守る必要がなくなる。
 だから、お母様が隣国に戻らなくて済むようになると思っていたらしい。

 だからこそ、お母様は自分の故郷に戻った。
 私は無駄死にになるけれど、お父様の思う通りになりたくはなかったのだ。

 お父様は生きている私をどうするつもりだったのかしら。
 この国は土葬なので、生きたまま……と思うとゾッとする。
 それに私の代わりの遺体もどこで手に入れたのかしら。

 これからのことや約束などの話は改めて話すことになった。

 だって、お母様が気分が晴れたら、急にお腹が減っただなんて言い出すんだもの。

 メイドに何か頼もうと扉を開けると、廊下には兵士とメイドだけでなく、セナ殿下もいた。

 廊下の壁に背を預けていた彼は私に近付いてくると、私の顔を見て心配そうな表情で尋ねてくる。

「どうだった?」
「ちゃんと話せました。ありがとうございました」
「もう話し終えたのか?」
「いえ。お母様がお腹が減ったというので、厚かましいお願いなんですけれど、何か食べるものを用意してもらえないかと思いまして」
「厚かましくなんかないだろ。キレーナ公爵も言ってたが、彼が好きで彼女を世話してるんだし」

 セナ殿下と私の会話が聞こえていたのか、メイドが「スープを用意してまいります!」と笑顔で宣言し、早足で歩いていく。

 メイドの背中を見送ってから、セナ殿下は口を開く。

「俺もさっき聞いたんだが、ここはキレーナ公爵家でもあるけど、実際はメイティの実家でもあるらしい」
「そうなんですか!?」
「ああ。キレーナ公爵がメイティの実家である、ロソイト家の代理をしているから、屋敷も彼が自由に扱えるんだ」
「代理ということは、次の後継者は決まっているんですね」
「というわけだ」
「……どういうわけです?」

 意味が分からなくて聞き返すと、セナ殿下は私を兵士達がいる場所から、少し離れた所まで連れて来ると教えてくれる。

「君が後継者だ」
「は?」

 聞き返してから、失礼な言い方だったと思い直して謝る。

「申し訳ございません」
「驚く気持ちはわかるから気にするな」
「許していただけるのは有り難いのですが、どういうことですか!?」
「君を待っている間に、母上達から少し話を聞いたんだ。元々は、メイティはレモンズ家に嫁に行く予定ではなく、他の人間が行く予定だった」
「ええ!?」

 お母様に会えた喜びと、自分を死んだと思わせて、お母様を引き止めようとした、お父様の浅はかさに呆れてるという感情が処理しきれていない。
 それなのに、これ以上、新事実を言われても気持ちの整理ができないわ。

「セナ殿下、申し訳ございませんが、あとでゆっくりお話を聞かせていただけませんか? 今の段階では、かなり頭が混乱してしまって」
「わかった。この国は女性が爵位を継げる国だから安心していい。俺はサポートにまわらせてもらう」
「いや、いいです! 婿養子に来てください! というか、さっきも言ったように、詳しい話はまたあとでお願いします!」
「悪い悪い。そうだよな。一度に色々と聞かされるとパニックになるよな。とにかく、今日はメイティとゆっくりしてくれ。母上達にも話しておく」

 セナ殿下は落ち着かせるためなのか、ポンポンと私の頭を撫でた。

「ありがとうございます」

 女の子みたいな顔をしているのに、手は私よりもやはり大きい。
 やっぱり男の人なのよね。

「……なあ、この会話、何回すればいいんだ?」
「何がですか?」
「俺は男だ」
「というか、どうして、私の思っていることがわかるんですか!? セナ殿下って考えが読める人だったりします!?」

 どうしてかわからないけれど、私がまた疑っていることがバレてしまった。

 焦って尋ねると、セナ殿下は「顔を見たらわかる」と答えたあと、怒ってないと言わんばかりに笑ってくれた。
 

 
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