20 / 35
20 母親でなければなんなのか
しおりを挟む
「母上、先にアーティアをメイティに会わせてあげましょう」
王妃陛下が何を言っているのかわからなくて困惑していると、セナ殿下が王妃陛下に話しかけた。
正直、色々なことがありすぎて一つ一つ片付けていきたかったので、セナ殿下にそう言ってもらえて本当に助かった。
ここ何日か一緒にいたからか、最初は引き気味だったセナ殿下も私の扱いに慣れてきたみたいだ。
私の可愛いシルバートレイも四代目を用意してくれているらしく、現在、武器職人とシルバートレイを制作する人が共同して鋭意制作中らしい。
どんな相棒になってくれるか楽しみだわ。
今はシルバートレイは必要ない状況だけど、戦友だもの。
これからも使うことがないにこしたことはないけれど、お守り代わりに持っておきたい。
「申し訳ございません、王妃陛下。セナ殿下のおっしゃる通り、まずは母とお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
「そうね、そうよね。取り乱してごめんなさい」
王妃陛下は何度も頷いて謝ってきた。
「私は気にしておりませんので謝らないでくださいませ」
「ありがとう、アーティア」
王妃陛下が微笑むと、キレーナ公爵が私に話しかけてくる。
「話が長くなるだろうから、私達は違う部屋で待っているよ。話が終わったら扉の前に立っている兵士かメイドに声を掛けてくれ」
「承知いたしました」
キレーナ公爵に頷き、深々と頭を下げる。
「今まで母の面倒を見ていただき、本当にありがとうございました」
「これからも見るつもりだし、自分が好きでやっているだけだから気にしないでほしい。鬱陶しいおじさんですまないね」
「鬱陶しくなんかありません! それにおじさんだなんて! 閣下のことをそんな風に思うことは絶対にありません!」
もし、思うとしても素敵なおじ様だわ!
心の中でそう叫んでから、セナ殿下に宣言する。
「では、頑張ってきます!」
「ああ、頑張れ。あ、相手が相手なんだから言い過ぎるなよ」
「もちろんです」
精神的に不安定な人に、攻撃的な言葉をぶつけるつもりはない。
自分が感情的にならなければ大丈夫だ。
一礼してから部屋に入ると、中にいたメイドが入れ替わりに出て行った。
気を利かせて二人きりにさせてくれたらしい。
部屋の中は本人の希望なのか、窓のカーテンは全て締め切られていて、オレンジ色に近い色のライトが、奥にあるベッドの周りをぼんやりと照らしていた。
薄暗いのでベッドに横たわっている、お母様らしき人の姿はが見えた時、この世の人ではないように感じて、少しだけ怖かった。
大丈夫。
お母様は生きている人なのよ。
一度立ち止まって、お母様を確認してみる。
私と同じ色の長い髪は、整えてもらっているのか綺麗に切り揃えられてあるし、着ている服も汚れは見えない。
メイドが毎日、着替えさせてくれているのでしょう。
近付いていくと、お母様は上半身を起こして俯いていた顔を上げた。
なんとなく昔の面影はあるけれど、以前よりもやせ細っていて、見るのも少し辛い。
お母様はまた俯いて、口を開く。
「もう私に構わないで。何をしたって許されることなんてないんだから」
「お母様、どうしてそんなことをおっしゃるんです?」
「私は母なんかじゃない!」
お母様が顔を上げてヒステリックに叫んだ。
お母様じゃないと言われても困るわ。
「お母様ですよ。そうでなければ、私はどうやって生まれたのですか?」
ベッドのすぐ近くまで行くと、お母様は私に顔を向けて息を呑んだ。
「う、嘘でしょう。まさか、そんな!」
「……お久しぶりですね、お母様」
はっきりと目が合った瞬間、お母様だと実感した。
それはお母様も同じようだった。
「……アーティア! アーティアなの!?」
先程までのか細い声は消え去り、希望に満ちた明るい声で、お母様は続ける。
「成長した姿でお迎えに来てくれたの? ううん。違うわね。私を殺しに来たのね! いいわ。あなたに殺されるなら本望だから!」
「お母様、私は生きてます。だから、お母様を殺そうだなんて思いませんし、たとえ、昔に死んでしまっていたとしても、お母様のことを恨んだりなんかしません。恨むならお父様を恨みます」
ベッドの脇にしゃがみ込むと、お母様は這って近付いてくる。
「本当に、本当に、アーティアなの? あなたは生きていたの?」
「はい。アーティアです。私は死んでなんていません。どうして、お母様は私が死んでしまったと思い込んだのですか?」
苦笑して尋ねると、お母様は大粒の涙を流しながら答えてくれる。
「あなたが頭を強く打って意識を失ってから、二日程経った夜中のことよ。自分の部屋で仮眠を取っていたら、あなたの容態が急変して亡くなったと告げられたの。慌てて、部屋に行ったら、冷たくなったあなたがいて!」
お母様はそこまで言うと、その時のことを思い出したのか大声を上げて泣き始めた。
王妃陛下が何を言っているのかわからなくて困惑していると、セナ殿下が王妃陛下に話しかけた。
正直、色々なことがありすぎて一つ一つ片付けていきたかったので、セナ殿下にそう言ってもらえて本当に助かった。
ここ何日か一緒にいたからか、最初は引き気味だったセナ殿下も私の扱いに慣れてきたみたいだ。
私の可愛いシルバートレイも四代目を用意してくれているらしく、現在、武器職人とシルバートレイを制作する人が共同して鋭意制作中らしい。
どんな相棒になってくれるか楽しみだわ。
今はシルバートレイは必要ない状況だけど、戦友だもの。
これからも使うことがないにこしたことはないけれど、お守り代わりに持っておきたい。
「申し訳ございません、王妃陛下。セナ殿下のおっしゃる通り、まずは母とお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
「そうね、そうよね。取り乱してごめんなさい」
王妃陛下は何度も頷いて謝ってきた。
「私は気にしておりませんので謝らないでくださいませ」
「ありがとう、アーティア」
王妃陛下が微笑むと、キレーナ公爵が私に話しかけてくる。
「話が長くなるだろうから、私達は違う部屋で待っているよ。話が終わったら扉の前に立っている兵士かメイドに声を掛けてくれ」
「承知いたしました」
キレーナ公爵に頷き、深々と頭を下げる。
「今まで母の面倒を見ていただき、本当にありがとうございました」
「これからも見るつもりだし、自分が好きでやっているだけだから気にしないでほしい。鬱陶しいおじさんですまないね」
「鬱陶しくなんかありません! それにおじさんだなんて! 閣下のことをそんな風に思うことは絶対にありません!」
もし、思うとしても素敵なおじ様だわ!
心の中でそう叫んでから、セナ殿下に宣言する。
「では、頑張ってきます!」
「ああ、頑張れ。あ、相手が相手なんだから言い過ぎるなよ」
「もちろんです」
精神的に不安定な人に、攻撃的な言葉をぶつけるつもりはない。
自分が感情的にならなければ大丈夫だ。
一礼してから部屋に入ると、中にいたメイドが入れ替わりに出て行った。
気を利かせて二人きりにさせてくれたらしい。
部屋の中は本人の希望なのか、窓のカーテンは全て締め切られていて、オレンジ色に近い色のライトが、奥にあるベッドの周りをぼんやりと照らしていた。
薄暗いのでベッドに横たわっている、お母様らしき人の姿はが見えた時、この世の人ではないように感じて、少しだけ怖かった。
大丈夫。
お母様は生きている人なのよ。
一度立ち止まって、お母様を確認してみる。
私と同じ色の長い髪は、整えてもらっているのか綺麗に切り揃えられてあるし、着ている服も汚れは見えない。
メイドが毎日、着替えさせてくれているのでしょう。
近付いていくと、お母様は上半身を起こして俯いていた顔を上げた。
なんとなく昔の面影はあるけれど、以前よりもやせ細っていて、見るのも少し辛い。
お母様はまた俯いて、口を開く。
「もう私に構わないで。何をしたって許されることなんてないんだから」
「お母様、どうしてそんなことをおっしゃるんです?」
「私は母なんかじゃない!」
お母様が顔を上げてヒステリックに叫んだ。
お母様じゃないと言われても困るわ。
「お母様ですよ。そうでなければ、私はどうやって生まれたのですか?」
ベッドのすぐ近くまで行くと、お母様は私に顔を向けて息を呑んだ。
「う、嘘でしょう。まさか、そんな!」
「……お久しぶりですね、お母様」
はっきりと目が合った瞬間、お母様だと実感した。
それはお母様も同じようだった。
「……アーティア! アーティアなの!?」
先程までのか細い声は消え去り、希望に満ちた明るい声で、お母様は続ける。
「成長した姿でお迎えに来てくれたの? ううん。違うわね。私を殺しに来たのね! いいわ。あなたに殺されるなら本望だから!」
「お母様、私は生きてます。だから、お母様を殺そうだなんて思いませんし、たとえ、昔に死んでしまっていたとしても、お母様のことを恨んだりなんかしません。恨むならお父様を恨みます」
ベッドの脇にしゃがみ込むと、お母様は這って近付いてくる。
「本当に、本当に、アーティアなの? あなたは生きていたの?」
「はい。アーティアです。私は死んでなんていません。どうして、お母様は私が死んでしまったと思い込んだのですか?」
苦笑して尋ねると、お母様は大粒の涙を流しながら答えてくれる。
「あなたが頭を強く打って意識を失ってから、二日程経った夜中のことよ。自分の部屋で仮眠を取っていたら、あなたの容態が急変して亡くなったと告げられたの。慌てて、部屋に行ったら、冷たくなったあなたがいて!」
お母様はそこまで言うと、その時のことを思い出したのか大声を上げて泣き始めた。
1,111
お気に入りに追加
2,470
あなたにおすすめの小説
妹に全てを奪われた私、実は周りから溺愛されていました
日々埋没。
恋愛
「すまないが僕は真実の愛に目覚めたんだ。ああげに愛しきは君の妹ただ一人だけなのさ」
公爵令嬢の主人公とその婚約者であるこの国の第一王子は、なんでも欲しがる妹によって関係を引き裂かれてしまう。
それだけでは飽き足らず、妹は王家主催の晩餐会で婚約破棄された姉を大勢の前で笑いものにさせようと計画するが、彼女は自分がそれまで周囲の人間から甘やかされていた本当の意味を知らなかった。
そして実はそれまで虐げられていた主人公こそがみんなから溺愛されており、晩餐会の現場で真実を知らされて立場が逆転した主人公は性格も見た目も醜い妹に決別を告げる――。
※本作は過去に公開したことのある短編に修正を加えたものです。
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です
青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。
目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。
私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。
ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。
あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。
(お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)
途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。
※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。
【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜
よどら文鳥
恋愛
ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。
ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。
同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。
ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。
あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。
だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。
ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる