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20 母親でなければなんなのか

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「母上、先にアーティアをメイティに会わせてあげましょう」

 王妃陛下が何を言っているのかわからなくて困惑していると、セナ殿下が王妃陛下に話しかけた。

 正直、色々なことがありすぎて一つ一つ片付けていきたかったので、セナ殿下にそう言ってもらえて本当に助かった。

 ここ何日か一緒にいたからか、最初は引き気味だったセナ殿下も私の扱いに慣れてきたみたいだ。
 私の可愛いシルバートレイも四代目を用意してくれているらしく、現在、武器職人とシルバートレイを制作する人が共同して鋭意制作中らしい。

 どんな相棒になってくれるか楽しみだわ。

 今はシルバートレイは必要ない状況だけど、戦友だもの。
 これからも使うことがないにこしたことはないけれど、お守り代わりに持っておきたい。

「申し訳ございません、王妃陛下。セナ殿下のおっしゃる通り、まずは母とお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
「そうね、そうよね。取り乱してごめんなさい」

 王妃陛下は何度も頷いて謝ってきた。

「私は気にしておりませんので謝らないでくださいませ」
「ありがとう、アーティア」

 王妃陛下が微笑むと、キレーナ公爵が私に話しかけてくる。

「話が長くなるだろうから、私達は違う部屋で待っているよ。話が終わったら扉の前に立っている兵士かメイドに声を掛けてくれ」
「承知いたしました」

 キレーナ公爵に頷き、深々と頭を下げる。

「今まで母の面倒を見ていただき、本当にありがとうございました」
「これからも見るつもりだし、自分が好きでやっているだけだから気にしないでほしい。鬱陶しいおじさんですまないね」
「鬱陶しくなんかありません! それにおじさんだなんて! 閣下のことをそんな風に思うことは絶対にありません!」

 もし、思うとしても素敵なおじ様だわ!

 心の中でそう叫んでから、セナ殿下に宣言する。

「では、頑張ってきます!」
「ああ、頑張れ。あ、相手が相手なんだから言い過ぎるなよ」
「もちろんです」

 精神的に不安定な人に、攻撃的な言葉をぶつけるつもりはない。
 自分が感情的にならなければ大丈夫だ。

 一礼してから部屋に入ると、中にいたメイドが入れ替わりに出て行った。

 気を利かせて二人きりにさせてくれたらしい。
 
 部屋の中は本人の希望なのか、窓のカーテンは全て締め切られていて、オレンジ色に近い色のライトが、奥にあるベッドの周りをぼんやりと照らしていた。

 薄暗いのでベッドに横たわっている、お母様らしき人の姿はが見えた時、この世の人ではないように感じて、少しだけ怖かった。

 大丈夫。
 お母様は生きている人なのよ。

 一度立ち止まって、お母様を確認してみる。

 私と同じ色の長い髪は、整えてもらっているのか綺麗に切り揃えられてあるし、着ている服も汚れは見えない。
 メイドが毎日、着替えさせてくれているのでしょう。

 近付いていくと、お母様は上半身を起こして俯いていた顔を上げた。

 なんとなく昔の面影はあるけれど、以前よりもやせ細っていて、見るのも少し辛い。

 お母様はまた俯いて、口を開く。

「もう私に構わないで。何をしたって許されることなんてないんだから」
「お母様、どうしてそんなことをおっしゃるんです?」
「私は母なんかじゃない!」

 お母様が顔を上げてヒステリックに叫んだ。

 お母様じゃないと言われても困るわ。

「お母様ですよ。そうでなければ、私はどうやって生まれたのですか?」

 ベッドのすぐ近くまで行くと、お母様は私に顔を向けて息を呑んだ。

「う、嘘でしょう。まさか、そんな!」
「……お久しぶりですね、お母様」

 はっきりと目が合った瞬間、お母様だと実感した。

 それはお母様も同じようだった。

「……アーティア! アーティアなの!?」

 先程までのか細い声は消え去り、希望に満ちた明るい声で、お母様は続ける。

「成長した姿でお迎えに来てくれたの? ううん。違うわね。私を殺しに来たのね! いいわ。あなたに殺されるなら本望だから!」
「お母様、私は生きてます。だから、お母様を殺そうだなんて思いませんし、たとえ、昔に死んでしまっていたとしても、お母様のことを恨んだりなんかしません。恨むならお父様を恨みます」

 ベッドの脇にしゃがみ込むと、お母様は這って近付いてくる。

「本当に、本当に、アーティアなの? あなたは生きていたの?」
「はい。アーティアです。私は死んでなんていません。どうして、お母様は私が死んでしまったと思い込んだのですか?」

 苦笑して尋ねると、お母様は大粒の涙を流しながら答えてくれる。

「あなたが頭を強く打って意識を失ってから、二日程経った夜中のことよ。自分の部屋で仮眠を取っていたら、あなたの容態が急変して亡くなったと告げられたの。慌てて、部屋に行ったら、冷たくなったあなたがいて!」

 お母様はそこまで言うと、その時のことを思い出したのか大声を上げて泣き始めた。

 
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