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19 悲しい思いとはどういうことなのか
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メイドの後ろを歩く屋敷の廊下には、実家にあるような派手な装飾品はなかった。
廊下の壁には見ているだけで心が落ち着くような温かいタッチの風景画が飾られていて、まるで絵画の展覧会のようだった。
「有名な画家さんなのかしら」
とても上手だと思ったので口に出してみると、横を歩いていたセナ殿下が小声で教えてくれる。
「キレーナ公爵の趣味なんだ。本人は自分の絵を飾るのは不本意みたいだけど、客受けが良いからという理由で、使用人が許可を取って飾ってるらしい」
「素敵な趣味をお持ちなんですね」
まるでキレーナ公爵の温和な雰囲気が絵に宿ったみたいだった。
そういえば、一つ気になったことがあって、先を歩く陛下達がこちらを気にしていないか確認する。
メイドも陛下達も私達の会話を聞いていないようなので、セナ殿下に尋ねてみる。
「あの、セナ殿下、陛下がここにいても大丈夫なのですか? お仕事面などのこともそうですけど、女性が関わっていることですし、王妃陛下が良い顔をされないのではないでしょうか」
「ああ、それは大丈夫だよ。母上も一緒に来てると思うから」
「公爵家に両陛下が!? 普通は呼びつけるものじゃないんですか?」
「メイティは体が弱ってるから、馬車の移動も辛いんだ」
「そんなに体調が良くないんですね」
お母様の体が心配になって尋ねると、セナ殿下は苦笑して首を横に振る。
「精神的な問題だって医者は言ってる。食べ物をほとんど口にしないから体力も戻らないんだ」
「それってもしかして」
「ああ。君が自分のせいで死んだと思い込んでいて、自分も死ぬべきだと思っている」
「そんなの自己満足じゃないですか」
お母様がそんなことをしたって、私が生き返るわけじゃないのだから、新たな人生を幸せに生きていてほしかったわ。
「それは君だから言えることだろ。その言葉はメイティに直接言ってやってくれ」
「うう。さすがに、そんな厳しい言葉を直接、本人に言っていいものか迷うんですけど」
「どうしてだ?」
「それだけ悩んできたのに、全否定するのもどうかと思いまして。私だって悪魔ではありませんよ。思いやりの心はあります」
「そうだな。そう思うなら、これからのお願いにすればいいんじゃないか?」
セナ殿下が微笑んで言った。
ああ、やっぱり、美少女だわ!
可愛くてキュンとしてしまう。
なんというか、小動物みたいな感じ。
いや、こんなことを思っていると、また睨まれそうなので思考を切り替える。
お母様が特別なわけじゃない。
きっと、子供が自分のせいで死んでしまったと思ったら、多くの親は嘆き悲しんで、立ち直ることは難しいのでしょうね。
……それにしても、どうして私が死んだことになっているのかしら。
「どうかしたのか?」
「私はどうして、死んだことになっていたのでしょうか? お母様の思い込みですか?」
「何日も一緒にいたのに、そのことを言い忘れてたな。まあ、そのことを含めてメイティと話をして来いよ」
前を見るとキレーナ公爵達が足を止めたのがわかった。
屋敷の二階の突き当りにある部屋で二枚扉の部屋だ。
扉の大きさから見るに、中はとても広い部屋なのだろうとわかる。
とても良い待遇をされているみたいだし、キレーナ公爵には本当に頭が上がらないわ。
普通ならば、このような待遇をしてもらっていることを辞退しないといけないはずなのに、そんな判断も出来ないほど、お母様は弱っているということなのかしら。
メイドがノックすると、女性の声が中から返ってきた。
キレーナ公爵が「王妃陛下にお会いしたい」と告げると、部屋の中で物音が聞こえた。
え、ここはお母様の部屋じゃないの?
応接室か何かかしら。
でも、それなら、扉が開くのを待ったりしないわよね。
少ししてから、漆黒のストレートの髪を背中に垂らした青い瞳を持つ小柄で細身の美女が廊下に出てきた。
セナ殿下の陛下の場合は赤い瞳で親子なのだなと判断できた。
王妃陛下の場合は顔立ちで親子なのだとわかる。
王妃陛下は清楚な感じ、セナ殿下は無邪気さの残る美少女といった感じで、成長すれば王妃陛下のような外見になるのではないかと思うくらいに似ていた。
やっぱり、セナ殿下って女性なんじゃないの?
そう思った時、何も言っていないのに、セナ殿下が話しかけてきた。
「違うからな。結婚したらわかるからな。絶対にわからせてやる」
「セナ殿下、昼間からそういうお話を純真な乙女にするのはやめていただけませんか」
「意味がわかる時点でどうかと思うが」
「私は子供ではありませんから! ですが身も心もピュアです! ピュアでいさせてください!」
「別に心はいつまでもピュアのままでいれるだろ。というか、もうアーティアの心はピュアじゃないだろ」
「どういう意味ですか!?」
両陛下がキレーナ公爵と話をするのをやめて、喧嘩している私たちを見て苦笑しているのに気がついた。
慌てて、王妃陛下に挨拶する。
「はじめまして、アーティア・レモンズと申します。王妃陛下にお会いできて光栄です」
「あなたがアーティアね! 本当にメイティにそっくりだわ!」
王妃陛下は瞳を輝かせて駆けよってくると、私の両手を取って言葉を続ける。
「私もあなたに会えて嬉しいわ。まず、謝らなくちゃいけないことがあるの。ごめんなさい。私のせいで、メイティやあなたに悲しい思いをさせてしまったわ」
王妃陛下は目に涙を浮かべて言った。
廊下の壁には見ているだけで心が落ち着くような温かいタッチの風景画が飾られていて、まるで絵画の展覧会のようだった。
「有名な画家さんなのかしら」
とても上手だと思ったので口に出してみると、横を歩いていたセナ殿下が小声で教えてくれる。
「キレーナ公爵の趣味なんだ。本人は自分の絵を飾るのは不本意みたいだけど、客受けが良いからという理由で、使用人が許可を取って飾ってるらしい」
「素敵な趣味をお持ちなんですね」
まるでキレーナ公爵の温和な雰囲気が絵に宿ったみたいだった。
そういえば、一つ気になったことがあって、先を歩く陛下達がこちらを気にしていないか確認する。
メイドも陛下達も私達の会話を聞いていないようなので、セナ殿下に尋ねてみる。
「あの、セナ殿下、陛下がここにいても大丈夫なのですか? お仕事面などのこともそうですけど、女性が関わっていることですし、王妃陛下が良い顔をされないのではないでしょうか」
「ああ、それは大丈夫だよ。母上も一緒に来てると思うから」
「公爵家に両陛下が!? 普通は呼びつけるものじゃないんですか?」
「メイティは体が弱ってるから、馬車の移動も辛いんだ」
「そんなに体調が良くないんですね」
お母様の体が心配になって尋ねると、セナ殿下は苦笑して首を横に振る。
「精神的な問題だって医者は言ってる。食べ物をほとんど口にしないから体力も戻らないんだ」
「それってもしかして」
「ああ。君が自分のせいで死んだと思い込んでいて、自分も死ぬべきだと思っている」
「そんなの自己満足じゃないですか」
お母様がそんなことをしたって、私が生き返るわけじゃないのだから、新たな人生を幸せに生きていてほしかったわ。
「それは君だから言えることだろ。その言葉はメイティに直接言ってやってくれ」
「うう。さすがに、そんな厳しい言葉を直接、本人に言っていいものか迷うんですけど」
「どうしてだ?」
「それだけ悩んできたのに、全否定するのもどうかと思いまして。私だって悪魔ではありませんよ。思いやりの心はあります」
「そうだな。そう思うなら、これからのお願いにすればいいんじゃないか?」
セナ殿下が微笑んで言った。
ああ、やっぱり、美少女だわ!
可愛くてキュンとしてしまう。
なんというか、小動物みたいな感じ。
いや、こんなことを思っていると、また睨まれそうなので思考を切り替える。
お母様が特別なわけじゃない。
きっと、子供が自分のせいで死んでしまったと思ったら、多くの親は嘆き悲しんで、立ち直ることは難しいのでしょうね。
……それにしても、どうして私が死んだことになっているのかしら。
「どうかしたのか?」
「私はどうして、死んだことになっていたのでしょうか? お母様の思い込みですか?」
「何日も一緒にいたのに、そのことを言い忘れてたな。まあ、そのことを含めてメイティと話をして来いよ」
前を見るとキレーナ公爵達が足を止めたのがわかった。
屋敷の二階の突き当りにある部屋で二枚扉の部屋だ。
扉の大きさから見るに、中はとても広い部屋なのだろうとわかる。
とても良い待遇をされているみたいだし、キレーナ公爵には本当に頭が上がらないわ。
普通ならば、このような待遇をしてもらっていることを辞退しないといけないはずなのに、そんな判断も出来ないほど、お母様は弱っているということなのかしら。
メイドがノックすると、女性の声が中から返ってきた。
キレーナ公爵が「王妃陛下にお会いしたい」と告げると、部屋の中で物音が聞こえた。
え、ここはお母様の部屋じゃないの?
応接室か何かかしら。
でも、それなら、扉が開くのを待ったりしないわよね。
少ししてから、漆黒のストレートの髪を背中に垂らした青い瞳を持つ小柄で細身の美女が廊下に出てきた。
セナ殿下の陛下の場合は赤い瞳で親子なのだなと判断できた。
王妃陛下の場合は顔立ちで親子なのだとわかる。
王妃陛下は清楚な感じ、セナ殿下は無邪気さの残る美少女といった感じで、成長すれば王妃陛下のような外見になるのではないかと思うくらいに似ていた。
やっぱり、セナ殿下って女性なんじゃないの?
そう思った時、何も言っていないのに、セナ殿下が話しかけてきた。
「違うからな。結婚したらわかるからな。絶対にわからせてやる」
「セナ殿下、昼間からそういうお話を純真な乙女にするのはやめていただけませんか」
「意味がわかる時点でどうかと思うが」
「私は子供ではありませんから! ですが身も心もピュアです! ピュアでいさせてください!」
「別に心はいつまでもピュアのままでいれるだろ。というか、もうアーティアの心はピュアじゃないだろ」
「どういう意味ですか!?」
両陛下がキレーナ公爵と話をするのをやめて、喧嘩している私たちを見て苦笑しているのに気がついた。
慌てて、王妃陛下に挨拶する。
「はじめまして、アーティア・レモンズと申します。王妃陛下にお会いできて光栄です」
「あなたがアーティアね! 本当にメイティにそっくりだわ!」
王妃陛下は瞳を輝かせて駆けよってくると、私の両手を取って言葉を続ける。
「私もあなたに会えて嬉しいわ。まず、謝らなくちゃいけないことがあるの。ごめんなさい。私のせいで、メイティやあなたに悲しい思いをさせてしまったわ」
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