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18 国王陛下とは
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初めての遠出の上に馬車移動となると、旅の初めは特に体力的に辛かった。
お母様がいなくなってから、初めて馬車に乗ったものだから楽しい旅になるかと思ったのに、高揚感が薄れてくると気分が悪くなってしまった。
だから、途中で予定外の休憩を挟んだため、申し訳ないことに一日目は予定していなかった宿に泊まることになってしまった。
次の日からは体調も復活したので、セナ殿下と同じ馬車に乗り、仕事をしている殿下の書類整理を手伝い、その日の宿に着く、ということを数日間繰り返した。
そして、約10日後、私は国境を越え、キレーナ公爵家に送り届けられた。
「キレーナ公爵家と王城はそう離れていない。ほら、王城が見えるだろ」
馬車を降りると、先程、馬車で入ってきた門のほうに振り返り、セナ殿下が指さした。
その先には、3本の丸い塔がある白亜の城が見えた。
「……セナ殿下はあの城に住んでいるんですね」
「アーティアも近い内に住むようになる。それから、父上にも挨拶をしにいかないといけないんだが、先にメイティに会ってからにするだろ?」
「会いたいのは山々ですが、国王陛下を後回しには出来ません」
「……そうか。とにかく、キレーナ公爵にだけ無事に着いたことだけ伝えて、城に行くか」
「お気遣いいただきありがとうございます」
頭を下げると、セナ殿下は首を横に振る。
「いや、俺にとっては国王陛下は父親だから後回しでも良いかと思っただけだ。普通は陛下優先だよな。遠回りさせて悪い」
「とんでもございません。セナ殿下の判断ということで、陛下も多めにみてくださるかもしれませんが、さすがにちょっと」
「だよな。わかった。とにかく、キレーナ公爵に連絡を入れてから父上に会いに行こう」
「良かったな。その手間は省けるぞ」
屋敷の扉が開き、中から出てきたのは落ち着いた風貌の紳士二人だった。
温和そうな男性と綺麗な顔立ちの男性で、二人共、長身痩躯で足がとても長くて羨ましい。
周りにいた護衛騎士だけでなく、セナ殿下も頭を下げたので、偉い人なのだとわかり、私も慌てて頭を下げる。
「セナ、ご苦労だったな」
「父上、お元気そうで良かったです。ただいま戻りました」
「待ちくたびれたぞ」
……セナ殿下のお父様ということは、国王陛下ということよね。
まさか、国王陛下がこの場にいるだなんて想像もしていなかったわ。
旅の道中でメイド服以外の服を買ってもらったので、今、着ている服はさすがにメイド服ではない。
でも、町娘が着るようなカントリー風の出で立ちなので、国王陛下に謁見する時の服装ではなかった。
どうしたら良いのか悩んで頭を上げずにいると、優しい声が頭上から降ってくる。
「アーティアだね。僕がキレーナ公爵家の当主のレフだ。君に会えて嬉しいよ。ぜひ、顔を上げて君の顔を見せてくれないかな」
「待て。アーティアの顔を見るのは、この私が先だ」
「陛下、僕に用事があると言っておいて、やはり、アーティアが目当てだったんですね」
「それはそうだろう。セナからの手紙ではメイティに似ていると書いてあったからな」
どういうことなの。
「レモンズ家を出た時に馬車の中で簡単な手紙を書いて、早馬で先に持っていってもらったんだ。ただ、メイティと似ているという内容を書いたのは兄上宛の手紙だったんだけどな」
「ちゃんと、お前の兄のセトから許可を得て読んだのだからいいだろう。さあ、アーティア、顔を上げるんだ」
顔面のハードルを上げられているような気がしてしょうがないわ。
かといって、頭を上げないわけにもいかない。
お願いだから不細工だとか思っても口に出さないでほしい。
「大丈夫だって」
私の心の声が聞こえたのか、セナ殿下が励ましてくれたので、私はゆっくりと顔を上げた。
すると、陛下もキレーナ公爵も私の顔を見て息を呑んだ。
どういうこと?
思っていた以上に不細工だったってこと?
「これは疑いようがないな」
「そうですね」
陛下とキレーナ公爵が顔を見合わせて頷く
「あの、何か問題でもありましたか?」
「いや、思った以上に若い頃のメイティ似ていたから驚いたんだ」
キレーナ公爵は苦笑して私の問いに答えてくれた。
も、もしかして、私って美人だったりするのかしら!?
そんなことはないわね。
キレーナ公爵が優しい声色で尋ねてくる。
「君は母親に会いたいかい?」
「……はい」
お母様が私を受け入れてくれるかはわからないけれど、娘であることは間違いないんだから会ってみたい。
頷くと、キレーナ公爵は私とセナ殿下に屋敷の中に入るように促してくれたのだった。
お母様がいなくなってから、初めて馬車に乗ったものだから楽しい旅になるかと思ったのに、高揚感が薄れてくると気分が悪くなってしまった。
だから、途中で予定外の休憩を挟んだため、申し訳ないことに一日目は予定していなかった宿に泊まることになってしまった。
次の日からは体調も復活したので、セナ殿下と同じ馬車に乗り、仕事をしている殿下の書類整理を手伝い、その日の宿に着く、ということを数日間繰り返した。
そして、約10日後、私は国境を越え、キレーナ公爵家に送り届けられた。
「キレーナ公爵家と王城はそう離れていない。ほら、王城が見えるだろ」
馬車を降りると、先程、馬車で入ってきた門のほうに振り返り、セナ殿下が指さした。
その先には、3本の丸い塔がある白亜の城が見えた。
「……セナ殿下はあの城に住んでいるんですね」
「アーティアも近い内に住むようになる。それから、父上にも挨拶をしにいかないといけないんだが、先にメイティに会ってからにするだろ?」
「会いたいのは山々ですが、国王陛下を後回しには出来ません」
「……そうか。とにかく、キレーナ公爵にだけ無事に着いたことだけ伝えて、城に行くか」
「お気遣いいただきありがとうございます」
頭を下げると、セナ殿下は首を横に振る。
「いや、俺にとっては国王陛下は父親だから後回しでも良いかと思っただけだ。普通は陛下優先だよな。遠回りさせて悪い」
「とんでもございません。セナ殿下の判断ということで、陛下も多めにみてくださるかもしれませんが、さすがにちょっと」
「だよな。わかった。とにかく、キレーナ公爵に連絡を入れてから父上に会いに行こう」
「良かったな。その手間は省けるぞ」
屋敷の扉が開き、中から出てきたのは落ち着いた風貌の紳士二人だった。
温和そうな男性と綺麗な顔立ちの男性で、二人共、長身痩躯で足がとても長くて羨ましい。
周りにいた護衛騎士だけでなく、セナ殿下も頭を下げたので、偉い人なのだとわかり、私も慌てて頭を下げる。
「セナ、ご苦労だったな」
「父上、お元気そうで良かったです。ただいま戻りました」
「待ちくたびれたぞ」
……セナ殿下のお父様ということは、国王陛下ということよね。
まさか、国王陛下がこの場にいるだなんて想像もしていなかったわ。
旅の道中でメイド服以外の服を買ってもらったので、今、着ている服はさすがにメイド服ではない。
でも、町娘が着るようなカントリー風の出で立ちなので、国王陛下に謁見する時の服装ではなかった。
どうしたら良いのか悩んで頭を上げずにいると、優しい声が頭上から降ってくる。
「アーティアだね。僕がキレーナ公爵家の当主のレフだ。君に会えて嬉しいよ。ぜひ、顔を上げて君の顔を見せてくれないかな」
「待て。アーティアの顔を見るのは、この私が先だ」
「陛下、僕に用事があると言っておいて、やはり、アーティアが目当てだったんですね」
「それはそうだろう。セナからの手紙ではメイティに似ていると書いてあったからな」
どういうことなの。
「レモンズ家を出た時に馬車の中で簡単な手紙を書いて、早馬で先に持っていってもらったんだ。ただ、メイティと似ているという内容を書いたのは兄上宛の手紙だったんだけどな」
「ちゃんと、お前の兄のセトから許可を得て読んだのだからいいだろう。さあ、アーティア、顔を上げるんだ」
顔面のハードルを上げられているような気がしてしょうがないわ。
かといって、頭を上げないわけにもいかない。
お願いだから不細工だとか思っても口に出さないでほしい。
「大丈夫だって」
私の心の声が聞こえたのか、セナ殿下が励ましてくれたので、私はゆっくりと顔を上げた。
すると、陛下もキレーナ公爵も私の顔を見て息を呑んだ。
どういうこと?
思っていた以上に不細工だったってこと?
「これは疑いようがないな」
「そうですね」
陛下とキレーナ公爵が顔を見合わせて頷く
「あの、何か問題でもありましたか?」
「いや、思った以上に若い頃のメイティ似ていたから驚いたんだ」
キレーナ公爵は苦笑して私の問いに答えてくれた。
も、もしかして、私って美人だったりするのかしら!?
そんなことはないわね。
キレーナ公爵が優しい声色で尋ねてくる。
「君は母親に会いたいかい?」
「……はい」
お母様が私を受け入れてくれるかはわからないけれど、娘であることは間違いないんだから会ってみたい。
頷くと、キレーナ公爵は私とセナ殿下に屋敷の中に入るように促してくれたのだった。
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