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16 第二王子妃とは
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「どこへってもちろん、隣国へです! 私は第二王子妃になれる女性ですよ!」
「……何を言ってるんだ?」
セナ殿下が眉根を寄せて聞き返すと、アフォーレは満面の笑みを浮かべて答える。
「お父様から聞きましたわ! 殿下はアーティアお姉様を婚約者にするために国へ連れて帰るんですわよね? ですが、殿下の婚約者は妹の私のほうが良いと思います!」
婚約の話はまだしていないのに、どうして知っているのかしら。
……と思ったけど、私がいない間に、セナ殿下がお父様にその話をしたのね。
セナ殿下が首を横に振る。
「……意味がわからない。どうしてそうなるんだ?」
「やはり、妻になる女性は若ければ若いほうが良いと思いますし、私のように殿下よりも可愛い女性が隣に立ったほうが、殿下の美少女のような顔も目立たないと思うんです」
なぜか誇らしげな顔で言うアフォーレが可哀想に思えてきた。
セナ殿下を見ると、信じられないものを見るような目で彼女を見つめている。
「大丈夫ですか?」
私に尋ねられて我に返ったセナ殿下が、アフォーレに話しかける。
「悪いが、そういう問題じゃない。俺の婚約者はアーティアと決まっているし、たとえ、レモンズ侯爵家の令嬢の内、どちらでも良いと言われても、迷わずアーティアを選ぶ」
「ど、どうしてですか!? こんなに可愛い私の何が問題なのですか!?」
アフォーレはショックを受けた顔をして聞き返す。
いくら外見が可愛くてもアホすぎるのは、どうかと思うわ。
「……問題はあるだろう。あと、国家間の約束でアーティアを俺の婚約者にすることが決まってるんだ。君がどうこう言えるもんじゃない」
答えたセナ殿下に、今度は私が聞いてみる。
「そこまでわかっているのに、決められた理由はわからないのですね」
「だから言っただろ? 理由を聞く暇も無く迎えに行けと言われたんだって」
「遠路はるばる来ていただき、ありがとうございます」
本当に有り難いことは確かなので、頭を下げた。
それにしても理由がわからないのが不思議よね。
わかれば、アフォーレやパララー様にもちゃんと説明してあげられるし、私も納得できるかもしれない。
今、この家にいる関係者の中で詳しい話を知っているのはお父様だけだ。
でも、そのお父様を私が撃退してしまったので文句は言えない。
すると、パララー様が聞いてくる。
「国家間の約束というのは何なのでしょうか」
「それはレモンズ侯爵に聞いてくれ。とにかく俺達は、今すぐに、この屋敷から出て行きたいんだ」
「ですから、アーティアではなく、アフォーレはいかがでしょうか」
「さっきの俺の言葉を聞いてないのかよ!?」
パララー様にセナ殿下は大きく息を吐くと、護衛騎士に顔を向ける。
シルバートレイを持っている人とは別の護衛騎士がアフォーレに近づいて話しかける。
「申し訳ございませんが、そこを退いていただけませんか?」
「第二王子妃にしてくださるというのなら退きますわ!」
「無理だって言ってるだろ。不敬にも程がある」
セナ殿下はそう言うと、腰に携えていた剣の柄に手を置く。
「国王陛下には余程、相手が無礼なら、多少は手荒な真似をしても良いと許可を得てる。退かないなら、剣を抜かないといけなくなるがいいんだな?」
「……凄んだ顔も、とっても可愛いです」
両頬に手を当ててはしゃぐアフォーレ。
どういう思考の持ち主なのかしら。
優しい対応では退いてくれそうにないわね。
というか、セナ殿下にアフォーレの相手をしてもらうのは申し訳ないわ。
ここは私の出番ね。
そう思い、セナ殿下にお願いする。
「あの、私の可愛いシルバートレイを返してもらっても良いですか?」
「かまわないが何をするつもりだ? さすがに女性を殴るとわかっていて止めないわけにはいかないんだが」
「今は殴りませんのでご安心を」
にこりと笑って見せると、セナ殿下は大きなため息を吐いた。
やっぱり駄目かしら。
そう思っていると、セナ殿下はシルバートレイを持っている護衛騎士を見る。
すると、護衛騎士が私に愛用のシルバートレイを返してくれた。
「ありがとうございます」
「な、何よ、アーティアお姉様! まさか、それで私を殴るつもりなの!?」
「違うわよ」
否定してから、アフォーレの顔の横にシルバートレイを持っていき、平たい部分を何度も叩く。
バンバンバン。
という鈍い音が部屋中に、そして、アフォーレが立っている廊下に響き渡った。
アフォーレはしかめっ面をして耳を手で塞ぐ。
「な、何をしてるんですか!? うるさいですよ!」
「え? 何ですって聞こえないわ。あなたの耳にシルバートレイを叩きつけて欲しいって言ってる?」
「ち、違いますよ! どこをどうしたら、そんな風に聞こえるんですか!? というか、本当にうるさいんだけど!?」
アフォーレが怯んだので、彼女を横に押しやって道を開けさせる。
「セナ殿下、どうぞお通りください」
「あ、ああ、ありがとう」
護衛騎士が先に出て安全を確認すると、セナ殿下が廊下に出てきた。
「セナ殿下!」
アフォーレがめげずに近寄ってこようとしたので、シルバートレイで軽く彼女の鼻を突く。
「アフォーレ、あなた、いい加減にしなさいよ。子供だからって、何でもかんでも許されるわけじゃないのよ」
「痛いっ! 痛いわ! 鼻がっ!」
鼻を押さえて後ろに下がったアフォーレは体勢を崩して、後ろに倒れそうになった。
その体を近くにいたメイド達が支える。
でも、ドレスが重いからか、上手く体勢を立て直すことができず、アフォーレはそっと床に寝かされた。
「……何を言ってるんだ?」
セナ殿下が眉根を寄せて聞き返すと、アフォーレは満面の笑みを浮かべて答える。
「お父様から聞きましたわ! 殿下はアーティアお姉様を婚約者にするために国へ連れて帰るんですわよね? ですが、殿下の婚約者は妹の私のほうが良いと思います!」
婚約の話はまだしていないのに、どうして知っているのかしら。
……と思ったけど、私がいない間に、セナ殿下がお父様にその話をしたのね。
セナ殿下が首を横に振る。
「……意味がわからない。どうしてそうなるんだ?」
「やはり、妻になる女性は若ければ若いほうが良いと思いますし、私のように殿下よりも可愛い女性が隣に立ったほうが、殿下の美少女のような顔も目立たないと思うんです」
なぜか誇らしげな顔で言うアフォーレが可哀想に思えてきた。
セナ殿下を見ると、信じられないものを見るような目で彼女を見つめている。
「大丈夫ですか?」
私に尋ねられて我に返ったセナ殿下が、アフォーレに話しかける。
「悪いが、そういう問題じゃない。俺の婚約者はアーティアと決まっているし、たとえ、レモンズ侯爵家の令嬢の内、どちらでも良いと言われても、迷わずアーティアを選ぶ」
「ど、どうしてですか!? こんなに可愛い私の何が問題なのですか!?」
アフォーレはショックを受けた顔をして聞き返す。
いくら外見が可愛くてもアホすぎるのは、どうかと思うわ。
「……問題はあるだろう。あと、国家間の約束でアーティアを俺の婚約者にすることが決まってるんだ。君がどうこう言えるもんじゃない」
答えたセナ殿下に、今度は私が聞いてみる。
「そこまでわかっているのに、決められた理由はわからないのですね」
「だから言っただろ? 理由を聞く暇も無く迎えに行けと言われたんだって」
「遠路はるばる来ていただき、ありがとうございます」
本当に有り難いことは確かなので、頭を下げた。
それにしても理由がわからないのが不思議よね。
わかれば、アフォーレやパララー様にもちゃんと説明してあげられるし、私も納得できるかもしれない。
今、この家にいる関係者の中で詳しい話を知っているのはお父様だけだ。
でも、そのお父様を私が撃退してしまったので文句は言えない。
すると、パララー様が聞いてくる。
「国家間の約束というのは何なのでしょうか」
「それはレモンズ侯爵に聞いてくれ。とにかく俺達は、今すぐに、この屋敷から出て行きたいんだ」
「ですから、アーティアではなく、アフォーレはいかがでしょうか」
「さっきの俺の言葉を聞いてないのかよ!?」
パララー様にセナ殿下は大きく息を吐くと、護衛騎士に顔を向ける。
シルバートレイを持っている人とは別の護衛騎士がアフォーレに近づいて話しかける。
「申し訳ございませんが、そこを退いていただけませんか?」
「第二王子妃にしてくださるというのなら退きますわ!」
「無理だって言ってるだろ。不敬にも程がある」
セナ殿下はそう言うと、腰に携えていた剣の柄に手を置く。
「国王陛下には余程、相手が無礼なら、多少は手荒な真似をしても良いと許可を得てる。退かないなら、剣を抜かないといけなくなるがいいんだな?」
「……凄んだ顔も、とっても可愛いです」
両頬に手を当ててはしゃぐアフォーレ。
どういう思考の持ち主なのかしら。
優しい対応では退いてくれそうにないわね。
というか、セナ殿下にアフォーレの相手をしてもらうのは申し訳ないわ。
ここは私の出番ね。
そう思い、セナ殿下にお願いする。
「あの、私の可愛いシルバートレイを返してもらっても良いですか?」
「かまわないが何をするつもりだ? さすがに女性を殴るとわかっていて止めないわけにはいかないんだが」
「今は殴りませんのでご安心を」
にこりと笑って見せると、セナ殿下は大きなため息を吐いた。
やっぱり駄目かしら。
そう思っていると、セナ殿下はシルバートレイを持っている護衛騎士を見る。
すると、護衛騎士が私に愛用のシルバートレイを返してくれた。
「ありがとうございます」
「な、何よ、アーティアお姉様! まさか、それで私を殴るつもりなの!?」
「違うわよ」
否定してから、アフォーレの顔の横にシルバートレイを持っていき、平たい部分を何度も叩く。
バンバンバン。
という鈍い音が部屋中に、そして、アフォーレが立っている廊下に響き渡った。
アフォーレはしかめっ面をして耳を手で塞ぐ。
「な、何をしてるんですか!? うるさいですよ!」
「え? 何ですって聞こえないわ。あなたの耳にシルバートレイを叩きつけて欲しいって言ってる?」
「ち、違いますよ! どこをどうしたら、そんな風に聞こえるんですか!? というか、本当にうるさいんだけど!?」
アフォーレが怯んだので、彼女を横に押しやって道を開けさせる。
「セナ殿下、どうぞお通りください」
「あ、ああ、ありがとう」
護衛騎士が先に出て安全を確認すると、セナ殿下が廊下に出てきた。
「セナ殿下!」
アフォーレがめげずに近寄ってこようとしたので、シルバートレイで軽く彼女の鼻を突く。
「アフォーレ、あなた、いい加減にしなさいよ。子供だからって、何でもかんでも許されるわけじゃないのよ」
「痛いっ! 痛いわ! 鼻がっ!」
鼻を押さえて後ろに下がったアフォーレは体勢を崩して、後ろに倒れそうになった。
その体を近くにいたメイド達が支える。
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