上 下
13 / 35

13  両親の約束とはなんなのか

しおりを挟む
 なんだか面白くなってきたわ。
 本人にその気がないにしても、他国の王族を馬鹿にしているだなんてありえないことだ。
 だけど、セナ殿下の性格がなんとなくわかってきたせいか、危機的状況とは思えない。
 それに、家族に何があってもどうでも良いということもある。

 お父様たちが甘やかせすぎたのよね。
 それだけ考えると、アフォーレが可哀想だ。
 でも、彼女はまだ子供だしね。

 それはお父様も感じているのか、慌ててフォローに入る。

「セナ殿下! 娘が失礼なことを申し上げてしまい誠に申し訳ございませんでした! 責任はアーティアが取りますので、アフォーレの命はお助けください!」
「それくらいで命を奪ったりするかよ!」

 セナ殿下はお父様を睨みつけて言った。
 でも、そのあとすぐに大きく深呼吸しているから、怒りが収まったわけでもなさそうだ。

「大丈夫ですか。妹が申し訳ございません」
「いいよ。俺は気にしないって決めてるんだ」

 いや、かなり、気にされてますよね。

 こほんと咳払いをしたあと、セナ殿下は話題を戻す。

「あなたの言葉通り、アーティアに責任を取ってもらうことにする。だから、アーティアはリシャール王国に連れて帰らせてもらう。あと、今回の件は、こちらの国王には許可もとっている。国際問題にはならないから安心してくれ」
「そ、そんな! まさか、彼女はまだアーティアを諦めていなかったんですか!?」

 お父様が顔を真っ青にしてセナ殿下に尋ねると、彼は可愛い顔を歪めて答える。

「メイティは諦めなかったんじゃない。自分のせいで娘が死んだと思い込んで、泣いて暮らす毎日を送っていたんだ。今は元気にはなってきたが、未だに自分を責め続けている。だから、アーティアを連れて帰るのは、メイティが諦めていないからではなく、メイティの幸せのために連れて帰るんだ」

 セナ殿下はそこで言葉を区切り、私を見る。

「それにアーティアもここから出たそうだし、アーティアのためでもある」
「アーティアを渡すわけにはいきません! この子は私の娘です!」

 お父様が信じられない発言をしたので、私は眉根を寄せて尋ねる。

「お父様、今まで私のことを娘だなんて思ったことがあるのですか?」
「ある! 今だって思っている!」
「信じられません。一体、何を考えていらっしゃるのですか」

 セナ殿下が私の面倒を見るという発言をするまでは、私を追い出そうとしていたじゃないの。
 それなのに、どうして私が出ていくことを嫌がるのかしら。

 まさか、お父様はお母様に未練がある?
 そんなわけないわよね。

 パララー様と結婚しているんだもの。

 じゃあ、他にどんな理由があるのかしら。

 私とセナ殿下の婚約は知らないはず。

 お母様がした約束をお父様が知っていたとしても、セナ殿下のお兄様が結婚した時点で無効になっていると思っているはず。
 お母様から聞いていたとしても、婚約の話は無効になっていると思っているはずだ。

 その時、また頭痛がした。
 過去を思い出そうとすると、警告するように頭がズキズキと痛む。

 頭を押さえていると、セナ殿下が私の異変に気が付いて顔を覗き込んできた。

「どうした、大丈夫か? 頭痛がするのは無理に思い出そうとするからじゃないか。考えるのはやめたらどうだ」
「大丈夫です。でも、思い出さないといけないんです」

 表情を歪めて答えると、お父様が反応する。

「セナ殿下! その子は昔、頭を強く打って、数十日間、眠っていたんです! その後遺症です! 無理に思い出させないほうが良いかと思います!」
「……数十日間、意識不明?」

 セナ殿下ではなく、私が反応した。

 すると、パララー様も首を傾げる

「アーティアが反抗的なことをしたから、意識不明の時期があったと言っていましたわよね。今、考えると意味がわかりませんわ」
「やめろ! お前は黙っているんだ!」

 お父様はパララー様を叱ると、私を睨みつける。

「お前は寝ていただけだ! 意識不明になどなっていない!」
「……似たようなもののような気もしますが、寝てるほうが聞こえは良いですね」

 そういえば、あの時、聞いた日よりも日数がかなり経っていたように感じていた。
 でも、お父様や使用人に丸一日寝てしまっていただけだと言われて、信じ込んでいただけなのかもしれない。

 幼い時は人を疑う心なんてなかったもの。

「お父様は、あの時、丸一日だけと言ってましたよね。私に嘘をついたんですか?」
「違うと言っているだろう! アーティア! お前は今まで育ててやった恩を忘れると言うのか!?」
「あなたは私の父親なのでしょう。それは義務です」
「約束を破ったのはお前だろう」

 私に続けてセナ殿下がお父様に言った。

 そうだわ。

 色々と思い出してきた。

 約束のことが気になる。
 お母様が私を連れて出ていく時、お父様が約束を破ったと言っていた。

「お父様」
「何だ!?」
「お父様とお母様がしていた約束とは、どんなものだったんですか?」

 私の質問に、お父様は表情を歪めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

(完結)戦死したはずの愛しい婚約者が妻子を連れて戻って来ました。

青空一夏
恋愛
私は侯爵家の嫡男と婚約していた。でもこれは私が望んだことではなく、彼の方からの猛アタックだった。それでも私は彼と一緒にいるうちに彼を深く愛するようになった。 彼は戦地に赴きそこで戦死の通知が届き・・・・・・ これは死んだはずの婚約者が妻子を連れて戻って来たというお話。記憶喪失もの。ざまぁ、異世界中世ヨーロッパ風、ところどころ現代的表現ありのゆるふわ設定物語です。 おそらく5話程度のショートショートになる予定です。→すみません、短編に変更。5話で終われなさそうです。

【完結】夫は王太子妃の愛人

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。 しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。 これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。 案の定、初夜すら屋敷に戻らず、 3ヶ月以上も放置されーー。 そんな時に、驚きの手紙が届いた。 ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。 ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

愛しのあなたにさよならを

MOMO-tank
恋愛
憧れに留めておくべき人だった。 でも、愛してしまった。 結婚3年、理由あって夫であるローガンと別々に出席した夜会で彼と今話題の美しい舞台女優の逢瀬を目撃してしまう。二人の会話と熱い口づけを見て、私の中で何かがガタガタと崩れ落ちるのを感じた。 私達には、まだ子どもはいない。 私は、彼から離れる決意を固める。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

処理中です...