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12 プリンセスとは誰なのか
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お父様から上手く逃れられたと思ったのに、また変なのに捕まってしまった。
これも私の行動が遅いせいね。
迅速に動くことって本当に重要なことなんだわ。
深呼吸して気持ちを落ち着けて答える。
「カバードが泣いているのは、彼が馬鹿なことをしたからです」
バカなだけに……と思ったけど、口に出そうものなら、パララー様の鉄拳が飛んできそうだ。
シルバートレイを持っていない今は防御する術がないので黙っておく。
パララー様は大柄で引き締まった体型をしている。
この国の淑女にしては珍しい、体を動かすことが好きな人で、自分のパンチ力が若い頃よりも衰えていないか試すために、私を殴ってくるような酷い人だ。
最初は素直に殴られていた私だった。
でも、私だってやられてばかりでは我慢ができない。
シルバートレイという、メイドが持っていてもおかしくないものを持ち歩き、何年か前からはそれによって防御することに成功していた。
問題はパララー様のほうがお父様よりもパンチ力が強いため、シルバートレイが凹んでしまうことだった。
シルバートレイは経費としてメイド長が落としてくれていたので、毎度、替えてもらう度に申し訳ない気持ちになっていた。
でも、これからはそんな心配はしなくて良くなくなるわ!
セナ殿下が言っていたけれど、パララー様は学園の成績が悪かったのよね。
だから、体を鍛えていたんだとわかると、褒めてあげたい気持ちになった。
暴力は許される行為ではないし、何度謝られても許すつもりはない。
でも、自分の得意分野を伸ばそうとすることは良いことだものね。
そんなことを呑気に考えていると、かなり間が空いてからパララー様が食って掛かってくる。
「カバードがバカですって!?」
「そこまで直接的なことは言っていません。馬鹿なことをしたと言っただけです」
「う、うるさいわね! 同じ意味じゃないの! あなたは本当に生意気な子だわ! 躾をしなくっちゃ!」
パララー様が腕を振りかぶり、平手打ちをする準備をした。
でも、騒ぎを聞きつけて応接室から出てきたセナ殿下の護衛騎士が、間に入ってくれたので殴られずに済んだ。
護衛騎士に腕を掴まれたパララー様は腕を振り払って叫ぶ。
「な、何をするのよ!? 本当にどいつもこいつも私が躾をしているところを見たら止めるのね! これは暴力じゃないのよ! 躾なのよ。我が家の方針に口を出さないで頂戴!」
「躾のようには思えないし たとえ躾だっとしても、彼女にこんなことをしても意味がないと普通は気が付いてやめるだろ」
セナ殿下が私とパララー様の間に入って言った。
私の目の高さくらいに彼の肩があるので、私にとっては、セナ殿下の背は高い。
でも、元々、身長が高くハイヒールを履いているパララー様はセナ殿下よりも高かった。
「何よ! あなた誰なの!? アーティアの友達なの!? アーティア、あなた、いつの間に友達なんて作ったのよ!」
パララー様はセナ殿下を見下ろして叫ぶ。
そろそろ禁句が出るかしら。
不謹慎だと思いつつもワクワクしていると、アフォーレが期待に応えてくれた。
「わあ、可愛いですね! お人形が人間になったみたい! ねぇ、なんて言うお名前なんですか? どうしたら、そんなに可愛くなれるのか教えて下さい! 肌もきれいですよね! どこの化粧品を使っていらっしゃるの?」
「……じゃない」
セナ殿下の声色が変わった。
キレるのかしら。
ワクワクして彼の顔を覗き込んでみると、これ以上深く刻めないのではと思うくらいに眉間に深いシワが刻まれている。
でも、まだキレているわけではなさそうなので話しかけてみる。
「セナ殿下、セナ殿下」
「……なんだ」
「怒っていないんですか?」
「ここでキレるのはワンパターン過ぎるから我慢してる」
「お約束だから良いのではないですか?」
「何のお約束だよ!?」
セナ殿下はそう叫ぶと、我慢するのを諦めたのか、アフォーレに訴える。
「俺は男だ。女性みたいだと言われるが男なんだ!」
「今、自分のことを僕とか俺とかいう女の子がいますものね! あなたは男性になりたかったんですか?」
本当のことだと思ってはもらえなかったようで、うふふとアフォーレが笑う。
セナ殿下の口の端が引きつっているのがわかった。
そろそろアフォーレ達に彼の正体を教えようかと思った時、応接室から出てきたお父様が叫んだ。
「二人共! 瞳を見てみろ!」
「え? 瞳?」
アフォーレが驚いた声を出し、パララー様は無言でセナ殿下を見た。
すると、声にならない声を上げて、その場に跪く。
「まさか、そんな! どうしてこんなところにいらっしゃるんですか!?」
パララー様は体を震わせて、セナ殿下を見上げる。
「アーティアに用事があって来たんだ」
「アーティアに!? あ、いえ、それよりも、あ、あの、セナ殿下、先程のご無礼をどうぞお許しください!」
「……暴力をふるおうとしたことは許せないが、女性と間違ったことは許す」
「あ、ありがとうございます」
お父様とパララー様は、大きく胸を撫で下ろした。
暴力のこともそうだし、カバードも失礼な発言をしていたから、安心するのはまだ早いのにね。
アフォーレが大人しいので見てみると、セナ殿下に近寄っていき、うるうると瞳を潤ませて言う。
「あ、あの、申し訳ございませんでした! プリンセスだったとは知りませんでした!」
意味がわかってないじゃないの!
「俺は男だって言ってんだろ!」
アフォーレは赤い瞳を持っているのは隣国の王家だけだと知っていた。
でも、隣国に王女がいないことは知らなかったようだった。
これも私の行動が遅いせいね。
迅速に動くことって本当に重要なことなんだわ。
深呼吸して気持ちを落ち着けて答える。
「カバードが泣いているのは、彼が馬鹿なことをしたからです」
バカなだけに……と思ったけど、口に出そうものなら、パララー様の鉄拳が飛んできそうだ。
シルバートレイを持っていない今は防御する術がないので黙っておく。
パララー様は大柄で引き締まった体型をしている。
この国の淑女にしては珍しい、体を動かすことが好きな人で、自分のパンチ力が若い頃よりも衰えていないか試すために、私を殴ってくるような酷い人だ。
最初は素直に殴られていた私だった。
でも、私だってやられてばかりでは我慢ができない。
シルバートレイという、メイドが持っていてもおかしくないものを持ち歩き、何年か前からはそれによって防御することに成功していた。
問題はパララー様のほうがお父様よりもパンチ力が強いため、シルバートレイが凹んでしまうことだった。
シルバートレイは経費としてメイド長が落としてくれていたので、毎度、替えてもらう度に申し訳ない気持ちになっていた。
でも、これからはそんな心配はしなくて良くなくなるわ!
セナ殿下が言っていたけれど、パララー様は学園の成績が悪かったのよね。
だから、体を鍛えていたんだとわかると、褒めてあげたい気持ちになった。
暴力は許される行為ではないし、何度謝られても許すつもりはない。
でも、自分の得意分野を伸ばそうとすることは良いことだものね。
そんなことを呑気に考えていると、かなり間が空いてからパララー様が食って掛かってくる。
「カバードがバカですって!?」
「そこまで直接的なことは言っていません。馬鹿なことをしたと言っただけです」
「う、うるさいわね! 同じ意味じゃないの! あなたは本当に生意気な子だわ! 躾をしなくっちゃ!」
パララー様が腕を振りかぶり、平手打ちをする準備をした。
でも、騒ぎを聞きつけて応接室から出てきたセナ殿下の護衛騎士が、間に入ってくれたので殴られずに済んだ。
護衛騎士に腕を掴まれたパララー様は腕を振り払って叫ぶ。
「な、何をするのよ!? 本当にどいつもこいつも私が躾をしているところを見たら止めるのね! これは暴力じゃないのよ! 躾なのよ。我が家の方針に口を出さないで頂戴!」
「躾のようには思えないし たとえ躾だっとしても、彼女にこんなことをしても意味がないと普通は気が付いてやめるだろ」
セナ殿下が私とパララー様の間に入って言った。
私の目の高さくらいに彼の肩があるので、私にとっては、セナ殿下の背は高い。
でも、元々、身長が高くハイヒールを履いているパララー様はセナ殿下よりも高かった。
「何よ! あなた誰なの!? アーティアの友達なの!? アーティア、あなた、いつの間に友達なんて作ったのよ!」
パララー様はセナ殿下を見下ろして叫ぶ。
そろそろ禁句が出るかしら。
不謹慎だと思いつつもワクワクしていると、アフォーレが期待に応えてくれた。
「わあ、可愛いですね! お人形が人間になったみたい! ねぇ、なんて言うお名前なんですか? どうしたら、そんなに可愛くなれるのか教えて下さい! 肌もきれいですよね! どこの化粧品を使っていらっしゃるの?」
「……じゃない」
セナ殿下の声色が変わった。
キレるのかしら。
ワクワクして彼の顔を覗き込んでみると、これ以上深く刻めないのではと思うくらいに眉間に深いシワが刻まれている。
でも、まだキレているわけではなさそうなので話しかけてみる。
「セナ殿下、セナ殿下」
「……なんだ」
「怒っていないんですか?」
「ここでキレるのはワンパターン過ぎるから我慢してる」
「お約束だから良いのではないですか?」
「何のお約束だよ!?」
セナ殿下はそう叫ぶと、我慢するのを諦めたのか、アフォーレに訴える。
「俺は男だ。女性みたいだと言われるが男なんだ!」
「今、自分のことを僕とか俺とかいう女の子がいますものね! あなたは男性になりたかったんですか?」
本当のことだと思ってはもらえなかったようで、うふふとアフォーレが笑う。
セナ殿下の口の端が引きつっているのがわかった。
そろそろアフォーレ達に彼の正体を教えようかと思った時、応接室から出てきたお父様が叫んだ。
「二人共! 瞳を見てみろ!」
「え? 瞳?」
アフォーレが驚いた声を出し、パララー様は無言でセナ殿下を見た。
すると、声にならない声を上げて、その場に跪く。
「まさか、そんな! どうしてこんなところにいらっしゃるんですか!?」
パララー様は体を震わせて、セナ殿下を見上げる。
「アーティアに用事があって来たんだ」
「アーティアに!? あ、いえ、それよりも、あ、あの、セナ殿下、先程のご無礼をどうぞお許しください!」
「……暴力をふるおうとしたことは許せないが、女性と間違ったことは許す」
「あ、ありがとうございます」
お父様とパララー様は、大きく胸を撫で下ろした。
暴力のこともそうだし、カバードも失礼な発言をしていたから、安心するのはまだ早いのにね。
アフォーレが大人しいので見てみると、セナ殿下に近寄っていき、うるうると瞳を潤ませて言う。
「あ、あの、申し訳ございませんでした! プリンセスだったとは知りませんでした!」
意味がわかってないじゃないの!
「俺は男だって言ってんだろ!」
アフォーレは赤い瞳を持っているのは隣国の王家だけだと知っていた。
でも、隣国に王女がいないことは知らなかったようだった。
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