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11 レモンズ家の長男とは 後編
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屈強な護衛騎士に首根っこを捕まえられて持ち上げられたカバードは、じたばたと手足を動かして叫ぶ。
「な、なんなんだよ一体!? お前ら一体、誰なんだよ! 客のくせにこんなことをしてもいいと思ってるのか!? ここは僕の家なんだぞ!」
お客様だとわかっているのに、失礼な発言をするほうがおかしいとは思わないのね。
「おい。こんな所で捕まえなくていい。応接に案内してもらってからだ」
「承知しました」
セナ殿下が怒りを鎮めたのか、冷静に指示すると、護衛騎士はカバードから手を離した。
自由になり、乱れたシャツを直しているカバードに話しかける。
「カバード、私も知らなかったから、あなたが知らなかったことについて文句を言える立場じゃないのかもしれないわ。だけどね、このことは社交場に出ているんだったら知っておかないといけないことだと思うわよ」
「このことって何だよ! それに、自分だって知らなかったんなら偉そうに言うな!」
「しょうがないじゃないの。他国のことまで詳しくは教えてもらっていないんだから」
教科書を読んだりしたけど、メインは二人の宿題の箇所ばかりだったから、我が国の歴史に関わっていないものはほとんど知らない。
赤い瞳の話なんて初耳だったもの。
先生達もどちらかというと礼儀作法を覚えさせるほうに必死だった。
あんなに教えてもらったのにできていないことが、本当に申し訳ない。
「もったいぶるな! お前は一体、何が言いたいんだよ!?」
「学のない私がこんなことを偉そうに言うことでもないけれど、赤い色の瞳って私達の住んでいる国では見たことがないんじゃないの?」
「そ、そうなのか? そう言われてみれば見たことがないような気がする」
「学園で習った覚えはないの?」
教科書に詳しく載っていなかったとしても、話題が出ていてもおかしくないと思って聞いてみた。
すると、カバードは眉根を寄せる。
「何か、聞いたことがあるような気がするけど覚えていない」
「何をしに学園に通っているのよ」
「交友関係を広げるためだ!」
「それも目的の一つでいいのかもしれないけれど、これから生きていくための基礎を学ぶものでもあるでしょう? 赤い瞳の話を知っておくことは貴族としては必要なことよ」
「だから、結論を早く言えよ!」
護衛騎士に首根っこを掴まれたことがよっぽど怖かったのか、泣きべそをかいているカバードに教えてあげる。
「赤い瞳はリシャード王国の王家特有のものなんですって」
「……は? 何を馬鹿なことを言ってるんだ。となると、ここにいる女は王族って、ぐえっ」
言い返してきたカバードだったが、護衛騎士が首を掴んだため、カエルが潰れたような声を上げた。
話せなくなった彼の代わりに謝る。
「セナ殿下、申し訳ございませんでした」
「別にアーティアが謝ることじゃない」
「いえ。こんな馬鹿に話しかけられて足を止めてしまった私が悪いんです。あ、あの、カバードは屋敷の外に捨ててくださって結構です」
護衛騎士に伝えると、カバードが抗議する
「な、なんてことを言うんだよ! 捨てるなんて酷い言い方をするな!」
「傷つけてしまったのなら謝るわ。でも、今はどこかに行ってほしいのよ」
「アーティア! あとで覚えてろよ!」
「十秒後までは覚えておくわ」
護衛騎士に引きずられていくカバードを冷めた目で見送ると、改めてメイドに先導してもらって応接室に向かう。
セナ殿下たちに応接室に入ってもらってから、自分の部屋に戻ろうと思っていたのだ。
でも、その判断は失敗だった。
カバードに時間を取られたせいで、すでにお父様は部屋に到着しており、部屋の中でウロウロと歩き回っていた。
最悪だわ。
気づかれない内に立ち去ろうとした時、お父様と目が合った。
しょうがない。
「お父様、お客様がお見えです」
「どうして、お前がセナ殿下を連れてくるのだ!? お前はズラン侯爵令息と会っているはずだろう!?」
バトラーから聞いたのか、それとも見ただけで判断したのかはわからない。
お父様は相手がセナ殿下だと知っていた。
「よくわからない理由で婚約破棄されたところ、セナ殿下が拾ってくださったのです」
そういえば、どうしてセナ殿下がカフェにいたのか聞けていなかった。
……って、スワラ達が教えたからに決まってるわね。
「よくわからないと言いたいのはこっちだ! ズラン侯爵令息に婚約破棄されるだなど、どうなるかわかっているのだろうな!? 今すぐにお前をここから追い出してやる!」
「ありがとうございます! 嬉しいです!」
「……は?」
ぽかんとしているお父様に両手を胸の前で合わせ、笑顔でお礼を言う。
「ありがとうございます、お父様! ちょうどセナ殿下からキレーナ公爵家のお世話になるようにとお話をいただいたんです。婚約破棄の話と、そのことでご相談しようと思っていたところだったのですが手間が省けました!」
「な、な、何を言っておるのだ!?」
「そのままの意味ですが? とにかく、許可が下りましたし荷造りをしてまいります! あ、セナ殿下、よろしければ、そちらのソファーにお座りになってお待ちいただけますか? すぐに準備をしていまいります! 荷物なんてほとんどございませんので!」
「あ、ああ」
セナ殿下の顔が呆れているようにも見える。
でも、こんな性格だから今までやって来れたのだ。
スキップしたくなる気持ちを抑えて、メイドにセナ殿下達にお茶を淹れてもらうように頼もうとした時だった。
「アーティア! 一体、何の騒ぎなの!? カバードが泣きわめいているんだけど!?」
「何なの、お姉様。もしかして、もうフラれて帰ってきちゃったんですか!?」
怒り狂ったパララー様と呑気そうなアフォーレが応接室までやって来たのだった。
「な、なんなんだよ一体!? お前ら一体、誰なんだよ! 客のくせにこんなことをしてもいいと思ってるのか!? ここは僕の家なんだぞ!」
お客様だとわかっているのに、失礼な発言をするほうがおかしいとは思わないのね。
「おい。こんな所で捕まえなくていい。応接に案内してもらってからだ」
「承知しました」
セナ殿下が怒りを鎮めたのか、冷静に指示すると、護衛騎士はカバードから手を離した。
自由になり、乱れたシャツを直しているカバードに話しかける。
「カバード、私も知らなかったから、あなたが知らなかったことについて文句を言える立場じゃないのかもしれないわ。だけどね、このことは社交場に出ているんだったら知っておかないといけないことだと思うわよ」
「このことって何だよ! それに、自分だって知らなかったんなら偉そうに言うな!」
「しょうがないじゃないの。他国のことまで詳しくは教えてもらっていないんだから」
教科書を読んだりしたけど、メインは二人の宿題の箇所ばかりだったから、我が国の歴史に関わっていないものはほとんど知らない。
赤い瞳の話なんて初耳だったもの。
先生達もどちらかというと礼儀作法を覚えさせるほうに必死だった。
あんなに教えてもらったのにできていないことが、本当に申し訳ない。
「もったいぶるな! お前は一体、何が言いたいんだよ!?」
「学のない私がこんなことを偉そうに言うことでもないけれど、赤い色の瞳って私達の住んでいる国では見たことがないんじゃないの?」
「そ、そうなのか? そう言われてみれば見たことがないような気がする」
「学園で習った覚えはないの?」
教科書に詳しく載っていなかったとしても、話題が出ていてもおかしくないと思って聞いてみた。
すると、カバードは眉根を寄せる。
「何か、聞いたことがあるような気がするけど覚えていない」
「何をしに学園に通っているのよ」
「交友関係を広げるためだ!」
「それも目的の一つでいいのかもしれないけれど、これから生きていくための基礎を学ぶものでもあるでしょう? 赤い瞳の話を知っておくことは貴族としては必要なことよ」
「だから、結論を早く言えよ!」
護衛騎士に首根っこを掴まれたことがよっぽど怖かったのか、泣きべそをかいているカバードに教えてあげる。
「赤い瞳はリシャード王国の王家特有のものなんですって」
「……は? 何を馬鹿なことを言ってるんだ。となると、ここにいる女は王族って、ぐえっ」
言い返してきたカバードだったが、護衛騎士が首を掴んだため、カエルが潰れたような声を上げた。
話せなくなった彼の代わりに謝る。
「セナ殿下、申し訳ございませんでした」
「別にアーティアが謝ることじゃない」
「いえ。こんな馬鹿に話しかけられて足を止めてしまった私が悪いんです。あ、あの、カバードは屋敷の外に捨ててくださって結構です」
護衛騎士に伝えると、カバードが抗議する
「な、なんてことを言うんだよ! 捨てるなんて酷い言い方をするな!」
「傷つけてしまったのなら謝るわ。でも、今はどこかに行ってほしいのよ」
「アーティア! あとで覚えてろよ!」
「十秒後までは覚えておくわ」
護衛騎士に引きずられていくカバードを冷めた目で見送ると、改めてメイドに先導してもらって応接室に向かう。
セナ殿下たちに応接室に入ってもらってから、自分の部屋に戻ろうと思っていたのだ。
でも、その判断は失敗だった。
カバードに時間を取られたせいで、すでにお父様は部屋に到着しており、部屋の中でウロウロと歩き回っていた。
最悪だわ。
気づかれない内に立ち去ろうとした時、お父様と目が合った。
しょうがない。
「お父様、お客様がお見えです」
「どうして、お前がセナ殿下を連れてくるのだ!? お前はズラン侯爵令息と会っているはずだろう!?」
バトラーから聞いたのか、それとも見ただけで判断したのかはわからない。
お父様は相手がセナ殿下だと知っていた。
「よくわからない理由で婚約破棄されたところ、セナ殿下が拾ってくださったのです」
そういえば、どうしてセナ殿下がカフェにいたのか聞けていなかった。
……って、スワラ達が教えたからに決まってるわね。
「よくわからないと言いたいのはこっちだ! ズラン侯爵令息に婚約破棄されるだなど、どうなるかわかっているのだろうな!? 今すぐにお前をここから追い出してやる!」
「ありがとうございます! 嬉しいです!」
「……は?」
ぽかんとしているお父様に両手を胸の前で合わせ、笑顔でお礼を言う。
「ありがとうございます、お父様! ちょうどセナ殿下からキレーナ公爵家のお世話になるようにとお話をいただいたんです。婚約破棄の話と、そのことでご相談しようと思っていたところだったのですが手間が省けました!」
「な、な、何を言っておるのだ!?」
「そのままの意味ですが? とにかく、許可が下りましたし荷造りをしてまいります! あ、セナ殿下、よろしければ、そちらのソファーにお座りになってお待ちいただけますか? すぐに準備をしていまいります! 荷物なんてほとんどございませんので!」
「あ、ああ」
セナ殿下の顔が呆れているようにも見える。
でも、こんな性格だから今までやって来れたのだ。
スキップしたくなる気持ちを抑えて、メイドにセナ殿下達にお茶を淹れてもらうように頼もうとした時だった。
「アーティア! 一体、何の騒ぎなの!? カバードが泣きわめいているんだけど!?」
「何なの、お姉様。もしかして、もうフラれて帰ってきちゃったんですか!?」
怒り狂ったパララー様と呑気そうなアフォーレが応接室までやって来たのだった。
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