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7 キレーナ公爵家とは?
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どうして、私がこんなにお金にこだわっているのか、ボルバー様には理解ができないみたいだった。
少し考えてみればわかることだと思うんだけど、彼は自分のことしか考えていないし、今のところはお金に困ったことがないでしょうから、お金がなければどうなるかなんて考えたこともないんでしょう。
ボルバー様にはお金の大切さを知ってもらわないといけないわ!
そうすれば、私が必死になる理由がわかるはずよ。
「私はお金を持っていません! でも、生きていくにはお金は本当に必要なんです!」
自分の名誉のために、私がただの守銭奴ではないと知ってもらうために、自分の胸に手を当ててアピールすると、ボルバー様は困惑の表情を浮かべる。
「お、お金を持っていません、って何だよ! そんなことを偉そうに言うな!」
「偉そうに言ってるのではありません! 本当のことを言っているんです!」
「意味がわからない! この店で飲み食いした分の金を俺に出せって言うのか!?」
「そうではありません。今日の分はレモンズ侯爵家に請求してもらうつもりですので、ご心配なく。私が言いたいのはボルバー様が私との婚約を破棄した場合、私が生活していくにはお金が必要だということです」
「はあ? 今まで通りに暮らせばいいだろ!? どうして、いきなり金が必要になるんだよ」
「今まで通りに暮らせなくなるので、お金をいただきたいと言っているんです。出来れば小切手でお願いします!」
私達の住んでいる国には銀行という両替商がある。
そこでは、物をお金に交換することも出来るし、お金を預けることによって利子がもらえたり、商売人への融資や取引先への支払い、取引先からの代金の受け渡しの業務など、お金に関わるものを一手に請け負っている。
小切手というのは現金の代わりみたいなものだ。
相手から受け取った小切手を銀行に持っていくと、額面の金額を相手が銀行に預けているお金を用意してくれる。
相手が銀行に預けていない場合は、支払人が信用のある人であれば、よほど大きな金額ではない限り、立て替えて先に渡してくれる。
それから、その金額を自分の口座に移せば大金を持ち歩かなくて済む。
大金は銀行に預けるのが当たり前の世界なので、ボルバー様のお家が銀行にお金を預けていないわけはない。
その部分については心配しなくても良いはずだ。
ボルバー様の浮気での婚約破棄だもの。
慰謝料をもらわないと損だわ!
相手は侯爵家なんだから、お金に困っていないはずだし、多めにもらえるはず!
ボルバー様のようなタイプは一度決めたら、後先考えずに決行タイプでしょうし、今、口約束でも契約を交わしてしまえば婚約破棄は成立するはずだ。
それにしても、ボルバー様は中々、小切手の用紙を出してくれない。
もしかして、今は持っていなかったりするのかしら。
普段は付き人が持っていたりするものだし、その人に出てきてもらうしかない。
「あの、ボルバー様、お金ください」
「な、なんて、金にがめつい女なんだ! こんな女が世の中に存在するだなんて!」
「金にがめついだなんて失礼ですね! 生きていく上にお金は必要です! お願いします! あなたがお金を自由に使える間に私に慰謝料をください! ボルバー様にも付き人がいらっしゃるのでしょう!?」
私の言葉に反応して、店の入口近くの席に座っていた黒スーツの男性がこちらにやって来て、慌てた顔で話しかけてくる。
「ボルバー様の一存では慰謝料のお支払いはできません。婚約破棄についても同じことでございます」
「それでは困るんです! このままでは、こんな浮気者で平民落ちしか見えてこない人と結婚しなければならないんですよ!? 私が気の毒だとは思いませんか!?」
「も、もちろん、気の毒だとは思いますが」
付き人は私の耳に口を近づけ、小声で続ける。
「貴族の間では周知されていることではございますが、ボルバー様は自分が平民落ちするかもしれないという事実を知らないのです」
「それは失礼いたしました。知らなかったとはいえ、言ってはいけないことだったのですね」
「興奮する気持ちはお察ししますし、そろそろ本人に気づいていただきたいので結構ですよ」
付き人はまともな人のようで、苦笑して言った。
「おい、お前! 何をコソコソ話をしてるんだ!」
ボルバー様が付き人に食ってかかると、今まで呆れた顔で私達の様子を見守っていたセナ殿下が口を開く。
「ボルバーとか言ったな。ギャンギャンわめくのはやめてくれ。頭に響く。それから、アーティア、婚約破棄のことは、こちらから話をしておくから、君は気にしなくていい」
「そんな!」
どうして、セナ殿下が関わってくるのよ!?
このままでは私は一文無しの状態で家から追い出されてしまう。
もしくは、こんな大馬鹿者と結婚しないといけなくなるじゃないの。
そんなの絶対に嫌よ!
かといって、他国とはいえ私が王族に意見をするなんて良くはないことだろうし!
恨めしく思いながら、セナ殿下を見つめると彼は苦笑する。
「婚約破棄の発言は俺や他の人間が証言するから、無事に婚約は破棄されるだろう。慰謝料がもらえなくても心配しなくていいと言いたかったんだ」
「ですが、婚約が破談になった場合、家から出ていけと父に言われているんです」
「それも心配しなくていい。準備が整ったら、君はキレーナ公爵家に住んでもらうことになる」
「き、綺麗な公爵家?」
「キレーナだよ。イじゃなくて伸ばすんだ」
「失礼しました。ですが、どうして私が、その、キレーナ公爵家に住むことになるんでしょうか」
「そこに君の母親がいるからだ」
「……はい?」
セナ殿下の口から信じられない言葉が飛び出してきたので、間抜けな声が出てしまった。
お父様はお母様が今、どこにいるか知っているようだった。
だから、死んでいたなら、お父様が何か言ってくるはずだし、お母様がどこかで生きてはいるのだろうと思ってはいた。
隣国の公爵家にいるだなんて想像もしたことがなかった。
だって、平民と駆け落ちしたって聞いていたんだもの。
王子がわざわざ私に嘘をつくとは思えないし、真実を言っているのだと思う。
一体、お母様とお父様の間に何があったって言うの?
それに、キレーナ公爵家とお母様はどういう関係があるのかしら。
※
銀行の話が出てきますが、現実世界のものと混同なさらないようにお願いいたします。
その他のことにつきましても同様です。
少し考えてみればわかることだと思うんだけど、彼は自分のことしか考えていないし、今のところはお金に困ったことがないでしょうから、お金がなければどうなるかなんて考えたこともないんでしょう。
ボルバー様にはお金の大切さを知ってもらわないといけないわ!
そうすれば、私が必死になる理由がわかるはずよ。
「私はお金を持っていません! でも、生きていくにはお金は本当に必要なんです!」
自分の名誉のために、私がただの守銭奴ではないと知ってもらうために、自分の胸に手を当ててアピールすると、ボルバー様は困惑の表情を浮かべる。
「お、お金を持っていません、って何だよ! そんなことを偉そうに言うな!」
「偉そうに言ってるのではありません! 本当のことを言っているんです!」
「意味がわからない! この店で飲み食いした分の金を俺に出せって言うのか!?」
「そうではありません。今日の分はレモンズ侯爵家に請求してもらうつもりですので、ご心配なく。私が言いたいのはボルバー様が私との婚約を破棄した場合、私が生活していくにはお金が必要だということです」
「はあ? 今まで通りに暮らせばいいだろ!? どうして、いきなり金が必要になるんだよ」
「今まで通りに暮らせなくなるので、お金をいただきたいと言っているんです。出来れば小切手でお願いします!」
私達の住んでいる国には銀行という両替商がある。
そこでは、物をお金に交換することも出来るし、お金を預けることによって利子がもらえたり、商売人への融資や取引先への支払い、取引先からの代金の受け渡しの業務など、お金に関わるものを一手に請け負っている。
小切手というのは現金の代わりみたいなものだ。
相手から受け取った小切手を銀行に持っていくと、額面の金額を相手が銀行に預けているお金を用意してくれる。
相手が銀行に預けていない場合は、支払人が信用のある人であれば、よほど大きな金額ではない限り、立て替えて先に渡してくれる。
それから、その金額を自分の口座に移せば大金を持ち歩かなくて済む。
大金は銀行に預けるのが当たり前の世界なので、ボルバー様のお家が銀行にお金を預けていないわけはない。
その部分については心配しなくても良いはずだ。
ボルバー様の浮気での婚約破棄だもの。
慰謝料をもらわないと損だわ!
相手は侯爵家なんだから、お金に困っていないはずだし、多めにもらえるはず!
ボルバー様のようなタイプは一度決めたら、後先考えずに決行タイプでしょうし、今、口約束でも契約を交わしてしまえば婚約破棄は成立するはずだ。
それにしても、ボルバー様は中々、小切手の用紙を出してくれない。
もしかして、今は持っていなかったりするのかしら。
普段は付き人が持っていたりするものだし、その人に出てきてもらうしかない。
「あの、ボルバー様、お金ください」
「な、なんて、金にがめつい女なんだ! こんな女が世の中に存在するだなんて!」
「金にがめついだなんて失礼ですね! 生きていく上にお金は必要です! お願いします! あなたがお金を自由に使える間に私に慰謝料をください! ボルバー様にも付き人がいらっしゃるのでしょう!?」
私の言葉に反応して、店の入口近くの席に座っていた黒スーツの男性がこちらにやって来て、慌てた顔で話しかけてくる。
「ボルバー様の一存では慰謝料のお支払いはできません。婚約破棄についても同じことでございます」
「それでは困るんです! このままでは、こんな浮気者で平民落ちしか見えてこない人と結婚しなければならないんですよ!? 私が気の毒だとは思いませんか!?」
「も、もちろん、気の毒だとは思いますが」
付き人は私の耳に口を近づけ、小声で続ける。
「貴族の間では周知されていることではございますが、ボルバー様は自分が平民落ちするかもしれないという事実を知らないのです」
「それは失礼いたしました。知らなかったとはいえ、言ってはいけないことだったのですね」
「興奮する気持ちはお察ししますし、そろそろ本人に気づいていただきたいので結構ですよ」
付き人はまともな人のようで、苦笑して言った。
「おい、お前! 何をコソコソ話をしてるんだ!」
ボルバー様が付き人に食ってかかると、今まで呆れた顔で私達の様子を見守っていたセナ殿下が口を開く。
「ボルバーとか言ったな。ギャンギャンわめくのはやめてくれ。頭に響く。それから、アーティア、婚約破棄のことは、こちらから話をしておくから、君は気にしなくていい」
「そんな!」
どうして、セナ殿下が関わってくるのよ!?
このままでは私は一文無しの状態で家から追い出されてしまう。
もしくは、こんな大馬鹿者と結婚しないといけなくなるじゃないの。
そんなの絶対に嫌よ!
かといって、他国とはいえ私が王族に意見をするなんて良くはないことだろうし!
恨めしく思いながら、セナ殿下を見つめると彼は苦笑する。
「婚約破棄の発言は俺や他の人間が証言するから、無事に婚約は破棄されるだろう。慰謝料がもらえなくても心配しなくていいと言いたかったんだ」
「ですが、婚約が破談になった場合、家から出ていけと父に言われているんです」
「それも心配しなくていい。準備が整ったら、君はキレーナ公爵家に住んでもらうことになる」
「き、綺麗な公爵家?」
「キレーナだよ。イじゃなくて伸ばすんだ」
「失礼しました。ですが、どうして私が、その、キレーナ公爵家に住むことになるんでしょうか」
「そこに君の母親がいるからだ」
「……はい?」
セナ殿下の口から信じられない言葉が飛び出してきたので、間抜けな声が出てしまった。
お父様はお母様が今、どこにいるか知っているようだった。
だから、死んでいたなら、お父様が何か言ってくるはずだし、お母様がどこかで生きてはいるのだろうと思ってはいた。
隣国の公爵家にいるだなんて想像もしたことがなかった。
だって、平民と駆け落ちしたって聞いていたんだもの。
王子がわざわざ私に嘘をつくとは思えないし、真実を言っているのだと思う。
一体、お母様とお父様の間に何があったって言うの?
それに、キレーナ公爵家とお母様はどういう関係があるのかしら。
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銀行の話が出てきますが、現実世界のものと混同なさらないようにお願いいたします。
その他のことにつきましても同様です。
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