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4 夫よりも愛人を優先することは許されるのか
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今の状況が理解できなくて固まった私だったが、すぐに我に返る。
とにかく、相手は目上の人だもの。
こちらから、挨拶しなくちゃいけないわ。
先生達から教えてもらったカーテシーを披露する。
「はじめまして、オブリー公爵夫人にお会いできて光栄です。アーティア・レモンズと申します」
「……レモンズさん。手で握って潰したくなるようなお名前ね」
「……はあ。ありがとうございます。……そんなものなのでしょうか」
普通は公爵夫人がレモンを手で握りつぶしたくなるなんて言わないでしょう。
暗に私を握りつぶしたいと言ってるのだから、好戦的にも程があるわ。
「そんなものですわよ」
ふふふと笑う公爵夫人を呆れた顔で見つめていると、ボルバー様が私の鼻先に指を突きつける。
「侯爵令嬢が彼女の言うことに文句をつけるなよな」
「文句というよりかは不思議に思っただけです。不快な気持ちにさせてしまったことはお詫び申し上げます」
オブリー公爵夫人に頭を下げると、ボルバー様の怒りの声が頭上から聞こえてくる。
「おい! そんなことで許されると思うなよ! 床に額を付けて謝れ!」
どうして、あなたが偉そうにしているのよ。
怒りが顔に出そうだわ。
でも、駄目よ。
今は謝罪中だもの。
怒りながら謝っているように思われたら、ただの逆ギレしている人だわ。
「ボルバー、あまり大きな声を出さないでちょうだい。あまり注目を浴びたくないのよ。主人に知られては困るの。レモンズさん、顔を上げてちょうだい」
オブリー公爵夫人に促され、ゆっくりと顔を上げる。
すると、店内にいる客の視線が私達に注がれていることがわかった。
公爵家ならば、さすがの私も覚えているはずなんだけど、オブリー家なんて聞いたことがないわ。
私が忘れてしまっているだけかしら?
悩んでいると、ひそひそ話が聞こえてくる。
「男性はわかるんだけど、女性は知らないわ」
「社交場で見かけたことはないけど、良い生地のドレスを着ているし、貴族であることに間違いはないんでしょうね」
話をしている二人は見るからに貴族のようだし、彼女たちが知らないということは私が知っているわけがない。
「男性を二人が取り合っているのかしら」
「そうかもしれないわね」
私とオブリー公爵夫人がボルバー様のことで揉めていると思われているようだった。
ボルバー様を取り合っていると思われるなんて迷惑だわ。
「……あの、オブリー公爵夫人」
「何かしら、レモンズさん。 ああ、とにかく、座って話をしましょう。話は長くなりそうですからね」
オブリー公爵夫人は妖艶な笑みを浮かべ、ウェーブのかかった紫色の長い前髪をかきあげた。
私は話したくありません。
もう、帰りたいです。
言いたいけれど言えない。
大人になったら、こういう我慢が必要になるのね。
「承知しました。そちらの席へどうぞ」
公爵夫人はボルバー様の手を借りて、私の向かい側の椅子に座った。
ボルバー様は彼女の隣に座ると、ゴミでも見るような目で私を見つめる。
私も同じような目で彼を見ているでしょうから、それについて文句を言うつもりはない。
「ああ、どうして、俺はこんな女と結婚しなければならないんだ」
「では、今すぐ断っていただけませんか。そして、迷惑料としてお金を私にください」
家から追い出されては困ると思っていた。
だけど、この人が相手なら、婚約だって絶対に嫌だわ。
お金があればいつだって家から出ていける!
それに、この調子だと夫人の旦那様にバレて、ボルバー様は多額の慰謝料を請求されるでしょう。
ズラン侯爵はどうしてこんな人を野放しにしているのかしら。
自分の家を没落させたいとしか思えないわ。
「迷惑料だと? 何を言ってるんだ!? お前は馬鹿なのか?」
「馬鹿かもしれませんが、あなたよりも常識はあると思います」
「どういうことだ」
「はっきり言わせていただきますが、婚約者との初顔合わせに恋人を連れてくる人がいます? 意味がわかりませんわ。しかも、相手は既婚者だなんて」
「う、うるさいな! 嫌ならお前から婚約を断ればいいだろう!」
「こちらにはそれが出来ない事情があるのです」
ふうとこれ見よがしに息を吐いてから、オブリー公爵夫人に尋ねる。
「オブリー公爵夫人にお聞きしたいのですが、オブリー公爵家の領地はどのあたりになるのでしょうか?」
「あら、伝えていなかったわね。私は隣国の公爵夫人なのよ」
「……隣国の公爵夫人ですか」
ボルバー様は正真正銘の馬鹿だわ。
同じ国の公爵夫人に手を出すことだって良くはない。
だけど、隣国の公爵夫人だなんて国際問題になったらどうするつもりなのかしら。
こうなりたいとは思わないけど、自分の欲望にここまで素直になれるのも羨ましいわね。
すると、何を思ったのか、公爵夫人が微笑む。
「ふふ。私の美貌に驚いているみたいね。私は主人より十歳以上も年上なのよ」
「そうなんですね」
誰もそんなことは聞いていない。
でも、相手は目上の女性だし、たとえ聞いてもいないことを話しだしたのだとしても、黙って聞いておくことにする。
「夫に望まれて結婚したのに、最近の夫は私をあまり相手にしてくれないの」
「可哀想なメルメル。こんなにも美しい君を放って置くなんて信じられない」
美しいという外見は否定はしない。
でも、ボルバー様は気持ち悪い。
ああ。
気持ち悪いという言葉は人に言ってはいけないと先生から怒られたことがあるわ。
……思うくらいなら良いわよね。
オブリー公爵夫人はボルバー様の様子に気を良くして話し続ける。
「夫も仕事がお休みの日に一緒に出かけようと誘ってくれるのよ? でもね、その日は毎回、ボルバーと約束しているのよ。タイミングが悪いと思わない?」
「……はあ」
「申し訳なかったなと思って、ボルバーと約束していない日に声を掛けたら、仕事だと言うのよ。おかしいでしょう?」
いや、仕事がお休みの日に誘ってくれているのに断ってるのはあなたでしょう。
おかしいのはあなたですよ。
どうして、愛人との約束を優先するんですか。
旦那様が相手にしてくれないんじゃなく、あなたが旦那様の相手をする暇がないだけじゃないですか。
色々と言いたい。
というか、こんな話を聞くのももう嫌になってきた。
話題を迷惑料の話に戻したい。
「ねえ、レモンズさん。あなた、私とボルバーとの馴れ初めを知りたいわよね」
「いいえ」
「えっ!?」
知りたくなかったので正直に答えたら、公爵夫人は驚いた顔をする。
驚きたいのはこっちなんですけど、きっと理解してくれませんよね。
「……ああ、ごめんなさい。自分の婚約者に恋人がいただなんてショックでしょうし、聞きたくないという気持ちもわかるわ」
「メルメルとの出会いは運命的でな。俺が声を掛けたんだ」
公爵夫人が嬉しそうに微笑むと、ボルバー様が勝手に話し始めた。
「俺は勇気のある男だからな。そこがどんな場所であろうが、素敵な女性を見かけたら声を掛けるんだ。そして、その女性が自分に落ちるまで付きまとう。それが男ってやつだろう」
世の中の男がそんな人ばかりだったら、その男を殴るために武術を習う女性が増えそうな気がする。
「おい! 聞いてるのか!?」
「聞いておりますとも。頭の中で必死にボルバー様の考えを理解しようとしておりました。ところで、オブリー公爵夫人はその声かけに反応されたのですか? 周りに騎士やメイドもいたのではないのでしょうか」
ボルバー様を相手にするのが面倒に感じたので、オブリー公爵夫人に尋ねると、彼女は微笑む。
「面白そうな方だと思ったから、私が許可を出したのよ」
「そうだったんですか」
危機感が足りないのではないのかしら。
それに、公爵夫人は何も考えていないようだけど、騎士やメイドは、その時のことをオブリー公爵に話をしているはずだわ。
今日だって、一人でここまで来ているわけではないでしょうし。
とツッコミたくなる気持ちを抑えて質問を続ける。
「それからのお付き合いなんですのね。オブリー公爵夫人は、ボルバー様のことをどう思ってらっしゃるんです?」
「可愛い恋人よ」
「オブリー公爵閣下はお二人の関係をご存じないのですか?」
「そうよ。だから、言わないでちょうだいね」
となると、公爵夫人から口止め料をもらっても良いのでは?
そんな悪い考えが頭に浮かんだ時、公爵夫人が話題を変える。
「そういえば、あなたのお母様のことだけれど」
「……母というのは?」
パララー様のことかしら。
そう思って聞いてみると、公爵夫人は冷ややかな笑みを浮かべた。
「あなたを生んだお母様よ。男性と駆け落ちして逃げたらしいわね? しかも平民の男性と!」
「そうだ。こいつは最悪な女の娘なんだ。こんな女と婚約だなんてありえねぇ!」
椅子から立ち上がって、ボルバー様は近くにいる客に向かって叫ぶ。
「みんな、聞いてくれ! ここにいる女は母親に捨てられた女なんだ! だから、俺も捨ててやろうと思う!」
突然の宣言に周りの客は、皆、ボルバー様を見つめて唖然としている。
本当に迷惑な男ね。
そんなことを言われても他の人はどう反応したら良いって言うのよ。
我慢ができず、言い返そうとした時だった。
「だから俺も捨ててやろうだなんて、よくもそんなことが言えたもんだな。それから、アーティアは捨てられてない」
私の背後から、男性の声が聞こえたので振り返る。
すると、こちらに身体を向けて椅子に座っている人がいた。
外套のフードで顔を覆い隠している上に俯いているから、顔が見えない。
見た目は不審者で胡散臭いけど、私と母について何か知っているのなら、ぜひ教えてもらいたいものだわ。
とにかく、相手は目上の人だもの。
こちらから、挨拶しなくちゃいけないわ。
先生達から教えてもらったカーテシーを披露する。
「はじめまして、オブリー公爵夫人にお会いできて光栄です。アーティア・レモンズと申します」
「……レモンズさん。手で握って潰したくなるようなお名前ね」
「……はあ。ありがとうございます。……そんなものなのでしょうか」
普通は公爵夫人がレモンを手で握りつぶしたくなるなんて言わないでしょう。
暗に私を握りつぶしたいと言ってるのだから、好戦的にも程があるわ。
「そんなものですわよ」
ふふふと笑う公爵夫人を呆れた顔で見つめていると、ボルバー様が私の鼻先に指を突きつける。
「侯爵令嬢が彼女の言うことに文句をつけるなよな」
「文句というよりかは不思議に思っただけです。不快な気持ちにさせてしまったことはお詫び申し上げます」
オブリー公爵夫人に頭を下げると、ボルバー様の怒りの声が頭上から聞こえてくる。
「おい! そんなことで許されると思うなよ! 床に額を付けて謝れ!」
どうして、あなたが偉そうにしているのよ。
怒りが顔に出そうだわ。
でも、駄目よ。
今は謝罪中だもの。
怒りながら謝っているように思われたら、ただの逆ギレしている人だわ。
「ボルバー、あまり大きな声を出さないでちょうだい。あまり注目を浴びたくないのよ。主人に知られては困るの。レモンズさん、顔を上げてちょうだい」
オブリー公爵夫人に促され、ゆっくりと顔を上げる。
すると、店内にいる客の視線が私達に注がれていることがわかった。
公爵家ならば、さすがの私も覚えているはずなんだけど、オブリー家なんて聞いたことがないわ。
私が忘れてしまっているだけかしら?
悩んでいると、ひそひそ話が聞こえてくる。
「男性はわかるんだけど、女性は知らないわ」
「社交場で見かけたことはないけど、良い生地のドレスを着ているし、貴族であることに間違いはないんでしょうね」
話をしている二人は見るからに貴族のようだし、彼女たちが知らないということは私が知っているわけがない。
「男性を二人が取り合っているのかしら」
「そうかもしれないわね」
私とオブリー公爵夫人がボルバー様のことで揉めていると思われているようだった。
ボルバー様を取り合っていると思われるなんて迷惑だわ。
「……あの、オブリー公爵夫人」
「何かしら、レモンズさん。 ああ、とにかく、座って話をしましょう。話は長くなりそうですからね」
オブリー公爵夫人は妖艶な笑みを浮かべ、ウェーブのかかった紫色の長い前髪をかきあげた。
私は話したくありません。
もう、帰りたいです。
言いたいけれど言えない。
大人になったら、こういう我慢が必要になるのね。
「承知しました。そちらの席へどうぞ」
公爵夫人はボルバー様の手を借りて、私の向かい側の椅子に座った。
ボルバー様は彼女の隣に座ると、ゴミでも見るような目で私を見つめる。
私も同じような目で彼を見ているでしょうから、それについて文句を言うつもりはない。
「ああ、どうして、俺はこんな女と結婚しなければならないんだ」
「では、今すぐ断っていただけませんか。そして、迷惑料としてお金を私にください」
家から追い出されては困ると思っていた。
だけど、この人が相手なら、婚約だって絶対に嫌だわ。
お金があればいつだって家から出ていける!
それに、この調子だと夫人の旦那様にバレて、ボルバー様は多額の慰謝料を請求されるでしょう。
ズラン侯爵はどうしてこんな人を野放しにしているのかしら。
自分の家を没落させたいとしか思えないわ。
「迷惑料だと? 何を言ってるんだ!? お前は馬鹿なのか?」
「馬鹿かもしれませんが、あなたよりも常識はあると思います」
「どういうことだ」
「はっきり言わせていただきますが、婚約者との初顔合わせに恋人を連れてくる人がいます? 意味がわかりませんわ。しかも、相手は既婚者だなんて」
「う、うるさいな! 嫌ならお前から婚約を断ればいいだろう!」
「こちらにはそれが出来ない事情があるのです」
ふうとこれ見よがしに息を吐いてから、オブリー公爵夫人に尋ねる。
「オブリー公爵夫人にお聞きしたいのですが、オブリー公爵家の領地はどのあたりになるのでしょうか?」
「あら、伝えていなかったわね。私は隣国の公爵夫人なのよ」
「……隣国の公爵夫人ですか」
ボルバー様は正真正銘の馬鹿だわ。
同じ国の公爵夫人に手を出すことだって良くはない。
だけど、隣国の公爵夫人だなんて国際問題になったらどうするつもりなのかしら。
こうなりたいとは思わないけど、自分の欲望にここまで素直になれるのも羨ましいわね。
すると、何を思ったのか、公爵夫人が微笑む。
「ふふ。私の美貌に驚いているみたいね。私は主人より十歳以上も年上なのよ」
「そうなんですね」
誰もそんなことは聞いていない。
でも、相手は目上の女性だし、たとえ聞いてもいないことを話しだしたのだとしても、黙って聞いておくことにする。
「夫に望まれて結婚したのに、最近の夫は私をあまり相手にしてくれないの」
「可哀想なメルメル。こんなにも美しい君を放って置くなんて信じられない」
美しいという外見は否定はしない。
でも、ボルバー様は気持ち悪い。
ああ。
気持ち悪いという言葉は人に言ってはいけないと先生から怒られたことがあるわ。
……思うくらいなら良いわよね。
オブリー公爵夫人はボルバー様の様子に気を良くして話し続ける。
「夫も仕事がお休みの日に一緒に出かけようと誘ってくれるのよ? でもね、その日は毎回、ボルバーと約束しているのよ。タイミングが悪いと思わない?」
「……はあ」
「申し訳なかったなと思って、ボルバーと約束していない日に声を掛けたら、仕事だと言うのよ。おかしいでしょう?」
いや、仕事がお休みの日に誘ってくれているのに断ってるのはあなたでしょう。
おかしいのはあなたですよ。
どうして、愛人との約束を優先するんですか。
旦那様が相手にしてくれないんじゃなく、あなたが旦那様の相手をする暇がないだけじゃないですか。
色々と言いたい。
というか、こんな話を聞くのももう嫌になってきた。
話題を迷惑料の話に戻したい。
「ねえ、レモンズさん。あなた、私とボルバーとの馴れ初めを知りたいわよね」
「いいえ」
「えっ!?」
知りたくなかったので正直に答えたら、公爵夫人は驚いた顔をする。
驚きたいのはこっちなんですけど、きっと理解してくれませんよね。
「……ああ、ごめんなさい。自分の婚約者に恋人がいただなんてショックでしょうし、聞きたくないという気持ちもわかるわ」
「メルメルとの出会いは運命的でな。俺が声を掛けたんだ」
公爵夫人が嬉しそうに微笑むと、ボルバー様が勝手に話し始めた。
「俺は勇気のある男だからな。そこがどんな場所であろうが、素敵な女性を見かけたら声を掛けるんだ。そして、その女性が自分に落ちるまで付きまとう。それが男ってやつだろう」
世の中の男がそんな人ばかりだったら、その男を殴るために武術を習う女性が増えそうな気がする。
「おい! 聞いてるのか!?」
「聞いておりますとも。頭の中で必死にボルバー様の考えを理解しようとしておりました。ところで、オブリー公爵夫人はその声かけに反応されたのですか? 周りに騎士やメイドもいたのではないのでしょうか」
ボルバー様を相手にするのが面倒に感じたので、オブリー公爵夫人に尋ねると、彼女は微笑む。
「面白そうな方だと思ったから、私が許可を出したのよ」
「そうだったんですか」
危機感が足りないのではないのかしら。
それに、公爵夫人は何も考えていないようだけど、騎士やメイドは、その時のことをオブリー公爵に話をしているはずだわ。
今日だって、一人でここまで来ているわけではないでしょうし。
とツッコミたくなる気持ちを抑えて質問を続ける。
「それからのお付き合いなんですのね。オブリー公爵夫人は、ボルバー様のことをどう思ってらっしゃるんです?」
「可愛い恋人よ」
「オブリー公爵閣下はお二人の関係をご存じないのですか?」
「そうよ。だから、言わないでちょうだいね」
となると、公爵夫人から口止め料をもらっても良いのでは?
そんな悪い考えが頭に浮かんだ時、公爵夫人が話題を変える。
「そういえば、あなたのお母様のことだけれど」
「……母というのは?」
パララー様のことかしら。
そう思って聞いてみると、公爵夫人は冷ややかな笑みを浮かべた。
「あなたを生んだお母様よ。男性と駆け落ちして逃げたらしいわね? しかも平民の男性と!」
「そうだ。こいつは最悪な女の娘なんだ。こんな女と婚約だなんてありえねぇ!」
椅子から立ち上がって、ボルバー様は近くにいる客に向かって叫ぶ。
「みんな、聞いてくれ! ここにいる女は母親に捨てられた女なんだ! だから、俺も捨ててやろうと思う!」
突然の宣言に周りの客は、皆、ボルバー様を見つめて唖然としている。
本当に迷惑な男ね。
そんなことを言われても他の人はどう反応したら良いって言うのよ。
我慢ができず、言い返そうとした時だった。
「だから俺も捨ててやろうだなんて、よくもそんなことが言えたもんだな。それから、アーティアは捨てられてない」
私の背後から、男性の声が聞こえたので振り返る。
すると、こちらに身体を向けて椅子に座っている人がいた。
外套のフードで顔を覆い隠している上に俯いているから、顔が見えない。
見た目は不審者で胡散臭いけど、私と母について何か知っているのなら、ぜひ教えてもらいたいものだわ。
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