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31  言い合いになる

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 ルーの部下さんに教えてもらった所によると、タントスは夕方には保釈されたらしく、保釈後すぐに私達が泊まっていた宿に、今度は宿泊したいと言ってきたらしい。
 本来なら断りたい所だったみたいだけれど、私達がその日の部屋をキャンセルしていたのと、ちょうどお客さんが少なかったことから、前金払で泊まらせる事にしたみたいだった。

 ただ、問題だったのが、タントスは私が宿に泊まっていると思い込んでいるから、10部屋ほどある部屋の自分の部屋以外全ての部屋を確認しにまわったらしい。
 宿に泊まっていた人には迷惑をかけてしまった。
 一応、宿の人も私がチェックアウトした事を伝えてくれたみたいなんだけど、無駄だったみたい。
 
 ビアンカも今日の内に宿から出たらしいので、私達はビアンカと入れ替わるように、そちらの宿に移動して、タントスと早めにケリをつける事にし、時間と場所を決めた。

 日にちは一週間後で、私の家に来てもらう事にした。
 お店とかにすると、他のお客さんにも迷惑をかけてしまう可能性があるから。

 タントスのいる宿にルーの部下の人から手紙を届けてもらい、タントスからの返事は口頭で得たらしく、了承した、との返事をもらった。
 そのため、その日に向けて、私は次の日には慌ただしく家に戻る事になった。

 ルーはやる事があるというので、ひとまず別れて、タントスとの約束の一日前に私の家に尋ねてくるという段取りになった。
 私は私で家に帰ってからも、タントスの話や、婚約の話などでバタバタして忙しかった。
 改めて手紙ではなく、家族にルーとの話をすると、お父様達はルーとの婚約が決まりそうなのを喜んでくれた。
 決まりそう、というのは、まだ正式に書面契約を結んでいないから。
 この国の貴族は婚約者になる際に誓約書なり契約書を書かされる事が多い。
 なぜなら、ビアンカの様に婚約破棄を簡単にしてしまうバカが出てくるから。
 その誓約書には婚約破棄をされた方が大体有利になる条件が書かれているので、お互いのメリット、デメリットを考えた様に作るのが普通。
 ビアンカの様に婚約してすぐに婚約破棄、なんて普通の貴族はしないものなのだ。
 
 こっちへ来る際に、ルーが国王陛下の承認をもらって来てくれるらしいから、今からウキウキしていたりもするし、タントスの事を考えると憂鬱だったりもする。
  両親やお兄様にタントスからの手紙を見せたところ「どうする? 殺っちゃう?」的な感じのノリで会話を始めてしまったので、慌てて、自分でケリをつけるという話をした。
 そんなノリだから、ミュラーのお父様にあんな事を言われてしまうのかもしれない。
 もちろん、家族間だけの冗談ではあるとわかってはいるけれど。
 そして、とうとうタントスとの話し合いの日がやって来た。

 タントスがやって来た事を告げられ、メイドが案内している間に、私達も客間に移動した。
 木のローテーブルをはさんで、コの字型に並べられたソファーの下座側に座って待っていると、メイドがタントスを連れてきた。

「会いたかったよ、リアラ!」

 部屋に入ってくるなり、タントスは笑顔で私に近寄ってきたけれど、ルーが間に入って止めてくれる。

「君はもうリアラの婚約者じゃない。安易に近付くな」
「だ、第5王子殿下!? どうしてこんな所にいらっしゃるんです?」

 入ってきた時にルーの姿は見えていたはずなのに、キョトンとするタントスに呆れ返ってしまう。

「タントス、今日、あなたに来てもらったのは私を諦めてもらうため。というか、あなたの勘違いを正すためよ」
「どうしたんだい、リアラ…。そんなに怖い顔をしたら、可愛い顔が台無しだよ」
「あなたにそんな事を言われたって、ちっとも嬉しくないのよ! とりあえず、そっちに座って!」

 すぐに話が終わりそうにないので、向かいのソファーに座るように促すと、タントスは渋々ながらもソファーに座った。
 メイドがすぐにお茶を入れてくれ、逃げるように部屋から出ていくのを確認したあと、私から話を切り出す。

「タントス、あなたが婚約破棄をされた事は知ってるわ。そりゃ、ポイ捨てされて可哀想だと思うけれど、私とよりを戻そうなんてバカな事は考えないで。というか、無理だから」
「無理ってどういう事だよ! あんなに好きって言ってたじゃないか!」
「裏切ったのはあなたよ! まだ、浮気してすぐに、土下座して謝ってくれてたら、少しは考えていたかもしれないけど、大勢の前で婚約破棄をされて、堂々と浮気してましたっていう男に未練なんて残ると思うの!?」
「未練とかじゃない。だって、僕達は終わってない」
「もう終わったのよ! 私の中ではあなたが私に婚約破棄をもちかけた時点で終わってるの!」
「待っててくれって言ったじゃないか!」

 タントスが興奮して立ち上がって叫ぶ。

「だから、誰が待つって言ったのよ!」

 私も同じ様に立ち上がって叫ぶと、タントスの身体がびくりと震えた。
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