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25  お姫様抱っこされる

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 廊下に出ると、狭い所でルーがミュラーがいた部屋から出てきた男を相手にしていた。
 相手はナイフを持っていたけれど、ルーは男の懐に入り、眉間、鼻、口に流れるようにパンチを入れたあと、だらりと垂れ下がった男の手をつかみ、手をひねりあげてナイフを落とさせた。
 
 私がそのナイフを階段の方に蹴り飛ばすと、音を立てて一階に落ちていった。
 廊下は狭いので、ルーと男一人が向かい合うだけで、道は塞がれてしまうので、どうしようか迷っていると、ルーが意識がなくなりかけている男をつかみ、私に道を開けてくれたので、急いで通り抜けるた。
 扉は開いたままだったので、部屋の前に立って確認すると、部屋の中にはまだ、男が2人残っていた。
 1人は気を失っているミュラーの首にナイフを当てていた。
 そして、もう1人は相手が私だったことに驚いたのか、目を見開いたあと、にやりと笑った。

「やっぱりこいつを捕まえて良か」

 男が言い終える前に、間合いを一気に詰めて、喉にグーパンを入れて黙らせると、喉をおさえてかがんだ男の頬をめがけて回し蹴りをする。
 男の身体がよろけて、ミュラーにナイフを突きつけていた男の方に倒れ込んだ。

「な、なんて、女だ! げほっ」

 咳き込みながら、蹴られた男は続ける。

「話をしていた途中だったんだぞ!」
「別に話を聞く必要ないでしょ? なんで、あなたが話し終わるまで待たないといけないの?」

 律儀に答えてから、折り重なって倒れている男達に近付くと、下敷きになっている男の手を踏みつけて、ナイフを手からはなさせる。
 すると、上になっていた男が尻もちをついた状態で、私の足をつかもうとしたので、腕をつま先で蹴り上げたあと、がら空きになった顔面に膝蹴りを入れた。
 男の鼻に膝が入ったため、鼻血が飛び散り、私の膝丈のドレスのすそについてしまった。

「ああ、また怒られちゃうわ」

 帰って、このドレスの汚れを見られたら、また侍女に呆れた顔をされてしまう。
 そんな事を思っていると下敷きになっていた男が下から這い出ると、私と戦う事は諦めたのか、立ち上がってルーの方に行こうとするものだから、足を引っ掛けた。
 たたらを踏んだけれど、しぶとくそのまま部屋から出ていき、背中を向けているルーに襲いかかろうとしたけれど、気付いていたルーが横蹴りで対応した。
 腹を蹴られて、勢いで部屋の中に戻ってきた男の髪の毛を今度は私が後ろからつかんで、両足の膝の裏側ににつま先で蹴りを入れて引きずり倒し、つかんでいた髪をはなすと、移動してから、男の横腹に蹴りを入れた。
 
 あんまり同じ所を強く蹴って、内臓が破裂したりしたら大変だしね。
 戦場ではないんだし、さすがに令嬢が人殺しするわけにはいかないわ。
 
「大丈夫か?」

 私よりも多く人数をさばいてくれたルーが部屋の中に入ってきて、私が倒した男二人の顎を蹴って、確実に失神させたあと尋ねてきた。

「大丈夫です。うーん、でも、もうちょっとパワーが欲しいですね」
「もう十分だろ。君は強いと思う」
「でも、一発では倒せないんですよ」

 ルーに答えたあと、ミュラーのうめき声が聞こえて、慌てて、ミュラーの方に振り返った時だった。

「ボス、お嬢! 上に1人上がったぞ!」

 エロさんの声が聞こえ、開けっ放しにしていた扉の方に振り返ると、廊下に筋肉隆々の大柄な男が立っていた。

「エロの奴、めんどくさがってわざわざ、こっちにふってきやがったな」

 ルーが呆れた顔で呟く。
 それと同時、私の中で試してみたかった、もう1つの事を思い出し、ルーに言った。
 
「また、受け止めてもらえます?」
「何するつもりだ」

 ルーが呆れた表情のまま私を見る。

「シンプルな攻撃です」

 そう言って、私は扉から1番遠い、窓の方へ足を進める。

「おい、逃げるつもりか!」

 叫んできた男に対し、私は手を伸ばして言う。

「ちょっと、まだこっちに来ないで」
「はあ?」
「こっちから行くから! ルー! お願いしますね!」
「だから、何をするつもりなんだよ!?」
「飛び蹴りです!」

 もうちょっと助走が欲しいところだけど、たぶんいける!
 走り出し、ちょうど扉の前でうつ伏せに倒れていた男の大きな背中を踏み台にして、ジャンプした。

 大柄な男だったため、狙っていた男の顎は無理だったけれど、みぞおちにうまく入ったらしく、男はうめき声を上げて後ろに倒れた。

「まったく!」

 そして、私が地面に落下する前に、ルーが前回とは違い、立ったまま両手で受け止めてくれた。

 きゃーーー!
 私、ルーにお姫様抱っこされてる!!
 ああ、駄目。
 顔がにやけてしまう。

「なあ、リアラ」
「…なんでしょう?」

 上目遣いでルーを見上げると、彼が首を傾げた。

「君は蹴りが成功すると、にやける癖でもあるのか?」
「そんな訳ないでしょう!」

 鈍感にもほどがあるんじゃない!?
 でもまあ、そんなところも好きなんだけど…。
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