待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!

風見ゆうみ

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22  深夜に出かける

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 その日の晩は、ルーに名前を呼んでもらえたという幸せな気持ちのまま、ベッドに横になったのだけど、ミュラーの事を思い出すと、冷静な気持ちになってきた。

 ミュラーには本当に申し訳ない事をしてしまったな…。
 婚約破棄までしてくれたのに…。
 でも、しょうがないわよね?
 変に期待をさせても良くないし。
 そういえば、今日、ビアンカの所に行ってくれたみたいだけど、大丈夫だったかな?
 ちゃんと、宿に帰れてるよね?
 ビアンカに何かされたりしてないわよね?

 そう思うと、急に不安になってきた。
 考えてみたら、私は無責任な事を言ったのでは?
 ビアンカの事だもの。
 相手が辺境伯の次男だろうが、自分は公爵家の長女だからと言って好き勝手やりかねない。
 
 ルーならミュラーがちゃんと宿に帰ったかわかるかもしれない。

 貴族の令嬢がいくら婚約者だとはいえ、こんな夜遅くに男性の部屋を訪ねるのはどうかと思うけど、このままでは気になって眠れそうにない。

 寝間着から急いで動きやすい服に着替えて、左隣のルーの部屋を訪ねようと、部屋から出た時だった。

「あ」

 私とルーの声が重なった。
 なぜかというと、私が扉を開けたと同時、ルーが出かける格好をして、自分の部屋から出てきたからだ。

「あの、どちらへ?」
「い、いや、ちょっと夜の散歩に」
「ご一緒してもよろしいですか?」
「いや、ちょっと。こんな時間は良くないだろ」

 ルーに尋ねると、苦笑して答えてくれた。
 夜の散歩というには遅すぎる。
 だって、今は深夜に近い。

「男性だって良くない時間だと思いますが」

 ルーの答えをおかしいと感じて言うと、彼は困った顔をした。
 すると、部屋の中から部下であるチャラい男性が出てきた。
 たしか、名前はエロ。
 エッチな事ばかり言ってエロいから、エロらしい。
 もちろん、私の前でエッチな事を言おうものなら、殺すと脅されているらしいので、言わないようにしているんだそうだ。
 スカートの中をどうこう、というのは可愛いものらしいから、いつもはどんな話をしているのか気になるけれど、今はそういう場合ではない。

「あれ、お嬢。なんで?」
「エロさんこそ、こんな遅くにルーと何してたんですか」
「あれ? お嬢、そういうの興味あるの?」
「やめろ」

 ニヤニヤしながら言うエロさんの頭に、ルーはげんこつを落とすと続ける。

「こいつを家まで送っていくんだ」
「ボスが部下を家に送るんですか…」
「そ、そんな事をしたくなる日もあるだろ」

 ルーは第5王子という立場なのに、嘘が下手みたい。
 というか、もしくは後ろめたい嘘だから下手なのかしら?

「じゃあ、私も付いていきます」
「な、なんで!?」

 ルーが大きな声を出したので、私とエロさんが「しーっ」と口に指を当てる。
 ルーも自分自身の口に手を当てた。

「ルーは第5王子なんですよ! 辺境伯の娘である私からしましては、守るべき対象です」
「いや、でももう、リアラは婚約者だろ? 婚約者を守るのは男の俺の役目で」
「そういうの男だから女だからとか関係ないです。本来なら弱者でなければ、自分の身は自分で守るのが1番です」
「は…はい」

 ルーに詰め寄っていくと、後退りしながら頷く。

「やっぱ、お嬢面白いなぁ! もういいじゃん、ボス。連れて行ってあげたら」
「女性を危ない所に連れて行くわけにはいかないだろ!」
「でも、このままだとどんどん時間が過ぎてくぜ? ここはお嬢も連れていくしかないだろ」

 エロさんはすごく楽しそうな顔でルーに言う。

「面白がってるだろ」
「うん、面白おもしれぇ! ボスがこんなタジタジになってるの見たことねぇし」

 きゃっきゃっと笑うと、エロさんは私を見て続ける。

「お嬢のお友達を助けに行くんだけど、お嬢も行きたいよな?」
「行きます!」

 私の友達って、考えられるとしたらミュラーよね。
 ミュラーに何があったのかしら?
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