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19  肩を抱かれる

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「殿下、こいつらはどうしますか?」

 ミュラーが答える前に、騎士さん達がルーに近付いてきて、これからどうするかの指示を求めてきたので、話が途切れる。

「全てつかまえて警察に引き渡してくれ。それにしても、昨日の奴らといい、見たことのない顔が多いな」
「昨日の奴らも、この地域の人間ではありませんでした。さすがに、この地域に住んでいる者は殿下や、殿下が率いている部隊の存在を知っていますからね」
「そんな馬鹿な事はしないというわけか」

 ルーが騎士さん達と話をしている間に、私はミュラーに話しかける。

「ケガはない?」
「ああ。だけど、お前こそ、相変わらず無茶ばっかするなよ」
「助けてあげたんだからいいじゃない。それより、なんで城下にいるの?」

 答えてもらっていなかったので、再度尋ねると、ミュラーは眉間にシワを寄せて言う。

「エッジホール公爵令嬢に呼び出されたんだ」
「ビアンカ様に?」
「ああ。…というか、それよりも、ちょっと待て」

 ミュラーは私にそう言ったあと、ルーに向かって頭を下げる。

「第5王子殿下にお会いできて光栄です。危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
「助けたのは彼女だけどな」

 そう言って、ルーが私を指差す。

「ルーが助けてくれなかったら、私も怪我してましたから、2人で助けたでいいんじゃないでしょうか」
「君、あまり反省してないだろ」
「反省してますってば!」

 ルーにしかめっ面で言われて、反論すると、彼は苦笑して言う。

「今はそう信じておく事にする」
「次からは相談しますってば!」
「なあ、リアラ」

 私とルーの話の途中にミュラーが割って入ってきて、私の腕をつかんで引き寄せると、私の耳元に口を寄せてくる。

「どうして、第5王子殿下と一緒にいるんだよ!? しかも仲良さげだし」
「そう見える!?」

 仲良さげと言われて嬉しくなって頬を緩めると、ミュラーは呆れた顔をする。

「もしかして、今度は第5王子殿下に惚れたとか言うんじゃないだろうな!?」
「しーっ! 声が大きい!」

 ミュラーの口を慌てておさえて、ルーの方を見ると、きょとんとした顔でこちらを見ていた。

「き、聞こえました?」
「聞こえてないけど…、仲良いんだな」
「ただの幼馴染です! 仲良くはありません!」
「そんな言い方ないだろ」

 ルーの言葉を大きく首を横に振って否定すると、ミュラーが私の頬をつねってくる。

「仲良くないって言い方は悪かったけど、つねるのはやめてよ!」
「こんなの昔はいつもの事だろ」
「やめて!」

 ルーの前でこんな事をされたくなくて、いくら幼馴染でも手首をつかんでひねってやろうかと真剣に考えた時だった。

「やめろ。嫌がってるだろ」

 ルーが近付いてきて、止めに入ってくれた。
 あああ、やっぱり好き。

「……申し訳ございません」

 ミュラーは素直にルーに謝ると、私の方を見て、ちゃんと謝ってくる。

「悪かったよ」
「別にいいわよ。だけど、もう学生じゃないんだから、さっきみたいな事はやめて。それに、ミュラーはビアンカ様と婚約するんじゃないの?」
「は? そんな訳ないだろ」
「え? じゃあ、何しに来たの」

 彼の実家から城下はかなり遠いから、何の用事もなく来るとは思えなくて聞いてみると、ミュラーは照れくさそうな顔をして言う。

「だから、エッジホール公爵令嬢に呼び出されたって言ったろ! 俺の婚約破棄の件でと言われてる」
「あ、やっぱりそうだったの? ビアンカ様と結婚するの?」
「そんな訳ないだろ! 誰のために婚約破棄したと思ってるんだ」
「…誰のため?」

 聞き返してから、ビアンカの言葉を思い出す。
 たしか、ミュラーは私の事がずっと好きだったとか言ってなかった?

 ちょっと待って。
 ミュラーが婚約破棄したのって、やっぱり私のせいなの!?

「お前みたいな女をもらう奴なんて、あのバカくらいしかいないだろ? そのバカと婚約破棄なんてなったら、お前をもらってくれる奴なんて」

 ミュラーがそこまで言ったところで、色んなところから殺気を感じた。
 私にではなく、ミュラーに対して。
 ミュラーもそれを感じたのか、口を閉ざしてしまった。

 屋根の上を見上げると、ルーの部下らしき人がいて、ミュラーをものすごい目で睨んでいて、後ろを振り返ると、なぜか騎士さん達がミュラーを睨んでいた。
 
 あれ?
 何で、皆が怒ってるの?

「悪いな。彼女は俺の婚約者になるって決まったんだ」

 ルーが私の肩を抱いて、ミュラーに向かって言った。
 それはもう嬉しい言葉と行動だったんだけど、私の肩を抱いたルーの手が、ぷるぷる震えているから、笑いそうになるのをこらえるのに必死だった。

 そんなに緊張しなくても…。

 女性慣れしてないのにも程がある様な気がするけれど、こういうところを可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みなのかしら?
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