上 下
5 / 34

4  第5王子と話をする 1

しおりを挟む
 あとは当人同士で話をしたら良いと、お父様に言われてしまい、私は殿下から向かって、ななめ左前にある3人がけのソファーに座って、ルーザー殿下を見た。
 すると、彼が苦笑して口を開いた。

「突然の申し出で悪いとは思ってる。だけど、君が婚約者を探してるって聞いて、嫌じゃなければ、俺とはどうかな、って思ったんだ」
「悪いだなんて、そんな事はありません。こちらとしてはありがたい申し出ですから。ただ、なぜ、私なのかとは思いますけど。殿下にならいくらでも妻になりたい女性はいらっしゃるんじゃないかと思いまして」

 素直に気持ちを伝えると、目にかかった前髪をかきあげてから、殿下が言う。

「まあ、そうだな。理由として、まずは、婚約破棄された者同士だという事」
「そうですね…」

 遠い目をすると、殿下が笑う。

「もちろん、それだけじゃなくて、君は、乗馬も出来るし、馬に乗りながら弓が使えると聞いた」
「それほど上手ではありませんけど」
「あと、接近戦に自信があるんだろ?」
「プロにはかないません。その辺のゴロツキくらいになら、勝てると思いますが」

 この事に関しては、貴族の令嬢らしくないと散々言われてきた。

 お父様とお兄様は、私が小さい頃から戦地に赴いていた。
 過去に一度だけ、2人が留守中に、敵国の手先に屋敷に忍び込まれ、お母様と私が命を狙われた事があった。
 護衛のおかげで事なきを得たけれど、その時に思った。
 お父様達が出かけている間、私達の事で心配しなくて良いように、私が強くなり、自分自身とお母様を守ろうと。
 それから、色んなものに挑戦し、自分に合う戦い方を模索した。
 最終的に護身術をメインに考えて、接近戦に強くなろうと決めた。
 剣は苦手だけれど、ナイフはまだマシといったところだったから。

「そういう令嬢は聞いた事がないんだ。君以外は」
「いたとしても、あまり表に出そうとはしないかと」
「君はパーティー会場で派手にやったんだろ?」

 なぜか、殿下は嬉しそうな笑みを浮かべた。
 面白い令嬢を見つけた、といったところかしら。

「それに関しましては、貴族の令嬢としてはあるまじき行為だと反省しております」
「しなくて良いだろ」

 ケロッとした顔をして、殿下が言う。
 雰囲気がいきなり変わった気がしてきょとんとすると、彼は苦笑した。

「悪い。丁寧な話し方は苦手なんだ」
「お気になさらないで下さい。普段の話し方でお話いただければと思います」
「君もそうかたくならなくていい。たしか、ふざけんな、って言ったらしいな」
「……そんなに詳しく情報が出回ってるんですか」
「会場に俺の悪友がいてな、それはもう楽しそうに話してくれた」

 人が婚約破棄された話を嬉しそうに話したんだろうか。
 それとも、暴言の部分を?
 気になったけれど、今はそれどころではない。

「あの、私との婚約を希望していただいた理由はそれなんですか?」
「いや、それだけじゃない。君なら、俺の外見を気にしなさそうだし、それに君は面白そうだから」

 と、そこまで言って、殿下は慌てて口をおさえた。

「悪い。面白いという言い方は駄目だよな」
「かまいませんよ。あの場にいた人達のほとんどは、同情と好奇の目で見てましたから」
「俺が婚約破棄を受け入れたから、あんな事になったのだし、その点については謝る」
「ビアンカ様は表向きには、私の婚約者に襲われたという様に言っているかもしれませんが、どうせ、私の元婚約者を誘惑したんですよ。だから悪いのはビアンカ様です。殿下は悪くありません。あ、あと、私の元婚約者も悪いです」

 付け加えると、殿下は笑う。
 よく笑う人だし、笑顔が可愛い。
 噂とはイメージが違う。
 それに、女性嫌いだって聞いてたけど、そんな感じではない?

「あの殿下、失礼な質問をしても?」
「答えたくなかったら答えなくても良いなら」
「もちろんです。これは噂なんですけど、殿下は女性がお嫌いなんですよね?」
「……」

 答えたくない質問だったのか、殿下が眉をひそめた。
 
 やばいかしら。
 
 そう思って、質問を撤回しようとすると、答えを教えてくれた。

「…普段は女性と関わる事がないから、どう反応したら良いかわからなくて避けてるのは、ある」

 恥ずかしそうに口をおさえて、顔を背ける殿下。
 もしかして、避けてたから、それが冷たい対応だと思われて女性嫌いだと言われる様になったって事?

「ビアンカともほとんど話した事がなかった。元々、彼女は俺を嫌がっていたしな」
「嫌がっていた?」
「王族なのに、肌が焼けている事が気に入らなかったらしい」

 はあ?
 何を考えてるのよ、あの女は!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった

あとさん♪
恋愛
 学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。  王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——  だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。  誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。  この事件をきっかけに歴史は動いた。  無血革命が起こり、国名が変わった。  平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。 ※R15は保険。 ※設定はゆるんゆるん。 ※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m ※本編はオマケ込みで全24話 ※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話) ※『ジョン、という人』(全1話) ※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話) ※↑蛇足回2021,6,23加筆修正 ※外伝『真か偽か』(全1話) ※小説家になろうにも投稿しております。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。

あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。 夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中) 笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。 え。この人、こんな人だったの(愕然) やだやだ、気持ち悪い。離婚一択! ※全15話。完結保証。 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。 今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 第三弾『妻の死で思い知らされました。』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。 ※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

処理中です...