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第二部
30 はじめまして、盗賊の皆様
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エル様とメガが出ていくと、男性の焦るような声が聞こえてきた。
「な、なんだよ、貴族と護衛かよ!? こっちは人数が多いんだからな!」
盗賊のわりに、思ったよりもすぐに怖気づいたように感じられた。
やはり、フルージア国民の人の良さの遺伝子は、どんなにひねくれた人間であっても色濃く受け継がれているのかもしれない。
「人数が多いからって何だよ? 悪いことをしているのはそっちだろ。悪い奴に金を渡すなんて嫌だね」
メガが言い返す声が聞こえてきた。
「俺たちは悪い奴じゃない! 正義を実行しようとしているんだ!」
あら?
ちょっと待って。
何だか雲行きが怪しいわ。
フルージアの盗賊は人から物を奪うのに、何らかの理由があったりするの?
馬車の窓に張り付いて外の様子を見てみる。
すると、視線を感じたのか、エル様が私のほうに顔を向けたかと思うと、ぎょっとした顔になった。
「失礼だわ」
声が聞こえるかはわからないけれど、つい呟いてしまった。
張り付いている私の顔が怖かったかブサイクだったみたいだけど、あんなに驚かなくても良いと思うわ。
「正義を実行しようとしているってどういうことなんだよ?」
私に気を取られているエル様の代わりにメガが尋ねると、盗賊の中で一番年長らしき中年の、鼻の下から顎まで黒い髭に覆われた、体格の大きい男性が答える。
「この森を夜間に通る人間は何か悪い取引をしている人間が多いんだ! そいつらを遅い、魔道具で見極めて奪ってる! 言っておくが、怪しいものしか奪っていない! 身ぐるみ剥がされた奴なんていないだろ!?」
「そう言われてみれば、そうかもしれないな」
ジウが頭をかきながら、うーんと唸った。
もしかしてこれは、必殺技を練習してはいけない人たちかもしれない。
彼らが人から物を奪うという悪いことをしているのは確かだけど、悪いことをしている人から怪しい金品を奪っている、義賊みたいなものなのかもしれない。
でも、どうして怪しいものだとわかるのかしら?
それを判断できる魔道具があるということ?
外に出て直接疑問を口にしたくて、エル様の後頭部に念を送る。
すると、私の念が通じたのか、エル様はこちらを振り返ると、無言で首を縦に振った。
許可は出してくれたけれど、すごく嫌そうな顔をしているわ。
だからといって、出たいのは確かなので、喜んで外へ出ることにした。
外へ出てみると、視界が開けたおかげで今まで見えていなかったものが見えるようになった。
周りが暗いのは確かだけれど、盗賊の人たちが持っている松明の火のおかげで、彼らの人数や表情は読み取れた。
というか、皆、悪そうな人には見えない。
私はエル様の隣に立って、カーテシーをする。
「はじめまして、盗賊の皆様。わたくし、現在、必殺技を習得するために悪い男性を探しておりますの。あなた方は罪人でよろしいのですよね? 間違いないのであれば、命を奪うような真似までは致しませんが、かなり辛い思いをすることになると思います」
「つ、辛い思い?」
リーダー格ではない、後ろのほうにいる男性が、弱々しい声で呟いた。
「ええ。かなり痛い思いをされると思います。気を失う方もいらっしゃいましたから。そんな思いをしたくないのであれば、あなた方の事情をお話くださいませ」
お願いしてみると、リーダー格の男性が代表して口を開く。
「俺たちが奪っているのは、不当に手に入れられたものばかりなんだ!」
「宝石商の人が宝石を不当に仕入れたと言うのですか?」
「宝石商?」
聞き返してきたので答えると、男性は不思議そうな顔をして聞き返してきた。
「森の出入り口で宝石を拾ったんです。それは宝石商の方が自分の持ち物だと言っておられました」
「それは違う! あれも人から奪ったものなんだよ!」
「意味がわかりません。どうして、そんなことがわかるんです?」
私が尋ねたところで、エル様が割って入ってくる。
「とにかく、場所を移動しよう。あんたたちも普段は普通の生活を送ってるんだろ? そんな格好を誰かに見られたら困るって奴もいるはずだ」
エル様に問われた男性たちは、エル様の申し出を素直に受け入れたのだった。
「な、なんだよ、貴族と護衛かよ!? こっちは人数が多いんだからな!」
盗賊のわりに、思ったよりもすぐに怖気づいたように感じられた。
やはり、フルージア国民の人の良さの遺伝子は、どんなにひねくれた人間であっても色濃く受け継がれているのかもしれない。
「人数が多いからって何だよ? 悪いことをしているのはそっちだろ。悪い奴に金を渡すなんて嫌だね」
メガが言い返す声が聞こえてきた。
「俺たちは悪い奴じゃない! 正義を実行しようとしているんだ!」
あら?
ちょっと待って。
何だか雲行きが怪しいわ。
フルージアの盗賊は人から物を奪うのに、何らかの理由があったりするの?
馬車の窓に張り付いて外の様子を見てみる。
すると、視線を感じたのか、エル様が私のほうに顔を向けたかと思うと、ぎょっとした顔になった。
「失礼だわ」
声が聞こえるかはわからないけれど、つい呟いてしまった。
張り付いている私の顔が怖かったかブサイクだったみたいだけど、あんなに驚かなくても良いと思うわ。
「正義を実行しようとしているってどういうことなんだよ?」
私に気を取られているエル様の代わりにメガが尋ねると、盗賊の中で一番年長らしき中年の、鼻の下から顎まで黒い髭に覆われた、体格の大きい男性が答える。
「この森を夜間に通る人間は何か悪い取引をしている人間が多いんだ! そいつらを遅い、魔道具で見極めて奪ってる! 言っておくが、怪しいものしか奪っていない! 身ぐるみ剥がされた奴なんていないだろ!?」
「そう言われてみれば、そうかもしれないな」
ジウが頭をかきながら、うーんと唸った。
もしかしてこれは、必殺技を練習してはいけない人たちかもしれない。
彼らが人から物を奪うという悪いことをしているのは確かだけど、悪いことをしている人から怪しい金品を奪っている、義賊みたいなものなのかもしれない。
でも、どうして怪しいものだとわかるのかしら?
それを判断できる魔道具があるということ?
外に出て直接疑問を口にしたくて、エル様の後頭部に念を送る。
すると、私の念が通じたのか、エル様はこちらを振り返ると、無言で首を縦に振った。
許可は出してくれたけれど、すごく嫌そうな顔をしているわ。
だからといって、出たいのは確かなので、喜んで外へ出ることにした。
外へ出てみると、視界が開けたおかげで今まで見えていなかったものが見えるようになった。
周りが暗いのは確かだけれど、盗賊の人たちが持っている松明の火のおかげで、彼らの人数や表情は読み取れた。
というか、皆、悪そうな人には見えない。
私はエル様の隣に立って、カーテシーをする。
「はじめまして、盗賊の皆様。わたくし、現在、必殺技を習得するために悪い男性を探しておりますの。あなた方は罪人でよろしいのですよね? 間違いないのであれば、命を奪うような真似までは致しませんが、かなり辛い思いをすることになると思います」
「つ、辛い思い?」
リーダー格ではない、後ろのほうにいる男性が、弱々しい声で呟いた。
「ええ。かなり痛い思いをされると思います。気を失う方もいらっしゃいましたから。そんな思いをしたくないのであれば、あなた方の事情をお話くださいませ」
お願いしてみると、リーダー格の男性が代表して口を開く。
「俺たちが奪っているのは、不当に手に入れられたものばかりなんだ!」
「宝石商の人が宝石を不当に仕入れたと言うのですか?」
「宝石商?」
聞き返してきたので答えると、男性は不思議そうな顔をして聞き返してきた。
「森の出入り口で宝石を拾ったんです。それは宝石商の方が自分の持ち物だと言っておられました」
「それは違う! あれも人から奪ったものなんだよ!」
「意味がわかりません。どうして、そんなことがわかるんです?」
私が尋ねたところで、エル様が割って入ってくる。
「とにかく、場所を移動しよう。あんたたちも普段は普通の生活を送ってるんだろ? そんな格好を誰かに見られたら困るって奴もいるはずだ」
エル様に問われた男性たちは、エル様の申し出を素直に受け入れたのだった。
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