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第一部

22 いいんですの!?

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 私の足は相変わらず痛くなってしまったけれど、確かな手応えはあった。
 それを証明するかのように、ガメツイさんは声にならない声を上げたあと、ばたりと床に崩れ落ちた。

 やったわ!

「師匠! どうですか!?」

 笑顔でジェド様のほうを振り返ると、ジェド様は苦笑して頷く。

「加減をしろと言ったはずですが、まあ、いいでしょう。無事に倒せましたからね。これでもう、練習はしなくても良くなりましたね」
「え? まだ一回しかしていませんが?」
「どういうことだよ?」

 ジェド様ではなく、エル様が眉間の皺を深くさせて聞いてくるので、素直に答える。

「ガメツイさんが目を覚まされた時に、また同じことを言われるようなら、もう一度練習させていただこうと思っております」
「やめてやれよ。そいつにはちゃんと罪を償わせるから」
「悪い人にはもっとお仕置きが必要でしょう?」

 私の練習台になってもらった後に、警察に突き出せば良いのではないの?
 
 そういう気持ちを込めて、エル様を見つめた。
 すると、エル様ではなく、ジェド様が答えてくれる。

「悪い人は他にもいますよ。次の練習は違う人にしてください。とにかく、この人は病院に連れて行かないといけまけんね」
「……そうですね。ここに寝かせておいても邪魔ですものね」

 宿屋の人のためにもなると思ったのに、結局は意味がなかったわ。
 いいえ。
 意味がなかったということもない。

 なんとなく感覚が掴めた気がする。
 でも、もっと、試してみないと駄目ね。

「近くに住んでいるお医者様を呼んできます!」

 宿屋の人が言うと、エル様が制止する。

「場所を教えてくれ。連れて行く」
「ですが、エル様にお願いするわけにはいきません!」
「案内してくれるだけで十分だ」

 そんなエル様にジェド様が手を挙げて言う。

「私が運びます」
「お前は彼女の見張りを頼む」
「エル様、無理です。私には婚約者がいるんです。私はリーチェ様の正式な護衛騎士でもないのに、リーチェ様と長時間、一緒にいるわけにはいきません」
「お前、彼女の面倒をみるのが面倒だけじゃないだろうな」
「エル様じゃありませんし、そんなことは思っておりません。それに、リーチェ様はレイティアよりは言うことを聞いてくださいます」

 本人を目の前にして、二人は本音で会話をしている。
 レイティア様よりかはということは、私は普通の人よりかは聞き分けのない人間扱いをされているみたいだった。
 公爵令嬢なんだもの。
 多少、世間知らずなところがあってもおかしくないと思うわ。

「お二人共、本人が目の前にいることをお忘れではないでしょうか?」
「「あ」」

 エル様とジェド様が同時にこちらを向いて声を揃えて言った。

 この二人、顔は似ていないけど、性格はどこか似てるところが多いのよね。
 だから、友人なのかしら。

「失礼しました!」

 ジェド様が私に向き直って、腰を折り曲げるようにして謝ってきた。

「気になさらないでください。私自身も自分が他の人よりも少し変わっていることには気が付いていますから」
「少し?」

 エル様が口を挟んできた。
 でも、今は聞こえなかったふりをする。

「ですので、頭を上げてくださいませ」

 ジェド様は私に言われて、やっと頭を上げてくれた。

 結局、私とエル様とジェド様で、ガメツイさんをお医者様に届けることになった。
 ガメツイさんは宿屋に置いてあったリヤカーに乗せて運ぶことにして、お医者様の家までは宿屋の人に案内してもらった。
 お医者様に診てもらっている内に、警察の人がガメツイさんを引き取りに来てくれたので、国に強制送還はしなくて良くなった。

 次の日の朝、エル様と一緒に警察にガメツイさんの様子を聞きに行くと、応対してくれた人が笑顔で言う。

「ここ最近、このような人間が増えていまして、しかも反省しないので困っていたんですよ。ですが、昨日、リーチェ様が捕まえてくださった、あの男はかなり怯えています。この調子でしたら反省してくれることでしょう」
「それなら良かった。もう行こう。次の街に出発するぞ」

 エル様は頷くと、なぜか急いで帰ろうとする。
 
「また、何かあったら連絡くださいませ!」

 警察の人にそう言って、エル様を追いかけるために踵を返そうとした時だった。

「あの、リーチェ様! 昨日はどのようなことをされたのかは存じ上げませんが、反省していない他の奴らにも同じことをしていただくことは可能でしょうか?」
「まあ! いいんですの!?」

 有り難い申し出に声を弾ませると、背後からエル様の大きなため息が聞こえてきた。

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