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第一部
19 駄目です
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「調べてみましたけれど、まあ、酷いものですわね」
水晶玉の向こうのレイティア様は、呆れた口調ではあるけど、コロコロと楽しそうに笑っている。
あまりにも酷すぎて笑うしかないといった感じなのかもしれない。
「一生懸命、働いている方が可哀想に思えるくらいに酷いものですわ。それに、王太子殿下の様子を見に行きましたけれど、リーチェ様がいなくなってから、薬代が跳ね上がったらしく、王家でさえ薬を買うことが難しくなっているらしいですわ」
「では、お姉様がこの国に来ようとしたのは、お金がないとわかったからなのでしょうか」
「もしかすると、自分の金運の悪さに気が付いたのかもしれませんわね。そして、リーチェ様が近くにいないといけないと考えたのでしょう」
レイティア様はそう報告してくれたあと、また、何か分かれば連絡すると言ってくれた。
レイティア様は協力的ではあるけれど、先代の王妃陛下が今、どうされているかは教えてくれない。
きっと、居場所がわかれば、国に連れ帰られると思っているのだろうとジェド様は言っていた。
私たちが数日、滞在した街は特に問題ないだろうと判断し、次の日にはここを発とうと話をした日の夜のことだった。
一人部屋でのんびりしていると、カウンターがある一階の方から騒がしい声が聞こえてきた。
そして、怒号と悲鳴も聞こえてきたので、慌てて寝間着の上に上着を羽織って、部屋の外に出てみた。
一階に続く階段に向かってジェド様が走っていく姿が見え、エル様が私に気付き、立ち止まって私に近付いてきて言う。
「君は部屋に入ってろ」
「駄目です」
「駄目ですじゃねぇよ。却下だ」
「じゃあ嫌です」
「嫌も駄目だ」
「じゃあ、エル様が私の必殺技の練習相手になってくださるのですか?」
「そ、それは遠慮する」
エル様の顔が引きつったので、笑顔でお願いする。
「お願いします。悪い人以外にはしませんから」
いつか最低国王に食らわせるまでに腕を、いえ、足をみがいておかなくちゃいけないわ。
「君は本当に元公爵令嬢なんだよな?」
「ええ。元ですから好きなように生きようと思うのです」
呆れた顔をしているエル様に答えた時、ジェド様が戻ってきた。
「……どうだった?」
「宿屋の客が暴れていました。一応、取り押さえて大人しくさせましたが、お金のトラブルのようです」
「お金の?」
お金という言葉に反応して私が尋ねると、ジェド様が頷く。
「ええ。少し前から滞在していた他国の客のようですが、財布を部屋に置いておいたら、お金がなくなっていたと言い張っているようです」
「何か証明できるものでもあるのでしょうか?」
「それがないので揉めているようです。ただ、その客は他の宿屋でも同じことを繰り返しているらしいので怪しいですね」
普通の宿屋ならそんな人を泊まらせないはずだけど、フルージアの人は優しすぎるから泊めてあげたんでしょうね。
私たちがいなかったら、どうするつもりだったのかしら。
「お金のことでしたら、私にお任せください。あと、エル様にも手伝っていただきたいですわ」
「何をするつもりだよ?」
「悪い人でしたら、必殺技を食らっていただきます。その後の処理をお願いしたいのです」
「どうやって判断するつもりだ?」
心配そうにしているエル様に微笑んで答える。
「悪い人でなければ欲は出さないはずです。たとえば、私が彼の言う金額のお金を渡したあと、まだお金をせびるようでしたら、必殺技をお見舞いし、その後は強制送還をお願いします」
「……わかったよ。とりあえず行くか」
エル様は頷いてくれたあと、悲しげに呟く。
「どうして、フルージアには他国の悪い奴らばかりが集まるんだ?」
「簡単に騙せてしまうからでしょう」
はっきりと答えると、エル様は大きなため息を吐いた。
「とにかく行くか。駄目だと言っても聞かないだろうから」
「ありがとうございます!」
元気良くお礼を言うと、エル様は呆れた顔で私を見つめたのだった。
※
お読みいただきありがとうございます!
毎回タイトルで悩むので、この話からちょっとこだわりを変えます。
申し訳ございません!
水晶玉の向こうのレイティア様は、呆れた口調ではあるけど、コロコロと楽しそうに笑っている。
あまりにも酷すぎて笑うしかないといった感じなのかもしれない。
「一生懸命、働いている方が可哀想に思えるくらいに酷いものですわ。それに、王太子殿下の様子を見に行きましたけれど、リーチェ様がいなくなってから、薬代が跳ね上がったらしく、王家でさえ薬を買うことが難しくなっているらしいですわ」
「では、お姉様がこの国に来ようとしたのは、お金がないとわかったからなのでしょうか」
「もしかすると、自分の金運の悪さに気が付いたのかもしれませんわね。そして、リーチェ様が近くにいないといけないと考えたのでしょう」
レイティア様はそう報告してくれたあと、また、何か分かれば連絡すると言ってくれた。
レイティア様は協力的ではあるけれど、先代の王妃陛下が今、どうされているかは教えてくれない。
きっと、居場所がわかれば、国に連れ帰られると思っているのだろうとジェド様は言っていた。
私たちが数日、滞在した街は特に問題ないだろうと判断し、次の日にはここを発とうと話をした日の夜のことだった。
一人部屋でのんびりしていると、カウンターがある一階の方から騒がしい声が聞こえてきた。
そして、怒号と悲鳴も聞こえてきたので、慌てて寝間着の上に上着を羽織って、部屋の外に出てみた。
一階に続く階段に向かってジェド様が走っていく姿が見え、エル様が私に気付き、立ち止まって私に近付いてきて言う。
「君は部屋に入ってろ」
「駄目です」
「駄目ですじゃねぇよ。却下だ」
「じゃあ嫌です」
「嫌も駄目だ」
「じゃあ、エル様が私の必殺技の練習相手になってくださるのですか?」
「そ、それは遠慮する」
エル様の顔が引きつったので、笑顔でお願いする。
「お願いします。悪い人以外にはしませんから」
いつか最低国王に食らわせるまでに腕を、いえ、足をみがいておかなくちゃいけないわ。
「君は本当に元公爵令嬢なんだよな?」
「ええ。元ですから好きなように生きようと思うのです」
呆れた顔をしているエル様に答えた時、ジェド様が戻ってきた。
「……どうだった?」
「宿屋の客が暴れていました。一応、取り押さえて大人しくさせましたが、お金のトラブルのようです」
「お金の?」
お金という言葉に反応して私が尋ねると、ジェド様が頷く。
「ええ。少し前から滞在していた他国の客のようですが、財布を部屋に置いておいたら、お金がなくなっていたと言い張っているようです」
「何か証明できるものでもあるのでしょうか?」
「それがないので揉めているようです。ただ、その客は他の宿屋でも同じことを繰り返しているらしいので怪しいですね」
普通の宿屋ならそんな人を泊まらせないはずだけど、フルージアの人は優しすぎるから泊めてあげたんでしょうね。
私たちがいなかったら、どうするつもりだったのかしら。
「お金のことでしたら、私にお任せください。あと、エル様にも手伝っていただきたいですわ」
「何をするつもりだよ?」
「悪い人でしたら、必殺技を食らっていただきます。その後の処理をお願いしたいのです」
「どうやって判断するつもりだ?」
心配そうにしているエル様に微笑んで答える。
「悪い人でなければ欲は出さないはずです。たとえば、私が彼の言う金額のお金を渡したあと、まだお金をせびるようでしたら、必殺技をお見舞いし、その後は強制送還をお願いします」
「……わかったよ。とりあえず行くか」
エル様は頷いてくれたあと、悲しげに呟く。
「どうして、フルージアには他国の悪い奴らばかりが集まるんだ?」
「簡単に騙せてしまうからでしょう」
はっきりと答えると、エル様は大きなため息を吐いた。
「とにかく行くか。駄目だと言っても聞かないだろうから」
「ありがとうございます!」
元気良くお礼を言うと、エル様は呆れた顔で私を見つめたのだった。
※
お読みいただきありがとうございます!
毎回タイトルで悩むので、この話からちょっとこだわりを変えます。
申し訳ございません!
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