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33 懲りない馬鹿者
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後ろ髪を引かれながらもノノレイと一緒に食堂へ向かい、先に食事を進めていると、少ししてから苦虫を噛み潰したような顔をしたミーグスがやって来た。
「ディラン! 本当にごめんなさい」
「気にしなくていいって」
「……フェルナンディはなんて言っていたの?」
「僕と一緒に住みたいだとか、訳のわからないことを言ってきたから、色々と忠告をしてから僕の護衛に預けてきた」
ミーグスは私の問いに答えたあと、私の隣の椅子に座って尋ねてくる。
「……で、フェルナンディはどうしてあんなことを言うようになったの?」
「それは……」
昨日の出来事を話すと、ミーグスは不機嫌そうな顔になって言う。
「あの男は本当に馬鹿なんだね」
「前々からわかってたことだけどね」
「フレシアが大人しくなって良かったと思っていたけど、その分、あの男が面倒になったな」
「巻き込んでごめん」
「それはそれでしょうがない。僕も手を貸すと言った訳だし」
謝った私の頭をミーグスは撫でたあと、ノノレイのほうに笑顔を向ける。
「ノノレイ、正直なことは悪いことではないけど、ニヤニヤしすぎだよ」
「失礼しました!」
謝ったノノレイだが、ニヤニヤは全くおさまっていなかった。
*****
その日の夕方、バイト先に出勤するとフレシア様が客として来ていて、店長が応対していた。
「彼女、ほとんど毎日通い詰めてるけど、どうするつもりなのかしら」
メティに話しかけられて、私は首を傾げる。
「たぶんだけど彼氏と別れて、店長を本命にしたのかもしれないわ」
「そうなの? 店長も罪な男ね」
厨房で無駄話をしていると、店長が戻ってきた。
私の姿を見ると苦笑して声を掛けてくる。
「お友達が待ってるよ」
「お友達、ですか?」
「うん。ビアラちゃんと話がしたいんだってさ」
「私は話すことなんてないですし、勤務時間中なんですが」
「少しくらいなら構わないよ。常連さんだし、店の売上に貢献してくれているからね」
店長、良い人だけど悪いところもあるわね。
あまり長くは話さないことを約束し、他のお客様にサボっていると思われても困るので学園の制服に着替え直してから、フレシア様の元に向かった。
「ごめんなさいね、ミゼライトさん」
「いえ。私に話があるとお聞きしましたが」
「そうね。あ、何か飲まない? もちろん私が出すわ」
フレシア様はそう言うと店長に手を振り、私に飲み物をとお願いした。
店長は私の好みを知っているため「いつものでいいよね」と微笑んで厨房に戻っていく。
「ああ、ミゼライトさんが羨ましいわ」
「そうですか?」
「そうよ。だって、店長さんに可愛がられているみたいだもの」
「別に普通ですよ。私が可愛がられてるというのなら、ここの従業員の人は皆そうですよ」
「そうよね! そうすれば良いのね!」
「はい?」
「私もここで働かせてもらったら良いのよね!」
ぱちんと両手を合わせるフレシア様に、眉根を寄せて聞き返す。
「はい? あの、フレシア様がバイトとかって出来るものなのですか?」
「愛のために頑張るわ!」
「というか、フレシア様。フェルナンディ子爵令息とはどうされるんですか」
フレシア様はきょとんとした顔で私に聞き返してくる。
「あら、ミゼライトさん。何も知らないの?」
「何をでしょうか」
「ホーリルの家は差し押さえられたわよ。しかも、お父様のギャンブルが原因なのでしょう? 私、ギャンブルが好きな方は苦手なの。だから、さよならしました」
「はい?」
驚いて聞き返すと、フレシア様は紅茶を一口飲んでから続ける。
「ディランが立て替えたように見せかけて、ミーグス公爵家が管理している正規の金融機関が立て替えていたみたいね」
フレシア様がそこまで言った時だった。
カランカランと勢いよく扉が開き、血相を変えたフェルナンディ卿が店の中に入ってきた。
「あら、大変」
フレシア様は手を口に当てて呟く。
フェルナンディ卿は店内を見回し、私とフレシア様を見つけると、私たちが座るテーブルまで歩いてきた。
「フレシア、やっぱり俺は君とやり直したい」
「ごめんなさい、ホーリル。今の私には好きな人がいるの。それに、あなたに昔のような魅力を感じないわ」
きっぱりと断るフレシア様。
そんな彼女を見て考える。
あれだけ純愛だなんだと言ってたのに、すぐに冷めてしまうものなのね。
恋愛って怖い。
お金の切れ目が縁の切れ目みたいなものなの?
「おい、ビアラ!」
フレシア様に言っても無理だと悟ったのか、今度は私に向かってフェルナンディ卿が大声で叫ぶ。
「ディラン様は俺を養う気はないって言うんだ! お前が言い出したことなんだから、お前からディラン様に俺を養うように言え!」
「私はディランに養ってもらえなんて一言も言ってないわよ」
「始めるならディラン様と、と言ったのはお前だ!」
「それは言ったかもしれないけど、始められなかったのはあなたのせいでしょう! 私のせいにしないで!」
言い返すと、フェルナンディ卿は私の手を掴んで信じられないことを言い出した。
「なら、俺と婚約し直せ! そして、俺を一生養え!」
何言ってるのよ、この男は!?
「ディラン! 本当にごめんなさい」
「気にしなくていいって」
「……フェルナンディはなんて言っていたの?」
「僕と一緒に住みたいだとか、訳のわからないことを言ってきたから、色々と忠告をしてから僕の護衛に預けてきた」
ミーグスは私の問いに答えたあと、私の隣の椅子に座って尋ねてくる。
「……で、フェルナンディはどうしてあんなことを言うようになったの?」
「それは……」
昨日の出来事を話すと、ミーグスは不機嫌そうな顔になって言う。
「あの男は本当に馬鹿なんだね」
「前々からわかってたことだけどね」
「フレシアが大人しくなって良かったと思っていたけど、その分、あの男が面倒になったな」
「巻き込んでごめん」
「それはそれでしょうがない。僕も手を貸すと言った訳だし」
謝った私の頭をミーグスは撫でたあと、ノノレイのほうに笑顔を向ける。
「ノノレイ、正直なことは悪いことではないけど、ニヤニヤしすぎだよ」
「失礼しました!」
謝ったノノレイだが、ニヤニヤは全くおさまっていなかった。
*****
その日の夕方、バイト先に出勤するとフレシア様が客として来ていて、店長が応対していた。
「彼女、ほとんど毎日通い詰めてるけど、どうするつもりなのかしら」
メティに話しかけられて、私は首を傾げる。
「たぶんだけど彼氏と別れて、店長を本命にしたのかもしれないわ」
「そうなの? 店長も罪な男ね」
厨房で無駄話をしていると、店長が戻ってきた。
私の姿を見ると苦笑して声を掛けてくる。
「お友達が待ってるよ」
「お友達、ですか?」
「うん。ビアラちゃんと話がしたいんだってさ」
「私は話すことなんてないですし、勤務時間中なんですが」
「少しくらいなら構わないよ。常連さんだし、店の売上に貢献してくれているからね」
店長、良い人だけど悪いところもあるわね。
あまり長くは話さないことを約束し、他のお客様にサボっていると思われても困るので学園の制服に着替え直してから、フレシア様の元に向かった。
「ごめんなさいね、ミゼライトさん」
「いえ。私に話があるとお聞きしましたが」
「そうね。あ、何か飲まない? もちろん私が出すわ」
フレシア様はそう言うと店長に手を振り、私に飲み物をとお願いした。
店長は私の好みを知っているため「いつものでいいよね」と微笑んで厨房に戻っていく。
「ああ、ミゼライトさんが羨ましいわ」
「そうですか?」
「そうよ。だって、店長さんに可愛がられているみたいだもの」
「別に普通ですよ。私が可愛がられてるというのなら、ここの従業員の人は皆そうですよ」
「そうよね! そうすれば良いのね!」
「はい?」
「私もここで働かせてもらったら良いのよね!」
ぱちんと両手を合わせるフレシア様に、眉根を寄せて聞き返す。
「はい? あの、フレシア様がバイトとかって出来るものなのですか?」
「愛のために頑張るわ!」
「というか、フレシア様。フェルナンディ子爵令息とはどうされるんですか」
フレシア様はきょとんとした顔で私に聞き返してくる。
「あら、ミゼライトさん。何も知らないの?」
「何をでしょうか」
「ホーリルの家は差し押さえられたわよ。しかも、お父様のギャンブルが原因なのでしょう? 私、ギャンブルが好きな方は苦手なの。だから、さよならしました」
「はい?」
驚いて聞き返すと、フレシア様は紅茶を一口飲んでから続ける。
「ディランが立て替えたように見せかけて、ミーグス公爵家が管理している正規の金融機関が立て替えていたみたいね」
フレシア様がそこまで言った時だった。
カランカランと勢いよく扉が開き、血相を変えたフェルナンディ卿が店の中に入ってきた。
「あら、大変」
フレシア様は手を口に当てて呟く。
フェルナンディ卿は店内を見回し、私とフレシア様を見つけると、私たちが座るテーブルまで歩いてきた。
「フレシア、やっぱり俺は君とやり直したい」
「ごめんなさい、ホーリル。今の私には好きな人がいるの。それに、あなたに昔のような魅力を感じないわ」
きっぱりと断るフレシア様。
そんな彼女を見て考える。
あれだけ純愛だなんだと言ってたのに、すぐに冷めてしまうものなのね。
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「おい、ビアラ!」
フレシア様に言っても無理だと悟ったのか、今度は私に向かってフェルナンディ卿が大声で叫ぶ。
「ディラン様は俺を養う気はないって言うんだ! お前が言い出したことなんだから、お前からディラン様に俺を養うように言え!」
「私はディランに養ってもらえなんて一言も言ってないわよ」
「始めるならディラン様と、と言ったのはお前だ!」
「それは言ったかもしれないけど、始められなかったのはあなたのせいでしょう! 私のせいにしないで!」
言い返すと、フェルナンディ卿は私の手を掴んで信じられないことを言い出した。
「なら、俺と婚約し直せ! そして、俺を一生養え!」
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