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25 カフェに集まる人々
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ここ最近の私は、ミーグスが女子生徒にかなり人気があるのだということを忘れていた。
公爵令息という肩書と整った顔立ち。
頭も良く女性には優しい。
女性には優しいというミーグスの評判にだけれど、私には優しくなかった彼は、私のことを女性扱いしていないのだろうと思っていた。
今となれば、優しいということはわかってきたから、彼が人気がある理由はわかる気がする。
今まではミーグスを好きだという人から、悪意をぶつけられたことはなかった。
だから、初めての出来事に私は驚くことになる。
「ミゼライトさん。ディラン様と別れて」
それはバイト中の出来事だった。
私より1学年上の美人で有名なお姉様たち4人が、オーダーを取りにいった私に言った。
バイト中にこういうことは困るわ。
心の中でそう思ったあと、笑顔でお願いする。
「申し訳ございませんが、まずはオーダーしていただけますでしょうか? 提供までのお時間に私語をしても良いか店長に確認しますので」
「これだから貧乏人は嫌なのよ」
「本当だわ。大体、こんな安っぽい店の飲み物や食べ物を注文したくもないわ」
「でしたら、バイト終了まで、店の中ではなく外でお待ちいただけますでしょうか。他のお客様のご迷惑になりますので」
何をしに来たのよ。
「なんて偉そうな店員なの!」
「ここは飲食を提供する店です」
文句をブツブツ言うお姉様たちにはっきりと言うと、一斉に文句をぶつけてくる。
「平民のくせに生意気なのよ」
「そうよ。なんでこんな人がディラン様と付き合えるの!」
「本当に常識がない人は困るわ!」
うるさいわね。
常識がないのはそっちでしょう。
カフェに来て何も頼まないほうがおかしいじゃないの。
でも、確実に話が通じそうにないから、相手にするのはやめましょう。
無言で踵を返すと、お姉様たちは騒ぐ。
「ちょっと逃げないでよ」
「オーダーならおうかがいします」
振り返って言った時だった。
出入り口のベルが鳴ったので、そちらに目を向ける。
そして、入ってきた人物が誰だかわかると、小さく息を吐いて絡んでくるお姉様たちのほうに視線を戻す。
「で、私にどうしてほしいんでしょうか」
「だから言ってるじゃないの、ディラン様と別れて!」
「……だそうよ?」
そう言って、店に入ってきたミーグスに話を振った。
「だそうよ、の意味がわからないんだけど何かあったの?」
「ディラン様!?」
話題の人が現れたせいで、お姉様たちは悲鳴を上げた。
私はミーグスに素直に答える。
「この人たちから別れてくれって言われてるの」
「どうして?」
「さあ? あなたのことが好きなんじゃないの?」
「やめて!」
私たちの会話を聞いた4人の内の1人が叫立ち上がって叫び、他の1人が言う。
「用事があったことを思い出しましたわ! 本日は失礼させていただきます!」
「私もです!」
4人は呆気にとられている私たちを置いて、逃げるように店から出て行った。
「何なの、営業妨害じゃないの」
別に店は満員なわけではない。
でも、4人掛けのテーブル席があまりないため、待つのが嫌で他の店に行ってしまった人がいたことを知っていた私は、腹立たしくなって呟いた。
ミーグスが空いた席に着いて、私に話しかけてくる。
「よくわからないけど、僕に関係があるのなら、さっきの人たちの対応はしておくよ。それから飲み物も彼女たちの分を僕が頼むよ。テイクアウト出来るでしょ?」
「出来るけど」
「じゃあ、君のバイトが終わる時間に3つ頼むよ。僕は紅茶で、あとの2つは君とエアリスで、好きなものを頼んだらいい」
「え、でも」
「いいから。君、仕事中だろ? あと、今から店内で飲む分はレモンティーでお願いします」
「毎度、ありがとうございます」
私が礼を言ったと同時にカランカランとベルの音が鳴ったので、また扉のほうに顔を向ける。
入ってきた人物を見て、私は息を呑んだ。
店の出入り口に立っていたのは、フェルナンディ卿ではなく父親のほうだった。
息子よりも老けてはいるけれど、ロマンスグレーの見た目だけ素敵な紳士だ。
フェルナンディ子爵は店に入って、私の姿を見つけるなり叫ぶ。
「おい、ビアラ! とうとう、うちの家の前に借金取りが来るようになったんだ! 危険だから、息子は部外者が出入り出来ない寮に住むことになった! お前のせいだぞ! 息子の分の寮費はお前持ちだからな!」
「最悪だわ」
もうツッコむ所が多すぎて、私の口からはそんな言葉しか出ない。
「うるさい! お前がとっとと金を払わないからだ! みんな聞いてくれ! ここにいる女は!」
私を指差し、フェルナンディ子爵が店内の客に向かって叫び始めると、ミーグスが立ち上がった。
「ここにいる女が何かな、フェルナンディ子爵」
「お……、あ、あなたは!」
ミーグスに気が付いたフェルナンディ子爵の表情がどんどん青ざめていった。
「きょ、今日のところは引き上げてやる。ビアラ! ちゃんと払うんだぞ!」
フェルナンディ子爵はわけのわからないことを叫んだあと、逃げるように店を出ていった。
「……何なのよ」
見たくもない顔を見てしまって、最悪な気分だわ。
騒ぎを聞きつけて奥から出てきた店長と一緒に、店内のお客様に謝ることになった。
すると、ミーグスがこの場に居合わせた全員の代金を払うと言ってくれたことで、お客様に逆に喜ばれる事態となった。
公爵令息という肩書と整った顔立ち。
頭も良く女性には優しい。
女性には優しいというミーグスの評判にだけれど、私には優しくなかった彼は、私のことを女性扱いしていないのだろうと思っていた。
今となれば、優しいということはわかってきたから、彼が人気がある理由はわかる気がする。
今まではミーグスを好きだという人から、悪意をぶつけられたことはなかった。
だから、初めての出来事に私は驚くことになる。
「ミゼライトさん。ディラン様と別れて」
それはバイト中の出来事だった。
私より1学年上の美人で有名なお姉様たち4人が、オーダーを取りにいった私に言った。
バイト中にこういうことは困るわ。
心の中でそう思ったあと、笑顔でお願いする。
「申し訳ございませんが、まずはオーダーしていただけますでしょうか? 提供までのお時間に私語をしても良いか店長に確認しますので」
「これだから貧乏人は嫌なのよ」
「本当だわ。大体、こんな安っぽい店の飲み物や食べ物を注文したくもないわ」
「でしたら、バイト終了まで、店の中ではなく外でお待ちいただけますでしょうか。他のお客様のご迷惑になりますので」
何をしに来たのよ。
「なんて偉そうな店員なの!」
「ここは飲食を提供する店です」
文句をブツブツ言うお姉様たちにはっきりと言うと、一斉に文句をぶつけてくる。
「平民のくせに生意気なのよ」
「そうよ。なんでこんな人がディラン様と付き合えるの!」
「本当に常識がない人は困るわ!」
うるさいわね。
常識がないのはそっちでしょう。
カフェに来て何も頼まないほうがおかしいじゃないの。
でも、確実に話が通じそうにないから、相手にするのはやめましょう。
無言で踵を返すと、お姉様たちは騒ぐ。
「ちょっと逃げないでよ」
「オーダーならおうかがいします」
振り返って言った時だった。
出入り口のベルが鳴ったので、そちらに目を向ける。
そして、入ってきた人物が誰だかわかると、小さく息を吐いて絡んでくるお姉様たちのほうに視線を戻す。
「で、私にどうしてほしいんでしょうか」
「だから言ってるじゃないの、ディラン様と別れて!」
「……だそうよ?」
そう言って、店に入ってきたミーグスに話を振った。
「だそうよ、の意味がわからないんだけど何かあったの?」
「ディラン様!?」
話題の人が現れたせいで、お姉様たちは悲鳴を上げた。
私はミーグスに素直に答える。
「この人たちから別れてくれって言われてるの」
「どうして?」
「さあ? あなたのことが好きなんじゃないの?」
「やめて!」
私たちの会話を聞いた4人の内の1人が叫立ち上がって叫び、他の1人が言う。
「用事があったことを思い出しましたわ! 本日は失礼させていただきます!」
「私もです!」
4人は呆気にとられている私たちを置いて、逃げるように店から出て行った。
「何なの、営業妨害じゃないの」
別に店は満員なわけではない。
でも、4人掛けのテーブル席があまりないため、待つのが嫌で他の店に行ってしまった人がいたことを知っていた私は、腹立たしくなって呟いた。
ミーグスが空いた席に着いて、私に話しかけてくる。
「よくわからないけど、僕に関係があるのなら、さっきの人たちの対応はしておくよ。それから飲み物も彼女たちの分を僕が頼むよ。テイクアウト出来るでしょ?」
「出来るけど」
「じゃあ、君のバイトが終わる時間に3つ頼むよ。僕は紅茶で、あとの2つは君とエアリスで、好きなものを頼んだらいい」
「え、でも」
「いいから。君、仕事中だろ? あと、今から店内で飲む分はレモンティーでお願いします」
「毎度、ありがとうございます」
私が礼を言ったと同時にカランカランとベルの音が鳴ったので、また扉のほうに顔を向ける。
入ってきた人物を見て、私は息を呑んだ。
店の出入り口に立っていたのは、フェルナンディ卿ではなく父親のほうだった。
息子よりも老けてはいるけれど、ロマンスグレーの見た目だけ素敵な紳士だ。
フェルナンディ子爵は店に入って、私の姿を見つけるなり叫ぶ。
「おい、ビアラ! とうとう、うちの家の前に借金取りが来るようになったんだ! 危険だから、息子は部外者が出入り出来ない寮に住むことになった! お前のせいだぞ! 息子の分の寮費はお前持ちだからな!」
「最悪だわ」
もうツッコむ所が多すぎて、私の口からはそんな言葉しか出ない。
「うるさい! お前がとっとと金を払わないからだ! みんな聞いてくれ! ここにいる女は!」
私を指差し、フェルナンディ子爵が店内の客に向かって叫び始めると、ミーグスが立ち上がった。
「ここにいる女が何かな、フェルナンディ子爵」
「お……、あ、あなたは!」
ミーグスに気が付いたフェルナンディ子爵の表情がどんどん青ざめていった。
「きょ、今日のところは引き上げてやる。ビアラ! ちゃんと払うんだぞ!」
フェルナンディ子爵はわけのわからないことを叫んだあと、逃げるように店を出ていった。
「……何なのよ」
見たくもない顔を見てしまって、最悪な気分だわ。
騒ぎを聞きつけて奥から出てきた店長と一緒に、店内のお客様に謝ることになった。
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