犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる

風見ゆうみ

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21 このままの関係

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 フレシア様に嘘を付く必要もないので、私は店長本人が公言している範囲での情報を教えた。
 結婚していない。
 彼女はいない。
 年は25歳。
 これに関しては、カフェに彼目当てでくる女性たちに話していることなので、私がフレシア様に伝えても問題はなかった。
 店長の誕生日や家の住所なども知っているけれと、それについては、本人が公にしていないので、私の口からは言うわけにはいかなかった。

 伯爵家だし、お金もあるでしょうから調べようと思えば調べられるでしょうし、そういう個人情報は自分で本人から聞くべきよね。
 私が言うべきことじゃないわ。

 フレシア様は店長に特定の相手がいないことを知ると、とても喜び「これからはお店の売上に貢献するようにするわね」と笑顔で言った。

 店長を目当てにお店に通うということは、普通に浮気発言になるのではないかと思うけど大丈夫なのかしら。
 店長は良識はあるけれど、悪い人相手だと金の亡者的な所もあるし、太客ができたと喜ぶかしら。
 でも、フレシア様は憎めない悪人なのよね。

 結局、その後はフレシア様が話すだけ話して満足すると、窓の外が真っ暗になっていたのに気づいてお開きとなった。

「君も苦労するね」

 店の出入口の前でフレシア様と別れ、私も帰ろうとすると、さっきまでなかった紙袋を持ったミーグスが話しかけてきた。

「店長には気の毒だけど、フェルナンディ卿よりかは店長は良い人だと思う。ただ、店に頻繁に来られるのは迷惑だわ。その内、フェルナンディ卿が店長に文句を言うために店まで乗り込んできそうだし」
「それはありえるね」

 話しているうちにミーグスの家の馬車が店の前に停まったので、私は手を振る。

「今日は付き合ってくれてありがとう。っていうか、ミーグスの話したいことってなんだったの?」
「口実」
「え? どういうこと?」
「なんでもない。ほら、君も乗って」
「いいわよ。そう遠くもないから1人で帰れるわ」
「夜道は危ないから」

 無理やり腕をひかれて、馬車に乗せられた私は、ミーグスの向かい側に座って文句を言う。

「人さらい」
「このまま本当に連れて帰ろうか?」
「どこへ?」
「僕の家」
「寮と反対方向じゃない」
「反対方向とかいう問題じゃない。ものすごく遠いじゃないの」
 
 ミーグスは、これ見よがしにため息を吐いてから話題を変えてくる。

「フレシアが言っていた短所云々の話は、あながち間違ってはいない」
「何よいきなり。やっぱりフレシア様のこと好きだったの?」

 ミーグスに蔑んだような目で見られたので憤慨する。

「何よ! 言いたいことがあるなら言いなさいよ!」
「僕の好きな人の短所、教えてあげようか」
「なんで私に言うのよ」
「いいから聞いて」
「はい」

 ミーグスの表情が真剣なものだったので、私も真剣に聞かなければいけないと思い、背筋を伸ばして彼を見つめる。

「鈍い」
「え?」
「ものすごく鈍い」
「何に関して?」
「恋愛面に関して」
「え? どういうこと?」

 ミーグスの言いたいことがつかめなくて、眉根を寄せて尋ねた。

「遠回しに伝えたら、まったくもって伝わらない」
「それは遠回しに伝えるからじゃないの?」
「僕だって色々と事情があるんだよ」
「いつか遠回しに伝えなくて良い日が来るの?」
「わからない」
「何よそれ」

 私は背筋を伸ばすのをやめて、背もたれにもたれかかって言う。

「恋人がいない女性だったら、あなたに気持ちを伝えられたら喜ぶに決まってるんだから、うじうじしないでよ。あなたらしくないでしょう」
「伝えてもいいの?」
「どうして私に聞くの」

 ミーグスに見つめられて、私の鼓動が早くなるのを感じた。

 何だかすごくドキドキする。
 病気かもしれない。
 どうしよう。
 病院に行くお金なんてないのに!

 私の質問にミーグスが答えようとした時、馬車が動きを止めた。

「着いたみたいだね」

 ミーグスはため息を吐くと、私に紙袋を差し出して中に入っている2つの包みを1つずつ指差して説明する。

「お土産。こっちは君に。それからこっちは君とエアリスに」
「ありがとう。でも、どうして」
「ステーキ、君が食べたそうにしてたから。あとデザートはエアリスも食べるだろう?」
「食い意地がはっていて申し訳ございません」
「人のものを奪ったりするわけじゃないんだから謝ることじゃないだろ」

 ポンポンと頭をなでられて、少し調子が狂う。
 子供扱いされているなと思いながらも、素直に礼を言う。

「ありがとう、ミーグス。それから、送ってくれてありがとう」
「どういたしまして」

 避けていたのが馬鹿みたいね。
 やっぱり、こういう関係が楽だわ。

 一人で納得すると紙袋を受け取り、もう一度お礼を言ってから馬車を降りた。 
 
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