22 / 36
21 このままの関係
しおりを挟む
フレシア様に嘘を付く必要もないので、私は店長本人が公言している範囲での情報を教えた。
結婚していない。
彼女はいない。
年は25歳。
これに関しては、カフェに彼目当てでくる女性たちに話していることなので、私がフレシア様に伝えても問題はなかった。
店長の誕生日や家の住所なども知っているけれと、それについては、本人が公にしていないので、私の口からは言うわけにはいかなかった。
伯爵家だし、お金もあるでしょうから調べようと思えば調べられるでしょうし、そういう個人情報は自分で本人から聞くべきよね。
私が言うべきことじゃないわ。
フレシア様は店長に特定の相手がいないことを知ると、とても喜び「これからはお店の売上に貢献するようにするわね」と笑顔で言った。
店長を目当てにお店に通うということは、普通に浮気発言になるのではないかと思うけど大丈夫なのかしら。
店長は良識はあるけれど、悪い人相手だと金の亡者的な所もあるし、太客ができたと喜ぶかしら。
でも、フレシア様は憎めない悪人なのよね。
結局、その後はフレシア様が話すだけ話して満足すると、窓の外が真っ暗になっていたのに気づいてお開きとなった。
「君も苦労するね」
店の出入口の前でフレシア様と別れ、私も帰ろうとすると、さっきまでなかった紙袋を持ったミーグスが話しかけてきた。
「店長には気の毒だけど、フェルナンディ卿よりかは店長は良い人だと思う。ただ、店に頻繁に来られるのは迷惑だわ。その内、フェルナンディ卿が店長に文句を言うために店まで乗り込んできそうだし」
「それはありえるね」
話しているうちにミーグスの家の馬車が店の前に停まったので、私は手を振る。
「今日は付き合ってくれてありがとう。っていうか、ミーグスの話したいことってなんだったの?」
「口実」
「え? どういうこと?」
「なんでもない。ほら、君も乗って」
「いいわよ。そう遠くもないから1人で帰れるわ」
「夜道は危ないから」
無理やり腕をひかれて、馬車に乗せられた私は、ミーグスの向かい側に座って文句を言う。
「人さらい」
「このまま本当に連れて帰ろうか?」
「どこへ?」
「僕の家」
「寮と反対方向じゃない」
「反対方向とかいう問題じゃない。ものすごく遠いじゃないの」
ミーグスは、これ見よがしにため息を吐いてから話題を変えてくる。
「フレシアが言っていた短所云々の話は、あながち間違ってはいない」
「何よいきなり。やっぱりフレシア様のこと好きだったの?」
ミーグスに蔑んだような目で見られたので憤慨する。
「何よ! 言いたいことがあるなら言いなさいよ!」
「僕の好きな人の短所、教えてあげようか」
「なんで私に言うのよ」
「いいから聞いて」
「はい」
ミーグスの表情が真剣なものだったので、私も真剣に聞かなければいけないと思い、背筋を伸ばして彼を見つめる。
「鈍い」
「え?」
「ものすごく鈍い」
「何に関して?」
「恋愛面に関して」
「え? どういうこと?」
ミーグスの言いたいことがつかめなくて、眉根を寄せて尋ねた。
「遠回しに伝えたら、まったくもって伝わらない」
「それは遠回しに伝えるからじゃないの?」
「僕だって色々と事情があるんだよ」
「いつか遠回しに伝えなくて良い日が来るの?」
「わからない」
「何よそれ」
私は背筋を伸ばすのをやめて、背もたれにもたれかかって言う。
「恋人がいない女性だったら、あなたに気持ちを伝えられたら喜ぶに決まってるんだから、うじうじしないでよ。あなたらしくないでしょう」
「伝えてもいいの?」
「どうして私に聞くの」
ミーグスに見つめられて、私の鼓動が早くなるのを感じた。
何だかすごくドキドキする。
病気かもしれない。
どうしよう。
病院に行くお金なんてないのに!
私の質問にミーグスが答えようとした時、馬車が動きを止めた。
「着いたみたいだね」
ミーグスはため息を吐くと、私に紙袋を差し出して中に入っている2つの包みを1つずつ指差して説明する。
「お土産。こっちは君に。それからこっちは君とエアリスに」
「ありがとう。でも、どうして」
「ステーキ、君が食べたそうにしてたから。あとデザートはエアリスも食べるだろう?」
「食い意地がはっていて申し訳ございません」
「人のものを奪ったりするわけじゃないんだから謝ることじゃないだろ」
ポンポンと頭をなでられて、少し調子が狂う。
子供扱いされているなと思いながらも、素直に礼を言う。
「ありがとう、ミーグス。それから、送ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
避けていたのが馬鹿みたいね。
やっぱり、こういう関係が楽だわ。
一人で納得すると紙袋を受け取り、もう一度お礼を言ってから馬車を降りた。
結婚していない。
彼女はいない。
年は25歳。
これに関しては、カフェに彼目当てでくる女性たちに話していることなので、私がフレシア様に伝えても問題はなかった。
店長の誕生日や家の住所なども知っているけれと、それについては、本人が公にしていないので、私の口からは言うわけにはいかなかった。
伯爵家だし、お金もあるでしょうから調べようと思えば調べられるでしょうし、そういう個人情報は自分で本人から聞くべきよね。
私が言うべきことじゃないわ。
フレシア様は店長に特定の相手がいないことを知ると、とても喜び「これからはお店の売上に貢献するようにするわね」と笑顔で言った。
店長を目当てにお店に通うということは、普通に浮気発言になるのではないかと思うけど大丈夫なのかしら。
店長は良識はあるけれど、悪い人相手だと金の亡者的な所もあるし、太客ができたと喜ぶかしら。
でも、フレシア様は憎めない悪人なのよね。
結局、その後はフレシア様が話すだけ話して満足すると、窓の外が真っ暗になっていたのに気づいてお開きとなった。
「君も苦労するね」
店の出入口の前でフレシア様と別れ、私も帰ろうとすると、さっきまでなかった紙袋を持ったミーグスが話しかけてきた。
「店長には気の毒だけど、フェルナンディ卿よりかは店長は良い人だと思う。ただ、店に頻繁に来られるのは迷惑だわ。その内、フェルナンディ卿が店長に文句を言うために店まで乗り込んできそうだし」
「それはありえるね」
話しているうちにミーグスの家の馬車が店の前に停まったので、私は手を振る。
「今日は付き合ってくれてありがとう。っていうか、ミーグスの話したいことってなんだったの?」
「口実」
「え? どういうこと?」
「なんでもない。ほら、君も乗って」
「いいわよ。そう遠くもないから1人で帰れるわ」
「夜道は危ないから」
無理やり腕をひかれて、馬車に乗せられた私は、ミーグスの向かい側に座って文句を言う。
「人さらい」
「このまま本当に連れて帰ろうか?」
「どこへ?」
「僕の家」
「寮と反対方向じゃない」
「反対方向とかいう問題じゃない。ものすごく遠いじゃないの」
ミーグスは、これ見よがしにため息を吐いてから話題を変えてくる。
「フレシアが言っていた短所云々の話は、あながち間違ってはいない」
「何よいきなり。やっぱりフレシア様のこと好きだったの?」
ミーグスに蔑んだような目で見られたので憤慨する。
「何よ! 言いたいことがあるなら言いなさいよ!」
「僕の好きな人の短所、教えてあげようか」
「なんで私に言うのよ」
「いいから聞いて」
「はい」
ミーグスの表情が真剣なものだったので、私も真剣に聞かなければいけないと思い、背筋を伸ばして彼を見つめる。
「鈍い」
「え?」
「ものすごく鈍い」
「何に関して?」
「恋愛面に関して」
「え? どういうこと?」
ミーグスの言いたいことがつかめなくて、眉根を寄せて尋ねた。
「遠回しに伝えたら、まったくもって伝わらない」
「それは遠回しに伝えるからじゃないの?」
「僕だって色々と事情があるんだよ」
「いつか遠回しに伝えなくて良い日が来るの?」
「わからない」
「何よそれ」
私は背筋を伸ばすのをやめて、背もたれにもたれかかって言う。
「恋人がいない女性だったら、あなたに気持ちを伝えられたら喜ぶに決まってるんだから、うじうじしないでよ。あなたらしくないでしょう」
「伝えてもいいの?」
「どうして私に聞くの」
ミーグスに見つめられて、私の鼓動が早くなるのを感じた。
何だかすごくドキドキする。
病気かもしれない。
どうしよう。
病院に行くお金なんてないのに!
私の質問にミーグスが答えようとした時、馬車が動きを止めた。
「着いたみたいだね」
ミーグスはため息を吐くと、私に紙袋を差し出して中に入っている2つの包みを1つずつ指差して説明する。
「お土産。こっちは君に。それからこっちは君とエアリスに」
「ありがとう。でも、どうして」
「ステーキ、君が食べたそうにしてたから。あとデザートはエアリスも食べるだろう?」
「食い意地がはっていて申し訳ございません」
「人のものを奪ったりするわけじゃないんだから謝ることじゃないだろ」
ポンポンと頭をなでられて、少し調子が狂う。
子供扱いされているなと思いながらも、素直に礼を言う。
「ありがとう、ミーグス。それから、送ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
避けていたのが馬鹿みたいね。
やっぱり、こういう関係が楽だわ。
一人で納得すると紙袋を受け取り、もう一度お礼を言ってから馬車を降りた。
73
お気に入りに追加
1,261
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
半日だけ侍女になった美貌の公爵令嬢は世界を手に入れる?
青空一夏
恋愛
美貌の公爵令嬢カトリーヌは、夜会で一間惚れした男爵家の三男カート様に会うために侍女に変装します。さぁ、侍女になったカトリーヌは‥‥お転婆の美しい公爵令嬢の半日だけの大冒険?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる