犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる

風見ゆうみ

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20 伯爵令嬢の恋心

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 話が途切れたところで前菜が運ばれてきた。
 そのため、先日、ミーグスの家で教えてもらったテーブルマナーを駆使して食事を始める。
 一つ一つの量が少ないため、食べたら話をするを繰り返していく内にメインディッシュが運ばれてきた。
 フレシア様の選んだメインディッシュは魚だったため、私も魚だ。
 でも、ミーグスはメインディッシュが二つあり、ステーキが彼の前に運ばれてきた時、私の目はステーキに釘付けになった。

 すごい肉厚のお肉だわ。
 今までお目にかかったことないし柔らかそう。
 でも、コース料理のお魚も美味しい。

 ステーキへの雑念を振り払うように首を横に振り、目の前に出されている料理に集中することにした。
 そのため、ミーグスがウエイターに何か話しかけていたことにはまったく気付いていなかった。

「ミゼライトさんは元々はホーリルの婚約者だったでしょう。彼が愛人を持つことについては許してあげるつもりだったの?」
「いいえ、愛人の話をするほどの仲ではありませんでしたし、私は彼に大して興味もありませんでした」
「私、失敗してしまったのかしら」

 フレシア様は大きなため息を吐いてから話を続ける。

「ホーリルのことを本当に素敵な人だと思っていたのよ。お家にはびっくりしたけれど、愛があれば大丈夫だと思ったの。でも、あの愛人発言はどうしても許せないわ。愛しているなら許すべきなのかしら」
「あのフレシア様、念のためにお伝えしておきますが、私が愛人になることはありませんので、それだけはご安心ください」
「本当に? ホーリルは本当に素敵な人なのよ? 強引な所はあるけれど頼りがいがあって素敵だしもったいないんじゃないかしら」
「何も考えてないだけだと思いますけど」
「あなたはホーリルの良さがわからないから、婚約破棄を受け入れることが出来たのね」

 フレシア様に憐れむような目で見られて、私は思わず眉根を寄せた。

 フェルナンディ卿の良さなんて一つも見いだせなかったんだけど、どういうことかしら。
 フレシア様の前ではいい子ぶっているのかもしれないわね。

 そんな私の様子などおかまいなしに、フレシア様は話を続ける。

「あなたも純愛をしてみるべきだと思うわ。そうすれば好きな人の短所なんて、そう気にならなくなるはずだから」
「そんなものですか」
「そんなものよ」
「フレシア様とディランはどうだったんですか?」

 ふと気になって聞いてみると、横に座っていたミーグスがむせた。
 その様子に驚いて、ミーグスのほうに顔を向けて尋ねる。

「ちょっと大丈夫?」
「だ、大丈夫だけど、どうしてそんなことを聞くんだよ」
「いや、なんかちょっと気になったのよ」

 聞いちゃいけなかったのかしら。
 もしかして、ミーグスが本当にフレシア様を好きだったしたらどうしよう。
 本当は婚約破棄したくなかったとかだったら、気の毒すぎる。

 自分から言い出した話だけれど、話題を変えようと決めた。

「まあ、それは良いとして、お料理美味しかったです。ごちそう様でしたとシェフにお伝えください」

 私がウェイターにに向かって言うと、笑顔で「シェフに伝えておきます」と応えた。
 ウェイターが場を離れると、フレシア様が話しかけてくる。

「ねえ、ミゼライトさん。私はどうしたら良いと思う? このままホーリルと付き合っていてもいいのかしら? まだ婚約者でもないから、なかったことにできると思うのよ」
「……愛人についてだけがネックなのでしたら、ちゃんとお二人で話し合ってみたらいかがでしょう。フレシア様が本当に嫌ならフェルナンディ卿もわかってくれるかもしれません」
「わかってるわ。でも、口だけかもしれない。結婚してからでは遅いのよ」

 フレシア様が俯いて言った。

 思ったよりもフレシア様がまともで、ちょっと驚いてしまった。

 フレシア様のことを見直そうかと思った時、ミーグスがフレシア様に尋ねる。

「フレシア、もしかして君、他に好きな人ができたんじゃないのか」
「え? そうなんですか?」

 驚いてフレシア様に問いかけると、フレシア様は頬を赤らめて頷く。

「フレシア様、本当に好きな人が出来たんですか?」
「も、もちろん、ホーリルのことを今でも大好きよ。だけど、愛人発言のことが気になってしまって、で、でね、ミゼライトさん」
「はい?」
「あなたのバイト先の店長は、ご結婚とかなさってるのかしら?」
「はい?」

 嘘でしょう。
 恋愛するのは勝手だけど、どうして私の周りの人間なのよ。
 店長はそういうのは苦手だと思うわ。
 しかも、フレシア様のこの感じだと私に協力しろと言ってきそうね。
 
 キラキラした瞳で私を見てくるフレシア様を見て、頭を抱えそうになった。
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