犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる

風見ゆうみ

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19 奇妙な関係

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「愛人を作るだなんて、ひどい話だと思わない!?」

 フレシア様に捕まってしまった私とミーグスは、元々、彼女が向かっていたレストランに連れてこられた。
 別に私に会いに来たわけじゃなく、たまたま通りかかったら、私とミーグスの姿が見えたから、ちょうど良いと思って馬車を停めたんだそうだ。

 ミーグスは私と話すことを諦めて逃げようとしたけれど、私に捕まって逃げられなかった。

 ミーグスには悪いけど、私はフレシア様と二人で話すことなんてないもの。
 というか、席に着いてすぐにメニューを渡されたけど、名前だけではどんな料理なのか全くわからないわ。

 元伯爵家とはいっても、それら私が小さい頃の話であり、今来ているような高級レストランに来ていたことがあったとしても、自分で注文したことはなかった。
 
 しかも値段、何これ?
 一桁間違ってない?

 あまりの値段の高さに、フレシア様の話も聞かずにパニックになっていると、ミーグスが私に話しかけてきた。

「僕が出すから、君は値段は気にしなくていいよ」
「そ、そんな訳にはいかないわよ。といっても、今、こんな手持ちないから、出し替えてもらわないと駄目だけど」
「あら、ミゼライトさん。付き合ってもらうのですから、ここのお金くらい出させていただくわ。ごめんなさいね。本当なら平民の方が行くような店に行けばいいのでしょうけれど、私の口には合わなくて」
「いえ、それはまあ、好みもあると思いますので良いと思いますし、お金を出していただけるのは非常にありがたいのですが、できれば他の方を誘ってください」

 フレシア様の嫌味なのかもしれないけど、全然、嫌味に聞こえない。
 というか料理の名前だけでは、全く何が何だかわからないから頼みようがないわ。

 メニューを凝視している私に、ウエイターがそっと近寄ってきて声を掛けてくれる。

「お嬢様、何かお困りですか?」
「お、お嬢様ではないのですが、お困りです」

 こくこくと首を何度も縦に振ると、柔らかな物腰のウエイターは、私の様子を見て何が言いたいのか察してくれたようで、フレシア様に話しかける。

「フレシアお嬢様。こちらのお嬢様もフレシアお嬢様と同じコースメニューでよろしいでしょうか」
「そうね。それでお願い」
 
 笑顔で頷くフレシア様とウエイターのやり取りを見て、ビアラは思った。

 そうよね。
 フレシア様と同じもので、って言えばよかったのよね。

 特に食べ物に好き嫌いもなく、アレルギーもないので、そうすれば簡単な話だった。

「僕はいつものやつで」

 ミーグスが言うと、ウエイターは「かしこまりました」と恭しく頭を下げてから、注文を通しに行った。
 ミーグスは慣れた様子なので聞いてみる。

「ディランもよくここに来てるの?」
「昔はね」
「どういうこと?」
「ミゼライトさん。私とディランは婚約者同士だったでしょう。だからよくここに一緒に来ていたのよ」
「そうだったんですか」

 胸に何かもやっとしたものを感じて、首を傾げる。

 何だろう。
 今の嫌な感じ。

 そこまで考えて、エアリスの言葉を思い出した。

 エアリスがあんなことを言うから、ミーグスを意識しちゃってるんだわ。
 やめやめ!
 私がミーグスに恋するなんて絶対に駄目! 
 恋愛なんかにかまけてたら、勉強が手につかなくなるわ。
 ミーグスが私を好きになることもありえないし、たとえ天と地がひっくり返ってミーグスが私を好きになったとしても、身分差がありすぎて無理だわ。

「でね、ミゼライトさん!」
「はい?」
「あの時のあなたが可愛かったということは認めるわ」

 あの時というのは、先日のパーティーの話だと判断した。

「ありがとうございます。でも、私は可愛くなんかないです。フレシア様が圧勝です」
「やっぱりそうよね!? ミゼライトさんって、思ったよりも話がわかる人なのね」

 向かいに座るフレシア様が瞳をキラキラさせて言うので、引きつった笑みを浮かべて頷く。

 あなたはもっと空気を読めるようになったら良いと思いますけどね。

「で、さっきの続きなんだけど、ホーリルはあなたが思ったよりも可愛かったから愛人にしてもいいと思ったなんて、私に対して失礼すぎると思わない?」
「そうですね。失礼だと思います。この国の貴族は愛人を持つことは違法ではないですが、結婚前からそれはないですよね」
「私たちは純愛なの! 愛人なんて必要ないわ!」
「フェルナンディ卿に直接、そのお気持ちをお伝えしてはいかがでしょう」
「ちゃんと伝えたんだけど、あのあとから、私の結婚相手が彼で本当に良いのかと不安になってきてしまったのよ。両親は相変わらず反対しているし」

 フレシア様がしゅんと肩を落とすのを見て、私とミーグスは思わず顔を見合わせた。
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