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18 意識するきっかけ
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「何かここ最近、記憶が飛んでいるような気がするのよね」
ミーグスの屋敷から帰ってきた日の晩、窓際に並べられた勉強机で明日からの授業の予習をしていると、同じように勉強していたエアリスがぽつりと呟いた。
「例えばどんな感じなの?」
「ここ最近、自分が何をしていたかわからなくなる時があるのよ」
「トゥッチさんと一緒だったんじゃないの?」
トゥッチさんというのはエアリスの親友の名前だ。
彼女はエアリスを独り占めしたがっていて、私やノノレイのことを嫌っている。
自分からエアリスを奪われるとでも思っているのかもしれない。
先日、出かける前に聞いた時は、エアリスはそんな話をしていたから聞いてみると、彼女は首を傾げる。
「そのはずなんだけど、午前中に何をしていたのか思い出せないの。記憶があるのは午後からしかなくて」
「なんだか気になるわね」
カイジス公爵令息の話をしなくなった時から、エアリスの様子がおかしいのは確かなのよね。
そう思いながらも、エアリスにそのことを伝えてもわかってもらえるかわからないので躊躇っていると、エアリスが言う。
「疲れてるのかしら」
「そうね。そうかもしれないわね。今日は早く寝たほうが良いんじゃない?」
「聞いてくれてありがとう。そうするわ。また、落ち着いたら、ディラン様とのパーティーの話を聞かせてね」
あくびをしながらエアリスは立ち上がると、私にそう言って眠る用意をし始めたので慌てて伝えておく。
「何もなかったからね?」
「本当に?」
「ないない。私とミーグスの間に何があるって言うの」
「愛があるんじゃないの?」
「な、何を言ってるのよ! あるわけないじゃない!」
「あるわけないと思うビアラに、何を言ってるのかと聞き返したいくらいだわ」
眠ろうとしていたくせに、やはり恋バナというのは楽しいらしく、エアリスはさっきまで座っていた椅子に座り直して尋ねてくる。
「ビアラはノノレイからディラン様のことで何か言われたことはない?」
「ないことはないけど、私とミーグスにどうやったら愛が芽生えるのよ」
「相性とかもあるのかもしれないけれど、あなたたちの会話を聞いていたら、芽生えていてもおかしくないと思うわ」
「そんなものなの?」
「ねえ、ちょっと意識してみたら? 今まではディラン様にもビアラにも婚約者がいたから駄目だったけれど、今はお互いにフリーなんだし」
「そんなの無理よ。大体、私は平民なのよ。意識しても辛いだけじゃないの」
「身分の問題はあるけれど、ディラン様ならどうにかしてくれると思うわ」
エアリスにそう言われてからは、勉強は全く捗らず諦めてベッドの中に入った。
でも、中々眠ることが出来なかった。
*****
エアリスと話をした次の日から、ミーグスを意識し始めてしまい、自分で言うのもなんだけれど様子がおかしくなってしまった。
明らかにミーグスを避けるようになり、視線を合わすこともできなくなった。
自分でもこんなことをする理由があるのか謎だ。
でも、変に意識して、それを恋だと思い込むのも嫌だった。
別に彼に恋しているわけじゃない。
それに、ミーグスだって私を意識しているとは思えない。
ミーグスは私を不審に思って、休み時間中に用もないのに声をかけようとしてくる。
でも、すぐに私はノノレイの所に移動して、話しかける隙も与えないようにしていた。
そんな日が続いたせいか、週末にミーグスが私のバイト時間中に店にやって来た。
「彼氏が来てるよ」
と店長に背中を押されて、渋々オーダーを取りに行くと、ミーグスは飲み物を注文してから私に話しかけてくる。
「バイトが終わったら時間はある? 少し話がしたいんだけど」
「ごめん。今日は用事があるの」
「じゃあ、明日は?」
「明日も用事が」
「君の用事がない時間はないわけ?」
微笑んではいるけれど、ミーグスが本心から笑っていないことに気が付いた。
とりあえず、何の話があるのかと思って、用件を尋ねてみる。
「私に何の用なの?」
「話をしたいって言ってるだろ」
「学園の休み時間じゃ駄目なの?」
「避けてるくせに」
「ちゃんと聞くようにします! で、用件は何なの?」
「フレシアとフェルナンディの件」
その二人の名前を出されてしまうと、どうでも良いという気持ちもあった。
でも、好奇心のほうが勝ってしまい、話を聞くことに決めた。
「じゃあ、今日のバイトが終わってからでいいかしら。そんなに長くないわよね?」
「じゃあ、ここで待たせてもらう。ちゃんと注文も多めにするよ」
笑顔で頷いてくれたけれど、明らかにミーグスの笑顔はまだ作り笑顔だ。
気が重くなりながらもオーダーを通しに厨房に向かった。
そして、バイト終了時間になり、お会計を終えたミーグスと一緒に店を出ると、外はもう暗くなりかけていた。
だから、外灯のおかげて比較的明るい店の前で立ち止まって尋ねる。
「で、フレシア様たちがどうしたの?」
「それよりも君の今日の用事は?」
「は?」
「今日、用事があるって言ってたよね」
「あ、えーと、まあ、話が終わってからで大丈夫なのよ」
「じゃあ、その用事キャンセルして。どうせないだろうけど」
「どういう意味よ!」
聞き返した時だった。
私たちの横を通り過ぎたと思った馬車が突然、急停車した。
そして、御者が扉を開くと、その馬車の中から降りてきたのはフレシア様だった。
「ミゼライトさん! あなたに聞いてほしいことがあるんだけど!」
「……なぜ私?」
うんざりした表情でミーグスに尋ねると、彼は不機嫌そうな顔をしただけだった。
ミーグスの屋敷から帰ってきた日の晩、窓際に並べられた勉強机で明日からの授業の予習をしていると、同じように勉強していたエアリスがぽつりと呟いた。
「例えばどんな感じなの?」
「ここ最近、自分が何をしていたかわからなくなる時があるのよ」
「トゥッチさんと一緒だったんじゃないの?」
トゥッチさんというのはエアリスの親友の名前だ。
彼女はエアリスを独り占めしたがっていて、私やノノレイのことを嫌っている。
自分からエアリスを奪われるとでも思っているのかもしれない。
先日、出かける前に聞いた時は、エアリスはそんな話をしていたから聞いてみると、彼女は首を傾げる。
「そのはずなんだけど、午前中に何をしていたのか思い出せないの。記憶があるのは午後からしかなくて」
「なんだか気になるわね」
カイジス公爵令息の話をしなくなった時から、エアリスの様子がおかしいのは確かなのよね。
そう思いながらも、エアリスにそのことを伝えてもわかってもらえるかわからないので躊躇っていると、エアリスが言う。
「疲れてるのかしら」
「そうね。そうかもしれないわね。今日は早く寝たほうが良いんじゃない?」
「聞いてくれてありがとう。そうするわ。また、落ち着いたら、ディラン様とのパーティーの話を聞かせてね」
あくびをしながらエアリスは立ち上がると、私にそう言って眠る用意をし始めたので慌てて伝えておく。
「何もなかったからね?」
「本当に?」
「ないない。私とミーグスの間に何があるって言うの」
「愛があるんじゃないの?」
「な、何を言ってるのよ! あるわけないじゃない!」
「あるわけないと思うビアラに、何を言ってるのかと聞き返したいくらいだわ」
眠ろうとしていたくせに、やはり恋バナというのは楽しいらしく、エアリスはさっきまで座っていた椅子に座り直して尋ねてくる。
「ビアラはノノレイからディラン様のことで何か言われたことはない?」
「ないことはないけど、私とミーグスにどうやったら愛が芽生えるのよ」
「相性とかもあるのかもしれないけれど、あなたたちの会話を聞いていたら、芽生えていてもおかしくないと思うわ」
「そんなものなの?」
「ねえ、ちょっと意識してみたら? 今まではディラン様にもビアラにも婚約者がいたから駄目だったけれど、今はお互いにフリーなんだし」
「そんなの無理よ。大体、私は平民なのよ。意識しても辛いだけじゃないの」
「身分の問題はあるけれど、ディラン様ならどうにかしてくれると思うわ」
エアリスにそう言われてからは、勉強は全く捗らず諦めてベッドの中に入った。
でも、中々眠ることが出来なかった。
*****
エアリスと話をした次の日から、ミーグスを意識し始めてしまい、自分で言うのもなんだけれど様子がおかしくなってしまった。
明らかにミーグスを避けるようになり、視線を合わすこともできなくなった。
自分でもこんなことをする理由があるのか謎だ。
でも、変に意識して、それを恋だと思い込むのも嫌だった。
別に彼に恋しているわけじゃない。
それに、ミーグスだって私を意識しているとは思えない。
ミーグスは私を不審に思って、休み時間中に用もないのに声をかけようとしてくる。
でも、すぐに私はノノレイの所に移動して、話しかける隙も与えないようにしていた。
そんな日が続いたせいか、週末にミーグスが私のバイト時間中に店にやって来た。
「彼氏が来てるよ」
と店長に背中を押されて、渋々オーダーを取りに行くと、ミーグスは飲み物を注文してから私に話しかけてくる。
「バイトが終わったら時間はある? 少し話がしたいんだけど」
「ごめん。今日は用事があるの」
「じゃあ、明日は?」
「明日も用事が」
「君の用事がない時間はないわけ?」
微笑んではいるけれど、ミーグスが本心から笑っていないことに気が付いた。
とりあえず、何の話があるのかと思って、用件を尋ねてみる。
「私に何の用なの?」
「話をしたいって言ってるだろ」
「学園の休み時間じゃ駄目なの?」
「避けてるくせに」
「ちゃんと聞くようにします! で、用件は何なの?」
「フレシアとフェルナンディの件」
その二人の名前を出されてしまうと、どうでも良いという気持ちもあった。
でも、好奇心のほうが勝ってしまい、話を聞くことに決めた。
「じゃあ、今日のバイトが終わってからでいいかしら。そんなに長くないわよね?」
「じゃあ、ここで待たせてもらう。ちゃんと注文も多めにするよ」
笑顔で頷いてくれたけれど、明らかにミーグスの笑顔はまだ作り笑顔だ。
気が重くなりながらもオーダーを通しに厨房に向かった。
そして、バイト終了時間になり、お会計を終えたミーグスと一緒に店を出ると、外はもう暗くなりかけていた。
だから、外灯のおかげて比較的明るい店の前で立ち止まって尋ねる。
「で、フレシア様たちがどうしたの?」
「それよりも君の今日の用事は?」
「は?」
「今日、用事があるって言ってたよね」
「あ、えーと、まあ、話が終わってからで大丈夫なのよ」
「じゃあ、その用事キャンセルして。どうせないだろうけど」
「どういう意味よ!」
聞き返した時だった。
私たちの横を通り過ぎたと思った馬車が突然、急停車した。
そして、御者が扉を開くと、その馬車の中から降りてきたのはフレシア様だった。
「ミゼライトさん! あなたに聞いてほしいことがあるんだけど!」
「……なぜ私?」
うんざりした表情でミーグスに尋ねると、彼は不機嫌そうな顔をしただけだった。
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