17 / 36
16 愛もお金も大事
しおりを挟む
「フレシア様はホーリルから私のことを何も聞いていないのかしら」
「フェルナンディはそんなことをいちいち話すような人間でもなさそうだから知らないんじゃないか。もしくは、彼がついている嘘を本気で信じてるんだろう」
何だか、ミーグスの機嫌が悪いような気がした。
あんまり不機嫌なところを顔に出す人間じゃないのに珍しい。
フレシア様にからまれたことが嫌だったのか、それとももしかして、さっきの私の両親の話について怒ってくれてるのかしら。
「ミ、じゃない、ディラン」
「何?」
「もしかして、怒ってくれてるの?」
「もしかしなくてもそうだよ。あんなデリカシーのない話を聞いて怒らない奴がいると思うわけ?」
「まあ、そりゃあ私だって良い気はしないし言われた相手が自分じゃなかったら何か言っちゃうかもしれないけど、あなたが怒ることではないでしょう」
「自分のことでも怒ったほうがいいよ」
ミーグスに手を引かれたまま早足で付いていくと、パーティー会場の外に出ていくので、焦って尋ねる。
「どこに行くつもりなの?」
「あの二人の姿が見えないところまで。特にフェルナンディ」
「そういえば、さっき間抜けな顔をしてたけど、どうかしたのかしら」
すれ違いざま、私を見て口を大きく開けていたフェルナンディ卿の顔を思い出しながら言うと、ミーグスが鼻で笑いながら答える。
「君に見惚れてたんだろ」
「は? どういうこと?」
「言っておくけど、今日の君はいつもと違って化粧もしているし、全然、イメージが違う」
「それは私も思ったわ! 化粧の力ってすごいし、ディランの家の使用人はみんなすごいのね! 自分のことを褒めてるみたいに聞こえるかもしれないけど、今日の私は魔法をかけてもらったみたいに別人だもの」
無邪気に頷くと、ミーグスは眉根を寄せて言う。
「だからだろ。君の姿を見て彼は驚いたんだ。まあ、彼も少しは後悔したんじゃないかな」
「捨てた女が思ったよりも綺麗だった、とか思ってくれていたら嬉しいわね」
「かもしれない」
「ふっふっふ。ざまぁみろだわ。って、本当にそう思ってるかわからないけど」
にやりと笑う私に、ミーグスは呆れた顔をしたあと、小さく息を吐いてから言う。
「まあ、あの顔が見たくて来たわけだし、今日は挨拶したら帰ろうか」
「え? 夕食はどうするの」
「今まで、疲れた顔してたのに食欲はあるんだね」
「それとこれとは別よ」
「……ここじゃなくて、違うところで食べよう」
「そんなお金がないわ」
「僕が出すに決まってるだろ。良い店がなければ僕の家で食べればいい」
答えたあと、ミーグスは掴んでいた私の腕を離し、胸の前で腕を組んで大きくため息を吐いた。
「まったく、ムードもへったくれもないよね、君は」
「どういう意味よ!? というか、へったくれって公爵令息が使っていいの!?」
「そのままの意味。それに目上の人以外の前では使ってはいけないとは言われてない」
どうでも良い会話を続けていると、フェルナンディ卿とフレシア様が追いかけてきた。
「ちょっと、ミゼライトさん! どうして逃げるのよ!?」
「そうだ! 逃げるなよ!」
「……不愉快だと言ったはずなんだけど」
ミーグスは私の前に立ち、フレシア様とフェルナンディ卿から私の姿を隠すように立った。
突然目の前に現れた背中に困惑して話しかける。
「ちょっと、ディラン」
「君は大人しくしてて」
「うきぃ」
「何なの、その返事」
「……わかったって言ったの」
「わかりづらいよ」
ミーグスは私のほうは見ず、顔をフェルナンディ卿たちのほうから動かさないまま答えると、そのままの状態でフェルナンディ卿に話しかける。
「もう彼女に近付くなと言ったはずだけど」
「……あ、謝ってやろうと思ったんです」
「は?」
聞き返したのは私だった。
すると、ミーグスが眉根を寄せて、こちらを振り返る。
「君は黙ってて」
「大人しくしてろとしか言われてないじゃない!」
「じゃあ、大人しくしてて、それから黙ってて」
「うきぃ」
本当はわかったっていう意味じゃないけど、もういいわ。
ミーグスの場合だけ、わかったというのは、この返事でいこう。
半ば自棄糞な気持ちになっていると、ミーグスがフェルナンディ卿に再度、話しかける。
「ビアラに何を謝るの」
「俺を驚かすために努力したんだなって思ったんで、そんなことができる子だなんて思っていなかったことを謝ろうと思ったんです」
「「はあ?」」
黙っていろと言われたのに無理だった。
でも、聞き返した声はミーグスの声と重なったから、文句を言われることもなかった。
フェルナンディ卿は私に訴えてくる。
「ビアラ、俺に婚約破棄をされたことがショックで、それだけ努力したんだろ? 見抜けなくて悪かったな。でも、俺にはフレシアがいるんだ。だから、愛人にならしてやってもいい」
「ふざ、むぐっ!」
私が、けないで、という言葉が紡げなかったのは、振り向いたミーグスの胸に私の顔を押し付けられたからだ。
「ちょっ、 鼻を打ったんだけど!?」
「悪いね。ビアラが綺麗なのは君のためじゃなくて僕のためなんだ。フェルナンディ卿、君は本当に見る目がないよね。彼女を手放したこと絶対に後悔することになるよ」
ここは、私もフレシア様に何か言ったほうがいいのかしら。
腰にはミーグスの腕が回っていて、後頭部は手で押さえつけられていた。
なんとか頭をずらしてフレシア様のほうを向いて叫ぶ。
「フレシア様! あなたも後悔する日がきますからね。この人、公爵令息ですから、かなりのお金持ちですよ」
「君さぁ」
呆れるミーグスは無視して話を続ける。
「愛も大事ですけど、お金も大事ですからね!」
私の言葉を聞いたフレシア様の目が見開いたことを、私は見逃さなかった。
「フェルナンディはそんなことをいちいち話すような人間でもなさそうだから知らないんじゃないか。もしくは、彼がついている嘘を本気で信じてるんだろう」
何だか、ミーグスの機嫌が悪いような気がした。
あんまり不機嫌なところを顔に出す人間じゃないのに珍しい。
フレシア様にからまれたことが嫌だったのか、それとももしかして、さっきの私の両親の話について怒ってくれてるのかしら。
「ミ、じゃない、ディラン」
「何?」
「もしかして、怒ってくれてるの?」
「もしかしなくてもそうだよ。あんなデリカシーのない話を聞いて怒らない奴がいると思うわけ?」
「まあ、そりゃあ私だって良い気はしないし言われた相手が自分じゃなかったら何か言っちゃうかもしれないけど、あなたが怒ることではないでしょう」
「自分のことでも怒ったほうがいいよ」
ミーグスに手を引かれたまま早足で付いていくと、パーティー会場の外に出ていくので、焦って尋ねる。
「どこに行くつもりなの?」
「あの二人の姿が見えないところまで。特にフェルナンディ」
「そういえば、さっき間抜けな顔をしてたけど、どうかしたのかしら」
すれ違いざま、私を見て口を大きく開けていたフェルナンディ卿の顔を思い出しながら言うと、ミーグスが鼻で笑いながら答える。
「君に見惚れてたんだろ」
「は? どういうこと?」
「言っておくけど、今日の君はいつもと違って化粧もしているし、全然、イメージが違う」
「それは私も思ったわ! 化粧の力ってすごいし、ディランの家の使用人はみんなすごいのね! 自分のことを褒めてるみたいに聞こえるかもしれないけど、今日の私は魔法をかけてもらったみたいに別人だもの」
無邪気に頷くと、ミーグスは眉根を寄せて言う。
「だからだろ。君の姿を見て彼は驚いたんだ。まあ、彼も少しは後悔したんじゃないかな」
「捨てた女が思ったよりも綺麗だった、とか思ってくれていたら嬉しいわね」
「かもしれない」
「ふっふっふ。ざまぁみろだわ。って、本当にそう思ってるかわからないけど」
にやりと笑う私に、ミーグスは呆れた顔をしたあと、小さく息を吐いてから言う。
「まあ、あの顔が見たくて来たわけだし、今日は挨拶したら帰ろうか」
「え? 夕食はどうするの」
「今まで、疲れた顔してたのに食欲はあるんだね」
「それとこれとは別よ」
「……ここじゃなくて、違うところで食べよう」
「そんなお金がないわ」
「僕が出すに決まってるだろ。良い店がなければ僕の家で食べればいい」
答えたあと、ミーグスは掴んでいた私の腕を離し、胸の前で腕を組んで大きくため息を吐いた。
「まったく、ムードもへったくれもないよね、君は」
「どういう意味よ!? というか、へったくれって公爵令息が使っていいの!?」
「そのままの意味。それに目上の人以外の前では使ってはいけないとは言われてない」
どうでも良い会話を続けていると、フェルナンディ卿とフレシア様が追いかけてきた。
「ちょっと、ミゼライトさん! どうして逃げるのよ!?」
「そうだ! 逃げるなよ!」
「……不愉快だと言ったはずなんだけど」
ミーグスは私の前に立ち、フレシア様とフェルナンディ卿から私の姿を隠すように立った。
突然目の前に現れた背中に困惑して話しかける。
「ちょっと、ディラン」
「君は大人しくしてて」
「うきぃ」
「何なの、その返事」
「……わかったって言ったの」
「わかりづらいよ」
ミーグスは私のほうは見ず、顔をフェルナンディ卿たちのほうから動かさないまま答えると、そのままの状態でフェルナンディ卿に話しかける。
「もう彼女に近付くなと言ったはずだけど」
「……あ、謝ってやろうと思ったんです」
「は?」
聞き返したのは私だった。
すると、ミーグスが眉根を寄せて、こちらを振り返る。
「君は黙ってて」
「大人しくしてろとしか言われてないじゃない!」
「じゃあ、大人しくしてて、それから黙ってて」
「うきぃ」
本当はわかったっていう意味じゃないけど、もういいわ。
ミーグスの場合だけ、わかったというのは、この返事でいこう。
半ば自棄糞な気持ちになっていると、ミーグスがフェルナンディ卿に再度、話しかける。
「ビアラに何を謝るの」
「俺を驚かすために努力したんだなって思ったんで、そんなことができる子だなんて思っていなかったことを謝ろうと思ったんです」
「「はあ?」」
黙っていろと言われたのに無理だった。
でも、聞き返した声はミーグスの声と重なったから、文句を言われることもなかった。
フェルナンディ卿は私に訴えてくる。
「ビアラ、俺に婚約破棄をされたことがショックで、それだけ努力したんだろ? 見抜けなくて悪かったな。でも、俺にはフレシアがいるんだ。だから、愛人にならしてやってもいい」
「ふざ、むぐっ!」
私が、けないで、という言葉が紡げなかったのは、振り向いたミーグスの胸に私の顔を押し付けられたからだ。
「ちょっ、 鼻を打ったんだけど!?」
「悪いね。ビアラが綺麗なのは君のためじゃなくて僕のためなんだ。フェルナンディ卿、君は本当に見る目がないよね。彼女を手放したこと絶対に後悔することになるよ」
ここは、私もフレシア様に何か言ったほうがいいのかしら。
腰にはミーグスの腕が回っていて、後頭部は手で押さえつけられていた。
なんとか頭をずらしてフレシア様のほうを向いて叫ぶ。
「フレシア様! あなたも後悔する日がきますからね。この人、公爵令息ですから、かなりのお金持ちですよ」
「君さぁ」
呆れるミーグスは無視して話を続ける。
「愛も大事ですけど、お金も大事ですからね!」
私の言葉を聞いたフレシア様の目が見開いたことを、私は見逃さなかった。
77
お気に入りに追加
1,261
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より

残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください
mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。
「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」
大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です!
男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。
どこに、捻じ込めると言うのですか!
※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる