犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる

風見ゆうみ

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14 着せ替え人形?

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 学園が休みの日のバイト時間は開店の11時から16時までの5時間程だ。
 店が混雑している時は、そのまま人の波が落ち着くまで残業することもある。
 けれど、今日はミーグスが待っているので、定時の時間に帰らせてもらうことになった。

「お待たせしました」
「お疲れ様」
「ありがとうございます」

 店が終わるまで店内で待っていたミーグスに声を掛けると、労いの言葉が返ってきた。
 いつも憎まれ口を叩き合っているからか、こんな風に素直に労われると、なんと返したら良いのかわからない。
 だから、礼を言うことしか出来なかった。
 すると、ミーグスが尋ねてくる。

「ビアラ、君はドレスって持ってる?」
「持ってたら売ってると思う」
「だろうね。たけど、それなら来週のパーティーは何で行くつもりだったの?」
「エアリスが貸してくれるって言ってくれたの。体型は似たようなものだから、そうおかしな着こなしにならないだろうって。あ、エアリスに聞いておくように言われていたんだったわ。ディランが当日、どんな服装をしていくかによって色合いを合わせるから聞いておいてくれって」
 
 私が苦笑して答えると、ミーグスは立ち上がって会計に向かいながら、彼のあとを付いていく私に言う。

「既製品になるけど今から買いに行くよ」
「え? 何を?」
「ドレス」
「ミーグスの?」
「僕なわけないだろ。君のだよ」
「気持ちは有り難いけどいらないわよ! また借金が増える!」
「借金? あ、細かいお金は持っていないので、申し訳ないです。あと、お釣りはいいです」

 会計中に店長に言った言葉を聞いて、私はぎょっとした。
 それだけでなく、ミーグスが財布から出したのは10000ドエ札だった。
 この国の通貨の名前はドエ。
 貧乏な私にしてみれば、給料日に何枚か目にすることが出来るもので、とても高価だった。
 紅茶の金額が1杯で500ドエ。
 
 500ドエに10000ドエ札出して、お釣りはいらないなんて、お金持ちのやることは違う。

 心の声が顔に出ていたようで、店を出てからミーグスが言う。

「しょうがないだろ。小銭は持ち歩いてないんだよ」
「お釣りをもらえばいいじゃないの」
「どこに入れたらいいの。ポケットでじゃらじゃら言わせるの?」
「お付きの人に預けたら良いじゃないの」
「今日は連れて来てないからしょうがないだろ。店の人はチップとしていただくけど多すぎるから、残りは君に渡すって言ってたよ」
「じゃあ、その分は返すわ」

 私たちが並んで歩き出すと、店の外で待機していた私服の護衛たちが、ミーグスに付かず離れずの距離をとって付いてくる。

「どこに行くつもりなの?」
「貴族の女性に人気のお店だよ。すぐそこだから、歩きでもいいかな」
「それはかまわないけど、また、高そうな所に連れて行こうとするわね」
「君の横にいる相手は僕だよ? それに見合った格好をしてもらわないと。あ、もちろん、エアリスのドレスにどうこう言ってるわけじゃない。これは本当だよ」
「見合った格好って、今、まさに隣を歩いている私はあなたの服装と見合った格好をしてないんですが?」

 私はが今日着ている服は、平民がよく行く服屋のワゴンセールで買ったものだ。
 ラベンダー色のワンピースに黒のカーディガンのセットで1500ドエだったもの。
 でも、私にとっては痛い出費だった。
 
「そうだな。じゃあ、その店で普段着も買おうか」
「どうして!?」
「僕と君が付き合ってる設定は卒業まで続くんだからデートくらいはしないと怪しまれるよ」
「デ、デート!?」
「ほら、急ごう。店を急遽貸し切ることにしたから」
「こ、このお金持ち!」
「褒め言葉?」
「違う!」

 ミーグスは叫ぶと私の左手を優しく掴んで走り出す。

 こ、これは演技でも恥ずかしいわ。
 クラスの、いや、学園の生徒の誰にも見られていませんように!

 私は心の中でそう願いながらも、手を振り払うことはしなかった。



*****


 それから2時間後のこと。
 ミーグスに連れられて入った店で、何着も普段着を試着をさせられて、ヘトヘトになっていた。
 着替えては待合スペースにいるミーグスに見せに行くということを繰り返していて、精神的にも辛い。

「ちょ、ミー、じゃない、ディラン、もう無理よ!」
「無理じゃないって。もう少しだけ頑張ろう」
「私はあなたの着せ替え人形じゃないのよ!?」
「どうしたらいいんだよ。お金を渡したらバイトだと思って頑張れるの?」
「悪魔の囁きが聞こえてきた! そういえば私に試着させてる服、誰が選んでるの?」
「店の人にも相談してるけど、基本は僕の好み」

 さらっと答えられてしまい、何も言えなくなってしまう。
 
 どうしてミーグスの好みの服を私が着ないといけないのよ。
 絶対に着たくないという服ではないし、どちらかといえば好きなデザインばかりだけど、何だか複雑な気分だ。
 それに、今のところまだ一回もドレスを着ていない。
 今日はドレスを買いに来たんじゃないの?

 そんなことを考えつつ、ミーグスから着るように頼まれた2着の内の1着をお店の人に手伝ってもらって着替え終えた。
 自棄糞な気分でくるくる回ってみせながら、ミーグスに尋ねる。

「もういいわよね?」
「次はドレスだよ。3着に絞ったから、もう少し我慢して」
「我慢出来ないわよ! 本当に無理だから!」

 私の絶叫が待合スペースに響き渡った。 
 
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